浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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仕事で更新が少し遅れました。


新勢力台頭編
標的26:パワーインフレは絶妙に


 イタリア旅行から一月が経った。

 町は次郎長が溝鼠組を立ち上げた頃とは比べ物にならない程の活気に満ち、町外からの移住者や観光客が増加した。移住者や観光客が増えれば溝鼠組はシノギである祭りの的屋や請負業でボロ儲けするようになり、表向きでは彼らを監視する風紀委員会も町政に携わるため必然的に徴収額も増加する。溝鼠組も風紀委員会も組織力と経済力を大幅に強化して、町の治安の安定ぶりは絶対的なものとなった。

 その一方で、移住者の中には裏社会の実力者やカタギとは思えぬ曲者も混じっており、新たな勢力が町で名を上げようとしている。それを相手取るのも、次郎長や尚弥の町の統治者としての仕事でもある。

 

 

 所変わって並盛商店街。つい先日開店して老若男女問わずリピーターが続出する人気スポットとなったメイド喫茶「伊賀屋」の一席で、次郎長は煙管の紫煙を燻らせていた。

「……てめーらの親玉はいつ来るんでい」

「我等が主に何の用ですか」

「んなもん決まってんだろ。この町の(・・・・)敵か否かを見極めるんだよ」

 なぜか敵意を露わにするメイド達に、次郎長は店主を質す気であることを語る。

 次郎長はヤクザでありながら縄張り内に住む地域住民からみかじめ料を徴収しない。裏を返せばみかじめ徴収をする必要が無い程の財力を保有しているということでもあるが、郷土愛と町及び町民への恩義が一番の要因だ。ゆえに次郎長は、並盛町の住民を苦しめるような活動は絶対にしない。

 だがそれはあくまで地元民に対してであり、外部からの人間ならば話は別だ。さすがに自分からカタギに手を出すマネはしないが、素性が一切掴めない相手にはそれ相応の態度を示す。今回のメイド喫茶の店主も例外ではない。

「オイラはカタギにゃ手ェ出さねェ……だがおめーさんらの親玉はグレーだ、この次郎長が自分(てめー)の目で確かめるんでい」

「随分な言い草ではないか、〝ならず者の王〟よ」

「!」

 次郎長とメイドが声がした方向に顔を向けると、店の奥から車イスに乗った全身を包帯で覆われた和装の女性が現れた。

『主様!』

「下がっておれ。お前達全員が束になろうともこの男には万に一つも勝てぬぞよ」

 女性の命令にメイド達は道を開けて一歩退き、次郎長は彼女の姿を見て目を見開く。

「待たせたな、大親分。わしがメイド喫茶「伊賀屋」が店長、源氏名は(もも)()(らっ)()、本名は百地()()という」

(……メイド喫茶の店長が百地なんて聞いてねーよ、神様……)

 百地乱破。

 銀魂の長篇でも一際シリアスで後の展開に大きな影響を及ぼす重要な出来事が多々起こった「将軍暗殺篇」で登場した、忍の源流である伊賀において絶大な権威と実力を誇る〝伊賀三大上忍〟の一角・百地家の頭首が彼女だ。傀儡術を極めており、原作においては宇宙最強の傭兵部族である夜兎族の襲撃を切り抜ける程の実力者でもある。

 そんな彼女が、よりにもよってメイド喫茶を営んでの登場だ。

(ま、まァ西郷じゃねーし表立ってドンパチすることもねーからいいだろう。この世界は銀魂キャラが色々出てくるしな……俺だってそうだし)

 次郎長は自分にそう言い聞かせながら、百地を見据える。

「……オイラは〝大侠客〟で通ってるはずだが?」

「それは貴様のもう一つの(あざな)ぞよ。この国の「闇」において貴様の右に出る極道者は一人としておらん……力も器もな」

「……てめェ、やっぱり裏の人間(・・・・)か」

 次郎長は目にも止まらぬ速さで抜刀し、切っ先を百地の顔――ではなく彼女に付き添っている後ろのメイドに向ける。

 相手が裏社会の人間であるなら遠慮は無用だと、女であれ並盛に手を出すのであれば一切の容赦はしないと、殺気をぶつけて言葉無き忠告を百地に突きつける。

 しかし百地は次郎長の殺気を軽くあしらうように言葉を返した。

「殺気を解け……お主はむやみやたらに手を出すようなバカなチンピラではなかろう」

「おめーさんの素性がわからねー限りは好き勝手させるわけにゃいかねェ。この町の王はオイラだ、この町にはこの町のルールってモンがあるのさ」

「それにしても、なぜ見破れた?」

 別の声が響く。口を開いたのは、メイドの方だ。

 実は百地は包帯姿の女性ではなく、包帯姿の女性が乗る車イスを押しているメイドの方が正体なのだ。

「わしの正体を見破るのは容易ではないぞよ」

「気配が一人しかいなかった。二人いるのに気配が一人ってのァおかしな話だろ?」

 次郎長の指摘に、百地は「成程……」と感心したように呟きながら笑みを浮かべた。

 しかしその笑みは呆れているようにも見え、まるでこれ以上隠し事をしても無駄だろうと悟っているようにも思える。

「……どうやらある程度隠すよりも真実を伝えた方が話が進み易そうじゃ」

 百地は観念したかのように溜め息を吐くと、自らの正体を明かした。

「先程言ったように、わしは百地乱破。伊賀流忍術の祖・百地丹波の子孫であり、「八咫烏」の幹部である女ぞよ」

「「八咫烏」? 八咫烏って、あの日本神話に出てくる三本足のカラスだろ?」

「いや、わしが言うのは「八咫烏陰陽道」のことよ」

 初めて耳にする単語に、次郎長は眉を(ひそ)める。

 百地曰く、八咫烏こと八咫烏陰陽道は聖武天皇の密勅により丹波国――現在の京都府中部と兵庫県北東部及び大阪府北部にあった国――で結成したとされる日本で一番秘密とされている結社であるという。全てにおいて謎に満ちている闇の組織であるため様々な憶測が飛び交い、半ば都市伝説扱いされており、メンバーである百地自身も知らない部分があるとのことだ。

「……てめーらの刺客もオイラの並盛(ナワバリ)にいるんじゃねーだろうな」

「案ずるな、そのような野暮なマネはせん。そなたら日本人を護るのが我らの務めぞよ」

 ドスの利いた声と共に威圧してくる次郎長を宥める百地は、更に言葉を並べる。

 八咫烏はこの国における神道・陰陽道・宮中(さい)()を裏で仕切っているとされているが、先程のように日本人を敵から護ることも役目であるらしく、国難が訪れた際は何度も陰で動き日本を救ってきたという。

 一方で彼女は、八咫烏は日本の国家を危うくして他所の国に譲り渡そうとするような、いわゆる売国行為を行う者が出ないように厳しく監視し、そのような者が出たり指導者となった場合は表裏問わず誅殺することもあると明かした。

「……日本の守護者って訳かい。いいのかい、そんなことをオイラにゲロってよう」

「何を隠そう、これこそ上司(うえ)の判断だ」

 その言葉に次郎長は驚く。八咫烏の構成員が並盛へ来たのは、次郎長と接触を図ることが目的であるというのだ。

 百地はさらに言葉を並べた。

「この町はお主やあの雲雀尚弥とかいう権力者の力で敵対勢力の介入・干渉が非常に少ないゆえ、治安が安定しておる。我らの隠れ蓑としては申し分ない最良物件ぞよ」

「それもてめーの上司(うえ)の判断か?」

 次郎長が百地の口から情報を聞き出そうとした、その時――

「泥水次郎長……いや、吉田辰巳。我々のことをあまり深く追及しない方が貴様の為だ」

「!?」

 背後からの声にすかさず席を立ち、居合の構えを取る次郎長。彼の視線の先には、異様な一人の男がいつの間にか立っていた。

 (ほう)()を身に纏い錫杖を携え、編み笠を被った出で立ち。端正な顔つきだがその眼光は次郎長と引けを取らない鋭さであり、顔面には斜めに横切る大きな切り傷が刻まれている。次郎長と同じくらいの年齢に見えるが、その威圧感は尋常ではない。

「朧……」

(ああ、ついに朧まで……)

 次郎長は目を遠くする。

 銀魂の世界で古来より闇で暗躍していた暗殺集団「天照院奈落」の首領・朧は経絡を熟知した戦闘の達人(プロ)であり、主人公・坂田銀時と彼と互角に戦った鬼兵隊の首領・高杉晋助を相手に死闘を繰り広げた作中屈指の凄腕だ。

 暗殺集団の首領だった彼が、この世界では歴史の影で日本を救ってきた古の秘密結社の幹部として次郎長の前に姿を現した。この世界はやはり銀魂キャラが原作とは別の役割で現れるようだ。

「……ヤバそうなのが出てきたな。アイツがおめーの上司か」

「……八咫烏の二番手(ナンバーツー)ぞよ」

「百地」

 朧が鋭い威圧と共に口を開く。

 百地は朧の放った威圧に目を見開き、次郎長も息を呑んだ。

(かしら)の御意向とはいえ、我らのことをあまり語るでない」

「……すまぬ」

 目を伏せて反省の色を見せる百地。

 するとそこへ次郎長が割って入り、朧に問いかけた。

「おめーらの提供する情報は聞いて、オイラは口利けねーってか?」

「本来ならば我らの組織の名を口にした時点で監視対象となり、場合によっては外患としての排除も検討される……貴様と関わることが益であると判断した頭に感謝することだな」

 朧の言葉に、次郎長は考えに沈む。

 古来より歴史の影で「国の守護者」として日本と日本人を護ってきた秘密結社・八咫烏。その首領は話の流れだとあの人物(・・・・)である可能性が非常に高いが、それはどうでもいい。次郎長が気になるのはなぜ自分に(・・・・・)目をつけたのか(・・・・・・・)だ。

 ならず者の王だの大侠客だの呼ばれて裏社会の大物として名を轟かせるようになったとはいえ、所詮は一地方都市の裏を牛耳る程度の極道。他の極道組織と違うのは、自らの力を強めながら並盛(ナワバリ)への敵対勢力の介入・干渉を次々に跳ね除ける独自の方針ぐらいだろう。

「――似たようなことを言われたな。情報共有しようってのに融通が利かねーから参るぜ」

「それは〝復讐者(ヴィンディチェ)〟のことか? 奴らならば致し方あるまい」

「っ!?」

 次郎長は絶句した。

 目の前の男が、自分とバミューダの関係を知っている。勝男達にも話していない次郎長の数少ない秘密を掌握している彼らに、次郎長は久しぶりに動揺した。それだけでなく、八咫烏はマフィア界の掟の番人たる復讐者(ヴィンディチェ)を知っており、その言い回しはまるで面識でもあるかのようだ。

「てめーら……何で知ってる……!?」

「真の八咫烏の羽からは何者も逃れられはしない……それだけだ」

 組織の情報網を明かさない朧。

 日本のヤクザは警視庁顔負けと言える程の情報網を有しているが、八咫烏はそれすらも凌駕する、それこそ表と裏の世界の情勢を知り尽くす程の情報網なのだ。おそらく、次郎長の個人的な情報や溝鼠組の機密情報を抜き取るのも容易いのだろう。

「……そんで、オイラをどう利用するつもりでい? この国を護る八咫烏(てめーら)の親玉がヤクザの親分に何の用もねーってこたァあるめェ。それとも本当に観光だったりするか?」

「率直に言う……我々に協力しろ、泥水次郎長」

 朧は次郎長に協力の要請を突きつけた。

 彼の言葉に次郎長は鼻で笑うと、煙管を取り出して刻み煙草を火皿に詰め、火を点けて紫煙を燻らせた。

「ククク……何でい、藪から棒に。オイラァそこまで暇じゃねーぞ、出直して来いってんでい」

「沢田綱吉」

「っ!?」

 朧が口にした名に、次郎長は驚愕した。

 朧は――八咫烏は、次郎長と沢田家の関係を明らかに把握している。奈々の名前ではなくあえてツナの本名を出したので、「我々は全て知っている」と暗に言っているようなものだ。

「カタギを……それもオイラの恩人のガキを人質に取るってか。大層な身分だな」

「その童は我ら八咫烏にも関わりのある存在だ。それを殺めようなどという愚かなマネはせん……同志であった〝蒼天〟の願いを我らから穢すことなどあってはならぬ」

 朧が次々に並べる言葉に、驚く次郎長。

 (ツナ)と八咫烏の知られざる関係と、かつて八咫烏の構成員として国に忠を尽くした〝蒼天〟と呼ばれる謎の人物――次郎長の知らない沢田家の秘密を、八咫烏(かれら)は知っているのだ。沢田家に隠された秘密が存在することに次郎長は困惑するが、そんな彼に朧は「協力するならば「教えられる範囲の真実」を語る」と約束する。

 次郎長は目を伏せると、再び目を開けて朧と百地を見据えて口を開いた。

「――わかった……だが溝鼠組(ウチ)八咫烏(てめーら)で上下関係を作ろうと思わねーこったな」

 次郎長が提示した条件は、復讐者(ヴィンディチェ)と同様に持ちつ持たれつの関係であることだった。

 朧はそれを承諾し、沢田家と八咫烏にまつわる話を語り始めた――

 

 

           *

 

 

 その日の夜。

 次郎長は自らの居住地にして溝鼠組の総本部である屋敷の自室で、勝男と共に月を仰ぎながら酒を飲んでいた。

「わしと一対一(サシ)で飲むのは久しぶりやな、オジキ!」

「ああ……暫くの間は悪かったな、オイラの長男」

「何言うてるんでっか、わしゃオジキと同じ極道や! オジキの為ならこの命捨てる覚悟でっせ!」

 酔いが回って上機嫌な勝男に、次郎長は「命は大切にしろよ」と呟きながら微笑む。

 ここ最近は子分達と同じ時間を共有することが少なくなったため、久しぶりに勝男と酒を楽しむことができるのは次郎長としても嬉しいことだ。

(それにしても……ツナの先祖はとんでもねー大物だったとはな)

 次郎長は昼間に会った八咫烏を思い出す。

 彼らと持ちつ持たれつの関係を築くことを契約した際に朧が語った沢田家と八咫烏の関係については、次郎長は未だに半信半疑だ。それ程までに衝撃的だったのだ。

 

 ――沢田綱吉の曽曽曽祖父である沢田家康は我ら八咫烏の同志であり、かつてイタリアでボンゴレファミリーの前身となる自警団を率いていたジョットというイタリア人だ。

 ――ツナの先祖が、だと……!?

 ――そして家康は〝蒼天〟の名でこの日本(くに)を影から守護する八咫烏の頂点である三人の指導者「(きん)()」になった、八咫烏の歴史上唯一の帰化人だ。奴の功績は伝説に近い。あの男の働きが無くては、我ら八咫烏は一度滅んでいよう。

 ――それ程までの影響力があったってかい。

 

(ったく、ツナのご先祖様はとんでもねー野郎だったな……それにしても家光は何考えてやがる? 知ってても知らなくてもおめーの行動は相当ヤベーぞ)

 次郎長は家光を心配し始める。

 というのも、次郎長が朧から聞いた話には続きがあり、しかも現在の沢田家を考えると恐ろしい事態でもあるのだ。

 

 ――そして奴は我々に、生涯唯一の願いを託した。「子孫達を見守り、有事の時は手を差し伸べてほしい」とな……。

 

(家光……おめー八咫烏(アイツら)敵に回しかけてねーか?)

 

 朧から沢田家と八咫烏の関係を聞かされた次郎長は、真っ先にこう思った。

 ジョットの八咫烏に残した遺言の「有事」は子孫同士のゴタゴタを含むだろうし、「手を差し伸べてほしい」という言葉は必ずしも何かしら力を貸して助けることとは限らない。

 たとえば、ツナが何らかの危機に見舞われて命を落としかねない状況に晒されたとしよう。その際にもし家光が助けに来なかったら、ジョットの遺言を守る八咫烏はどう行動するだろうかなど目に見えている。ツナは助けるだろうが、その後に待ち受けるのは家光への制裁である可能性が非常に高く、下手をすれば家光が八咫烏に排除(ころ)される場合(ケース)すらあり得る。

(奈々、これに関しては知らねー方が幸せかもしれねーぞ)

「オジキ、どうしたんやボーっとして」

「いや……ツナがまさかあんな血筋だったとはなってな……」

「?」

 勝男は次郎長の言葉に首を傾げるのだった。




朧と百地が登場しました。
今回出た八咫烏は、ウィキとかで実際に載っているネタを基に銀魂の奈落の設定を加えました。そしてジョットがそのメンバーで、しかも当時の首領格というトンデモ設定です。

朧と百地の本作での設定は、原作開始辺りで出せればなと思ってます。
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