浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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銀魂の極道がリボーンのマフィアに関わったら面白いだろうなァと思って書き始めやした。極道を主人公にしたリボーンの小説って、中々見ないので。

一応は銀魂の溝鼠組メンバーを中心としますが、リクエスト次第で他のキャラも少し混ぜてみようと思います。


創世記
標的1:Twenty Years Ago


 ここは緑豊かな地方都市・並盛(なみもり)(ちょう)

 その町にある並盛中学校において、一人の男子が屋上で弁当を食べていた。

「あーあー……ったく、どいつもこいつも見た目で人を判断しやがって」

 そう愚痴りながら、おにぎりを頬張る。

 彼の第一印象は、一言で言えば「ヤンチャ坊主」または「不良」だろう。浅黒い肌、銀髪に近い白髪、吊り上がった灰色の瞳、学ラン姿、何より醸し出される威圧的な雰囲気。本人としては真面目に振る舞っていても、外見だけで何かと判断されがち――というより、すでに不良である。現にそれを証明すると言わんばかりに、彼の周囲には血塗れになったガラの悪い学生達が無残に倒れていた。

 そして驚くべきことに、この地獄絵図を作りだしたのが彼一人であるのだ。彼の名は(よし)()(たつ)()――並盛中学校一年生の素行不良生徒だ。

(これじゃあどっかの師匠になっちまうな……)

 周囲から「友達がいない」と言われ続けてネタにされている某落語家を思い出しつつ最後のおにぎりを食い終える。

 すると、その光景から振り撒かれる異様なオーラに、果敢にも一人の女子が近づいて声を上げた。

「あっ! タッ君、また暴れたの!?」

「……奈々(なな)かい」

 頬を膨らませて怒る少女・奈々が現れたことに反応する辰巳。

 彼女は辰巳のクラスメイトであり、何かと自分に関わってくる変わった女子だ。

「もう、いっつも喧嘩ばかりして! そんなんじゃ友達できないわよ?」

「バカ言ってんじゃねーよ奈々、この数を相手に無抵抗でいろってんのが無理な話でェ。(なぶ)られて身ぐるみ剥されパンツ一丁にされちまうぜい」

 呆れた表情を浮かべる辰巳に、奈々は問答無用と言わんばかりに叱る。

 クラスメイトの彼女は明るく朗らかな性格でありクラスでも人気者なのだが、喧嘩に明け暮れ誰とも関わろうとしない辰巳が心配になって来たのか、一方的に話しかけて友達との付き合い方を教えていた。辰巳自身としてはどうでもいいのだが、わざわざ腹を括って――というよりもただ普通に接しているだけだろうが――暴れん坊とコミュニケーションを取ろうとしているので、無下にするのはさすがに男としてどうなんだと考えて接している。

 挨拶のように拳を振るう辰巳と、笑顔を振りまく奈々。最初はうっとうしがっていた辰巳だが、次第に彼女の話に耳を傾けるようになり、いつしかこうして中学生らしく会話をするようにもなった。

「……ったく、人が何かする度に横からギャーギャーと。俺ァ小言はうんざりなんだよ」

「でも、タッ君は私を追い払ったりしないじゃない」

「喧嘩売ってない女に手を上げるのはマズイだろ」

「売ったら手を出すの?」

「………時と場合による」

 奈々の満面の笑みに、返答次第じゃビンタが来る気がしたのか目を逸らす辰巳。それに合わせるかのように、予鈴が鳴り響いた。

「……ちっ、もうそんな時間か。しっかも根津の不愉快極まりない理科じゃねーか……」

「タッ君、早く!」

「ヘイヘイ」

 全てを包み込むような優しい笑みを浮かべる奈々に、辰巳は少しだけ口角を上げた。

(……この世界の日本って、前世の時より面白い奴ばっかだな)

 楽し気な笑みを浮かべ、屋上へ繋がる階段を下りて理科室へと向かう。

 実は彼――吉田辰巳は、前世の記憶を持つ転生者なのである。

 

 

           *

 

 

 さて……なぜこうなったのかを一から説明しよう。

 吉田辰巳は不慮の事故で若くして死に、輪廻転生によって異世界の日本へと転生した。前世の記憶を持って生まれ落ちた場所は、並盛町という田舎と言う程ではないが平穏な町。当然異世界の日本なので現実世界には存在しない「架空の町」といえばそれまでだが、どこかで聞いたことがあるような名前の町だった。

 何はともあれ、こうして辰巳は異世界の日本で平穏に暮らす第二の人生を歩むことになる……のだったが、この並盛町が色々と凄まじい地方都市でもあった。どう見てもカタギじゃない人が平然と街を歩き、ガラの悪そうな学生がグループで行動している。どっかの東京23区も顔負けの色んな意味でヤバイ町だったのだ。後々調べたところ、殺人や放火などの凶悪事件が異常に少ないらしいので、ある意味で治安がいい町である。

 そんな町に生まれ落ちた辰巳だが、これがまた波乱のスタートだった。父親も母親も当然のごとく日本人であるが、父親が地黒であったためか辰巳は生まれつき浅黒い肌をもっていた。さらに髪の毛も生まれつき白髪に近い銀髪――医者からは尋常性(はく)(はん)の症状が頭髪部分にのみ発症したとのこと――であり、周囲から目に見える程に浮いていた。とはいえ、目つきの鋭さはすでに幼児期から顕著になっていたため喧嘩を売られることはなかった。

 だが小学生になると話は別だ。周囲から浮かれた状態で義務教育を受けることになる。サボリなどはせず真面目に受けていたが、その見た目のせいか疎まれやすく、ある意味では想定内だったが日本人じゃないという疑惑も浮上する事になった。当然上級生からはいじられるハメになり、小学校2年生になってついに喧嘩を売られてしまう。

 だが、それが全ての始まりだった。初めて喧嘩を売られた際、辰巳一人に対して相手は五人……普通に考えれば一斉にリンチされて終了だ。しかし辰巳は上級生から暴力を受けて痛い目に遭うことへの恐怖よりも「大ケガをして親を心配させたくない」という気持ちが圧倒的に強かったため、真っ向から受けて立った。相手が戦意を失うまでありったけの力を込めて攻撃し、何も考えず力任せで暴れ、ついに襲い掛かった上級生を全員のしてしまった。喧嘩の才能が開花したのだ。

 それ以来辰巳は有名となり、望んでもいないのに喧嘩を売られ、その度に勝ち続け、並盛町一の暴れん坊として他校の悪ガキや年上の不良達からも恐れられるようになり始めた。進級しても敵を作り、進学しても敵を作り、歳を重ねる度に喧嘩沙汰を起こした。ヤンチャの域を超えたドが付く程の問題児(バラガキ)を恐れるゆえに男女問わず友達など誰一人いなかった。授業態度や成績面では一切問題が無かったが、やはり喧嘩沙汰のせいか学校の教師すら辰巳に関わるのを避けている程だった。

 そしてある日、辰巳はふと自らの容貌を鏡でよく見て気づいた。

 

 ――あり? これ「銀魂」の(どろ)(みず)()()(ちょう)じゃ……。

 

 前世はマンガ好きの辰巳は、「銀魂」というマンガのファンであり、好んで読んでいた。SF時代劇の体裁をとった人情コメディストーリー漫画は数々の過激かつマニアックなネタで読者の爆笑を誘った長寿作品であり、辰巳はすぐに虜になった。

 中でも気に入ったキャラが、泥水次郎長というキャラだ。主人公・坂田銀時が住むかぶき(ちょう)の最大のヤクザ勢力「(どぶ)(ねずみ)(ぐみ)」の組長である次郎長は独特の雰囲気を醸し出しており、作中トップクラスの戦闘力に加え、亡き親友である岡っ引き・(てら)()(たつ)()(ろう)との約束の為にヤクザとして活動しつつかぶき町と幼馴染のお登勢を守ろうとする信念を大層気に入っていたのだ。

 その泥水次郎長に、自分が成っているのだ。というか、完全に成り代わりである。道理で喧嘩が強いわけである。それはそれでありがたいが――辰巳自身はどうでもよく思っていても――転生した世界が「銀魂の世界」じゃないのでやはり浮いてしまう。

 

 そんな中だった。両親がふとこの世を去ったのは。

 死因は交通事故。買い物帰りに暴走車の追突によって横転し、そのまま帰らぬ人となってしまったのだ。よりにもよって、その日は辰巳の誕生日だった。

 さすがの辰巳も失意のどん底へと落ちた。とんでもない暴れん坊を息子に持ちながらも常に気遣い理解してくれていた最愛の存在を失ったのは、心に堪えた。怒りや憎しみをぶつけようにも、ぶつけるべき対象は事故で即死しているためもういない。

 やり場のない怒りと、家族を失った悲しみ。それを忘れられたのは、皮肉にも喧嘩だった。

 ガラの悪い生徒に喧嘩を売り、喧嘩に興じた。朝から晩まで喧嘩をし、傷つきながらも暴れ回った。それが悲しみから逃れられる、唯一の手段だと言わんばかりに。

 

 

           *

 

 

 ――という波乱万丈の経歴を経て、辰巳は中学一年生に進級し、ガキ大将から不良へと昇格。喧嘩と勉学を両立させた奇妙な学生生活を送っている。

 昼休みの後の授業は理科。しかしこの担当の教師・根津(ねづ)銅八郎(どうはちろう)が嫌らしく、非常に不愉快な対応をするだけでなく授業もつまらない。退屈な時間であり、真面目に受けてる生徒としてもある種の苦痛として機能していた。

(……つまんねー授業だな)

「それではテストを返す。番号順に呼ぶので、取りに来るように」

 根津が生徒の名前を呼び、テストを返却する。

 そして自分の番になり――

「吉田辰巳」

「うっす」

 欠伸をしながらテストを受け取る辰巳。解答欄の右上には赤く65点と書かれていた。

 辰巳は「まずまずか」と呑気に呟くと、根津が辰巳を睨みながら口を開いた。

「お前、カンニングしたんじゃないだろうな?」

「――はい? 何ですかい、藪から棒に」

「今回の問題は平均点が67.4点とはいえ、難易度を高くしてある。不良のお前がこんなに取れるわけが無いだろう!」

「難易度高い割には平均点が67.4点なら、結構解きやすい問題があったってことだろ? 俺でも平均よりギリギリ下だけど65点取れてるのはおかしくねー話だろ?」

 そのやり取りを見た一部の生徒が、笑いを堪える。

 この学年ではある種の恒例行事ともいえる、不良生徒・辰巳と教師の言い争いが始まった。テスト後という言い争うにはピッタリなベストコンディションに、期待の眼差しを向ける生徒もちらほら。

「ほれ、周りの連中のテスト見てみな。ほとんどが後半で引っ掛かってらァ……俺もその内の一人なだけだいそれに俺が本当にカンニングしてたらその日の内に呼び出し食らうぜ? その日の担当は………確か八木原先生だったか? どうしても気になるんなら、訊いてみればいいんじゃねーか?」

「じゃあお前以外に誰がいるんだっ!?」

「むしろなぜ俺だって決めつけるんだよ」

「ぐうっ……!」

 段々とヒートアップする根津に対し、冷静を貫く辰巳。

 辰巳は最後の畳み掛けと言わんばかりに、一気に言葉を並べた。

「そもそも学校で学んだことなんざ、最低限覚えておきゃ生活できらァ。数学なら四則演算(けいさん)さえできれば生計は立てられるし、理科なんざ理系大学への進学や科学者にでもならねェ限りは役に立たねーし、古文漢文に至っては歴史学者にでもならない限りは読む機会もねェ。無駄な勉学は苦痛を与えるだけで勉強嫌いを生むだけなんだよ。人間が生きる上で必要なのは〝コミュニケーション能力〟と〝考える力〟、そして〝創造力〟。他は自分の学びたいものを好きに学べばいい……まァ、あくまでも個人の感想(・・・・・・・・・・)だ。気にするこたァねーぜ〝五流大先生〟」

「なっ――」

 そう言い放ち、呆然とする根津など意にも介さず席に戻る辰巳。

 喋らせる隙を与えず、反論が生まれるよりも先に叩き潰し、それでいて個人の感想だと適当に丸め込む。それが辰巳の言葉の喧嘩だ。

 根津は舌打ちしつつも黒板に体を向けて授業を始めた。

「……タッ君、いつもすごいね」

「俺ァ言いたいことを言っただけでい」

 奈々と小声で会話しつつ、辰巳はペンを取った。

 

 

           *

 

 

 夕方。

 学校が終わると、帰宅部の辰巳は早々にスーパーへ買い物に行くのが日課だ。晩飯の材料を買うのも当然あるが、今日一日頑張った自分への褒美を買うためでもある。普段は並盛町で買い物をするが、今日は隣町の黒曜のスーパーがバーゲンセールの日なので少し遠出だ。

「次のバイトは来週か……」

 そんなことを呟きながら、飲料水コーナーでブドウジュースを手にする。

 両親亡き後は否が応でも自立しなければならず、それこそ〝死ぬ気〟で生きて行かねばならない。収入は真面目な方では新聞配達、ヤンチャな方では他校の不良や上級生と喧嘩してからのカツアゲ。他に方法を知らない辰巳は、労働と喧嘩で必死に生きるのだ。生活保護があるだろうと他人は言うが、辰巳はそれを拒み続ける。たとえ知っていても、自身のプライドが許さないからだ。

 妙なところが頑固な転生者は、周りから恐れられ避けられても必死に生きるのだ。

「さてと、レジに並ぶか……」

 大きなあくびをしながら、レジへと向かう。

 すると――

「大人しくしろ!! 死にたくなけりゃ金を出せ!!」

 レジの前で男が拳銃を取り出し、銃口を店員に突き付けた。それと共に悲鳴が響き、パニック状態になる。

 強盗事件だ。どうやら一人だけらしく、仲間はいないようだ。

「……ったく」

 面倒臭そうに頭を掻いてフラッと強盗に近づく。

 そして強盗の背後に――並んだ(・・・)

「……は?」

「あのさァ、スーパーに用事があるなら商品取って財布から金出して出てくれや」

(えええええ!?)

 カゴを片手に言い放つ辰巳に、その場にいる者全てがポカンとした顔になる。

 強盗が現れたという今の状況を全く理解していない斜め上にも程がある発言に、呆気に取られる。

「う、撃つぞてめ――」

「消えな、野良犬(ワンコロ)

 

 ドゴッ!

 

「ぐえっ!?」

 強盗が銃口を向けた瞬間、辰巳は額に拳骨(ゲンコツ)を叩き込んで殴り飛ばした。

 今まで多くの不良共を薙ぎ倒してきた辰巳の拳骨を額に食らった強盗は、2メートル程吹き飛んでから気絶した。そんな強盗など意にも介さず、辰巳はそのまま会計員の前でカゴを置く。

「会計頼む」

「は、はい……」

 

 

 20分後。

 強盗を殴り飛ばした辰巳はそのまま会計を済ませて帰宅する。警察から事情聴取を受けたが、殴ったのは一発だけであることや店員の証言などから過剰な行為でないと認められ、強盗は現行犯逮捕されて一件落着となった。

「……これからどうしようかねェ」

 そんなことを小声で呟く。

 喧嘩に明け暮れ、生傷が絶えない日々が当たり前となった自分。自分の悪名は周囲に知れ渡り、恐らく卒業してからは今以上に生きづらくなるだろう。奈々がいつまで自分に構ってくれるかわからないし、進学しようが就職しようが「暴れん坊の〝業〟」は付き纏う。それがどう影響するのか、皆目見当もつかない。

 全うな仕事はもしかしたら就けないのかもしれない。生きるのに精一杯で、やりたいように生きるのは困難だろう。それに――

(この町の人への恩、返したいよなァ………)

 こんな暴れん坊であることを承知の上で、生計を立てるために新聞配達をさせてもらっている。こんなクソガキと接してくれる人もいる。その人達にとっては些細な親切心や同情かもしれないが、一人で生きる辰巳にとっては一生の恩と言っても過言ではなく、どんな形であれ必ず返したいと思っている。

 恩をどう返すか……その答えも導き出していた。

(裏社会の人間として、並盛を護る……喧嘩屋同然の俺にできるのはそれ以外にねェ)

 辰巳はすでに覚悟していた。表での仕事はキツイと。

 実を言うと辰巳の喧嘩沙汰は、当初こそ町内の悪ガキや不良が多かったが最近は町外の人間がほとんどだ。昼間の喧嘩は並盛中学校の不良達であり、最近の喧嘩では珍しくなりつつあるケースだ。恐らく、自分を倒して名を上げようとするバカが増えてきたのだろう。

 このまま表の仕事をすれば、自分を雇ってくれた雇い主にも迷惑がかかるし雇用先の被害も予想される。それを防ぐには、自分が裏社会の人間となることで表社会の無関係な人間を巻き込まないようにするしか考えられなかった。

「まァ……なるようになればいいか」

 段々と深く考えるのが面倒になった辰巳はそう結論づけ、帰路に着くのだった。

 

 

 吉田辰巳――彼は後に名を成り代わったキャラと同じ「泥水次郎長」を名乗るようになり、日本の裏社会最強の極道として君臨することとなる。

 そして極道の人生を歩む中で、彼はマフィアの頂点とも言える「ボンゴレファミリー」に関わるようになるのだが、この時点で彼は知る由も無かった。

 いや、すでに奈々という少女に関わった時点で決まっていたのかもしれない。




奈々のことは大体わかりますよね。はい、ツッ君のマミーです。

原作との違いは、根津が二十年前から並中の教師である点と、主人公と奈々が同級生であることぐらいですかね?
一応奈々は並中の生徒という設定で。

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