陰陽師になりました。   作:ラリー

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9話 上

「へ~京子の奴、兄貴の事が好きだったんだな……」

 

「うん、そうみたい。本人から聞いたときはビックリしたよ」

 

京子に兄貴を紹介する為、兄貴の居るであろう三年の教室に向かう俺と夏目。

しかし京子と兄貴はいつ知り合ったのだろうか?

少なくとも俺は幼い時、京子と会った覚えはない。

 

「それにしても…凄いなー倉橋さんは……」

 

「何が?」

 

「だって、あそこまで正直に自分の気持ちを他人に伝えられるんだよ。

凄い事じゃないか……正直羨ましいよ」

 

「まぁ…確かに凄いよな」

 

夏目の言うとおり、あそこまで他人に自分の気持ちを伝えられる京子は凄いと思う。

俺は……無理だな。うん。

そんな事を思いながら廊下を歩いていると……。

 

「はると……!!」

 

突然の夏目の声と共に俺の視界が黒く塗りつぶされ前が見えなくなる。

一体ナンなんだこりゃ!?

 

「夏目!!何所だ!?無事なのか!?おい!!」

 

「春虎様!落ち着いてください!!むやみに動いては危険です!!」

 

夏目が居た場所に手を伸ばすが空を切るだけ。

大きな声で呼びかけても返事はない。

聞こえるのは俺を止めるコンの声のみ。

どこだ夏目!

 

暗い闇をさまようと、次第に視界は晴れていき、いつもの陰陽塾の廊下の光景が目の前に広がる。

夏目は!?

 

「夏目!返事をしろ!夏目!!」

 

辺りを見渡し探してみるも、夏目はいない。

くそ!!どうすれば!!

 

「小僧!!そのチンチクリンな式神を連れて教室に戻れ!

奴の狙いは土御門 夏目と親しい人間だ!!」

 

「ち!ちちち、チンチクリンですとーーー!!」

 

「お前は!?」

 

後ろから聞こえた怒鳴り声に振り向くと、兄貴の小動物な式神……『紅蓮』が居た。

どうしてここに…。

 

「いいから、さっさと行くぞ!間に合わなくなってもいいのか!?」

 

「っち!」

 

走り出す、紅蓮を追いかけながら教室に向かう俺とコン。

紅蓮についてはいろいろ聞きたい事があるが、今はそれどころじゃない!

無事で居てくれよみんな!!

ダッシュで階段を駆け下り、いつも自分達の通う教室の扉を勢いよく、開ける。

息を切らしながら、周りを見ると全員居る。

よかった……。

って!安心している場合じゃない!!

 

「大変だ!夏目が黒い何かに連れて行かれた!!」

 

 

☆☆☆

 

 

「もしかしたら夜光信者の仕業かも……全く、冗談じゃないわよ!!

よりにもよってこんな時に!!」

 

「どうゆう事だよ…何か知っているのか!?」

 

俺が何があったのか詳細に話す。

すると、京子は何か知っているらしい反応をみせる。

俺はどういうことなのか京子に質問したその時……。

 

「うわぁあああ!!」

 

冬児を通して仲良くなったクラスメイトの百枝 天馬(ももえ てんま)が教室に駆け込む

と同時に黒い何かが、教室の扉を破壊して中に入ってきた。

 

「春虎様!」

 

「なんじゃありゃーー!!天馬!お前のペットか!?」

 

「違うよ!!廊下を歩いていたら追いかけてきたんだよ!!」

 

天馬にアレが何者なのか聞いてみるが知らないらしい。

じゃあ、一体ナンなんだよアレは…!!

つーか、天馬は何で錫杖なんて持ってるんだ?

 

「蟲毒(こどく)……。」

 

「蟲毒だと?これが……」

 

こどく?孤独?京子と冬児は知っているみたいだけど…なんなんだそれ?

 

「バカ虎…お前に分かりやすく言うと陰陽術でメジャーな呪詛だ。

蜘蛛や百足なんかの虫を、大量に一つの壺の中に入れて共食いさせた上で

最後に生き残った強い『蟲』を器にして、呪詛という呪力を注ぎ込んだ式神の一種だ」

 

京子と冬児が何を言っているのか分からなくて首をかしげていると

呆れた様子で分かりやすく説明してくれた冬児。

……もう少し勉強しよ…。

 

「で…でも、おかしくない!?『蟲毒』の呪詛式は禁呪だけど塾舎はビル全体に

結界が張ってあるから、許可がないかぎり、侵入なんて出来ないはずなのに!!」

 

天馬がご丁寧に解説していると、黒い物体がぷっくりと膨らみ……。

 

「うわーーー!!!」

 

「きゃーーー!!」

 

ギョロリと馬鹿でかい瞳を開眼したと、同時に黒くて小さな塊が瞳から

涙のように湧き出て俺達に向かって飛んでくる。

気持ち悪っ!!

 

「ちくしょう。ご丁寧に携帯もつながらねぇ!!」

 

「しまった!結界が張られているわ!」

 

「なんだって!?」

 

本当だ!冬児の言う通り、携帯が使えない上、京子の言う結界のせいで廊下に逃げる事も

出来ない!!

ちくしょう!!

 

「天馬!手伝って!!あとの二人は素人なんだから、私達で何とかしないと!!」

 

「あ、う……。わ!!」

 

「天馬!!」

 

目玉の式神に応戦しようと懐から、術符を取り出す二人。

しかし、天馬は緊張の為か符を床に落としてしまい大きな隙が出来てしまった為、

謎の黒い物体が天馬を襲う。

 

「伏せろ!眼鏡!!」

 

「え?…うひゃーー!!」

 

「何、この炎!?」

 

眼鏡…じゃなかった。

天馬を襲った黒い物体と目玉は結界を破って、出現した炎により焼き消える。

まさか、この声は……。

 

「紅蓮!!」

 

「俺がちょっと目を放した瞬間にこれか……運がなさ過ぎるだろ…」

 

額の模様から赤い光を放ちながら体に炎を纏わせる紅蓮。

炎を操る…これが、紅蓮の能力か…。

 

「運が無い事は認めるが、今まで何所に行ってたんだよ」

 

「俺は、お前が教室に入ったのを見届けた後、土御門 夏目の居場所を探っていたんだよ。

それにしても……あんな悪趣味な式神を見る事になるとは……」

 

「夏目の居場所が分かるのか!?」

 

「ああ、奴はもう自分の存在を隠す気がないのだろう。

おかげですぐに見つかった。」

 

「本当か!?じゃあ早速、夏目を助けに行こう!」

 

「ふざけるな!お前みたいな半人前以下の小僧が行っても死ぬだけだ!!」

 

「!?」

 

紅蓮の言葉が心に刺さる。

確かに俺は、バカで素人で…何も出来ない。

だけど……。

 

「俺は夏目の式神だ!夏目を守るのが俺の役目なんだ!!邪魔すんな!!!」

 

「………相手は夜光信者の呪捜官と異形の何かだ。何をしてくるのか分からない、

ヘタしたら本当に死ぬんだぞ」

 

確認をするように敵の事を話す紅蓮。

俺は……。

 

「そんな事は関係ない。俺は…夏目を助ける」

 

正直に自分の気持ちを紅蓮に向かって言葉にして吐き出した。

 

「春虎様ぁ……」

 

「犯人は呪捜官……なるほど、だから塾内に侵入できたのね」

 

俺の言葉に黙り、考えるように目を瞑った紅蓮。

そして……。

 

「……付いてくるなら、勝手にしろ。ただし、余計な事をするな」

 

「おう!」

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

『晴明。どうやら敵は動いたようだぞ』

 

「ああ、分かっている」

 

勾陣もどうやら敵の瘴気を感知したらしい。

まさか、紅蓮に付いて貰うように頼んだ今日に動き出すとは……。

瘴気の動きは手に取るよう分かる。

場所は『呪練場』か…。

つーか、俺みたいな学生でも感知される瘴気って事は雑魚のようだ。

春虎の心配は不要だったかな?

きっとすぐにでも、塾講師である先生達にボコられたあげくに祓われて終わりだろう。

しかし、これは規模が小さいがテレビでしか見れないような実戦を生で見れる

チャンスではなかろうか?

ならば……。

 

「『呪練場』に行くか」

 

『我々もこのまま隠形して付いて行こう』

 

野次馬根性丸出しで見に行くとしよう。

 

………。

 

『我こそは角行鬼!』

 

「そして我が名は飛車丸!!」

 

何これ?

塾講師の先生達による実戦を見ることが出来ると期待していたのに、わざわざ『呪練所』まで

来て、行われているのは戦闘ではなく、へんな男の痛々しい奇行。

男は自分を飛車丸と名乗り、仮面をつけた自分の式神には角行鬼と名乗らせている。

なるほど……中二病か…。

たぶん自分が、土御門 夜光の式神だと思っているんだろう。

 

「ん?」

 

男の中二な行動で気が付かなかったが、よく見れば春虎と冬児と知らない顔の男女に……

呪符で縛られた夏目がいる。

何してるんだあいつ等?

 

「本物なの?あれ、本物の角行鬼!?ウソォ!!?」

 

いやいや、眼鏡君。

本物のわけないでしょ。

あれは唯の中二病の産物です。

つーか、やめて!

あの男を見ているとまるで昔の自分を見ているようで辛いんだよ!!

 

「角行鬼~!その生意気な白いおチビちゃんをやっちゃって~~!!」

 

ああ…あの男を凄く殴りたい…。

そして出来るなら俺の黒歴史ごと存在を抹消したい。

 

 


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