浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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今回はまさかの接触です。



標的14:黒ずくめの組織は全員悪人(アウトレイジ)とは限らない

 〝沈黙の掟(オメルタ)〟。

 シチリアのマフィアのメンバーは、いかなることがあっても組織の秘密を守ることが求められる。組織とその秘密を守るために誓約されるこの掟を破った者は、本人は勿論のこと家族まで抹殺されることになる。そしてこの世界には、マフィア界でも恐れられる危険かつ謎の「掟の番人」が存在する。

 その名は――

 

 

           *

 

 

「ハァ……中々元締めに会えねェな。マフィアだから期待したんだがなァ……」

 とある倉庫で、次郎長は溜め息を吐いていた。彼の周囲には血塗れになった無数の黒スーツの男達が壊滅状態で無惨に密集している。

 先日尚弥から関東集英会の武器の密輸リストを頂いた次郎長は、早速行動に移し情報を集め、取引が行われるであろう場所に殴り込み、向かってくる敵をボコボコにしつつその密輸ルートを探していた。密輸ルートを探し出して元締めを潰せば、並盛や同盟関係の魔死呂威組の縄張りで抗争が起こる確率が減るだけでなく敵対勢力の牽制も可能と考えたからである。

 しかしいざ殴りこんで大暴れしてみたものの、脅しても口を割らない連中である上に肝心の関東集英会(ひょうてき)に関係する人間がいなかったため情報は全く得ることができない。ただ敵対勢力を潰し続けるだけであり、ついには――元々は公安委員会の資料なのだが――尚弥が渡した武器の密輸リストの真偽すら疑う程になった。

(俺がどっかズレた解釈をしてんのか? ……いや、情報が洩れてるのか?)

 情報の漏洩は予測不能の危機を呼ぶ。

 もしかしたら、次郎長の行動とその目的が何者かの手により相手に伝わっていて、殴りこむ前に取引を終わらせるかマフィア達を足止め役にさせトンズラしてるのかもしれない。

「……仕方ねェ、他を当たるか」

 踵を返そうとした、その時――

 

 ジャラララララ!!

 

「っ!?」

 突如として現れた無数の鎖。それらは次郎長を避け、彼がのしてきたマフィア達に巻き付いた。

 鎖が出てきた方へ振り向くと、真っ黒い炎の中から顔も手も全て包帯で覆いシルクハットを被った黒服姿の三人組が現れ鎖を握っていた。

(――何だありゃあ……ヤバそうなのが出てきたな。あの包帯軍団もマフィア関係の連中なのか?)

『……』

 黒服を身に纏った三人組から醸し出される得体の知れない雰囲気に、次郎長は冷や汗を流す。

 万が一に備えいつでも迎撃できるよう居合の構えを取り、腰を落として三人組を睨むが、そんな次郎長などまるで無視するかのように鎖を引っ張ってマフィア達を引きずって行く。

「!? てめーら、何のマネ――」

「罪人を牢獄に連行していくだけさ。泥水次郎長」

 その声と共に現れたのは、右目を包帯の下からのぞかせる黒服姿の人物と透明のおしゃぶりを胸から下げている二頭身の赤ん坊姿の人物。先程の三人組はマフィア達を真っ黒い炎の中へと引きずり込むと、そのまま炎ごと姿を消した。

 そんな光景にさすがの次郎長も度肝を抜かれる。

「真っ黒い炎から人間が出てくるなんざ初めて見たぜ……世の中広いな、オイラがいる世界は想像以上に小せェってかい」

「それは当然さ、そもそも僕達は君の業界とは縁が無いからね」

「成程ね……」

 次郎長は二人に敵意は無いと判断したのか、居合の構えをやめてポーチに手を伸ばし、中から煙管を取り出す。

「……で、おめーさん達はオイラに用があるみてーだが、用があるんなら名前ぐれー教えてくれよ。ああ、話の流れでわかっちゃいるだろうが、オイラが溝鼠組組長〝大侠客の泥水次郎長〟でい」

「僕達は〝復讐者(ヴィンディチェ)〟……法で裁けぬ者を裁く、マフィア界の掟の番人だ」

「マフィア界の掟の番人……?」

「そう。そして僕はバミューダ・フォン・ヴェッケンシュタインだ」

「……私はイェーガーだ」

 それぞれ名を名乗り、挨拶をする。

 次郎長は火皿に刻み煙草を詰めて火を灯し、吸い口を咥えて紫煙を燻らせながら含み笑いする。

「ああ……成程ね、マフィア(そっち)界隈の裁判官みてェな連中ってことかい」

「裁判官か……まあ、遠からずも近からずってところかな」

「? そらァどういうことでい、番人ってのァそういうモンじゃ――」

「それを貴様に教える義理は無い」

 バミューダの意味深な返答に再度問おうとするが、イェーガーが殺気を飛ばして凄んだ。

 地肌を無数のナイフで突き刺すかのような鋭い殺気を浴びつつも、次郎長は一切怯まないどころか顔色一つ変えずに両者を見据えるが……。

「……じゃあ、そういうことにしといてやらァ」

 訊くだけ野暮だと判断し、それ以上の追及はやめた。

(今の殺気を浴びても顔色一つ変えないか……)

 イェーガーは復讐者(ヴィンディチェ)のリーダー格であり、バミューダを除けば復讐者(ヴィンディチェ)最強の男。そんな彼から放たれた殺気を浴びれば、歴戦のマフィアでも顔を青ざめ腰を抜かす。

 だが次郎長は怯まなかった。汗一つ流さず、余裕もあった。そんな彼にバミューダは興味を持った。

「それで、もう一回訊くがオイラに何の用でい。マフィアの掟の番人がこの次郎長に接触を図ったのは、理由ぐれーあるんだろ?」

 次郎長は、バミューダとイェーガーに尋ねる。

 するとバミューダは、あまりにも意外な言葉を口にした。

「率直に言おう………次郎長。僕らと協定を結ばないかい?」

 突然の協定の勧誘。

 次郎長は眉間にしわを寄せ、バミューダとイェーガーを見据えながら笑みを浮かべた。

「フッフッフ……何でい、藪から棒に。オイラと手ェ組む理由(わけ)はあんのかい?」

「そうだね……じゃあ、まずはこの世界の裏事情から説明しよう」

 バミューダは語りだす。

 マフィア創始期からいる〝復讐者(ヴィンディチェ)〟は、掟に背いた者を鎖で拘束し、鉄壁と言われる牢獄へ連れて行く。彼らもまた掟に忠実であり、掟に準じて行動を起こしマフィア達とかかわる。だが裏を返せば、掟に準じているがゆえにマフィア以外の勢力への干渉は中々できないということでもある。

 マフィアの掟とは関係ない裏の勢力は、次郎長のような日本の裏社会勢力「暴力団(ヤクザ)」、中国語圏で犯罪活動する「チャイニーズマフィア」、闇市場のブローカーから手を広げたという「ロシアンマフィア」、マフィアとは別のイタリア系犯罪組織「コーサ・ノストラ」など、案外多かったりする。マフィア界の掟の通じない勢力がうまく線引きをされていると、〝復讐者(ヴィンディチェ)〟でも手を出しにくいという訳だ。

「……要はオイラにそのマフィア界の掟が通じねーバカ共をおめーさん達に代わって取り締まれと?」

「その通り。君と繋がっておくとそういう中間領域(グレーゾーン)の対処ができ、種を摘むことができる」

「じゃあ訊くが、てめーらと手ェ組んだところで何になる? 別にオイラじゃなくてもいいだろうが」

「君さ、コヨーテ・ヌガーの義手を斬り落としたそうだね」

 バミューダの言葉に、次郎長は目を見開く。

 だが相手はマフィアの掟の番人だ。ボンゴレとかいうマフィアと接触したことなど知られていても何もおかしくない。そう考え、次郎長は「だからどうした」と一蹴するが……。

「君は〝ボンゴレファミリー〟がどういう組織か知らないのかい?」

「ああ、マフィアってこと以外はこれっぽっちもな」

 次郎長がそう返答した途端、バミューダはクスクスと笑い始めた。

 怪訝な表情を浮かべる次郎長は、無言で見据える。

「君は面白い人間だよ。何も知らずに他人様の義手を斬り落とすのかい?」

「…………脅しただけでい、ヤクザ者がマフィア者にナメられちゃあ面子が立たねーんだよ」

「その間は何かな?」

「やかましい」

 次郎長は煙管の火皿の灰を落とす。

「泥水次郎長……ボンゴレファミリーは1万近い組織を傘下に置くイタリア最大のマフィアであり、コヨーテ・ヌガーはボンゴレファミリー9代目〝ボンゴレⅨ世(ノーノ)〟の守護者だ。貴様が今まで相手取ってきた者達とは格が違う」

「数が多けりゃいいって訳じゃあるめェ、デケー組織ってのは末端が腐りやすいモンよ……で、その守護者ってのァ何だ?」

「守護者はそのファミリーの大幹部のことさ。そんな男の腕を抜き身も見せず斬り落としたとなれば、良くも悪くも誰もが興味を持つ。ちなみに君の噂はすでにマフィア界全体に知れ渡っているよ」

 極東の島国の地方都市に根を張る程度の無法者が、イタリア最大のマフィアの幹部の片腕――厳密に言うと義手――をすれ違いざまに抜き身も見せず斬り落とした。

 マフィア界の人間ならば誰もが耳を疑うような情報が流れれば、否が応でも次郎長(とうじしゃ)に注目するようになり、次郎長を警戒する者・恐れる者が現れれば次郎長を手中に収めたい者・手駒にしたい者も現れる。次郎長を狙いに定め多くのマフィアが並盛に向かってくれば、大規模な抗争もあり得るだろう。

「大切なナワバリを血の海にするのは嫌だろう?」

「……仮に手を組んだとしても、オイラをいいように使いてェだけにしか聞こえねーぞ」

「言っただろう次郎長、これは僕達と君との協定だ。わざわざ上下関係なんか求めたりしないよ。もし君が僕達と協定を結んでくれたら、出来る限りの協力をしよう……いいように使いたいと思ってはいるけどね」

「おい、本音ダダ漏れじゃねーか」

 バミューダの余計な一言に、額に青筋を浮かべる次郎長。包み隠さず言い放つバミューダには、清々しさすら感じる。

「……オイラに何の利益がある」

「一番の得は情報さ。この国の外の「裏の情報」は君の耳には入りづらいだろう? 掟の番人という立場上、裏の世界のあらゆる情報を入手できる」

「……その対価が溝鼠組(オイラたち)の力か。(わり)ィ話じゃなさそうだが、オイラの並盛(シマ)に手ェ出さねーのが絶対条件でい」

「無理だね」

「……どういうこった」

 バミューダの返答に、次郎長は目を細める。

「この国にはジョット君の子孫がいる。子孫がいる以上、敵対勢力の介入・干渉は免れない……血を流し合うこともね」

「ジョット? ソイツは誰だ」

「君がよく知る人物のご先祖様……ということだけは教えとくよ。それで、どうなんだい?」

 バミューダは包帯の下で笑みを浮かべる。それに対し、次郎長は――

「……いいぜ。オイラは並盛さえ護れればそれでいい」

「協定成立だね。これから頼むよ」

 バミューダはそう言うと先程の真っ黒い炎を生み出し、イェーガーを連れて姿を消した。

 そしてその様子を、鉄の帽子を被った仮面の男が見下ろしていた……。

 

 

           *

 

 

 数日後。

 次郎長は川平のおじさんと偶然鉢合わせた室武――平賀源外と一緒に中華料理屋「楽々軒」でラーメンを食べていた。ちなみに次郎長と源外はチャーシュー麺で川平のおじさんは普通の醤油ラーメンである。

「川平、源外のじいさん。おめェさん達はスープまで飲む派?」

「勿論、全部残さず」

「ったりめーだろ、世の中にゃスープ一杯飲めねーガキ共がいるんだぞ」

「奇遇だな、オイラもでい。ごちそうさまでした」

 スープを飲み干し、煙管を取り出す次郎長。

 川平のおじさんは「健康に悪いよ」と――一応まだ二十代である――次郎長に注意するが、逆に「朝昼晩ラーメン生活のてめェが言うな」とブーメランを返されてしまい、呆気なく沈黙してしまう。口喧嘩は次郎長(ヤクザ)が一枚上手のようであり、そのやり取りを見ていた源外は豪快に笑い飛ばした。

「この町も随分と治安が良くなったじゃねェか」

「桃巨会もその辺のドグサレ共も全部排除した結果でい。この町の裏を統べる王者はオイラ一人……それ以外の支配者はいらねェよ」

 口角を上げ、煙管を吹かす次郎長。

 するとここで、川平のおじさんはあることを次郎長に訊いた。

「次郎長。もしもの話だが……君は組長をやめたらどうする?」

「随分と先の話だな、川平。オイラが何歳の頃だと思ってんでい」

「別にいいじゃないか、もしもの話なんだから」

「勝男に組長の座を譲ったらか……」

 次郎長は煙管を咥えたまま、天井を見つめながら口を開いた。

 隠居した後はこれといって考えてはいないが、世界を見て回ったりヤクザ以外の仕事をしてみたりと、足を洗うことまではせずともやってみたいと思ったことがあればすぐにでもやろうと思ってはいるという。

「ヤクザ以外の仕事、ね……」

「何言ってやがる、どう見てもカタギの面じゃねェだろおめェ」

「うるせェ、やるかじじい。――まァ(わけ)ェモンに組を譲ったら御役御免になるのは事実であり未来でもあるかもな……もっとも、そん時ゃそん時だがな」

 灰皿に火皿の灰を落とし、金を払って席を立ち店を出た。源外も金を払い次郎長に続く。

 一人残された川平のおじさんはラーメンを啜りつつ、周りの人間には一度も見せたことの無い不敵な笑みを浮かべていた。

(……次郎長、その御役御免(もしも)の時が来たら君にも任せてもらうからね)

 

 ――私から見れば、君は次期アルコバレーノの候補として申し分ないのだから。

 

 次郎長は川平のおじさんに目をつけられているなど、知る由もない。




ストーリーが進む度に次郎長の人外ぶりに拍車が……。(笑)

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