浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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標的37:ちゃおっス、家庭教師

 並盛町3丁目。

 町内外から「並盛の王者の御膝元」とも呼ばれるこの区域には、骨董品店「古里美術店」を営む古美術商一家が暮らしている。

「ふう……これで終わりかな」

 古里美術店の店主・古里真は、新しく仕入れた骨董品を棚に並べる。

 一見はごく普通の日本人店主だが、その正体はイタリア系マフィアグループ「シモンファミリー」の9代目ボスであり、初代ボスのシモン=コザァートの子孫だ。現在は並盛で五分の盃を交わした次郎長の庇護下に入り平穏な生活をしている。

「アレからもう6年か……」

 天上を仰ぐ真。 

 シモンファミリーはイタリア最大最強のマフィア・ボンゴレファミリーと非常に深い親交があった由緒あるマフィアなのだが、訳あってボンゴレ傘下を筆頭に多くのファミリーから長い間虐げられてきた。それはマフィア界全体から圧力をかけられているも同然で、いつ潰されてもおかしくない現状――いや、実際潰されそうになった。

 その危機から救ってくれたのは、偶然イタリア旅行中に息子の炎真と出会ったヤクザ者・泥水次郎長だった。彼はその日の夜に現れたボンゴレの刺客から深手を負いつつも命懸けで戦い、絶やされそうになったシモンの血と教えを守り抜いた。次郎長にも護るべきモノがあるにもかかわらず、だ。

「彼には何と礼を言うべきか……」

 そう呟くと、店先に一人の男が現れた。

「朝っぱらからご苦労なこったな、兄弟」

「次郎長!」

 紅花があしらわれた黒地の着流し姿の義兄弟に、真は彼の名を口にする。

 並盛町の裏を取り仕切る極道の親分――次郎長は店の中に入ると、並べられた数々の骨董品に目をやる。

「……もしかして買い物かい?」

「ああ、「義理かけ」さ」

 ヤクザ勢力共通の行事である「義理かけ」とは、その名の通り相手に義理をかけることだ。ある組が主宰する諸行事に対して招かれた組がその行事への参加や祝儀・不祝儀の出費等義理を尽くすというもので、言わば一般(オモテ)社会の慶弔行事に値する。極道の世界においては組織を維持して行くための人脈作りという意味も踏まえ、組織同士の付き合いとして非常に大切にされている。

 昨今は法律による規制強化や各組織による負担の見直し、過去に抗争が誘発しているケースもあるため義理かけを自粛する傾向にあるが、慣習的行事であり組織としても威勢を誇示できる上に大きな資金源にもなるので継続するとされている。

「実は親戚縁組の若頭が正式に二代目になるって話になってな。継承式に祝いの品でもやろうと思って来たんでい」

「そうなんだ……」

 次郎長は真に事情を説明する。

 溝鼠組の唯一の親戚縁組である隣町の姉古原町を牛耳る「魔死呂威組」の設立者にして現組長の魔死呂威下愚蔵が、老齢による体調不良を理由に隠居することを決意。下愚蔵はカタギになった自身の実子を引き戻して二代目にさせようと考えていたが、若頭の中村京次郎が「実子でもカタギになった以上手を出すのは〝道〟に反する」と強く反発し、説得の末に下愚蔵は次期組長に京次郎を指名したという。

 次郎長はその報せを聞き、それなりの付き合いがあった京次郎が下愚蔵の跡を継ぐことを祝って何か贈ろうと考えたのだ。

「真、何かいいモンねーかい? 義理場だから高めのモンでもいい」

「そうだね……じゃあこの――」

 真が次郎長におすすめの品を紹介しようとした、その時だった。

「うおおおおおおおおおおお!!!」

「「!?」」

 聞き慣れた声が周囲に響き渡った。顔を見合わせて二人店の外に出た途端、額に炎を灯しパンツ一丁の少年が猛烈な速さで素足で駆け抜けていったではないか。

 なぜ炎が額で燃えているのか、なぜパンツ一丁で街中を走り抜けるのか、色々と疑問が湧き出てくるが――次郎長は真に尋ねた。

「……おい、真よう」

「……何だい次郎長」

「オイラの目が曇ってねーなら……アイツァどう見ても……」

「ツナ君、だね……」

 ツナの背中を呆然と見続ける次郎長。沢田家との関係を知っている真は彼の気持ちを推し量ってか「何も見てないことにしよう」と提案し、次郎長は無言で首を縦に振ってツナの黒歴史になるであろう珍事を見なかったことにした。

 それでも、次郎長は忘れられないものがあった。

(あの額の炎……ありゃあ家光の野郎(バカ)と同じ炎か?)

 思い出すのは、溝鼠組設立当初に起きた家光との決闘。

 血を流し拳を交えたあの日に見た額の灯火が、ツナにも灯っていたのだ。それは血筋ゆえか、それとも――

「……真、(わり)ィが急用ができた」

「次郎長?」

「ちょっくら確かめて―ことがある」

 

 

 一時間後。

 次郎長は繁華街の高層マンションに置かれた地雷亜の事務所を訪ねた。

「成程、それでお前さんは俺に訊きに来たと」

「世界中飛び回ってたてめーなら知ってるだろうってな」

 その言葉に、地雷亜は納得したように笑う。

 裏の世界でも屈指の名暗殺者である地雷亜は、裏表問わず世界中の大物から依頼を受けるため、様々な業界に首を突っ込む。マフィア界も例外ではなく、その業界しか知られていない情報も地雷亜は知っている。

 それは他業界に興味を持たない次郎長の、数少ない情報源だ。ヤクザ勢力にも警察をも凌駕する情報網を持つ組はいるが、世界規模の情報網は持っていない。

「そういうこった、額に炎が発生する状態について心当たりはあんのか」

「……ああ、知っている。それは〝死ぬ気の炎〟というものだ」

「死ぬ気の炎? 何だそりゃあ」

 死ぬ気の炎。

 それは人間の生体エネルギーを圧縮し視認できるようにしたモノで、指紋のように個々によって炎の色・形・強弱が異なるオーラより密度の濃いエネルギー。色んな分野で活用できるらしく、使い手の戦闘能力の飛躍的向上や武器・ロボットの動力源にすることも可能だという。

 また死ぬ気の炎には属性が存在するため活性化したり沈静化することも可能な上、死ぬ気の炎そのものにも種類があり性能も威力も異なるという。

「そんな能力を扱う連中と生身で()り合ったのかよ」

「その言葉、お前さんにそっくりそのまま返すぞ」

「そういやそうだったわな……」

 自分の発言がブーメランで返ってきていることを悟り、頭を抱える次郎長。

 かつて家光と拳を交えた際、額に炎を灯した彼の拳の重さが変わったのは、その死ぬ気の炎という高エネルギーのおかげなのだろう。それを真っ正面から食らって頭部からの出血程度で済んだ次郎長も次郎長だが。

「使い手は存在する。その小僧は無いだろうが、その能力(チカラ)でお前さんの首を狙う輩は何人かいるはずだ」

「フン……その〝死ぬ気の炎〟とやらがどんなに使い勝手のいい代物でも、使い手は心臓一つの人間一人なんだろ? 倒せねーこたァあるめェ」

 地雷亜の言葉に、次郎長は余裕の笑みで返答する。

 そう、使い手はあくまでも人間だ。ヌフフのナス太郎のような文字通りの人外になると話はわからないが、いかに都合のいい力でも生身の人間が扱う以上「倒せない」という選択肢は無いのだ。

 能力に大きな差があれば、技や知恵、己自身の運で相手に勝れば光明は見えるもの――ゆえに次郎長は〝死ぬ気の炎〟を扱う者達を「卑怯者」などという女々しい言葉で呼ばない。それが裏社会に生きる次郎長の覚悟でもあるのだ。

「ありがとよ地雷亜、金は後で送ってやる」

「礼には及ばん、俺もどうやら動かざるを得なくなってきた。お互い余計な敵を生むのは本意ではなかろう」

「……どういうこった」

「裏の世界がうねり始めているということだ」

 意味深な言葉を口にした地雷亜に、次郎長は眉間にしわを寄せた。

 

 

           *

 

 

 地雷亜との話を終え、偶然見かけた交通事故の示談を済ませながら次郎長は百地のメイド喫茶で一服する。

(アレからもう30年も経っちまったんだよな)

 煙管を吹かし、快晴の空を仰ぐ。

 異なる日本に転生し、高校を卒業しヤクザになった泥水次郎長(よしだたつみ)。33歳となった今は極道の親分として町の裏を取り仕切る充実した生活を送っている。時には平和を乱す不届き者が絡むが、それを含めて前世では感じることの無かった幸せに浸ることができたのは僥倖だ。

「何か想うところでもあるのか? 次郎長」

「ん? いやァ……この町は〝花〟があって良いなってよう」

 可もなく不可もない町を統べるならず者の王は、手慣れた手つきで吸い終わった灰を落とす。すると――

「! 剣介おめェ、出家したのか……」

「……道は過酷ぞ」

「いきなり何言ってんですか!? 違いますって!!」

 ジト目でボケる二人に涙目で訴えるのは、次郎長との面識もある並盛中学校二年生の持田剣介。かつては悪童であったが、成長した今は剣道部の主将という大役を担う立派な生徒に成長している。

 そんな彼の今の出で立ちは、何とまさかの髪を全て抜かれた剃髪姿(ツルッパゲ)。気が強い性格であるはずの剣介も、目に見えて落ち込んでいるのは仕方ない。

「おめー何があった? 男塾の頭墨印(とうぼくいん)に失敗したような頭になってんぞ」

「例えがわかりにくいですよ! 実は……」

 剣介は事の経緯を語り始める。

 全ては今朝のある騒動――ツナがクラスメイトの笹川京子にパンツ一丁で告白したことから始まった。剣介は京子と同じ委員会であることから付き合っており、パンツ一丁で告白したツナに激昂し決闘したというのだ。髪の毛を全部抜かれてしまったのは、その決闘の後だという。

「ダメツナと笹川京子を賞品として(・・・・・)懸けて負けた……負けたのは受け入れるが、この仕打ちは――」

「んなモンてめーの自業自得じゃねーか。それ以前にいつからそんなチンピラの思考回路になったよ?」

 次郎長にバッサリと切られ、怒りの混じった声色に顔を青褪める剣介。

「そもそも女をモノ呼ばわりした時点で先輩どころか男ですらねェ。パンツ一丁で告白する方がまだマシだろーが」

「お、親分……」

「極道の世界もカタギの世界も、そういう奴(・・・・・)は必ず嫌われるんでい。中二にもなっといてそれすらわからねーのか?」

 極道の世界に身を置いた次郎長は、表裏問わず多くの人間をその目で見てきた。それゆえに嫌われる人間と好かれる人間の違いを理解できるようになっており、その者の性格も初見でも大体わかるのだ。今回の場合、持田に非があると次郎長は判断したのだ。

「……で、何もしねーのかよ」

「――え?」

「このままでいいのかっつってんでい」

 次郎長の言葉に、体を強張らせていた剣介は目を見開く。

 いくら剣介の自業自得でも、このまま放置すれば彼自身の信頼や学校生活で支障が生じる可能性がある。ましてや女性をモノ扱いにする男など同性からも嫌われるに決まっており、残りの約一年が辛くなるだろう。それに自身の過ちに対して責任を持たない者は次郎長が最も嫌う「人種」であり、剣介自身の成長の為にもアドバイスはするのだ。

「剣介、おめーも男なんだ。先輩としても早くケジメをつけろ、傷が浅い内にやんねーと後悔すんぞ」

「……はいっ!」

 次郎長に諭された剣介は、踵を返して走り去った。あとは剣介次第ではあるが、分を弁えていれば後輩女子との和解も成立し、暫くは冷たい目で見られてもその内に見直されるはずだ。並盛で生まれ育った者達は老若男女問わず懐が広かったりするゆえ、何だかんだで許してもらったり挽回の機会くらい与えるので、その辺りも問題は無いだろう。

 すると、一連のやり取りを見ていた百地が微笑みながら次郎長に声を掛けた。

「さすが、というべきか? 王の器、しかと見させてもらったぞよ」

「オイラァただ人として当然の筋を通せと伝えただけでい」

 煙管を懐に仕舞い、出された茶を啜る。

 完全に寛いでいる次郎長に、百地はツナの件について質した。

「……綱吉に直接問わぬのか?」

「訳を聞きてーところだが並中にゃ恭弥が居んだ、オイラが乗り込んだらそのまま戦闘だぞ絶対(ぜってェ)

 そう――並盛中学校には風紀委員長・雲雀恭弥が君臨し、仁義による統治を敷く次郎長と違い力による恐怖政治を敷いている。その上尚弥(おや)譲りの凶暴性を秘めた彼はかなり有名な戦闘狂であり、己の戦闘欲を満たすために次郎長に喧嘩を吹っ掛ける可能性が非常に高いのだ。

 とはいえ、いくら並盛で最も恐れられる不良といえど並盛の王者・次郎長には及ばない。次郎長は喧嘩を売られる度に返り討ちにしてきた――のだが、実は年々強くなる恭弥に多少本気を出さざるを得なくなってきている。ただでさえ並盛で活動する不良達のトップである恭弥一人で周囲はお手上げなのに、それに加えて大侠客次郎長親分が正当防衛で(・・・・・)暴れると被害が甚大なので誰にも止められなくなる。むしろ関わりたがらないくらいだ。

「今でも()り合えばオイラが勝つだろうが、戦闘自体を止められる奴なんざこの町に何人いるんだか」

「確かにな……」

 次郎長の言葉の意味を理解し、遠い目をする百地。

 その時、次郎長の携帯が着信で鳴り響いた。電話の相手は、次郎長の命で沢田家に向かった登からだ。

「どうした登」

《オジキさん! あの、奈々の姐さんの家に変な家庭教師がいて困って……》

「は?」

 予想の斜め上の展開に、思わず素で呆然とする次郎長。

 登曰く、次郎長の頼みで沢田家を訪れた際に奈々が家庭教師を住み込みで雇ったことを口にしたという。謳い文句は「お子様を次世代のニューリーダーに育てます」で、奈々は凄腕の青年実業家庭教師と思い込んでいるそうだ。

 次郎長としては、ツナの成績のことを考えると奈々が雇いたがる気持ちはわかる。子を持つ親としては当然の選択肢だからである。だからといって胡散臭い謳い文句を掲げる輩に託すのは気に入らない。ただでさえ奈々は人が好過ぎるため詐欺被害にいつ遭ってもおかしくないのに、よりにもよって胡散臭すぎる明け透けな口車に乗ってしまっているではないか。

 天然さと騙されやすさは昔から変わらないようだ。

「ハァ……で、どんな野郎なのか見たのか?」

《そ、それが……黒いスーツを着た赤ちゃんで、僕が挨拶しようとしたらいきなり拳銃向けられちゃいまして。その後奈々さんがオジキさんのことを言ってくれたんで大事には至らなかったんですが……》

「――おい、今何つった?」

 さりげなく重大なことを言った登に、次郎長は訊いた。

 聞き間違いでなければ、登は奈々が雇った家庭教師とやらは赤ん坊だと言っていた。次郎長の知る限り、そういう輩に対する認識はたった一つ。

(マズイ! 登とツナ達が!!)

 沢田家を訪れた赤ん坊は、裏社会の人間である可能性が極めて高い。

 登の言葉にはツッコミどころ満載だが、その赤ん坊とやらは拳銃を持ってる上に登が極道関係者だと口外していないのに警戒し、雇用主の奈々が次郎長の話を振ったことで手を引いた。それは次郎長と沢田家の関係を知っているという事実を仄めかせていることに他ならない。

 それに知り合いのバミューダが何の理由も無く沢田家に手を出すとは思えない。次郎長とある意味で個人契約を成立させている以上、彼の反発を買うマネをするとは到底考えにくい。そうすると、考えられるとすれば――ツナを狙う刺客である可能性だ。

(ツナを狙っているのか……!? 何てこった!! ――いや、待てよ?)

 しかし、もしそうだとしたら不可解な点も残る。登が極道関係者と知ったのならば、その場ですぐに殺しツナと奈々も始末してもいいのに、電話ができる以上それをしていないということになる。まだ日が昇っているとはいえ、刺客が一流の殺し屋なら隠蔽も容易いはずである。

 それ以前に赤ん坊が刺客であるというあり得ない前提条件があるが、登が次郎長にわざわざウソを言うとは思えないので、その辺は全て本当だろう。

(クソ、真意が読めねェ……!)

《それとオジキさん、彼は「俺は殺し屋だが、殺しに来た訳じゃねェ」って言ってるんですけど……》

「――何?」

 ますます真意がわからなくなる。

 殺し屋が標的を殺さないとは、一体どういうことなのか。もしかすれば本当にツナの家庭教師をしに来ただけなのかもしれないが、あっさりと本職を口外してくれたせいで信用できない。

 次郎長は思い悩む。

「……」

《オジキさん、その……どうしましょうか? 僕じゃどうにも……って、ちょ!?》

「登!?」

《ちゃおっス》

 登の慌てた声の直後、子供の高い声が電話越しに次郎長の耳に届く。おそらく奈々が雇ったという赤ん坊――本職が殺し屋の家庭教師だろう。どうやら登から携帯を奪ったようだ。

 次郎長は目を細め、ドスの利いた声で問う。

「……てめーは誰だ、奈々とツナをどうするつもりだ? オイラの可愛い息子(のぼる)に手ェ出してねーだろうなァ」

《おめーが泥水次郎長だな? 俺はリボーン……ダメツナの家庭教師だ。よろしくだゾ》

「何がよろしくだゾ、だ。遠回しに何しに来やがったっつってんのが聞こえねーかこのガキゃ」

 青筋を浮かべて電話相手(リボーン)を恫喝する次郎長に、百地は驚く。いくら余所者とは言えど、次郎長が一度も顔も合わせてない相手に対して露骨に怒りを表すことは滅多にないからだ。

 だが言い方を変えれば、電話相手のリボーンは次郎長の逆鱗に触れかけているということでもある。次郎長は町や護るべきモノを脅かす全ての危害に一切容赦しないのだ。

「……言わねーなら手間を省こう。今すぐこっちから出向いてやらァ」

 次郎長はリボーンに電話越しに聞こえるよう、ジャキッと刀を鳴らして脅す。並大抵の連中ならば、わざわざ殺気を出さずとも一瞬で沈黙できるだろう。

 しかしリボーンは全く怯まず、平然と言葉を並べる。

《その必要はねーぞ次郎長、俺もおめーに用があるからな。そうだな、今度の土曜に会わねーか? 勿論ツナん()でな》

「奇遇だな、オイラも同じことを考えてたぜ」

 雰囲気的には売り言葉に買い言葉にしか見えないやり取り。しかしリボーンは次郎長との衝突を回避したいのか、顔を合わせる日を指定した。リボーンの意図を悟った次郎長も、今は(・・)カタギを巻き込む気が無いと判断して怒りの矛先を収める。

 ――が、いつも以上に鋭い目つきであるのは変わらない。相手が殺し屋であるとわかった以上、すぐに信用するわけにいかないので当然の反応と言えるのだが。

「詳しいこたァ今度として……腹ァ割って話してねー以上オイラァまだ信用しねェ。オイラにとっちゃおめーは敵だからな」

《だろうな。だから会って話すんじゃねーか》

「……」

 次郎長は少し考えたのち、リボーンの提案を承諾した。

「いいだろう。朝の10時辺りに沢田家(そっち)に向かってやる」

《気が利くじゃねーか》

「だが一つだけ言っておく」

 刹那、次郎長は殺気を声に乗せた。

 

「……俺ァ自分(てめー)の大切なモン護るためなら、いつでも(おとこ)を捨てるからな。覚悟しとけ」

 

《――っ!》

 次郎長は怒気を孕んだ忠告を最後に一方的に電話を切ると、金を払って席を立ち刀を腰に差す。そんな彼に百地は、真剣な眼差しで忠告する。

「お前の任侠道には恐れ入るが……わしの読みが当たっておれば、相手は最強の赤ん坊〝アルコバレーノ〟ぞ? 一筋縄ではいかんぞ」

「んなもん知ったことか。天下の次郎長親分が他所の最強ごときに負けるかよ、意地の張り合いはオイラの得意分野だぜ」

「次郎長……」

「……で、おめーら(・・・・)はどうする? ツナの先祖にゃ借りがあんだろ。カタギの子孫を裏社会にぶち込むのがⅠ世(ソイツ)の願いって訳じゃあるめェ」

 次郎長は不敵な笑みを浮かべて問う。

 百地が属する組織――八咫烏陰陽道はその昔、沢田家康と名を変え帰化したボンゴレⅠ世(プリーモ)が指導者の一人として当時の日本に貢献したという過去がある。その縁もあり、八咫烏陰陽道は人知れずⅠ世(プリーモ)の血筋を影から見守ってきたのだ。

 だが今回は彼の子孫であるツナが、マフィア界に巻き込まれようとしている。それもツナの父親の家光が巻き込もうとしているようにも解釈でき、百地としても不満ではあるのだ。

「……わしらは国の守護者よ、次郎長。だが国に忠を尽くした先人の意思は守るつもりぞよ」

「……それがおめーらの今の答えなら、オイラは動くぜ」

 次郎長は「ごちそうさん」と呑気に手を振りながら去っていった。

 その背中を、心配そうに百地が見つめているとも知らず。




次回、羽の無い天使と一触即発になります。

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