陰陽師になりました。   作:ラリー

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22話

ー春虎視点ー

 

メガネ……じゃなかった天馬が無事に発見された。

ケガや呪詛などの被害はなく精密検査を受けたが何一つ問題は

なかったそうだ。

冬児も、偽天馬がくれた札のお陰で堕ちる事無く、体調も安定しているらしい。

念のため、病院で陰陽医が来るまでは絶対安静を言われた冬児を除いて

陰陽塾の教室で天馬と合流した俺と夏目と京子だったが冬児の事を知った俺以外の

三人の顔が暗い。

 

「まさか…冬児君がそんなことになっていたなんて……」

 

「天馬はもう大丈夫なのか?」

 

「うん……ただ眠らされただけみたいだから」

 

苦笑いを浮かべながら自身のことを話す天馬。

あの偽天馬は一体何が目的で天馬と入れ替わったんだ?

霊災テロを起こす為?

でも、テロを起こすような犯罪者が冬児を治療してくれるわけがない。

正直、偽天馬に関しては難しすぎて俺にはわからない。

それよりも今は……。

 

「…夏目に京子に天馬も悪かったな、冬児の事を今まで黙ってて」

 

「……」

 

「まあ…なかなか言い出せることじゃないし……」

 

「…そうだね」

 

俺の言葉を黙って聞く夏目に、納得しているが事が重すぎて表情の暗い京子。

それに同調する天馬。

 

「なんか…こっちに来てから俺や冬児とみんな結構いい感じだったからさ、

言い出しづらかったっていうかこのままでいいやって……その…」

 

くそ!言い訳るなよ俺!!

言い訳する自分に苛立ちながら、正直に話すことを決意した俺は

どもっていた口をしっかり開いた。

 

「俺は…せっかくの雰囲気を壊したくなかったんだ。

また、壊してしまいたくなくて……。

黙っていた冬児の事も見逃してくれ、あいつはむしろ俺に気を遣って黙ってたんだよ。

俺が今の生活を……みんなとの関係を気に入ってるって事、お見通しだったろうからさ」

 

俺は姿勢を正して、沢山の気持ちを込めて皆に頭を下げた。

 

「黙ってて、ごめん!でもあいつは本当に安全なんだ。

被災して一年近くずっと『それ系』の施設で治療していたしさ!

おれ…親父と兄貴と一緒に何回か行ったことあるんだけど、すげーキツそう

でさ…確かにそのころは、暴発っていうか…お、鬼になりかけたこともあったんだけど

今は絶対に安全だから!!」

 

頭を下げたまま、俺は必死に話した。

正直…じぶんでも上手くしゃべれていないのは自覚している。

それでも!冬児を見るみんなの目が変わらないように俺は口を止めることをしないで

喋りきった。

そして……。

 

「まったく…春虎といい冬児といい……ぼくらのことを馬鹿にするにもほどがある」

 

夏目にぺしんと頭を叩かれ、頭を上げる。

 

「え?あの……」

 

「夏目君?」

 

「だってそうだろ?冬児が生成りだからって、僕らが態度を変える事をこの二人

はほんの少しでも心配したんだよ?」

 

頭を上げ、いつもの調子で話す夏目に戸惑う俺と京子に天馬。

そんな俺達を似記する事無く、夏目は話を続けた。

 

「冗談じゃない。こんなに僕等を馬鹿にした話があるかい?

生成りだろうとなんだろうと、冬児は冬児だ!!

当たり前じゃないか、馬鹿虎!!」

 

……。

 

「ま……まったくね!でもしょうがないんじゃない?

その辺は男子っていつもズレてるもの!ね、天馬?

あっ!武さんは例外だけど♪」

 

「へ―――あ、う、うん!そうだねっ!!み、水臭いよ二人とも」

 

夏目の言葉に少し戸惑いながらもいつもの調子に戻る二人。

そんな皆をみて俺は…俺達は本当にいい仲間を持ったと心のそこから思った俺は

感謝の言葉を口にした。

 

「お前ら……ありがとう」

 

…おれは、不運なんかじゃない。

なんて幸運な奴なんだろう。

いつもの皆を見て本当にそう思う。

あれ?

一瞬…ほんの一瞬だが……夏目の笑顔が記憶の中に居る竜ではない親友の

北斗(ほくと)と重なった。

 

最高の仲間を持ったことに幸福感を感じつつ、いつもの調子に戻った俺達だったが

このあと、さらなる出来事が俺達に襲い掛かる。

 

ー武視点ー

 

ー時は遡り春虎達が陰陽塾に向かっている頃……ー

 

ふはははは!!

予知夢を回避し、無事に証拠も隠滅してやったぜ!!

これで京子ちゃん(巨乳)とデートが………。

 

「武君!春虎君たちがテロに巻き込まれて……塾長から呼び出しが!!」

 

寮にある自身の部屋の中心でニヤニヤとした表情を作る俺。

心の中で高らかに笑い、今まさに勝利宣言をしようとしたところで

まさかのお呼び出しに有頂天だったテンションが落ちてマントルを突き破り

熱かった体が汗で冷える。

 

お、おおおお落ち着けけけけ…大丈夫。

大丈夫だ。現場に証拠はないんや。

しらばっくれてしまえばええんや……。

とりあえず、知らないフリをすることにした俺は、心の安定の為、十二神将の

女性陣を眺めた後、腐った寮母(悪魔の使い)に導かれ、塾長室にやって来た。

第一声が……。

 

「天馬君についてお話してもらえますね?土御門 武君」

 

バレてーら。

ばれていたならしょうがない。

俺は観念して予知夢や実技試験に式神を潜入させ、大暴れした事について話をした。

 

…………。

………。

……。

…。

 

 

「…そうですか」

 

全てを話し終えた後、塾長は一言そういって……。

 

「ご苦労さまでした。そして…京子さん達を助けてくれて本当にありがとうございました」

 

「え?」

 

てっきり退学処分にでもなるのかと思っていたのに塾長の労いの言葉と

お礼に戸惑う俺。

 

「しかし、あの子達を守る為とはいえ、今度からは一言だけでもいいので

私や大友先生に相談してから動いてください。」

 

「…すみません」

 

ふむ…これはあれか?お説教だけで終了なのか?

無罪放免?俺の大勝利?

 

「この件についてはもういいこの辺にして…そろそろ本題に入りましょう」

 

「本題ですか?」

 

あれ?さっきの話が本題じゃないの?

じゃあ、塾長は一体何の為に俺をよんだんだ?

正直、心当たりはいくつかあるが……。

緊張と不安で体に力が入る。

 

「実はあなたにお願いしたい事がありまして………」

 

あ、なんかやばそう。

かなり嫌な予感がする。

 

「実は陰陽庁から霊災修祓の為、夏目君に『竜』を貸して欲しいと要請がありまして…

彼一人で現場に向かわせるわけにはいけませんから、夏目君に何かあった時の

為に同行して欲しいんですよ。あ、もちろん正体を隠してもらっても構いませんよ?」

 

正体を隠すは意味が分からないが一つだけ分かったことがある。

つまりあれですか?なにかあった時の為の肉壁になれと?

塾長…あなたは俺を殺す気ですか?

 

「……成功報酬は我が陰陽塾、塾講師の内定で―――」

 

「夏目のサポートをよろこんでやらせていただきます」

 

イヤだと眼で訴えていた俺だったが、突然正義に目覚め、お願い事を喜んで

引き受け、呪符などの準備の為に部屋へと戻った。

しかし、正体を隠してもいいってどういう事だったのだろうか?

もしかして、霊災現場に協力要請もしていない塾生が居たら不味いからか?

まあ、免許持っていないし、そりゃあそうか……。

じゃあ、なにか正体を隠す衣装とか考えないと……以前つかった奴がたしか

あそこにあったはず……。

 

 

 

 

ー塾長視点ー

 

陰陽庁司令部から連絡を受けた私は、まず土御門夏目君を呼ぶのではなく

彼の親戚である土御門武君を塾長室へ呼びました。

昼間の件について話したかったのと、彼には私からお願い事をしたかったからです。

彼を呼び出し、問答無用で事情を聞いた所によると予知夢をみた彼は、予知を回避しようと

今回の行動を起こしたそうです。

確かに彼が動かなければ被害は大きくなり、場合によっては霊災で死傷者が出ていたかも

しれません。

まあ、陰陽庁では『D』…法師のせいにされているようですが……。

別にそのままでいいでしょう。

彼の事を話せば確実に騒ぎと混乱が大きくなり、夜光信者達のような者がさらに

増えるだけでしょうから…。

 

私は彼に今度から一言、報告してから動いて欲しいとお願いしたあと

本題であるお願い事をした。

私のお願い事を聞いて渋っていた彼でしたが、彼の進路志望の内容を思い出し、

彼の希望を必ず叶える事を今回の報酬にすると伝えると快く承諾してくれました。

報酬を聞いて承諾する彼の顔は、将棋をする時のあの人と似ていて……。

少し、懐かしい気持ちになりました。

 

「ではよろしくお願いしますね。晴明さん」

 

お願い事を承諾した後、一人になった塾長室で彼のもう一つの名前をつぶやいた。

 

 

 




あけましておめでとうございます。
今年も『陰陽師になりました』をよろしくお願いします。

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