浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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不定期更新の可能性がありますが、一番終わりが近いヒロアカの方が終わり次第トントンと進めたいと思ってます。


標的2:Scarface

 3年後――生活そのものが喧嘩三昧の暴れん坊・辰巳は、並盛中学校をどうにか卒業して並盛高校へ進学した。

 義務教育を脱した以上、その後の学生生活は自己責任が原則だ。喧嘩も勉学もバイトも、何もかもが自己責任。ドがつく問題児(クソガキ)を庇う程、高校教師は甘くない。

 そんなことなど意にも介さず高校に進学した辰巳でも、さすがに中学のような荒れた生活が少しは矯正しただろうと思われるが、結果だけ言うとそんなに変わらない。むしろ喧嘩の面では相手が凶器を用いるようになったので悪質化している。現実は非情である。

「いでで……ったく、こっちは丸腰なんでい。ちったァ気を遣ってほしいモンだぜ」

 木刀や金属バットを得物に襲い掛かった不良十数人を血祭りに上げ、殴られた頬を押さえるように擦る。

 辰巳は基本、自分から喧嘩を売ることはあまりしない。売らなくとも自然と寄ってくることが多いからだ。クラスこそ別になったが共に進学した奈々からは笑顔で「ごきぶりホイホイみたいね」と太陽のような笑みで言われたのは、地味にショックを受けて忘れられない。

「しっかし、奈々には申し訳ねェな……これじゃあいつまで経っても友達作れねェぞ。それに……」

 辰巳はポケットから財布を取りだし、中身を確認する。財布の中には、一万円札が一枚と百円玉が五枚、十円玉と一円玉がそれぞれ二十枚入っている。

「今、俺金欠なんだよなァ……」

 盛大に溜め息を吐く。

 バイトや喧嘩後のカツアゲで生計を立てている辰巳だが、近頃の価格高騰やカツアゲ対象の不良の低所得化が進行し、じわじわと辰巳を追い詰め始めていた。恩情があってまだ新聞配達のバイトをしているが、それでも貰える額は一日1100円程度。

 こんなに家計的に厳しい状況では、友人関係の方に金を回すなど到底できない。やはり学生生活はぼっちで過ごすしかなさそうだ。

「まァ、別にいいか――」

「吉田辰巳!!」

「……うげっ」

 その場を去ろうとした瞬間、何者かに呼び止められる。

 振り向くと、そこには学ラン姿でガラの悪そうな男子生徒が十人程立っていた。

「貴様、また風紀を乱してるな!」

「いや、だから俺が売った喧嘩じゃねーっての。毎回毎回、何度同じこと言えば理解してくれんでい」

「貴様こそ毎回毎回喧嘩して風紀を乱してるだろうが!!」

 ――おめーらにだけは言われたくねーよ、その言葉は。

 心の中で呟きつつ、辰巳はその場から逃走した。当然後ろの連中が逃がす気など毛頭なく、追跡してくる。

 実を言うと、辰巳は高校生になってから風紀委員会のブラックリストに登録されてしまっている。理由は喧嘩沙汰の多発であり、自分から喧嘩を売って暴れてなくとも学校内の風紀を乱しているとして並盛高校における要注意人物として名が挙がっているのだ。

 中学時代も風紀委員会に監視対象となってはいたが、当時の委員長が穏健派であったことと自分から風紀を乱すマネはしないことを承知していたため、指導とは名ばかりの粛正をするのは避けていた。だが高校の方の風紀委員会は根っからの武闘派であり、その上一発ぶん殴ってから話を聞くという傍若無人ぶりだ。喧嘩常勝の辰巳も勝てないわけではないが、手を出すと色々と面倒事になるので逃げ回って済ましている。

(ったく、肩身の狭い高校生活だよう……)

 取り締まる側どころか取り締まられる側のような風貌の男子生徒の追跡を振り回しつつ、今日も辰巳は波乱の学校生活を送る。

 

 

           *

 

 

 帰り道。

 ジャージ姿で夕飯のメニューを考えながら、のんびりとした足取りで自宅へ向かう。

「……ん?」

 ふと、背後から聞こえてくる多数の足音。

 ゆっくりと振り返ってみると、そこにはバットや鉄パイプ、木刀を手にした不良達がガンを飛ばしていた。

「昼間の連中じゃねーな……どちらさんで?」

「俺達を覚えていないのか? 辰巳ィ……てめェにぶん殴られまくってからずっと復讐を思い続けてきた」

「ようやくその日が来たって訳だ!!」

「……ピンと()ねーや。俺にぶん殴られた人間は多いし、そもそも喧嘩売っといて負けた奴がいけねーじゃねーか」

「て、てめェ……!!」

 一々殴った人間の顔を覚える暇があったら、家事やバイトの一つや二つ覚えた方がまだいいだろう。辰巳は生計を維持するのに精一杯であるし、人間は忘れる生き物だから全員の顔――それも名乗りもしないどこの馬の骨か知れない連中――を覚えられる程万能ではない。

「……で、随分と物騒なナリしてるけど」

「いや、だからさっき言っただろ! 復讐っつったろ!!」

「並盛にずっといる俺を2年がかりで復讐かよ。まだ一話分しか経ってないとはいえ、今更すぎねーかい?」

「コラァァァァ!! しょっぱなから何言ってくれとんじゃあお前!!」

「まァ、んなこたァどうでもいいが……結局兵隊集めて共に死にに来たのと変わりねーじゃねーか」

 辰巳は微笑んだ瞬間、目を見据えて告げた。

「――徒党を組めば勝てるとでも思ってんのかドグサレ共」

『!?』

 ドスの利いた声と共に、殺気を放って睨みつける辰巳。

 肌がピリピリと痛むような殺気を浴び、半端な不良は腰を抜かし震える。だが、殺気を放ってもなお屈さずに得物を構える。

「おいおい……正気かてめーら? 上等じゃねーか、せいぜい俺よりも先に倒れねーように気をつけるこったな」

「や、やっちまえェェェェ!!」

 雄叫びと共に、不良達が襲い掛かってくる。

 辰巳はやれやれといった呆れた表情を浮かべつつ、拳を握り締める。

 自らが丸腰である分、相手は得物を持っているため当たれば無事では済まないだろう――だが、それだけだ。要は得物の間合い、すなわち射程範囲さえ掴めれば一撃一撃を躱して一発叩き込めばそれでOKなのだ。

「らァッ!」

 

 ドゴッ!

 

「「「ぐはァッ!!」」」

 無造作に放たれた強烈な拳骨。

 それは木刀を持った男の鳩尾に直撃し、衝撃で3人程巻き込みながら殴り飛ばされる。それと共に、男が落とした木刀が足元に転がる。

「……借りるぞ」

 転がった木刀を拾う。

 その時――

 

 ドクンッ

 

「!?」

 心臓が大きく脈打った気がした。まるで、木刀を手にした瞬間に封印されていた何かが覚醒したような気分だった。

 しかし、その間にも不良達は襲い掛かる。

「死ねやァァ!!」

「死ぬかよ!」

 

 ガォン!

 

 辰巳は豪快に振るって強烈な一撃を見舞った。

 男は胃の中の物を吐き出しつつ飛ばされ、そのまま意識を失った。

(何だこの感覚……初めて手にしたってのに、まるで使い慣れた相棒みたいに扱える! ってことは……)

 それを皮切りに辰巳は不良の群れに突撃し、猛攻を仕掛けた。走る木刀が真っ赤な血を浴びていき、褐色の修羅(おに)が薙ぎ払っていく。不良が一人、また一人と倒れていき、その光景に気圧され始めたのか残りの不良達は一歩ずつ後ろに下がっていく。

 喧嘩は素手だけではなく、得物も使う場合もある。金属バット然り、木刀然り、ナイフ然り――五体満足で生き残るには、相手を超える技量が求められる。その技量を辰巳は「不良特有の勘の鋭さ」と「開花した〝喧嘩の才能〟」で補い、死ぬ気で一人一人を確実に叩きのめしていく。

(これが「泥水次郎長」か……全盛期は銀さん以上とネット上で言われるだけあるな……)

 原作では戦闘の描写が少ない部類であるが、泥水次郎長の素質に戦慄すら覚える。

 すると――

「うらァァァァァ!!」

「っ!」

 

 ――ザシュッ

 

 ナイフの刃が襲い掛かり、右頰に熱が走ってその後に痛みが襲う。

 しかしその痛みに耐え、辰巳は拳を振るって殴り飛ばす。

「いっつ……!! やってくれるじゃねーの……!!」

 木刀を逆手に持ち替え、脇腹に衝撃を叩き込む。

 しかし、その隙に別の男がナイフで一閃。右頬に十字傷ができた。

「くっ……るおおおおっ!!」

 木刀で薙ぎ、不良を蹴散らす。

 実力的には辰巳が圧倒的だが、数でじわじわ押され始める。半数以上倒しても、まだ相手は残っているため疲労も蓄積されていく。

 当然、ここで嬲られるわけにもいかないし病院送りで欠席するのも嫌である。妙に律儀な辰巳は、負けるわけにはいかないのだ。

 歯を食いしばり、痛みを堪え、辰巳は木刀を振るった。

 

 

「ヤベェ……さすがに動けねェ」

 ついに不良全員を撃退することに成功した辰巳。

 さすがに得物を持った不良50人を相手取ったのは相当の疲労とケガを負うこととなり、喧嘩常勝の辰巳も動けなくなる。

 暫く休めばいいだろうと、呑気に思ったその時――

「タッ君!!!」

「奈々、か……!?」

 悲鳴に近い声を上げ、駆け寄ってくる奈々。

 頬から血を流し疲弊した同級生を前に焦るのも無理は無いだろうが、辰巳としては奈々にも迷惑を掛けるのが申し訳ないのかいつものように追いかえそうとする。

「別にこんぐれー平気だい。死ぬようなケガじゃねーし、そもそもこの程度でくたばるような(タマ)なんざ持ち合わせちゃいねーよ。それに俺は不良で奈々は女学生だ、下手に関わると――」

 

 バチンッ!

 

「……!?」

 奈々が次郎長の頬――それもナイフで斬られた右頬――を引っ叩いた。ズキズキとした切り傷の痛みと平手打ちのヒリヒリとした痛みのダブルパンチで、さすがの辰巳も困惑した。

「そう言っていつも傷ついて……何で頼ろうとしないの!? 私や皆がいるのに!!」

「………奈々、おめェ……」

「タッ君の悪いところよ! 自分一人で全部背負って……そんなに私や皆が信用できない人なの!?」

 その言葉に、辰巳は察した。

 自分がよかれと思っていたことが、周りを困らせていたことに。不良の自分と関わると他の連中に目をつけられ危害を加えられてしまうと思ったから他人と距離を置いていたのに、それが逆に「自分以外の人間は信用しない」という誤った印象を与えていたと。

「――ケッ……女だてらに一丁(いっちょ)(めェ)の啖呵切ってくれるじゃねェかい」

「友達だもの、心配して当然でしょ?」

(友達、か……いつの間に俺とおめーは……)

 辰巳はそう言って意識を失った。

 

 

           *

 

 

 ふと、辰巳は目を覚ました。

 視界は白い天井であり、医療ベッドで横になっていたことから並盛にある中央病院へ搬送されたことを瞬時に理解した。

「……病院か」

「気づいたの?」

「……明日ァ確か土曜のくせに授業あったよな」

「先生には言っておいたわ。それとお医者さんは2日は安静にしていてくれって」

「ちっ、あそこでぶっ倒れなきゃあよかった……」

 ムクリと起き上がり、頭を掻く。

 包帯や絆創膏まみれの体を確認し、溜め息を吐く。

「そういやあ俺の頬の湿布って、絶対奈々のだよな」

「え? ウソ! ごめんなさい……」

「ビンタはいいけどよ……普通さ、傷負ってない反対側をやるだろ普通は……」

 顔をヒクヒクと引きつらせる辰巳。

 さすがの奈々も困った顔をしているが、悪気はないようなので許すことにした。

「じゃあ、私はもう帰るね」

「そうかよ」

「んもう! 不器用ね」

 プンプンと言いながら踵を返し、病室のドアノブに手をかける。

「…………奈々」

 ふと、辰巳が口を開いて呼びかけた。

 奈々はゆっくりと振り返る。

「………世話んなったな」

「! ――どういたしまして♪」

 

 

 翌週、相も変わらず絡んできた不良をシバきつつ辰巳は登校した。

 しかしその日は、いつもと違って一人ではなかった。

「残りわずかだが、賭けてみるとするよ……奈々」

「?」

「人といっぱい関わるって言ってんでい」

「♪」

(一言も喋ってねェのに何か伝わるな……)

 辰巳は呆れた笑みを浮かべ、奈々と共に校門を通るのだった。




原作との相違は……奈々の気の強さかな?
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