予告通り、少しずつリボーンキャラと会わせていきます。
歳月が流れ、次郎長は24歳となった。
並盛の裏社会を完全に牛耳った溝鼠組は「日本の裏」においても盤石の地位を築き、その化け物染みた強さと仁義を重んじた統治を敷いていることから〝大侠客の泥水次郎長〟と呼ばれるようになった。溝鼠組自体も勢力を拡大させ、今では構成員110名を超えるヤクザ界屈指の一大勢力である。
さて、そんな次郎長が今何をしてるのかというと……。
「ガキの子守なんざ、他あたれよ奈々。児童相談所ぐらい行けるだろ」
「そこまで生活難じゃないのよ、家光さんがいっぱい送ってくれるから。それに同期のよしみじゃない♪」
「へーへー、さいですか。それで一家の収入源がフロント企業の沢田奈々さんよう、天下の次郎長親分を思い通りに動かせる気分はどうだ」
「最高♪」
「
「冗談よ。でもわざわざ子育て手伝ってくれて嬉しいわ♪」
次郎長は奈々の家で子守をしていた。
家光と奈々の間に生まれた子は
ツナは今年で3歳だが、チワワですら怖がるというビビリっぷりかつ泣き虫で人見知りも激しいときた、ある意味で普通の3歳児――のはずだが、どういう訳かヤクザ者である次郎長に妙に懐いているのだ。イケメンとはいえ普通の子ならギャン泣きしてもおかしくないのだが、ツナだけはなぜか次郎長に好意的であるのだ。
「ツナ、おめーは何でオイラに懐くんでい……懐く相手間違ってんぞ」
「?」
呆れた表情で次郎長はツナの頭を撫でる。
対するツナはそれがどうしたと言わんばかりの表情で首をかしげている。容姿どころか雰囲気や仕草まで奈々に似ており、彼女の生き写しみたいなツナに次郎長は思わず溜め息を吐いた。
そんな次郎長に、奈々はこう告げた。
「ツッ君は勘がいいのよ、きっと。タッ君の良い所を見つけちゃったのかもしれないわ」
「本能で自分にとって良い存在か悪い存在かを見極めるってか? おいおい、オイラはヤクザだぜ。町を護るためとはいえ平気で暴力振るう暴れん坊だぞ?」
「タッ君が社会のはみ出し者でも、ツッ君はわかってるのよ。ホントは優しい人だって」
「まァ、ガキの勘は侮れねーっちゃ侮れねーがな……っつーか家光のバカは何してんだ?」
次郎長は怒りの矛先を家光に向けた。
彼は多忙な上に内外に敵を作りやすい役職らしいが、だからといって年に数回程度しか家に戻らないのもいかがなものか。それ以前に沢田家の身の安全を第一に考えるべきではないか。
(……いや、それともオイラがいるから大丈夫とでも判断したか)
奈々が住んでる並盛は次郎長率いる溝鼠組の縄張りであり、並盛の住人は彼に加え雲雀尚弥という強大な権力の庇護下で平和な暮らしをしている。裏社会の勢力が介入・干渉しようものなら全力で次郎長が跳ね除けるため、町の〝裏の治安〟は非常に良好だ。
もしかしたら家光は、次郎長が奈々の身を案じて沢田家に介入することを想定していたのかもしれない。〝大侠客の泥水次郎長〟という強大な抑止力が機能しているからこそ、次郎長に不在時の沢田家を託した可能性も否定できないのだ。
「ハァ……それでもアレで愛妻家とかぬかしたら一発ぶん殴るか」
「どうしたの?」
「いいや、ただの独り言だ………しっかし世の中不思議だな、おめーらの新居が昔のオイラの家なんざ……これも奇縁ってやつかねェ」
「ええ、ホント驚いたわ! それもキレイな割にとっても安かったの」
「そりゃあ前の入居者が
襟巻を引っ張って遊ぶツナを撫で、次郎長はリビングを見る。
5年以上も前に捨てたはずの家に、
「おじさん、これなに?」
「あ?」
ふと、ツナに声を掛けられた。
それに反応した次郎長はツナの方に顔を向けると、何とツナが次郎長の刀に興味を示していた。
「あーあー、ソイツはおめーが持っていいモンじゃねーよ。オイラの得物は
「あぶないの?」
「うっかり触ると
「おじさん、ママといっしょ?」
「一緒だよ、年齢はな。だからオイラはおじさんじゃねーって」
おじさん呼ばわりするツナを注意する次郎長。しかしツナは治す気が全く無いのか、次郎長のことをずっとおじさん呼ばわりしている。
「ジロチョーおじさん、ママとおともだち?」
「……もういいよ、おじさんで」
「えへへ、ぼくのかち!」
折れたのは次郎長だった。
成長して学生になってもおじさん呼ばわりされるんだろうなと呑気に思いつつも、次郎長はツナの質問に答えた。
「……オイラは昔、奈々に世話になってな。その縁で今もこうして交友関係を続けているって訳でい」
「じゃあ、ママとなかよしなんだね!!」
「結論から言うとそうだな。まァおかげで、こうしておめーとも仲良くさせてもらってるわけだが……」
次郎長はそう言うと立ち上がり、刀を腰に差した。
「あら? どうしたの?」
「知り合いに呼ばれててな、そろそろ時間でい。お
次郎長は
「タッ君」
「……何でい」
「これからも、ツッ君のこと頼んでもいいかしら?」
「……しゃあねーな、わかったよ。これも恩返しの一環だ」
次郎長はそう言い捨てながら、手を振って沢田家を後にした。
*
昼頃、雲雀家。
溝鼠組の屋敷に匹敵する程の大きな屋敷の縁側で、次郎長と尚弥は酒を酌み交わしていた。
「……で、わざわざオイラを呼んだ理由は? 再戦か」
「それもいいけど、本題は違うからね」
昼間からお
尚弥は再戦の機会を望んでいることを示唆しつつ、自分で作ったカルパッチョを口にして次郎長にある紙を見せた。
「……これは?」
「公安委員会のトッ……知り合いから貰った、関東集英会の武器の密輸リスト。こういうのは君に向いた仕事だろう」
「守秘義務はどうした公安」
一瞬だけとんでもない言葉を言おうとした尚弥。彼はどうやら公安委員会のトップと関係があり、日本裏社会の一大勢力である関東集英会の武器の密輸リストを手に入れたようだ。
色々とツッコミ所が満載だが、そもそも雲雀家が君臨するこの並盛は、どういう訳か銃刀法――正式名称は銃砲刀剣類所持等取締法――の規制が緩い様な一面があったり極道組織がいるのにもかかわらず警察官が中々来なかったりと、日本の法律が通用するのかどうか怪しい点が多い。雲雀家の権力が公安委員会を超えると理解する以外は無いだろう。
「この武器が並盛に流れ、チンピラ達の手に渡ると面倒だ。君は魔死呂威組とは親戚縁組の関係だろう? 彼らも動かして早く解決してくれないかな」
「………おいちょっと待て、何でおめーが魔死呂威組のことを知ってんだ!? 話した覚えなんかねーぞ!?」
「僕は僕の知りたい時に知りたい情報を得られるのさ」
「……おめーがカタギでよかったよ」
尚弥の権力の大きさを改めて知り、つい本音を漏らす次郎長。万が一にも雲雀家が極道だったら、いくら喧嘩すれば敵無しの次郎長でも権力という面では太刀打ちできないだろう。
すると、襖を開けて一人の男の子が現れた。その男の子は尚弥譲りの容姿であり、眼差しも妙に鋭い。
「……アレ、お前のガキ?」
「一人息子の
「恭弥か……父親そっくりだな」
尚弥の一人息子・雲雀恭弥が現れ、次郎長にとてとてと近寄る。
そして次郎長の体や服装、髪の毛、頬の傷、傍に置いた刀などを注視しながら第一声を放った。
「――きみ、つよい?」
「……
第一声が次郎長の強さを知りたいという趣旨。
あまりにも意外な質問にきょとんとするも、次郎長は己の力を誇示するかのように不敵な笑みを浮かべた。
「オイラはこの町の頂点に立つヤクザ者・泥水次郎長だ」
「ヤクザ? やっぱりつよいの?」
「そりゃあそうさ、喧嘩一筋で成り上がり大所帯になったんだからな。今じゃあ構成員110名を従える大親分――」
「ぼく、むれる人キライ!」
「……?」
突然「群れる人間は嫌いだ」と叫び、むすっとした顔で睨む恭弥。そんな彼を次郎長は鋭い眼差しで見据える。
「むれているのはみんな弱い! でもきみはつよいのにむれてる! そんなのおかしい!」
弱い人間程群れを成して行動する。弱いばかりに群れを成す。真の強者こそ孤高の存在であるべき。そう主張する恭弥に耳を傾ける次郎長。
それと共に、彼の脳裏に奈々の言葉がよぎった。
――タッ君の悪いところよ! 自分一人で全部背負って……そんなに私や皆が信用できない人なの!?
「恭弥………オイラは、群れることで色々と学んだんでい」
「!」
「群れねーからこそ出来ないことがあり、群れるからこそ成し得ることもある。――そこに強さなんざ関係ねェ」
次郎長は学生時代、とんでもない暴れん坊であると同時に常に孤独だった。朝から晩まで喧嘩をして並盛中に悪名を轟かした青春時代、自分の喧嘩に無関係の人間が巻き込まれるのを嫌った彼は、「壁」を作って常に他人と距離を置いていた。
だがその次郎長が作った「壁」を超えてそれを
子分を持ち群れることで、次郎長は誰かに頼ることの大切さ・誰かと繋がることの大切さを知り、どんなに強くても人間である以上一人では生きていけないことを悟った。一方で群れは「群がる」という状況にしてはよくないということ、集団という群れを率いるには秩序が必要だということも知った。
次郎長の「生き方を変えるきっかけ」を与えたことを奈々が特別意識したわけではないだろうが、彼女によって次郎長は誕生し、次郎長に人間関係を持つ大切さを教えたのだ。
「……群れようが群れまいが、んなこたァどうでもいい。
「……ぼくは、むれずに父さんときみをこえる!」
「! ――オイラと尚弥をか?」
「ダメとはいわせないよ!」
「ククク……ああ、無駄とは言わねェ。全ての人間には無限の可能性を持ってるからな」
次郎長は笑う。
すると、恭弥の
「――お
「うん……」
恭弥は
尚弥は穏やかに微笑みながら恭弥の頭を優しく撫でており、次郎長は並盛最大にして最高の権力を持つ男の意外な一面を垣間見ることができた。
「僕はもうこの子を風紀委員長にさせるつもりだよ。あと10年経てば、僕の後を継いで君と肩を並べる存在になるよ……次郎長」
「……隠居でもする気か?」
「まさか。恭弥が全権を委任できる程の強者になっても僕がこの町の秩序だ、まだまだ現役でいるさ」
尚弥は
*
沢田家と雲雀家を訪れた後、帰路につく次郎長。
しかし溝鼠組の屋敷の門が視界に入ったその時、異変に気づいた。
「おい、何を揉めてやがらァ」
『オジキ!!!』
勝男達が揉めているところに介入する次郎長。
その相手はどう見てもカタギとは思えない見た目であり、極道関係者であることがすぐにわかった。
「オジキ! こいつらは
(植木蜂一家……え? マジで? 嘘でしょ!?)
次郎長は冷や汗を流した。
植木蜂一家は、銀魂において溝鼠組と商売で対立していたヤクザ勢力だ。組長が次郎長の古い友人であるだけでなく、次郎長の離縁した妻の実家でもあり、後に看板を畳んで紅花農園を営むようになった。その上植木蜂一家にはあの
まさか植木蜂一家まで存在していたとは思わなかったのか、顔が引きつり始めている。
「……で、その植木蜂一家が一体何の用でい」
「実は……」
ヤクザの一人が、怒りと悲しみで体を震わせながら説明した。
植木蜂一家は、とある商談に乗ってイタリアのマフィアと交渉しに横浜のある倉庫に向かったという。しかし倉庫に着いた途端マフィア達は一斉に銃口を向け、無慈悲に乱射したのだ。騙し討ちである。
この騙し討ちで一家の組長をはじめとした幹部格は全滅し、数人の
そこで次郎長率いる溝鼠組の評判を聞き、
「つまり、イタリアの親戚と交渉しようとしたら騙し討ちに遭ったって訳なんや」
「
「あ、ああ………この子をどうか助けてほしい!」
植木蜂一家の面々が一斉に頭を下げると、一人の少女を連れてきた。その少女はオレンジ色の髪の毛が特徴で、どこか見覚えのある顔であった。
「
「この子をあんたに託したいんだ、次郎長。落ちぶれたわしらではこの子を幸せにできん」
(ああ、やっぱりね……)
次郎長はついに諦めにも似た表情を浮かべた。
成り代わっているキャラの実の娘が、血は繋がってなくとも邂逅を果たした。これもまた奇縁――いや、もはや運命の領域かもしれない。
「それと、こんなことをあんたに言うのも何だが……どうか――」
「仇を代わりに取ってくれと? おめーさんらの問題をオイラがやらなきゃならねーのか」
「っ……本来ならわしらでやりたいが、もう植木蜂一家は滅んじまったんだ……!」
騙し討ちで組を潰され、残された植木蜂一家の若衆。その数も少なく、武装したマフィアを相手に敵討ちをするにはあまりにも役不足だ。
今の植木蜂一家の残党では、敵討ちを仕掛けても返り討ちに遭い、一兵卒に至るまで息の根を止められるだろう。
「――選択肢をやる」
「選択肢……?」
「オイラの子分として新しい極道人生を歩むか、カタギとして裏の世界と絶縁して生きるか……おめーらが今ここで決めな。オイラがおめーらと同じ立場だったら、前者を選ぶがな」
次郎長は選択肢を与えつつも、子分として受け入れようとする姿勢を見せる。
ヤクザの世界とマフィアの世界は、似ているようで全く異なる。ヤクザの世界では「カタギに手を出してはならない」という暗黙の了解があり、元ヤクザであってもそれは例外ではない。現在はカタギに迷惑をかけないように活動するヤクザ勢力は少なくなっているようだが、それでもカタギに迷惑をかけないことを信条とするヤクザはいる。一方、マフィアの世界では〝
次郎長は裏の世界から足を洗っても手を出す連中がいることを理解している。だからこそ、選択肢を与えつつも自分の子分となった方が身の安全は保障できると遠回しに勧めているのだ。
「……どうなんでい?」
「……次郎長、わしらをあんたの子分にしてくれ!」
「……いいのかい? オイラ達は他勢力の介入・干渉を跳ね除けてきてるから前以上に抗争が多くなるかもしれねーぜ」
「オヤジの形見を護り切るのが、残されたわしらの通すべき仁義! 次郎長
こうして、溝鼠組に新たな子分が加わった。
後に植木蜂一家の組長の形見である野中平子は、溝鼠組最凶の特攻隊長として裏社会に名を轟かすようになる。
ピラ子、ついに登場!
ピラ子と次郎長の間には血縁はありません。ですので、次郎長は原作と違ってオヤジではなくオジキ呼ばわりです。
強さは……まァ、設定が出来次第公開します。
ツッ君と恭弥は原作開始時になれば、次郎長とスゴイ絡ませる予定です。