陰陽師になりました。   作:ラリー

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9話 中

紅蓮の後を追いかけて辿り着いたのは『呪練場』。

中央には夜光信者と思われる黒いスーツの男と呪符により自由を奪われ、床に

転がっている夏目。

 

「これではっきりしたわ。さすがに貴方とは予想はしていなかったけど……

まさか本当に呪捜官が犯人なんてね。」

 

「倉橋家のじゃじゃ馬ですか。日頃は王とあまり関わっていなかったのに……

予想外でしたね」

 

「おい!夏目には何もしてないんだろうな!?」

 

「もちろんです。霊的に拘束はしていますが、夏目君には危害を加える気は毛頭ありません。

雛とはいえ、彼は我々の王なのですから」

 

相手の言葉はあまり信用したくないが、夏目の状態を見る限り本当に拘束されている

だけのようだ。

夏目の状態に少しだけ安心していると……。

 

「さて、私はこれから彼を解放して、大人しく引き下がる事にしましょう」

 

「ほう…。陰陽塾で騒動を起こしたくせにやけにあっさり引くとは……何故だ?」

 

男がくるりと背を向けた時、紅蓮が紅の炎を纏いながら男を引きとめ、目的を問う。

確かに紅蓮の言う通りだ。

夏目を拉致したくせに、その夏目をあっさり解放。

一体、奴の目的は何なんだ?

 

「おやおや?その炎は……なるほど。君はあの時の…。

いいでしょう。あの時、隠形をしていた私を察知したご褒美に教えて差し上げましょう」

 

こいつ、紅蓮を知っているのか?

男の口ぶりから察すると以前に紅蓮と会っているらしい。

 

「今回は私と言う存在を彼に知ってもらうついでに邪魔者を抹殺する為の行動でしたからね。

もう、重要な目的は達成されているのですよ」

 

「そんな事の為に……。わかっているんですか?

もう貴方は陰陽庁に戻れない!むしろ逆に追われる立場になる!!

逃げ切れるなんて本当に出来ると思っているんですか!?」

 

そうだ。

夏目の言うとおりだ。

こんな事をしておいて陰陽庁に戻れるわけがない。

この後、コイツはどうするつもりなんだ?

 

「王よ…貴方の崇拝者は陰陽庁に大勢存在しております。」

 

「そんなバカな…!!」

 

「当然でしょう?陰陽術に深く関わる者にこそ北辰王の偉大さは理解できる。

しかし、愚かな事にほとんどの者は王を闇へと葬り、存在をタブーにしている。

これを忘恩の徒と呼ばずしてなんと呼びましょう」

 

マジかよ!?

夜光信者は陰陽庁にも複数存在しているのか!!

夏目に諭すように説明する男の言葉に驚愕する俺達。

 

「では、今回はこれで失礼いたします。遠からぬ再会を願って……」

 

夏目に向かい、一礼する男。

ダメだ!この男をここで見逃してはいけない!!

ここで見逃せば、この男はまた夏目に手を出してくる!!

その時、夏目が傷つけば、俺は『また守れなかった』と、きっと後悔する!!

そうならないように!

夏目を傷つけさせないように!!

 

 

俺が!

 

俺が…夏目を守る!!

 

 

「…天馬。これ、借りるぞ」

 

「え?うん。これは元々、大友先生が春虎君に渡して欲しいって言われていたやつだから

返さなくていいよ。でも春虎君、一体なにを……」

 

「………」

 

天馬が持っていた錫杖を借りる。

天馬の話では元々、俺に渡すように大友先生に言われていた物らしいから

壊しても大丈夫だろう。

もし、天馬の私物だったら弁償しないといけないと思っていたから少し気が楽だ。

 

「おや?どうゆうつもりですか?」

 

「お前をここで見逃すわけにはいかない」

 

「おやおや……別に構いませんよ?なんでもやってみてごらんなさい。

本物の陰陽師として、実力のほどを見て差し上げましょう。」

 

俺は錫杖の先端を奴に向けると、奴は滑稽な物を見るような表情を浮かべて

俺を見る。

分かってはいたけど、完全に俺を舐めきっているな……。

 

「止しなさい!腐っていても、相手はプロよ!!アンタみたいな素人じゃ、

相手にならないわ!」

 

「そんな事、言われなくても分かってる。

でもさ、俺はもう夏目を守れなかったと後悔はしたくない!!」

 

「ははははは!!北辰王を守る?貴方みたいな未熟者が?

いいでしょう!このまま帰ろうと思いましたが止めです!!

王に相応しい臣が私…いえ、『私達』であることを君を殺し、王の前で証明しましょう!!!」

 

奴が両腕を大きく上に上げると、瘴気と共に一体の巨大な鬼が姿を現す。

頭には鬼特有の角、顔には仮面。

そして……奴には左腕がない。

 

「隻腕!?隻腕の鬼って……そんなっまさか!?」

 

『我が偉大なる王よ…貴方より賜りし名をお忘れではあるまい!

我等は北辰王、土御門 夜光が使役せし二体の護法……

我こそは角行鬼!』

 

「そして我が名は飛車丸!!」

 

「本物なの?あれ、本物の角行鬼!?ウソォ!!?」

 

鬼の出現に動揺する俺達。

角行鬼と飛車丸って……確か塾長が言っていた夜光の式神だよな…。

本当に本物なのか?

 

『王よ…我が姿をお見せしても目覚める兆候すらないとは……』

 

「これは中々てこずりそうだ」

 

「そんな!角行鬼と飛車丸は夜光亡き後、闇へと消え、所在は今でも分からないままのはず!?」

 

「それはですね…君が夜行の生まれ変わり私は飛車丸の生まれ変わりなんです…だからこそ角行鬼は

「ぷっ!はははははははははっ!!」……」

 

自分を飛車丸と名乗った男が夏目の疑問に対し、答えている途中。

床の方から笑い声が聞こえて来た。

突然の笑い声に全員の視線が、紅蓮に集中する。

何がそんなにおかしいんだ?

 

「お、お前が……?お前みたいなの雑魚が飛車丸で目の前の木偶の棒が角行鬼だって?

ぷぷぷっ!」

 

「角行鬼~!その生意気な白いおチビちゃんをやっちゃって~~!!」

 

『たかが畜生の式神風情が!!我々を侮辱した事を後悔させてくれる!!』

 

突然のオカマボイスに背筋がゾクリと来たがそんな事はどうでもいい。

紅蓮の言った事が本当なら、あの男は飛車丸ではなく、ただの頭のネジが数本抜けた

イカレたオカマだ!!

そう思ったら全然怖くねぇ!!

紅蓮に向かって突進してくる鬼を迎撃するために錫杖を何時でも鬼に

突き出せるように構える。

攻撃するタイミングは紅蓮を攻撃する瞬間……。

 

「ほう……いい武器を持ってるみたいだから手伝ってやるよ」

 

「え?」

 

俺が鬼に備えていると、床に居た紅蓮が俺の肩によじ登る。

どうやら手伝ってくれるらしいが……。

目の前には俺ごと紅蓮を殴ろうと大きな拳を振りかぶり突進してくる鬼。

もしかして俺って盾にされてる?

 

「俺が合図したら奴の懐に飛び込んで、奴に攻撃しろ!」

 

「はぁ!?ちょ…!?」

 

「今だ!!」

 

「くっそ!!やってやるよ!!」

 

戸惑う俺を無視して、合図と思われる声と共に俺の肩から飛び出し炎を纏う。

そして纏った炎を凄い勢いで向かって来る拳に放つ紅蓮。

俺はそんな紅蓮に悪態をついて、鬼の顔面に狙いをさだめ……。

 

「くらえ!!」

 

俺は全力で鬼の面に錫杖を突き刺した。

面はバキンと言う音を立てて割れ、次にはズブリと肉を刺したような感覚が錫杖を

伝って感じる。

手ごたえあり!

 

「やばいぞ!急いで離れろ!!」

 

「なんで瘴気が!?」

 

『ああぁぁぁああああぁあああああ!!!』

 

確かな手ごたえに鬼を倒したと思った俺だったが、

割った面が床に落ちた瞬間。

面から瘴気が湧き出て……ヤバイ!瘴気に飲み込まれる!!

苦しむ鬼の声をBGMに何とか脱出しようと体を動かすが間に合わない!!

 

「チッ!!仕方のない奴め!!」

 

瘴気に囲まれ、もうだめだと思った次の瞬間。

紅蓮の盛大な舌打ちと共に瘴気で見えにくくなった視界が赤…いや紅一色に一瞬だけ

染まったと思ったら、誰かに抱えられ空を飛んでいた。

 

☆☆

 

 

「チッ!!仕方のない奴め!!」

 

晴明の弟である春虎が怪しい瘴気を薄く漂わせている面を破壊した瞬間

面から瘴気が勢いよくあふれ出し、鬼ごと春虎を飲み込もうと動き出す。

このままでは春虎は瘴気に飲み込まれる。

助けるにはこの姿だと間に合わない。

……すまん…晴明。

 

俺は白い獣の姿から本来の姿に戻り、春虎にまとわり付く瘴気を炎で祓った

後、春虎を抱えて後方に飛ぶ。

 

「あ、あんた誰だ?」

 

右腕で抱えていた春虎が、ようやく状況を理解したのか俺が誰なのか質問をしてくる。

 

「紅蓮だ…物覚えの悪い奴め……。

それよりも前を見ろ、お前が壊した面から何かが出てくるぞ。」

 

「え…?あの…マジで?」

 

俺と、鬼を取り込み形を作る瘴気を見ながら驚く春虎。

同時に見て驚くなんて器用な奴だ……。

それとも俺の言葉を聞いて自分のせいでこうなったとでも思っているからか?

 

「春虎様!大丈夫でありますか!?」

 

「春虎!!」

 

「春虎君!!」

 

「春虎、怪我はない!?」

 

チンチクリンの式神…たしかコンだったか?あと晴明が面倒をみていた冬児に眼鏡男子と

昔、俺を撫で回した女子が春虎を心配して駆け寄ってくる。

 

「ああ、なんとか……」

 

春虎が近寄ってくる仲間達に無事を報告しようとした時。

 

「こ、こんなの聞いてない!あの面は角行鬼を制御するための封印のはず!!

もう、ワケがわからな~~~い!!!」

 

鬼を使役していた男が喚きだした後、逃げ出した。

どうゆうことだ?あの面はアイツが鬼に付けさせた物じゃないのか?

それに、あの男は聞いていないと言った……それはつまり裏で糸を

引いている奴がいるって事に……

 

『ブラァアアアアアアア!!!』

 

俺が考え事をしながら瘴気を警戒していると。

瘴気は四速歩行の獣のような形をした後、咆哮と共に姿を現した。

姿を現した異形の物は鋭い爪と牙を持つ大人一人を丸かじりできるほど巨大な

虎だった。

ただ、普通の虎とは違いその背中には大きく鳥のような翼が生えていた。

 

 

 

 

 

 

 




コン「ジャンケンコン!あっち向いてホイ!」勝ち  指→

窮奇「………」 頭←

コン「ジャンケンコン!あっち向いてホイ!」 頭→

窮奇「………」勝ち 指→

コン「っは!?」

窮奇「ブラァアアアアアア!!」

モシャモシャ……ゴクンッ…。

※コンさんは美味しく頂かれました。


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