浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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今月最初の投稿です。


標的35:蜘蛛と烏と溝鼠

 並盛町の繁華街にそびえ立つとある高層マンションで、次郎長は地雷亜と面会していた。

「お前さんが会いに来るとはな。どうやって調べた?」

「オイラの情報網を舐めんなよ地雷亜。並盛全域なら造作もねーんだよう」

 ヤクザと殺し屋による一対一(サシ)の飲み会。互いにオフ状態ではあるが、いつでも戦えるよう傍に得物を置いている状態でもあるので油断大敵ではある。

 とはいえ、男同士の酒飲みに流血沙汰は不本意なのは双方同じようで、警戒心は解いている。

「……して、何の用だ」

「ちーっとあるマフィアの情報が欲しくてな。海外で色々()ってるおめーならいい情報持ってるんじゃ――あり、煙草切れてらァ」

 煙管を取り出して刻み煙草を詰めようとしたが、肝心の刻み煙草が切れていることに次郎長は気づく。

 すると、そこへ刻み煙草を片手に一人の女性が現れて次郎長に渡した。女性は薄い金髪と紫の瞳が特徴で、網タイツにスリットの入った片腕の着物を身に纏い、髪を後ろでまとめ前髪を簪で留めている。

「わっちの煙草じゃ」

「……こらァどうも」

 次郎長はありがたく受け取ると、慣れた手つきで刻み煙草を火皿に詰めて火を点ける。

「……この別嬪さんは?」

「俺の弟子だ」

月詠(つくよ)でありんす。以後よしなに」

 次郎長は紫煙を燻らせながら鋭い眼差しで月詠を見据えて刻み煙草を返すと、今度は彼女が煙管を取り出して同じように吹かし始めた。

(月詠もいるのァそこまで驚かねーが、師弟関係が良好なのァ驚きでい)

 月詠と地雷亜の関係は、単なる師弟関係ではない。正史では地雷亜は師でありながら月詠を愛弟子ではなく「作品」として扱っており、銀時らと関わって変化した際には守るべき者達を大切な吉原(まち)ごと焼き払うことで彼女(でし)を再び修羅に戻すという凶行に走っている。

 だがこちらでは師弟であると同時に仕事上のパートナーとしての関係があり、それなりに仲は良さげだ。

「……いい弟子さん持ってるじゃねーか。オイラの娘の方が可愛いが」

「俺の月の方こそ才色兼備だ、お前さんの娘など赤子同然よ」

「寝言は寝て言え。ピラ子はオイラの全てを叩き込んでんでい」

「それは俺も同じだ」

「やめんか化け物二体」

 互いの娘自慢みたいな話が始まったことに月詠は一喝。

 ようやく話が本題に戻り、地雷亜は次郎長を質した。

「――話を戻す。どこのマフィアだ?」

「ボンゴレ」

「「!?」」

 次郎長の口から出たビッグネームに、地雷亜と月詠は目を大きく見開く。

「お前さん、まさかボンゴレと戦争する気か?」

「オイラが()りてー相手は、そのボンゴレの裏で暗躍しているスットコドッコイだがな」

 次郎長はボンゴレに潜んでいるであろう黒幕を斬ることが目的だと語り、情報を買うべく地雷亜にアタッシュケースを渡す。

 敵を討ち取るには、相手の情報を少しでも収集することが大事だ。些細なことも思わぬヒントとなり、それが時に大きな勝因となる。ゆえに次郎長はボンゴレに関する情報を世界中を飛び回る地雷亜から引き出そうという訳なのだ。

「……お前さん、少しは〝外の世界〟に目を向けたらどうだ?」

「オイラの全ては並盛にある、それ以外に興味はねェ。オイラはこの並盛(まち)の王だからな」

 並盛を優先する次郎長に「大した愛郷心だ」と半ば呆れつつも、地雷亜はボンゴレの歴史から語り始めた。

 元々ボンゴレファミリーは自警団であり、あらゆる分野の腐敗した権力者から市民を護るヒーローのようなものだったようだが、初代ボス・ボンゴレⅠ世(プリーモ)の日本への帰化及び隠居を境に巨大マフィアになったという。Ⅰ世(プリーモ)の帰化と隠居には謎の部分もあり、一説には当時の幹部(ぶか)と組織の方針を巡って対立したことが原因と言われている。隠居後はボンゴレⅡ世(セコーンド)という男がボンゴレを仕切ることとなり、後世まで続く巨大マフィアとなる基礎を作った。このⅡ世(セコーンド)という男も素性がよくわからない部分があるが、裏社会を恐怖で束ねた伝説の男として語り継がれている。

 それから時は流れ、ボンゴレはイタリア最大最強のマフィアとして世界の裏の頂点に君臨し、そのボスとなった者は富と権力の全てを受け継ぐ覇王として恐れられるようになるのだ。

「――まあ時の流れであるべき姿を忘れる組織などよくある話だ」

「成程、道理で強かったわけだ。伝説の世代の人間だったんだなナス太郎は」

「……お前さん、まさか(デイモン)・スペードと戦ったというのか!?」

「ああ、大分前になるがな。っつーかナス太郎でよくわかったな」

 地雷亜からもナスと認識されてるデイモンを柄にもなく哀れみそうになる次郎長だが、気を取り直して初めて刃を交えたあの日(・・・)のことを語った。

 その話を全て聞き終えた地雷亜は、驚きを隠せない一方でどこか納得している様子を見せた。

「そうか……そういうことだったか。ならば俺が先日突然スカウトされたのも頷ける」

「スカウト?」

 実は地雷亜は先日――といっても二週間以上前だが――ボンゴレからスカウトされたことがある。しかもボンゴレファミリーの上層部から用心棒の一人としてスカウトされたのではなく、人間業では到底クリアできないようなミッションをいかなる状況でも完璧に遂行することで知られるボンゴレ最強の独立暗殺部隊「ヴァリアー」からであり、その幹部二名とその部下数人が直々に交渉してきたのだ。

 伝説的な殺し屋として裏社会で名を轟かす地雷亜も、ヴァリアーからのスカウトはさすがに想定外だったようだが、交渉は決裂してヴァリアー側の人間を蹴散らしてその場を去ったという。

「それにしても勘の鈍い殺し屋だった」

「殺し屋としてのキャリアの差が出ちまったんだろうよ……で、何で蹴った?」

「餌を与えられる捕食者になるのは願い下げだ。それに……」

「それに?」

「どうも気に掛かってな」

 地雷亜はスカウトそのものが気掛かりだったという。

 というのも、彼が殺し屋として活動を始めたのは二十年近く前であり、世界屈指の殺し屋として名を轟かせたのも稼業を始めて約3年程経ってから。その時点でボンゴレ側からスカウトを受けていておかしくないはず――つまり今更スカウトしてきたという訳なのだ。

 しかも今の地雷亜は月詠(でし)を連れて活動している。スカウトするなら今後の伸びしろを考えて弟子にも声が掛かるはずなのに、地雷亜だけ(・・・・・)に声が掛かった。確かに月詠は殺し屋としての素質は未熟で地雷亜より遥かに劣るが、手塩に掛けて育てている最中であるので熟した時には凄腕の殺し屋となっている可能性も否定できない。それでも相手は地雷亜だけに声を掛けたのだ。

「それで長年培ってきた殺し屋独特の勘で不穏な背景を察知して断ったってか。ってこたァ……」

「ああ――話の流れと時系列を考えると、お前さんの予想が妥当だろう」

 考えられるのはただ一つ――デイモンが裏で手を回し、地雷亜の力で次郎長を殺そうとしたことだ。

 現に商店街で対決した際は、実質互角の戦いを繰り広げた。尚弥の仲裁により決着こそつかなかったが、地雷亜の圧倒的な実力は健在であり次郎長をも翻弄した。双方全力を出せば無傷では済まなかっただろうが、次郎長の暗殺が不可能と言い切れないのは事実である。

「フム……それにしても、ボンゴレは大変だな。跡取りが今誰もいないというのに」

「? どういうこった」

 地雷亜曰く、現在のボンゴレは大きな節目を迎えているという。

 ファミリーの正規構成員「ワイスガイ」が基本的に純血のイタリア系の人間であることが条件であるように、マフィアは純血主義であり不純を認めない。ゆえにマフィア界は「後継者もボスの血筋でなければならない」という理屈が常識となっているのだ。

 そんな中、ボンゴレでは後継者問題が浮上した。現ボスの9代目の甥であるエンリコ・フェルーミという男が10代目最有力候補だったが、抗争中に撃たれて死亡している。エンリコの他にも二人の候補者――マッシーモ・ラニエリとフェデリコ・フェリーノがいたが、マッシーモは何者かに海に沈められて死亡し、フェデリコに至ってはいつの間にか骨になって死亡した。現ボスにも息子がいたようだが、諸事情で外されているという話なので実質後継者が誰一人いない状況だ。

 ちなみにマッシーモとフェデリコを殺した下手人は、未だ不明だという。

「……それってよ、あのナス太郎が()したって可能性もあるんじゃねーか?」

「……奇遇だな、俺もそう思っている」

 デイモンが自分にとって理想的ではなかったために二人を殺した可能性を言及した次郎長に、地雷亜も同意した。ボンゴレの裏切者とされているあの男ならば平然とやってのけるだろう。

 ボンゴレを自警団から巨大マフィアへと成長させたのはⅡ世(セコーンド)だが、そもそものきっかけはデイモンだ。影に潜んで暗躍していたデイモンが疑われるのも当然の筋である。

「本家の事情は大方理解したよ。他は?」

「そうじゃな……傘下の勢力はその気になれば潰せる連中が大半じゃが、同盟を組んでるファミリー連中は手強いぞ」

「ああ、特にキャバッローネの〝跳ね馬〟に気を配った方がいい」

 ボンゴレファミリーの同盟ファミリーの一つであるキャバッローネファミリーは、同盟勢力としての規模は相当大きい。その現ボスであるディーノという青年は二十代でありながら腕っ節も経営センスも抜群だという。

 地雷亜と月詠は面識こそ無いが、イタリアの裏社会で仕事をしてた際に度々耳にすることがあり、イタリア国外でも有名とのことだ。

「傘下連中は本家の(あめ)ェ汁啜って生きるようなポンコツだが、お手々繋いでいる連中には気ィつけろってか………ありがとよ」

 次郎長はそう言って立ち上がると、傍に置いていた得物の刀を腰に差して玄関へと向かった。

「もう帰るのなら、一つだけ答えろ次郎長」

「あ?」

「お前さん、本当にボンゴレと戦う気なのか」

「…………」

 地雷亜の質問に、次郎長は足を止める。

 日本の裏社会で最強の極道とも謳われる次郎長でも、ボンゴレとの全面衝突に勝ち目は無い。いかに次郎長が個人で強くても組織力は遥かにボンゴレが優れている。そんな状況で戦いを挑むなど、無謀もいいところだ。

 だが――

「……オイラは奈々(アイツ)の顔を曇らせたくねーだけでい。(おとこ)を通さねー極道者に護るべきモン護れるわけねーだろ?」

 次郎長は振り向くこともせず、草履を履いて静かに出ていった。

 その後ろ姿を一瞥した地雷亜は、目を細めて含み笑いを浮かべていた。

 

 

 夜の並盛。

 地雷亜が住む高層マンションを離れれば、すぐに沈黙に包まれた町へと誘われる。その中を赤い襟巻をなびかせながら次郎長は歩いていた。今宵は満月――尋常性白斑の症状で生まれた白髪に近い銀髪が月夜に映える。

(……オイラも腹ァ括らなきゃならねーな。残された時間は僅かしかねェ)

 来るべき時に備え、次郎長は考えを巡らせていると……。

 

 ――シャラン

 

「っ!」

 背後から突如鳴った金属音。それと共に何の前触れも無く現れた人の気配。

 次郎長は目にも止まらぬ速さで振り向き、殺気を放って居合の構えを取る。その視線の先に立つのは、法衣を身に纏った見覚えのある男。

「殺気を解け、次郎長」

「……てめェ」

 次郎長の背後を取った気配の正体は、百地の同志である朧だった。一度しか会っていないが顔見知りではあるため、次郎長は殺気を放つのをやめて構えも解く。

「ボンゴレのお家騒動のことは聞いたようだな」

「……てめーらはどうする気でい」

「頭は連中の動きに警戒している。蒼天の血を引く童に白羽の矢が立つのは明白だが、それも童の意思次第だ」

 朧は遠回しに八咫烏陰陽道がツナ次第で行動を変えることを示唆する。

 八咫烏陰陽道は復讐者(ヴィンディチェ)と似たような「番人としての組織」だが、あくまで日本の番人を務めるだけであり、特定の個人の為に動くことは滅多にしない。言い方を変えれば、ツナにはそれだけの価値があるという意味でもある。

 そして朧の言う「頭」なる人物――次郎長はその正体について薄々察してはいる――が警戒しているのは、ボンゴレがツナと関わり始めてからだろう。イタリア最大のマフィアが何をしでかすかわかったものではない。

「蒼天は子々孫々の未来を案じ、我ら八咫烏に想いを吐露した。国に殉じた先人の本懐は遂げねばならない。……貴様こそどうするつもりだ」

「オイラは蒼天(ソイツ)が飼い慣らしていたケダモノの首を取りに動く。それをてめーらに指図される筋合いはねェ」

 次郎長の返事に朧は眉間にしわを寄せる。

 八咫烏陰陽道の過去の指導者〝蒼天〟の正体は、日本へと帰化した隠居の身の沢田家康(ジョット)――ボンゴレⅠ世(プリーモ)である。次郎長の言うⅠ世(プリーモ)が飼い慣らしていたケダモノは因縁の深い(デイモン)・スペード……朧から見れば、次郎長はかつての指導者の元部下を殺そうとしているのだ。

 しかしそれについて朧は非難する気も罵倒する気も無い。朧にとってデイモンは、蒼天(プリーモ)と敵対しただけでは飽き足らず親友(シモン)と仲違いさせて日本へと追放したような外道でもあるのだから。

「……貴様がその気なら我々は止めん。蒼天の魂を業の鎖で縛り己が欲を満たし続けて生き永らえる人畜生をその剣で斬るのであれば、その行く末を見届け語り継ごう」

「んな大層なモンじゃねーさ。オイラァただ自分(てめー)が首突っ込んだせいで蒔いちまった種を責任持って刈り取るだけでい」

「……そうか。ならば俺から一言告げておこう」

 ――天の遣いである八咫烏は、すでに飛び立とうとしている。

 その言葉を最後に、朧は煙のように姿を消した。

「……いくらボンゴレでも八咫烏はキツイだろうな。どうなっても知らねーぞ俺ァ」

 次郎長は静かに呆れたように呟き、天を仰いだ。仰いだ先の月は、禍々しさすら感じる程に映えていた。

 

 

 平々凡々という言葉が似合う平和な町。そこへ浅蜊の王の手が伸びた時、天候が荒れ狂い、虹の呪いを背負うに相応しい怪物達が動き、死を運ぶ烏が空を舞うのだ。




次回、ついに原作に突入!
やっとリボーンが出てくるかな?

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