陰陽師になりました。   作:ラリー

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8話

「土御門君、ちょっといい?」

 

天一の治療を受けた翌日の今日。

陰陽塾で平穏な日常を謳歌していると、クラスメイトの女子学生が二時限目の

休み時間に話しかけて来たので話を聞いてみると……。

 

『アイツ……本物のバカだったんだな………』

 

「……」

 

そう、隠形している紅蓮の言う本物のバカ…春虎がついにやらかしたらしい。

なんでもクラスメイトの男子とケンカして式神勝負をする事になったようだ。

本当に不幸というかアホと言うか……。

つーか、アイツに式神なんて居たんだな……。

…って、そんな事考えている場合じゃないねぇ!

あのバカは素人だ、塾講師が付いていてもヘタしたら大怪我をするぞ。

 

「紅蓮。悪いが様子を見てきてくれないか?」

 

『はぁ……しょうがない奴だな…たしか呪練場(じゅれんじょう)だったな』

 

「すまん」

 

あのバカが大怪我をしていないか心配になった俺は、紅蓮に様子を見てくるように

頼むと、姿を見せていないが、呆れた声で俺の願いを了承し、呪術の修練場である

『呪練場(じゅれんじょう)』へと向かっていった。

 

 

呪練場

 

国内最大級の呪術の練習場であり、防壁は国家一級陰陽師が施したもので

相当威力の大きい呪術や霊災でも破られない仕様となっている。

 

 

「まったく、バカもバカだが…あの先生は一体何を考えているのやら」

 

脳裏に浮かぶ関西弁の怪しい講師を思い出しながら、教室に戻る俺だった。

 

☆☆

 

「俺だって式神じゃん」

 

「ふざけんな!!」

 

今、呪練場の中央で術を施している剣道の胴着と木刀?を装備したバカが世に言うヤンキー?風な

男子生徒が出したと思われる黒い人型の簡易式と対峙しており、術者であるはずのバカが

自分も式神なのだからと言って自身の護法式である狐の少女の代わりに直接戦うらしい。

 

……………。

 

バカだ!アイツは正真正銘の大バカ者だ!!

見ろ!観客席に居る周りの人間が全員ポカーンとした表情をし、時が止まっているかの様に

固まってしまっているぞ!!

 

「ははは春虎様っ!!せ、僭越ながら賛同致しかねますっ!刃を交えるのはあくまでコンの

役目!ど…どうか春虎様は後方にて!!」

 

「ダメだ。だって俺、式神の使い方が全然わからねぇもん」

 

おいおい、なんか開き直ってるぞ……。

 

「そそ、そのような事はコンだけでも……!」

 

「悪い。それじゃあ意味ないんだ。

わからない俺は……俺なりのやり方を見つけていかなきゃいけないし……

それにだ、コン」

 

「?」

 

「これは、俺の喧嘩だ」

 

……フン。

バカはバカでも……面白いバカの様だ。

その度胸だけは認めてやるよ。

 

「でで、でもっ!!」

 

「そんな顔すんなって。

これでも喧嘩はそこそこ経験がある」

 

頑なに自分の意思を曲げない主に涙目になりながら進言する式の

頭を撫でた後、笑みを見せて敵である簡易式を睨む春虎。

 

「準備は……ええようやな」

 

立会人として少し離れた場所に居る眼鏡の講師が中央に居る春虎と自身の簡易式

から少し離れた所に居る、男子生徒に確認を取り……。

 

「では……始め!!」

 

試合が始まり拳と木刀が交差する。

術者の男子生徒と春虎も気合は十分。

レベルは低いだろうが、お互い本気の真剣勝負。

正直最後まで見届けて、主である晴明に報告したい所だが……。

 

怪しいネズミを追い出すか……

 

 

・・・

 

 

「なんと…無様な…!見るに堪えぬ!!」

 

「…アレが王の選んだ式神だというのか?」

 

呪練場の観客席よりも後方にある柱の裏で中央の戦いを見て激昂している一人の男と

闇のように深い姿なき異形の声。

彼等の目的は崇拝する王自らが式に選んだ青年がどれほど優秀なのかを見ること………。

それなのに、目の前で行われている試合は低レベルかつ無様なもの。

呆れを通り越して憎しみすら沸いている。

 

「北辰王はまだ目覚めていません。

今はまだ未熟な子供……近しい者を身近に置きたいと思うのも無理からぬことでしょう」

 

「だが、その大将があのような下郎などと……到底承服できぬ…」

 

「はい…ええ、まったく」

 

「あのような王自らが自身を貶めるような真似はさせては成らない。

王が目覚めるまででいい……誰かが傍について正しく導かねば…」

 

「ならば……他でもない私の導きで…王の威光を取り戻さねば……!!

その為にまず、あの邪魔なガキを…」

 

姿を見えぬ声と会話した男は一つの結論に至り、懐から呪符を取り出したその時。

炎が男を襲い、持っていた呪符を燃やしてしまう。

 

「なっ!?誰だ!姿を見せろ!!」

 

男は辺りを警戒するが

誰もいない。

 

「隠形か……ならば…角行鬼(かくぎょうき)!これ以上、何かされる前にこの場から離脱します!!」

 

「……ふん、いいだろう」

 

男の命令に異形の声が承諾すると、男は姿を消してしまった。

 

『逃げたか……』

 

主の命により隠形をして青年達の真剣勝負を見守っていた紅蓮は

異形の声の放つ僅かな瘴気を察知して男を観察していたが、動きを見せたので

自身の生み出す炎で呪府を灰にした後、追撃を加えようと背後を取ったが、強い瘴気が男を覆うようにして発生し、瘴気が晴れた時には男はその場にいなかった。

 

『やれやれ、晴明に報告することが増えた』

 

 

☆☆☆

 

次の日……。

 

寮の布団で目覚めた俺は昨日、紅蓮から聞いた二つの報告を思い出した。

一つは式神勝負で春虎がクラスメイトの男子と引き分けた事。

もう一つは姿を見せない異形の存在と共に春虎を見ていた男。

北辰王と言っていたらしいから正体は夜光信者……。

目的は、信仰している北辰王の近くをウロチョロする春虎の抹殺か……。

 

「紅蓮。すまないが今日一日、春虎を見ていてくれないか?」

 

「わかった。それと、今日からしばらくは他の神将達も陰陽塾に連れて行けよ」

 

「ああ、そのつもりだ」

 

俺の頼みを聞いて姿を現した紅蓮は、護衛の十二神将を付けるように言った後、隠形を

して俺の部屋から出て行った。

それにしてもとんでもない事になったもんだ。

まさか夏目クンを確保するのではなく、周囲の人間の抹殺とは……。

そのうち冬児や俺の命が狙われかねないな……怖い怖い。

 

「朱雀、太陰、六合、勾陣、付いてきてくれ」

 

「「「「了解」」」」

 

こうして俺は塾の準備をした後、隠形をした神将4人を連れて陰陽塾へと向かった。

 

☆☆☆

 

 

私の名前は倉橋 京子(くらはし きょうこ)。

陰陽塾の一年生。

絶賛初恋が続く恋する乙女である。

現在は思い出のあの人と話すための一歩を踏み出そうとしている。

ここまで来る道のりは本当に長かった……。

 

今年の春は、土御門 夏目君に紹介してもらおうとしたんだけど……。

 

『ごめん。僕はあの人とほとんど面識が無いんだ……』

 

と言って断られるし……。

まあ、無理に頼むのは嫌だったからその場は引いたんだけど。

別の方法をあの手この手と考えているうちに夏となってしまった。

彼は三年生だ。このままでは、話しかけられずに卒業してしまう!

そう思って焦っていた夏休みを終えた今、ついに一昨日の月曜日にチャンスが到来したの!!!

チャンス…別名、土御門 春虎。

夏休みが終わった後、転入してきた二人の男子生徒の片割れ。

倉橋の情報では彼はあの人の弟らしい。

これは神様が私にくれた最後のチャンス!

彼と仲良くし、あの人……土御門 武さんに絶対に会う!!

 

こうして、私のあの人と仲良くなるための計画を実行し始めたのだけど……。

何故だろう?普段クールだった夏目君の様子がおかしい。

転入したての彼に学食の場所を教えようとしたら……

 

『大丈夫だよ、倉橋さん。学食の場所は僕が教えるから…』

 

授業内容を理解していないだろうと思いノートを貸そうとしたら……。

 

『大丈夫だよ、倉橋さん。ボクガノートヲ見セルカラ……』

 

彼と友達になる為のきっかけを作ろうとすると必ず、夏目君が邪魔をする。

まさかこれは………。

 

『京子ちゃんも読んでみない?このファンタジー(BL)小説!おもしろいわよ~』

 

我が女子寮の寮母である木府 亜子(きふ あこ)さんの愛読書物に出てくるような関係なのでは!?

しかし、あの成績優秀で女の子にモテそうな夏目君が彼と特殊な関係になるだろうか?

疑問に思った私は、彼と一緒に転入してきた阿刀 冬児(あと とうじ)君に二人の関係を聞いてみた。

すると……。

 

『土御門のしきたりで、あの二人は心も体も繋がっている』

 

驚愕。

まさにその一言。

まさか本当にそんな関係の人が居るなんて……。

ま、まぁ、夏目君が邪魔する理由も分かったし、そういう事ならちゃんと夏目君に話を通して

彼とは仲良くなりましょう。

 

そう思って、夏目君に話をしようとした昨日……。

弟君が男子生徒と授業中に喧嘩をした。

喧嘩と言っても、特別扱いの彼を気に食わないクラスメイトの男子が、一方的に突っかかり、

彼の護法式の逆鱗に触れて、返り討ち。

そして、このままでいけないと判断した大友先生により呪練場で式神勝負をする事となった。

なったのだけど……。

 

男子生徒は人型の簡易式に対して彼は自分の護法式である小さな女の子を出すのかと

クラス全員が思って、呪練場の中央を観客席から見ていたのだけど……。

 

「俺だって式神じゃん」

 

剣道の胴着と木刀を装備した彼が現れ、自分も式神だから戦うと宣言。

護法の少女との会話を聞いて分かったが、彼は自分の喧嘩だからと一人で戦う事を決めたらしい。

心意気は認めるけど……陰陽師としては凄いバカね…。

 

そして、呆れるクラスメイトの皆が見守る中、式神勝負が始まった。

始まったのだけど……内容は……唯の殴り合い。

簡易式が彼を殴り、殴られた彼が木刀で簡易式を殴り……。

私の知っている式神勝負とはかなりかけ離れた泥臭い勝負が目の前で展開され……

最後は男子生徒の呪力切れと弟君の体力切れにより引き分け……。

 

正直、女子には見るに耐えない勝負だったけど、男子には好評だったようで

勝負の後、彼はクラスメイト達と仲良くなったみたいで皆から春虎やツッチーと呼ばれるようになった。

そして、放課後の教室でついに私は夏目君に……。

 

「私、武さんが好きなの!だから春虎に紹介してもらえるように協力して!!」

 

「え…えーーー!!」

 

お願いした。

誠心誠意お願いし、快く了承してもらった。

少し彼の両肩に指が食い込んだかも知れないが、彼は男の子。

問題は無いはずよ。

でも……彼の肩、男子にしては細くて華奢だったような……。

まぁ、それはいいわ!

今日!夏目君と春虎と冬児の三人の協力により今日の放課後、ついに武さんに会える……。

 

………。

 

そして、今日の講義が全て終了し、春虎と夏目君が武さんを呼びに言っているのだけど……。

 

「おそいわね……どうかしたのかしら?」

 

「さあ?もしかしたら武さんが居なくて探しているのかもな……」

 

そう、私を武さんに紹介してもらう為に一年の教室で待っているのだけど

武さんを呼びに行っている二人が帰ってこない。

もしかしたら、冬児の言うように先に帰ったんじゃ……。

 

そんな事を思っていると……。

 

「大変だ!夏目が黒い何かに連れて行かれた!!」

 

……。

………。

えーーー!!

 

 




コン「ぱ、ぱぱ、パソコンの前の皆様、はじめましてでございまする!
本日はアニメにならってコンが予告を担当します!!」

コン「じ、次回!現れる謎の男と異形の者、は、はは春虎様と誘拐された夏目殿や、兄君たちの運命は……ど、どうなるんでしょうか!?コ、コココ、コンは心配でありまするーーーーーーー!!!」

※コンさん、涙目でフェードアウトした為、『ジャンケン☆コン!!』のコーナーは中止と成りました


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