浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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お待たせしました。
ついに次郎長とリボーンが対決します。


標的44:SHOWDOWN

「わあーーーー!! 遅刻だーーーっ!!」

 朝の沢田家に、ツナの絶叫が木霊する。

 無類のゲーム好きであるツナはうっかり夜更かしをし、そのまま寝坊したのだ。しかも時間は7時40分……早く出なければ遅刻確定。風紀委員会に目を付けられ、最悪咬み殺されてしまう。

 急いで制服に着替え、階段を下りて玄関に向かうと――

「あ、やっと起きたんですか?」

「ピ、ピラ子さん!? 何でいるの!? っていうか母さんは!?」

 目の前に現れたのは、溝鼠組若頭補佐であるピラ子。次郎長の義娘(むすめ)であり、沢田家との親交も深い極道者が、何と割烹着姿でいつの間にか家に上がっているではないか。

 昨日居なかったはずなのになぜ居るのか混乱するツナだが、それを察してかピラ子は口を開いた。

「奈々の姐御をたまには休ませたいと思いまして。そもそも私が姐御の世話になることはすでに周知のはずですけどォ」

「母さん、寝てるの……?」

「時には親を休ませるのも、孝行の一つですよゥ。私だって自分のご飯くらいは作れますし、いつも全員分の食事を作ってくれてるオジキと登の兄貴だって休ませないといけないでしょう?」

 そう言いながらツナにお昼用の弁当と水筒、そして朝食用のパンを渡すピラ子。

 奈々(ははおや)以外の女性が作った弁当を食べるどころか受け取ったことすら無いツナはなぜか顔を赤くするが、遅刻のことを思い出してすぐにカバンに詰めて玄関の扉を開けた。

「い、行ってきます! ピラ子さん、ありがと!」

「いってらっしゃ~い♪」

 パンを咥えて急いで登校するツナを、ピラ子は手を振りながら笑顔で見送る。

 そこへナポリタンを啜るリボーンが背後に現れる。

(わり)ィな、ママンに代わって」

「たまには肩の力を抜くのも大事です~。少しくらい自分の為に休んでもバチは当たりませんよう」

 そう笑みを浮かべたまま言うと、リボーンへと向き直って黒い瞳を見据えた。

「リボーン君……オジキが呼んでます。一緒に来てもらいますよ。安心してください、奈々の姐御に話は通してますから」

「……?」

 

 

           *

 

 

 リボーンがピラ子に案内されたのは、5丁目の工場跡地。

 長い年月の間放置されていたせいか何を造っていたのかは不明だが、規模からしてそこそこの工場だろう。並盛だけに小ではなく並であるようだ。

「近頃ここが他勢力の秘密の溜まり場になってるようで、風紀委員会が解体してくれと先日電話で頼んできた場所です。まあ半グレ集団とはいえカタギの連中……税金使って解体する方が金が掛かるってのは正論ですねェ。オジキや私としては集まった連中を袋叩きにして胴元を炙り出して金目のモン全部ぶんどりたかったんですけど、致し方なしってことで」

「……」

「っということでオジキ~! 連れて来ましたよ~!」

「おう、ご苦労さん」

 労いの言葉と共に廃墟の中から次郎長が現れ、鋭い眼差しでリボーンを睨み下ろす。

「ちゃおっス。俺に用があると聞いたゾ」

「ああ、おめーじゃなきゃいけねー用事だからな。ピラ子、おめーはもういいぞ」

「は~い」

 ピラ子は踵を返し、工場跡地から離れていく。

 その場に残されたのは、自他共認める本物の強者二人だけだ。

「……来な。中で話をしてやる」

「……」

 

 

 廃墟の中へと移動した二人。次郎長はリボーンに語り掛ける。

「ここ最近ツナの身辺で起こっている騒動の数々、きっちりかっちり調べさせてもらった……〝アレ〟がおめーのやり方なんだな?」

「ああ。俺はツナをボンゴレ10代目にさせるために仕事してるからな」

「ハッ……反吐が出るぜ。古狸の上っ面の言葉を信じ、息子を組織に売る父親に加担するなんざ。裏社会で血筋なんざ何の武力にもなりゃしねェ」

 9代目(ティモッテオ)と家光への嘲りを言葉に乗せ、リボーンへの疑念を顔に出し、次郎長は口を開く。

 今日に至るまでの人生の大半を裏社会で過ごす運命を辿る次郎長だからこそ、その過酷さを理解している。盃を返されることも当たり前の世界では、ツナはあまりにも優しすぎる。たとえ素質があり力に富んでいても、次郎長は絶対に引き込もうとしない。次郎長がするのは、ツナに人一倍の幸せを掴ませる手助けを陰ですることだけだ。

 それを阻むどころか奪う者がいるのならば、次郎長はいつでも心を鬼にして全てを叩き潰す。それが次郎長を(おとこ)の中の(おとこ)にしてくれた奈々へ通す仁義と信じて。

「おめーが騒動の火種ばら撒いてる以上、奈々とツナを任せたくねェ。ただでさえ家光の野郎(バカ)が家庭放置してるってのに、その上居候共(おめーら)に好き放題されちゃあ困る」

「……何が言いてェ」

 怪訝な表情のリボーンに、次郎長は獰猛な笑みを浮かべジャキッと刀を鳴らした。

「オイラと勝負しろリボーン。アイツらを護れる程の力があるか試させてもらう」

 それは、次郎長からの挑戦状だった。

 本職が本職とはいえ、家庭教師名乗るからには生徒とその身内を護り抜く力があるのか見せてみろ――そう言っているのだ。

「……いいゾ。久しぶりに喧嘩買ってやる」

 リボーンはニヒルな笑みを浮かべる。

 相手は並盛の頂点に君臨する王者。強力無比・豪傑・無双……そんな言葉が似合う最強のヤクザ者だ。相当の手練れであり、それなりの覚悟が求められるだろう。

(おとこ)(おとこ)の喧嘩だ、簡単にやられんなよクソガキ」

「それはお互いさまだゾ」

 左足を引いて深く腰を沈める次郎長。

 引き金に指をかけるリボーン。

 時が凍りついたかのような静寂の中で睨み合い、間合いを測り、そして――

「……来ねーならこっちから行くぞ」

「っ!?」

 リボーンがその言葉に驚いた途端、次郎長が一気に間合いを詰めてきた。

 普通に考えれば刀一本で戦う人間が拳銃、それも凄腕の殺し屋相手に攻めに回るのは絶対に不利だ。リボーンはそう判断し、次郎長は自分が放つ銃弾を躱しつつ間合いを徐々に詰めるという守りに入りながら攻めるものだと思っていた。

 だが実際はその逆――次郎長は相手の隙を伺うのではなく、守りに入るのでもなく、自分から飛び込んで攻めてきた。リボーンの読みの裏をかいたのだ。これに驚かないのは無理がある。

「まずは一太刀!」

 先手を打った次郎長の、挨拶代わりの居合。

 鞘から抜かれた白刃は神速を維持しながら迫り、リボーンを拳銃ごと斬ろうとする。それに対してリボーンは帽子のツバに乗せているペット――形状記憶カメレオンのレオンを十手に変え、空いた左手で持って次郎長の斬撃を受け止めた。

 十手と化したレオンと次郎長の刃がぶつかり火花が散ると、お返しとでも言わんばかりにリボーンは発砲。至近距離から放たれた銃弾を次郎長は紙一重で躱すと、鞘を振るって二撃目を仕掛ける。

 するとリボーンはニヤリと笑みを浮かべ、振るってきた鞘の上に乗って距離を詰め本気の(・・・)飛び蹴りを見舞った。小さくも強烈な一撃は次郎長の顔面を捉え、衝撃と共に大きく吹き飛ばす――が、次郎長は空中で体を一回転させて着地した。

「ハッ……さすが〝アルコバレーノ〟と言ったところか?」

 凶暴な笑みを浮かべる次郎長に対し、リボーンは顔には出さずとも次郎長のタフさに驚いていた。

 家庭教師も兼業するリボーンは、暴力的なスパルタ教育を施す。受け持った生徒には基本暴力的でパンチやキックは当たり前だが、それらは全て生徒の身体的な悪影響を考えて手加減している。ちょっかいしてくるランボを返り討ちにする時も同様だ。

 だが今回の次郎長に関しては本気の一撃――それこそ仕留める気で放ったものだ。相手が門外顧問(いえみつ)とタメを張れる程、もしかすればそれ以上の実力者となれば手加減はできない。その手加減抜きの蹴りを顔面で喰らいつつもダメージを悟らせない並盛の王者に、リボーンは久しぶりに危機感を覚えた。それと共に、高揚感も覚えていたが。

「てめーが相手なら、オイラも本気を出せそうだ。並盛男児の底力ってのを見せてやらァ。それと一つ教えてやる――」

 

 ――ドゴォ!!

 

 次郎長は得物の刀を鞘に一度収めると同時に駆け抜け、リボーンを蹴り上げた。

「ぐっ!」

「ヤクザのキックは(いて)ェぞ!!」

 零距離で放つ一撃に、リボーンは咄嗟に両手を十字に組んで防御したが、骨がきしむような「重さ」に顔を歪めた。

 殺し屋(ヒットマン)とは、標的(ターゲット)の隙を突きその命を奪う者だ。そして優れた殺し屋(ヒットマン)は、あらゆる面で通じる多彩な能力(スキル)を身につけている。暗殺術もただ凶器を用いるだけではなく、鍛え抜いた身体を駆使した格闘術や相手の動きを読んで必殺の一撃を喰らわせる心理戦も重宝される。それを熟知しているリボーンは、業界一の殺し屋(ヒットマン)として暗殺の為のあらゆる技術に精通している。

 しかしそれは技術の話。腕力や脚力といったフィジカル面はそうとは限らない。ましてや赤ん坊サイズの体格では、次郎長の方が色んな部分で素手の戦いに強いのは言うまでもない。現に次郎長のパワーは、リボーンの想像を遥かに超えていた。

(何つー脚力だ……!)

 どうにか受け身を取って体勢を立て直すと、次郎長が刺突を繰り出して急接近。リボーンの得物である拳銃を一突きで破壊し、一閃する。

 その一振りを回避し、リボーンはレオンを拳銃に変えて反撃に打って出た。

「まだまだだな」

「……っ!?」

 リボーンは連射で天井を次々と撃ち抜き、次郎長の頭上に落とした。

 轟音と共に土煙が上がり、リボーンにハメられた次郎長は落下してきた天井の下敷きになるのだが――

 

 ゴパァァッ

 

 居合一閃。次郎長はのしかかってきた天井を得意の抜刀術で粉砕してしまった。

 卓越した狙撃の技術を応用した即興の策戦も、決定打にならない。それは次郎長が、ただ喧嘩に自信があるような並の無法者ではないからだ。

 彼は〝戦闘勘〟という喧嘩の才能を生まれつき持っている。生と死の間――命のやり取りを行う戦闘という極限状態に身も心も投げ出すことで、次郎長は人の域を超えたデタラメな強さを発揮する。その戦闘勘を心身共に鍛え続けた結果が、今の次郎長であるのだ。

「……ここまでとはな」

 常軌を逸した強さに、リボーンは驚きつつも納得していた。

 目の前の男は〝ボンゴレの若獅子〟として最前線で戦っていた当時の家光とタメを張った実力者だ。死ぬ気の炎や特殊能力ではなく純粋な腕っ節(・・・・・・)で星の数くらいにいる裏社会の猛者達から恐れられてきたのだ、これくらいできても何ら不思議は無い。

「どうした、さっきからハジキばっかりじゃねーか。ヤクザ者一人にビビってるのか?」

 明け透けな挑発で次郎長はリボーンを煽る。

 自分は銃なんて鈍でとれる安物の(タマ)ではない、と。この次郎長を倒す力と自信があるなら同じ土俵に立ってみろよ、と。並盛の王者はそう訴えているかのようだ。

 これは挑発に乗らなければシメシがつかない。自分のプライドの為にも、相手が最も得意とする戦いを制さなければならない。

「……行くゾ」

「来いよ。こちとらいつでも喧嘩上等だ」

 リボーンは殺気を膨らませる。それに応えるように次郎長も殺気立ち、笑みを溢す。

 今度はリボーンが先攻だった。レオンをコンバットナイフに変形させると、距離を詰め高速で刃を繰り出す。絡みつくような(けん)(せん)は蜘蛛の巣のごとく――死角を縫っていくかのように襲い掛かる。

 次郎長は刀と鞘を用いた二刀流による防御で、リボーンの攻撃に食らいつくように受け止めていく。下手に避ければわずかな隙を突かれて鋭い斬撃を浴びるハメになるため、あえて攻撃を全て受け止める戦法に出たのだ。

 金属音と共に火花が散り、一進一退の攻防を繰り広げる。(おとこ)の喧嘩第二幕は、小細工抜きの斬り合いだ。

(速くて重い……それでいてデタラメ。斬り覚えの喧嘩殺法か? 型に囚われてねーから厄介だな。だが……)

 双方斬撃をぶつけ合う中、リボーンは冷静に次郎長の太刀筋を分析する。

 そして次郎長が刀を振り上げ、唐竹割りを繰り出した。

(――崩せばこっちのモンだ!)

 リボーンは力を入れて次郎長の一太刀を真っ向から受け、弾き返した。

 今だとばかりに踏み込み、リボーンは一撃を見舞おうとしたが――

「……かかったな」

「!?」

 次郎長はニヤリと笑みを浮かべ、刀を背中に回し逆の手に持ち替えた。背中越しに持ち替えられた刃は掬い上げるようにして伸び、(きょ)()かれ驚愕の表情を浮かべたリボーンに迫った。

 背車刀(はいしゃとう)――次郎長が愛読している某漫画の戦闘シーンで登場した刺突技だ。刀を背後で持ち替えることで予測外の方向から斬撃を見舞うこの技は、変幻自在のフェイント技として絶大な威力を発揮する。言わば並の実力者では初見殺し確定の剣技である。

 次郎長はこの技を完璧に習得(マスター)するために数え切れない程の練習を重ねた。元々は因縁の深い(デイモン)・スペードとの再戦に備えた切り札であり、実戦で活用するのはリボーンが初めてだ。いずれにしろ、刀が有利な間合いで発動された以上相手は無事では済まない。

 これには次郎長も勝利を確信したが――

 

 ザシュッ

 

「――なっ!?」

 驚愕の声を上げる次郎長。

 刺さっていたのはリボーンではなく、彼がいつも被っているボルサリーノ。刃には血が付いているので当たってはいるようだが、どうやら紙一重で躱して決定的なダメージを回避したようだ。常に冷静に相手の殺意を手に取るように把握し弄ぶ、孤高の天才であるリボーンだからこそできる離れ業だった。

 ふと気づけば、リボーンの姿が見当たらない。リボーンを見失った次郎長は、さすがに焦った。戦場で相手を見失うことは攻める方でも守る方でも致命的なのだ。ましてや工場跡地では隠れる場所が多い。色んな武器に変化できる切り札(レオン)を得物としている以上、距離を置かれては次郎長が不利となる。

「殺気を隠しやがったか……!」

 リボーンは気配を殺して殺気を徹底的に抑えつけたのだろうか。次郎長は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて舌打ちをする。

 しかしいくら悪態を吐こうが状況は変わらない。相手の裏をかくのは殺しを生業とする人間の得意分野だ、動いた方が危なくなる。ならば取るべき行動はただ一つ……迎撃準備だ。

「フゥ~…………」

 深く息を吐き、刀を鞘に収めて腰を沈めた次郎長は目を閉じる。

 五感はおろか第六感と言える戦闘勘すら研ぎ澄まし、鎌を手にした死神に渾身の一太刀を浴びせる。それが次郎長に唯一残された反撃の一手。失敗は許されない。

「………」

 静かに呼吸し、自ら静寂を作る。

 そして――

 

 バァンバァン!

 

 工場内に響く、二発の銃声。

 それに即座に反応した次郎長は抜刀し、襲い掛かる鉛玉二発を叩き斬ろうとするが――

「……!?」

 次郎長の両足の横の地面に銃弾は撃ち込まれ、そのまま減り込んでいった。

(コイツァ、(デコイ)か……!?)

 超一流を自負する男が攻撃を外すとは思えない。何か意味があるはず。

 少なくともリボーンの何らかの策であることを見抜いた次郎長は、冷静に彼の意図を探ろうとする。そこへ小さな黒い影がナイフを手に、神経を尖らせ警戒する極道者(バケモノ)との距離を詰めて襲い掛かった。

 

 ギィン!

 

 ――が、次郎長の反応が一瞬早かった。

「っ!」

「あと一歩足りなかったな」

 ナイフと化したレオンの刃は鞘で受け止められ、頭から一筋の血を流すリボーンは丸腰になる。

 拳銃はすでに破壊され、体格差を考えるとパンチやキックは届かないし、届いたとしても何らかの動作をしなければならないため隙が生じる。その間に次郎長の一太刀を浴びれば、勝敗は決する。リボーンの劣勢は明白だった。

「奈々が信頼してる以上、峰打ちで勘弁してやるよ」

 瞬時に刀を持ち直し、峰をリボーン目掛けて振り下ろす。峰打ちは相手を殺さずに倒す手段ではあるが、骨折や打撲程度のダメージは避けられない。

 勝負ありかと思われた、その時――

 

 ズガガッ!

 

「!?」

 次郎長の真下から、銃弾が二発飛び出た。先程地面に減り込んだ銃弾が、何と時間差で地面から撃ち出され頸動脈を狙ったのだ。

 リボーンが放った〝CHAOS(カオス) SHOT(ショット)〟は首を掠り、あまりにも想定外な方向からの攻撃にさすがの次郎長も怯んだ。それによって鞘の防御が崩れ、体勢そのものに隙が生じた。

「――強かったゾ、次郎長」

 リボーンは剣一本で真っ向勝負を挑んだ男に自分なりの最高の賛辞を送ると、その小さな拳に力を込めて顔面を穿った。直撃を受けた次郎長は成す術も無く殴り飛ばされ、廃墟の壁を突き破っていった。

 さすがに無事では済まないだろう。これ程のダメージを受けても十分に戦えるとなれば、リボーンはそれこそ殺す気で相手取らねばならない。

「……効いたぜ、さすがに…………!」

「っ……!」

 ジャリッ、と地面を踏む音。土煙の中から凄みを増した次郎長が現れる。

 激しい戦闘によって頭や口から血を流し、それに比例するように着物も襟巻もボロボロな状態だが、纏う気迫と闘志はより一層増している。

 まさに修羅。手負いの獣と化した次郎長は、戦う前とは比べ物にならない威圧感を放っていた。

「最強の看板を背負ってるだけはあるようだが、まだ(かり)ィな。強さは背負っているモンと護るモンで決まる。俺の強さは、おめーらマフィア者とはレベルが(ちげ)ェんだよ」

 次郎長の背中には、背負っているモノ・護るべきモノが多い。

 任侠道という己が定めた鉄の誓い。大恩ある奈々(おんな)に通すべき筋と恩返し。はみ出し者の自分に居場所を与えてくれた町。そして愛すべき溝鼠組(かぞく)。例を挙げればキリがない。

 それらを全て護り抜くには、力が必要だ。何者にも屈することなく全てを蹴散らす、圧倒的な力が。次郎長はそれに気づき、己を鍛えた。それが世界に通用するかどうかなど一切気にも留めず、大切なモノを命懸けで護り抜くために。

「おめェ……」

「リボーン、一つ問う。おめーの強さは心から認めよう。だが……」

 

 ――おめーに「護る戦い」の経験値はどれぐれーある?

 

 その問いに、リボーンは目を大きく見開いた。

 リボーンは殺し屋(ヒットマン)だ。狙った標的を確実に殺す、言わば「奪う戦い」には圧倒的な経験値がある。だが護る戦い、すなわち敵対勢力から護衛対象を死力を尽くして護り抜く戦いの経験はとても浅い。もしかすれば無いのかもしれない。

 それは人の命を奪うことを生業とする暗殺者の、ある種の宿命と言えよう。暗殺者は命を奪うことで弱肉強食の裏社会を生き抜くのだから。それでも――

「だから俺ァおめーが気に食わねェ。奪う戦いばかりしてきた奴が、護る戦いができるかよう」

 奪う戦いは、自分の身を護る戦いでもある。しかし護る戦いは、自分だけでなく他者も五体満足で護らねばならない。背後にある護るべきモノに手を出させないよう、目の前の敵を逃がさない戦い方が求められる。

 ただ強いだけでは、ダメなのだ。己の強さを敵にぶつけるだけでなく、その強さを護るべきモノにとっての〝最強の盾〟とならねばならない。みっともなく反吐をぶちまけ痛みに涙を滲ませても、己を奮わせプライドを捨ててでも護らねばならない。古里家の一件で、次郎長は護る戦いの意味をその身をもって理解している。

「おめーにオイラは殺せねーし、殺される気もねェ。あのボケナスとの決着をつけなきゃ死んでも死にきれねーってもんだ」

「……?」

 意味深な発言と共にゆっくりと迫る次郎長は、さらに闘志を燃やす。

「喧嘩第三幕、行こうぜ……次で決着(ケリ)をつける」

 闘争本能を剥き出しにした次郎長は、刀を構えてリボーンに斬りかかる。

 ――が、次郎長が刀を振るう直前にどこからか黒い何かが放たれ、地面に突き刺さった。その正体はクナイだ。

「そこまでぞよ次郎長、アルコバレーノ」

 古風な口調で現れたのは、並盛商店街を牛耳る百地だった。

 次郎長は不服そうな表情を浮かべながら鋭い眼差しを百地に向ける。

「百地……おめーがそんな野暮な女だとは思わなかったぜ」

わしら(・・・)も極道とマフィアの喧嘩に首を突っ込む気は無いが、アルコバレーノを本気で倒す気ならば容赦しない……これはハズミじゃないぞ」

「殺す気まではねーよ、ぶっ潰したくはなるがな。どうやら複雑な事情のようだが……不完全燃焼は御免だぜオイラ」

 次郎長は殺気を収めるが、纏う空気は戦場の真っ只中にいるそれだ。

 そんな彼の首筋に、刃が突きつけられた。

「……! てめーは……!?」

 次郎長に刃を向けるのは、両腕に短刀を装着した和装の大男。顔には刀傷がいくつか刻まれており、歴戦の将という言葉が似合う人相だ。

(柩か……また厄介なのが……! 一応コイツも百地の味方か……?)

 次郎長は警戒心を強くする。

 柩は天照院奈落のとりわけ高い実力を持つとされる「奈落三羽」の一角。原作での見せ場そのものは非常に少ないが、朧と肩を並べるだけあって厄介な実力者として銀時の行く手を阻んでいた。こちらの世界では、どうやら八咫烏陰陽道の三人の指導者「(きん)()」の一角であるようだ。

(コイツら、いつの間に……)

 警戒心を強くしたのは、リボーンもだった。

 暗殺を生業とする職業ゆえ、他人の殺意は誰よりも敏感であるはずなのに二人の気配を感知するのに遅れてしまった。つまり相手は自分と同等、またはそれ以上の暗殺者である可能性が高いということに他ならない。同業者の中に伝説級の殺し屋である〝蜘蛛手の地雷亜〟のような化け物レベルの実力者がいるが、目の前の二人はその彼と引けを取らないだろう。

「……次郎長、これ以上暴れるなら我々が相手取る」

「………ちっ、何でこう一番盛り上がるタイミングで邪魔が(へェ)るんでい」

 次郎長は悪態を吐くも、興が醒めたのか渋々刀を収める。

 それに呼応するように百地と柩は手を引いた。

「……おい、百地っつったよな」

「?」

「おめーらは何者だ。なぜアルコバレーノを知っている」

「――我々は日ノ本の守護者。真の八咫烏の羽からは何物も逃れられはしない……それだけだ」

 まるで暗号のような言葉を残し、百地と柩は煙のように消え去っていった。

「……仕方ねェ、今日はここで終わりにすらァ。目的は一応果たしたしな……及第点だバカ野郎」

 次郎長はどこか満足気に微笑むが、リボーンとの激闘で蓄積されたダメージと疲労が同時に身体を襲ったのか、足をふらつかせる。

 すかさず愛刀を杖代わりにして体を支えると踵を返し、リボーンも「アレぐれーの強さがツナにあればな」と呟いて工場跡地から出ていった。

 そんな二人を、息を殺して覗き見る人影が。

(……あの時よりも強くなってますね、次郎長。だが次に相対した時がお前の最期だ)

 

 

 翌日、体中に湿布と包帯を巻かれた次郎長と頭に包帯を巻いたリボーンが二人でベンチに座り一服していたところを恭弥が目撃したとか。




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