浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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今年はこれで最後かな……?

今回は銀魂ネタが多いお話です。


標的11:魔死呂威(ましろい)(ぐみ)の親分

 次郎長が溝鼠組を起こしてから幾許かの月日が流れ、ちょうど一年が経過した頃。

 敵対組織の財産強奪、的屋利権の独占による収入、バイトの掛け持ちなどで財力を地道かつ確実に蓄えていった溝鼠組は、ついに念願の屋敷を完成・手に入れることができた。

「しっかし、よう建ったなァ……たった三話ちょっとで屋敷建つんかいな?」

「それなりに賑やかとはいえ、並盛は地方都市だからな。地価自体は東京や横浜のような都心と比べりゃあ安い。あと勝男、そこに一々触れるんじゃねェ」

 次郎長達の前には、純和風建築の大きな屋敷が建っている。

 立て掛けられた看板には達筆に書かれた「溝鼠組」の文字が刻まれ、ほとんど武家屋敷に近い。何百人という子分を住まわせるようになる事態を想定しているため、屋敷は相当大きい。固定資産税は高くなりそうであるが、ある意味では昔の極道のイメージにぴったりと言えよう。

「……とにかく子分を全員集めろ。昼に集会開くぞ」

「へい!」

 

 

 正午過ぎ。

 屋敷の大広間には、溝鼠組の構成員が全員集っていた。勝男を筆頭とした古株から数日前に入門したばかりの新米まで、総勢55名の子分達が組長・次郎長を真剣な眼差しで見つめている。

 今から行うのは、結束を固めるために執り行う盃事だ。

「てめーら、よく集まってくれた。この屋敷が建ったことで、並盛町の王として君臨するための土台が完成した」

『……』

「薄々察しちゃいる野郎もいるだろうが、この町は何かと裏の連中に目をつけられやすい地域のようでい。余程の事情があるのか何かのジンクスか……その辺はとやかく言わねェが、いずれにしろ裏社会からの介入が起きやすいのは事実。その牙が俺達だけに向くとは限らねェ」

 現時点では、次郎長の実力を見込んだことを前提に裏社会の人間達がこぞって次郎長と接触しているが、いずれは斬念眉組のように実力行使で従わせるべく強硬手段を取るようになるだろう。それが次郎長及び溝鼠組の人間だけで済めばいいが、カタギにまで手を掛けるようになるのも時間の問題だ。

 幼少期からヤンチャな生粋の暴れん坊と言える次郎長は、そんな自分を受け入れた並盛の住民に対し大きな恩義を抱き、両親が好きだったこの地に想い入れもある。ゆえにその恩を返すことを理由に並盛に君臨し、裏社会勢力の脅威から護ろうとしているのだ。メンツと任侠が命のヤクザ者にとって、護るべき存在が失われるような事態はあってはならないのである。

「今は同じ極道者だろうが、いつかは海外勢力……特にマフィア者を相手取るかもしれねェ。イタリアの親戚は利権の為にはカタギに手を出すことも(いと)わねェ秘密組織と聞く……そんな連中と真っ向で対立すれば、最悪戦争になって命を失う場合もあらァ。逃げてー奴がいんなら遠慮はいらねーよ、恥じることじゃねーし止めもしねーよう」

 次郎長はそう告げて待つも、誰も屋敷から出ない。

 子分達の覚悟を確認した次郎長は、傍に置いていた二枚の盃を前に置く。

「……おめーらの覚悟、しかと見届けた」

 次郎長は酒瓶の封を開け、盃に注ぐ。

「泥水次郎長もとい吉田辰巳。若輩ではありますが、皆様の命……この次郎長が背負わせて頂きたく、親子の盃を交わし了承の意と定める」

 注ぎ終えると同時に、子分達を代表して若頭の勝男が前に出て深々と頭を下げる。

「黒駒勝男もとい石塚隆、泥水次郎長にこの命を預け全てを捧げやす。親子の盃、しかと頂きます」

 二人で一気に酒を飲み干す。

 その後も残りの子分と親子の盃を交わし、盃事を終える。その直後、子分の中でも古株である景谷がある物を次郎長に献上した。

「オジキ……これを」

「これは……煙管(キセル)のセットか?」

「成人祝いを兼ねて、この日の為に用意してきやした」

(あ、そういやあ俺二十歳になったんだった)

 子分達が次郎長に献上したのは、煙管と煙草(たばこ)(ぼん)だった。

 ふと次郎長は煙管を視界に捉えると、目を見開いた。その煙管は、見覚えのある形をしていたのだ。

(――コレ、何気に辰五郎のと同じじゃねーか? こいつも奇縁ってやつかねェ……)

 寺田辰五郎は辰巳が成り代わったキャラ――泥水次郎長の親友でお登勢の夫だった岡っ引き。第一次攘夷戦争で次郎長を庇って致命傷を負った彼は、次郎長にお登勢とかぶき町を託して息を引き取ったのだが、その際に次郎長は彼の形見の一つである煙管を手にして町へ戻っている。

 銀魂とは別次元であるこちらの世界でもどういう因果か、辰五郎が持っていた煙管が次郎長の嗜好品(アイテム)になるようだ。

「せっかくだし吸ってみるか……」

 次郎長は刻み煙草を摘んで丸め、火皿に詰めてマッチで火を点ける。

 そして吸い口を咥えて吸うと――

「ゴホッ、ゴホッ!」

『オジキ!?』

「わ、(わり)ィ……オイラは煙草慣れしてねーんだ」

 喫煙――ましてや煙管で煙を吸うことに慣れていない次郎長は、涙目でむせる。

「……だがおめェら若い衆がせっかく買ったんだ、大切にするぜ」

 次郎長は煙管を咥えたまま微笑むと、勝男が叫んだ。

「お前らァ!! オジキの顔に泥塗るんやないでェェ!!」

 勝男の叫びに答えるように、残りの子分達も雄叫びを上げる。

 この日から溝鼠組は新たなスタートに踏み出し、日本裏社会にその名を轟かすようになる。

 

 

           *

 

 

 さて、溝鼠組が新たなスタートに踏み出して数週間後。

 溝鼠組はいつも通りシノギを得るために並盛神社で的屋を運営し、営業を終了して金勘定をしていた。

「とりあえず今日の分は300万やで、オジキ」

「一日で300万か……シノギも安定しているし、もうちょっと稼いだら何かパーッと奢るか」

「食った分は働けならぬ、働いた分は食わせろってやつでっか?」

「そういうこった」

 次郎長は煙管の火皿に刻み煙草を詰めて火を点け、軽く吸って紫煙を吐き出す。

 溝鼠組が裏社会でのし上がるのは、思いの外早かった。地方都市の的屋利権を独占した上に学生時代からコツコツと溜めた資金のおかげで経済的には豊かな方になり、同じ極道組織だけでなく新興勢力として現れたチーマーやカラーギャングの介入・干渉をことごとく跳ね除けたため、今では溝鼠組の泥水次郎長を恐れる連中が増えてきている。

 強大な力を誇示する次郎長は、並盛の裏の顔役として治安維持に大きく貢献しているのだ。

「なァ、オジキ……一つ訊いてええか?」

「何でい、いきなり」

「――わしを次期組長と決めといてホンマにええんか?」

 いきなり質した勝男に怪訝な表情を浮かべた次郎長だが、その後に並べた言葉を聞き、きょとんとした顔をする。

 実を言うと、次郎長はすでに組の跡取りを勝男だと決めている。確かに極道組織において若頭というものは長男に当たるため、新たな組長は若頭であるケースが多い。しかし組織が大きくなると若頭の他にも最高顧問や組長代行といった大きな権限を持つ幹部が現れるようになり、そこからも跡取りの候補となる場合もあり得る。

 勝男自身としては、次郎長の後を継ぐことには大歓迎だ。とはいえ、あまりにも早い段階で決めると気が変わった際に大きな内ゲバになるので、今は後継者を考える時期ではないと主張しているのだ。

「これからもっといい連中が入ってくるし、オジキもガキを持つかもしれへんで?」

「オイラ達ヤクザ者は上下関係が明確な疑似家族だ……後継者争いで変に拘ると組の崩壊のきっかけにならァ。長男のおめェなら筋が通るし、周りも自然と納得するだろ」

「オジキ……」

「オイラはてめー自身が思う以上に頑固らしい……気が変わるこたァまず――」

「おい、てめー!!」

「「ん?」」

 次郎長と勝男が組の今後について語り合っているところに、男達は現れた。

 誰がどう見てもカタギに見えない柄の悪い黒スーツ達と、その先頭に立つ非常に特徴的な髪型をした額の十字傷が目立つ袴姿の男。次郎長率いる溝鼠組と同じ、極道組織の人間だろう。

「わしは魔死呂威(ましろい)下愚(かぐ)(ぞう)! お前が泥水次郎長じゃな?」

「いかにもそうだが」

 すると、事態を把握した子分達が慌てた様子で次郎長の耳元で囁いた。

「オ、オジキ! アレは(あね)()(はら)(ちょう)を牛耳ってる魔死呂威(ましろい)(ぐみ)です!」

「個々の腕っ節こそウチら溝鼠組が上ですが、数は向こうが遥かに上……ここで戦争になるのはさすがに……」

(え? ウソ、この世界に銀魂のキャラ何人いるの!?)

 次郎長は冷静さを装っているが、内心では吉田辰巳になっていた。

 魔死呂威組は銀時ら万事屋に依頼した数少ない裏社会の勢力で、〝狛犬〟の異名を持つあの中村京次郎が若頭を務めた極道組織だ。原作においては相当の勢力を誇っているのか、多くの同盟組織が存在している描写もある。こちらの世界では、姉古原というどこかで聞いたことのある名前の町を支配しているようだ。

「へェ……隣町からわざわざご苦労なこった。オイラに何の用でい?」

「単刀直入に言う――わしはお前と手を組みてェ」

「おいおい、んな藪から棒に何を言い出すんでい?」

 下愚蔵が持ちかけた話は、溝鼠組との同盟であった。

 次郎長は眉間にしわを寄せ、勝男達もざわつく。

「次郎長、お前は誰かの下につきてェってタマじゃねェのはよく聞く……だが誰かの隣に立つ(・・・・・・・)ってのは案外受け入れられるんじゃねェか?」

「それで手を組めと? 舎弟になれの間違いだろ」

「ガハハハハ!! 違いねェ!!」

 次郎長の反論を豪快に笑い飛ばす下愚蔵。

 しかしそれも一瞬のこと――下愚蔵は真剣な眼差しで次郎長を見据え、同盟を持ちかけた理由を語り始めた。

「お前は並盛のことで頭一杯だったろうが……実を言うとな、芳文(ほうぶん)連合の会長が亡くなってな。その後継者がこれまたとんでもねー野郎なんじゃ」

「……話の流れ的には、その後継者とやらは極道の風上に置けねェ三下みてェだな」

 次郎長の言葉に、下愚蔵は無言で肯定しつつ話を続ける。

 今は亡き前会長は次郎長をしつこくスカウトしようとしたが、どちらかと言うと穏健派の人間であったため、溝鼠組と表立って揉めるようなことはしなかった。また覚醒剤や麻薬などの薬物関係や売春の類を嫌う昔気質のヤクザ者であったため、下愚蔵自身も悪い噂はあまり聞かなかったという。

 だがそれは前組長の頃のことで、今度跡を継ぐ人物は儲けるためなら何でもする悪漢だという。違法薬物の密売や売春の斡旋、更には美人局(つつもたせ)――夫婦が共謀して他の男と妻を性的関係にさせ、それをネタに金銭を要求したり脅迫する行為――まで平気でやるらしい。

「任侠道を弁えねェ三下だ、カタギも狙うに決まっとる……それも他人様のシマの人間にもじゃ。今の芳文連合は、もうわしの知る芳文連合じゃねェ」

「……要はその三下が日本の裏を牛耳らねェようにするためか?」

「そうじゃ、今のヤクザ者はわしらのような昔気質の極道じゃねーんだ。カタギに手を出すことを恥じねェ連中だ! わしらはヤクザであってマフィアじゃねェ、そんな奴らが裏を牛耳るようになったらこの国の〝裏の均衡〟が崩れて血の海になる!」

 凄まじい剣幕で言葉を並べる下愚蔵に、次郎長以外の人間は怯む。

 ヤクザ勢力のマフィア化・秘密組織化は、尚弥も危惧している事態だ。自己の権益を守りかつ拡大するために邪魔者を暗殺することを躊躇(とまど)わず、社会の支配階層や取締機関に介入してこれを支配するようになれば確かに大変な事になるだろう。

 次郎長としては並盛(ナワバリ)さえ護れれば十分だが、余計に敵を増やすと厄介事も比例して増えて面倒なので、なりふり構わず喧嘩を売るのは控えようと考えるようになっている。それに下愚蔵は次郎長に対して好意的であるため、敵対するよりも友好関係を築いた方が得策だろう。

「オイラは猿山のボスやってた方が性に合うし気も楽なんだが、どうも「誰が組むか」なんて言ってられねェようだな……いいぜ、乗ってやるよ」

「おお! そうか――」

「ただし、オイラの並盛(シマ)を荒らすマネはしねェことをこの場で誓え――それが絶対条件(・・・・)だ。それが呑めねーってんなら……」

 腰に差した刀の鯉口(こいくち)を切りながら要求する次郎長に、下愚蔵の子分達が殺気立ち前に出た。

 それに対し下愚蔵は挑発に乗らず、興味深そうに次郎長を眺めている。

「ククク……わしも長いこと極道(この)世界で色んな若い衆を見てきたが、お前のような青タンが残るガキが腕も度胸も一級品とはな。――いいだろう、それで手を打ってやる」

『組長!?』

「せいぜいこのわしよりも先にお迎えが来ねェよう気をつけるんじゃな」

 下愚蔵は口角を最大限に上げ、豪快に笑い飛ばした。

 

 

 後日、次郎長率いる溝鼠組は魔死呂威組と正式に親戚縁組――ヤクザ業界における同盟を意味する関係――を結び、並盛町外への影響力を強めるようになる。




これで京次郎登場フラグが立ちました。
京次郎は近い内に登場するのでお楽しみに。

ちなみに魔死呂威鬱蔵は原作みたいな鬱展開で死んでおらず、こちらの世界では紳士服販売チェーン「洋服のアノ山」で働きカタギとして生活しています。

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