浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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国試受けてて投稿が少し遅れました。


標的17:手打ちという名の騙し討ち

 並盛の裏を牛耳る溝鼠組の屋敷にある次郎長の自室。

 そこでは二人の男が揉めていた。

「次郎長、どういうことだ!? 抗争なんて初耳だぞ!!」

「オイラに言うな。向こうから喧嘩売ってきたんだ、抗争勃発も時間の問題になるのは当然だろ。まァオイラ達ヤクザはマフィア者よりは紳士的よ、街中でやるのはそんなにねーから家にこもって窓から離れりゃあ安全だ」

「そういう問題じゃない!!」

 至って冷静に語る次郎長に対し、彼の愛用の赤い襟巻を掴んで叫ぶ家光。

 妻と息子が棲む平和な町なのに、まさかの抗争勃発の可能性が出てきたとなれば、当然の反応ではある。

「次郎長、お前ホント何やってんの!? 一体何をしでかしたんだ!?」

「何でオイラがやらかしたこと前提なんでい。んなこたァてめーにゃ関係ねーだろうが……と言いてーが、お前には見せた方がいいな」

 次郎長は懐から一枚の紙を取り出し、家光に見せた。

「これは……?」

「関東集英会の武器の密輸リストだ、見てみろ」

 家光は怪訝な表情で目を通す。

 ゆっくりと目を動かして黙読していると、段々と彼の顔が強張っていき顔色もどこか悪くなっていく。

「じ、次郎長……これは本当か……?」

「尚弥は公安にまで顔が知られている……そいつからもらったんだ。公安の持ってる資料の丸コピだから本当に決まってんだろ」

 武器のリストには何が書かれていたのか。

 当然密輸するのだから、銃火器である。密輸する銃火器と言えば大抵は拳銃――それもフィリピンやアメリカなどの諸国で製造された代物だ。最近では散弾銃や自動小銃、機関銃などの連射可能である銃火器も密輸されており、ヤクザの武装化が一段と進展している。次郎長のように刀を振るうヤクザは少数派なのだ。

 さて、肝心の武器の密輸リストの方だが……何と項目の中に対戦車兵器用ロケットランチャーや手榴弾があったのだ。マフィア界でも武器の密輸はよくある話で、日本よりも銃火器の規制が緩いため機関銃を仕入れるファミリーも多々ある。だが銃火器の規制が厳しい日本に対戦車兵器用ロケットランチャーや手榴弾が横流しにされてるのは家光も初めて知った。

 さすがの彼も、動揺は隠せないようだ。

「戦争でもする気なのか!?」

「おめーの業界にとっちゃそうでもねーだろ」

「そ、それは……」

 次郎長の指摘に遠い目をする家光。

 マフィア界で武器の密輸なんて可愛い方だ。人体実験を平然としでかすファミリーも多い上に、抗争で非人道的兵器を用いることもある。日本では対戦車兵器用ロケットランチャーや手榴弾はあり得ない状況だが、マフィア界の方がもっとあり得ないのが多い。

「だが心配する必要はない、すぐに片が付く。つい先日手打ちの話が出たからな」

 次郎長は座ると脇息に肘をかけ、煙管を取り出し火皿に刻み煙草を詰めるとマッチで火を点ける。

「……何だ、和解するのか?」

「何言ってやがる、どう考えても騙し討ちに決まってるだろ」

「は!?」

「てめーの脳味噌は筋肉で出来上がってんのか? オイラは連中の武器密輸ルートを探ろうと嗅ぎ回ってんだ、邪魔者になるのは当然だ。それに出る杭は打たれる……オイラの(タマ)ァ取るのは手打ちの時以外にはねーさ」

 紫煙を燻らせる次郎長の爆弾発言に絶句する家光。

 騙し討ちに遭うとわかっていながら、次郎長は相手の懐に飛び込もうとしているのだ。家光自身も無茶をすることは多く、ときには騙されることもあるが、騙し討ちに遭うこと前提で相手の懐に飛び込むような行動(バカ)はしていない。

 次郎長には何か考えがあるのか。それとも余程のバカなのか。

「まァ、向こうには応じるって答えちまったんだ……オイラはただ腹ァ括って返り討ちにするだけよ」

「いや、その手打ちとやらは俺も同行する!」

「あ?」

 家光の手打ち参加に次郎長は首を傾げる。

 これはヤクザ間の問題であり、マフィア界の人間である家光は関係ないはずだ。なぜ介入するのか、次郎長は質した。

「おめェ……どういう風の吹き回しでい」

「少し気になるのがあってな……ここを見てくれ」

 家光は次郎長の隣に座り、例のリストのある項目に指を差した。

 その項目には、日本語ではない言語で何かが書かれているではないか。

「……高卒には読めん。翻訳しろ育児放棄野郎、そしてそのままツナに嫌われちまえ」

「だ、誰が育児放棄だ!! 俺は愛妻家のイイ男なんだぞっ!!」

「親父としての役目果たせてねーのによく言うぜ、奈々に恩義こそあれどこっちも暇じゃねーんだ。おかげで奈々の育児手伝う破目になってツナは随分とオイラに懐いちまった」

「ファッ!?」

「その内「家光(おめェ)は血縁があるだけの野郎だ」とか言い張るんじゃねーか? ガキなんざかかあが居ればどうにかなるとか思ってるだろ、おめェ」

 衝撃のカミングアウトに、家光はポカンと口を開きっぱなしになる。

 愛しの一人息子が、奈々の友人かつ元同級生とはいえヤクザに懐いているのだ。実の父親としての面目丸潰れである。

「――まァそんなこたァどうでもいい、これはどう書いてあんだ」

「あ、ああ………こいつはイタリア語で〝特殊弾〟って書いてある」

「〝特殊弾〟?」

 家光曰く、特殊弾とはマフィアのファミリーに伝統的に伝わる特殊な効果を持った弾丸で、撃たれた者は弾丸の種類によって様々な効果を得られるという。その効果は人体に直接影響し、戦闘能力を飛躍的に向上させることも容易だという。

 ただし中には「禁弾」とされている特殊弾もあり、それらは相性・使用法・製造方法などの問題から非道すぎるとして製造法も弾自体も葬られる代物もあるという。

「おめーが気になったのは、その特殊弾とやらの正体か」

「ああ、もし禁弾とされてる特殊弾ならば処分しなきゃならん。そういう仕事も俺の本職だしな」

「……ただのフロント企業のトップじゃねェのか? おめーさんは」

「……俺はボンゴレの門外顧問だ、ファミリーに属しながらも独立した諜報機関としてやらなきゃならないのさ」

 次郎長は目を細め、口に含んだ煙を吐き出す。

「……手打ちの日は一週間後だ」

「!」

「別にオイラ一人でも返り討ちにできるからどうでもいいと思ってたが……おめーも特殊弾とやらの絡みで用ができたんだろ? だったら一緒に来い」

「お前……」

「利害が一致してるなら、手ェ組んだ方が得だろ? そういうこった、とっとと帰れ」

 刀に手を伸ばす次郎長に家光は苦笑いしつつも、「ありがとな、親分」と一言礼を言って屋敷を出た。

 その直後、庭の方に黒い炎が突如として燃え広がり彼ら(・・)が現れた。

「やあ、ジロチョウ」

「バミューダ……?」

 現れたのは、次郎長が協定を結んだ組織〝復讐者(ヴィンディチェ)〟の長――バミューダだった。相変わらずイェーガーの肩に乗っている。

「……(わり)ィが茶は出せねーぞ」

「用件はすぐに済むさ………ボンゴレの門外顧問が中々出て行かなくならないから、僕の手で追い払おうと思っちゃったけどね」

「へーへー、さいですか。それで用件は?」

 次郎長が用件を訊くと、イェーガーが封筒を渡した。

 それを手に取り中を確認すると、日本語で書かれた書類が入っていた。

「一週間後に武器の闇取引がこの国で行われる。その取引に関与する全ての組織を潰してもらう」

「わざわざ日本語に訳してありがてーこった。どっかのバカにおめーさんらの包帯を煎じて飲ましてやりてェ」

 イェーガーの説明を聞いた次郎長は笑うが、ふと気づいた。

「……一週間後? ちょっと待て、それホントか?」

「ウソなら僕がわざわざ来るとでも?」

「だよなァ……」

 一週間後といえば、次郎長が関東集英会との手打ちが行われる日。

 それと全く同じ日に、闇取引が行われる。それもマフィア界の掟の番人であるバミューダ達が依頼する程の案件ということは、マフィア界の掟を犯した連中だけじゃなくバミューダ達が手を出せない勢力――〝沈黙の掟(オメルタ)〟の無い勢力も関与しているということだ。

 おそらく、その闇取引は関東集英会も関与しているだろう。

「〝沈黙の掟(オメルタ)〟に反した行動で、武器の闇取引………家光がさっき言ってた特殊弾ってやつか?」

「……そこまで知ってるのか」

「おめーさんらと協定を結んでんだ、マフィア界(そっち)の知識は多少覚えなきゃヤベーだろ? 特殊弾も組織の秘密の一つっぺーし、家光がさっき教えちゃったし」

 家光の話では、特殊弾はイタリアのマフィアのファミリーに伝わる弾丸。そんな代物がマフィア以外の勢力に渡ったら、この世界における「裏の秩序」の崩壊に繋がるだろう。

 バミューダ達〝復讐者(ヴィンディチェ)〟は掟に則り法で裁けぬ者を裁くゆえ、掟の対象外である無法者を裁くことはできない。だが裁くことはできずとも陰で暗躍し動かすことはできるので、次郎長に掟の対象外である無法者の排除を任せるという訳である。

「……オイラのやり方でやらせてもらうが、それぐれーいいよな?」

「特殊弾が連中の手に渡らなければ、それに越したことはないからね」

 バミューダはそう言い残し、イェーガーと共に姿を消した。

 次郎長は二人を見届けると、煙管の火皿にある灰を落とした。

 

 

           *

 

 

 一週間後、関東集英会本部にて。

「よう来てくれたなァ、吉田辰巳組長……」

「今は泥水次郎長で通ってるんだが……オイラの本名知ってるなんざ(てェ)した情報網じゃねーか」

「関東集英会は東日本の覇者だ、それぐらい造作もねーさ」

 パンチパーマでサングラスをかけた巨漢――関東集英会の会長が、次郎長を見据える。

 広間には多くの幹部が揃い、仲裁役の蒼竜組もいる。それに対して次郎長一人となると、違和感バリバリである。

「それじゃあ、手打ちと行こうやないか」

「おっと、その前に答えを聞こう。オイラが手打ちに応じた条件はちゃんと理解してるよな?」

「ああ……」

 そう、次郎長は手打ちに応じる条件としてトラックを突っ込ませた運転手との面会を要求した。関東集英会もそれを承諾し、運転手役の久木を呼んだのだ。

「おめーか、オイラの屋敷にトラックを突っ込ませたのは」

「……」

「黙秘かい。じゃあ無言の肯定ってことにしとくよ」

 次郎長は溜め息を吐きながら、現れた久木を見つめる。久木は無表情のまま一言も喋らず、次郎長に質されても頷くことすらしない。

 しかし関東集英会の面々は、そんな彼の態度を咎める者はいない。

「……じゃあ訊くが、何であそこで事故った(・・・・・・・・・・)?」

「それは……こういうことです!」

 久木は懐から拳銃を取り出し、銃口を次郎長の額に向けた。

 だが、反応は次郎長の方が速かった。久木が拳銃を取り出した瞬間、次郎長は座ったまま居合で銃を破壊した。

「射程に(へェ)っちまえばこっちのモンだぜ」

「クソ……何してるてめーら!? 早く殺せ!!」

 会長の慌てぶりに計画(あんさつ)が失敗したことを察したのか、次々に幹部達が拳銃を構える。だが別の方向から襖を破る音と共に銃声が連続して響き、幹部達の拳銃を全て弾いた。

 撃ったのは、家光だ。

「次郎長……こいつらは俺に任せてもらう」

「おめー、結構やるじゃねーか。1cm(センチ)見直したぜ」

「い、1cm(センチ)見直した……!?」

「な、何者だ!?」

「別に名乗る程じゃないが、お前達が今日行う取引に用があるんでな。場所はもうわかった、取引相手を吐いてもらおうか」

 家光の言葉に、顔色を変え汗だくになる会長。

 実は手打ちが執り行われるこの一週間の間に、次郎長は――バミューダ達のことを伏せて――家光に手打ちの日に行われる闇取引の情報を提供したのだ。家光は即座に国際電話で部下達に指示して場所を特定することに成功し、その情報を次郎長に送った。

 あとは手打ちと称した騙し討ちを仕掛けた関東集英会を潰し、取引場所に乗り込むだけだ。

「だ、誰が教え――」

「俺は躊躇しないぞ」

 拳銃の銃口を会長のこめかみに押し付ける家光。

 彼の纏う空気はまさしく歴戦のマフィアそのものであり、次郎長は顔に出さないが内心驚いていた。

「い、いいさ。こっちにゃ取って置きの手駒が残っているからなァ」

 それを合図に襖が斬り刻まれ、男が姿を現した。

 男の正体は、次郎長が――吉田辰巳がよく知る人物であった。

「盲目の身でありながら居合を駆使し、どんな獲物も一撃必殺で仕留める殺しの達人……(おか)()()(ぞう)こと岡田(じょう)。〝人斬り似蔵〟と恐れられる男だ」

(……え、マジで? こんなバカなことがあっていいのか!?)

 次郎長は唖然とした。

 岡田似蔵は銀魂の世界において、銀河系最大の犯罪シンジケート「宇宙海賊春雨」と並ぶ最大の敵組織の一つ「鬼兵隊」の構成員。若い頃に病気で視力を失った代わりに嗅覚・聴覚・勘が人一倍発達しており、攘夷浪士〝人斬り似蔵〟として恐れられていた。

 こちらの世界では、どうやら極道の人斬りとして用心棒や暗殺業を生業としているようだ。

「やあ、アンタが泥水次郎長かい」

「おめーさん……また(・・)やってんのか……」

「「?」」

 次郎長の謎の呟きに、家光と似蔵は眉間にしわを寄せる。

 そんな中、会長は似蔵に命令した。

「似蔵、ソイツら二人を叩き斬れ!! 取引のことまで知られた以上は口封じしなきゃならねェ!!」

「……家光。おめーは先に取引の場所へ行け」

「次郎長!?」

「元はといえばヤクザ間の問題だ、ヤクザ者がケツをマフィア者に拭かれると面子が立たねェ。オイラが片ァつける」

「……わかった」

 家光は次郎長を置いて先を急ぐ。

 それを見た会長は幹部達に彼を追うよう命令する。広間に残されたのは、次郎長と似蔵、そして会長の三名だけとなる。

「似蔵……言っとくがオイラも十八番(オハコ)は居合でい。オイラはすでにてめーの間合いに(へェ)ってるだろうが、それはお互い様だぜ」

「そうかい……じゃあやっぱり当たりのようだねェ」

「当たりは当たりでも、(わり)ィ意味の当たりだぜ?」

「ククク……そうでもないさね」

 互いに含み笑いを浮かべ、殺気立つ。

 次郎長と似蔵――居合の達人同士の死闘が始まろうとしていた。




似蔵を出したんですが……新井さん、何やってくれてんでい!
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