浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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久しぶりの更新ですね。


標的45:病院でオイタは禁止

 並盛中央病院。

 その廊下で、ツナと炎真は松葉杖を突きながら歩いていた。

「「ハァ……」」

「全く、どうしようもないガキ共だよ。アンタ達も大変だねェ」

 哀れみの言葉を投げ掛ける内野婦長に、ツナと炎真は申し訳なさそうに顔をうなだれる。

 二人は昨日、イタリアからわざわざ「また」来たディーノのペットが暴走したせいで足を骨折し、人生初の入院となった。

 入院後も、二人はトラブルに見舞われた。それも本来はありがたいはずの見舞いの方だ。なぜか満身創痍の状態で来た獄寺、ポイズンクッキングを手に持ったビアンキ、昼食ワゴンに乗ったランボ……患者側としては来てもらったのは嬉しいが、病院側が嫌がる人選だ。

 それは炎真も例外ではない。妹の真美にらうじや紅葉、変装したSHITT・P!(シットピー)は場の空気を読んでいたが、病院のナースに手当たり次第ナンパする加藤ジュリーのせいでハズミで冷たい目で見られてしまい、ツナと同じ運命を辿っている。ダメ人間な部分であるだけでなく友人あるいは部下に恵まれてないのも同じであるようだ。

 最終的には騒ぎを起こす彼らを見かねた内野婦長が目の前でメロンを握り潰し、献身的な看護師とは思えない極妻のようなドスの利いた声で周囲を黙らせ、獄寺達の恐怖心を煽る形で強制退室させた。

「内野さん、すいません……」

「あんなヤンチャ坊主共は佐野さんじゃ手に負えないよ。ああいう連中の扱いに長けてるあたしに任せな」

 看護師の佐野(さの)(とし)()も、トラブルばかり起こす入院患者にはお手上げなのか内野に頭を下げる。

「ここだよ。この部屋なら嫌なくらい安静にしていられるよ。中にいるあの化け物とは縁があるんだろう? 少しは気が楽になると良いね」

「「へ?」」

「で、では私はこれで……」

 目的の病室の前に来た途端、佐野看護師はそそくさと踵を返し、それに続いて内野婦長も「じっとしてな」と一言告げて悠然と去っていく。

 化け物という単語が気になって仕方ないが、このまま廊下にいるわけにもいかず、互いに顔を見合わせてドアをノックした。

「し、失礼しま~す……」

 そろりとドアを開けると、そこには見慣れた二人が。

「やあ、小動物」

「!」

 そこにいたのは、黒いパジャマ姿の恭弥だった。しかも彼の向かい側には患者衣の上着を袖を通さず羽織った上半身裸の次郎長がベッドに腰掛けている。

 内野婦長の言う化け物とは、次郎長のことだったのだ。

「………ツナ、炎真、おめーらどうした?」

「いや、実は……」

「ディーノさんのペットが暴れて……」

「そういやあペット系の災難によく遭うよな、おめーら」

 次郎長のさりげない一言に、二人揃って目を逸らす。

 ツナと炎真は動物、特にペット系の災難に見舞われることが多い。ツナは幼少期にチワワに吠えられ、炎真も並盛で度々猛犬に追いかけられるところを目撃されている。不幸体質も共通しているとなると、もはや笑うしかなくなる。

「ちなみにその後、尚弥さんにバレて袋叩きに遭ったらしいです」

「そりゃそうだろ、アイツはオイラと一対一(サシ)で渡り合える強さだ。そもそもこの町で破壊活動すること自体が自殺行為だ」

 どうやらディーノは並盛に君臨する化け物に二度も制裁を食らうハメになったようだ。彼はキャバッローネファミリーの現ボスらしいのだが、ヤクザに加えカタギにまでフルボッコにされては面目丸潰れ・未来永劫末代までの恥になるかもしれない。

「そ、それで……おじさんとヒバリさんがなぜ同じ部屋に……?」

「ここァ町の裏社会関係者専用の療養部屋だ。雲雀家やオイラみてーな無法者が安静に療養するために院長が自費で作った部屋ってこった」

「要は一番危険じゃん!!」

「安心しろ、ここは院長と元暴走族総長の内野婦長が万年担当している部屋だ。ある意味で一番安全な病室さ……ゆっくり休んでいけ」

 さっきの婦長が暴走族の総長だったという衝撃のカミングアウトに顔を引きつらせるが、あの獄寺達を震え上がらせた彼女の剣幕を思い出してどこか納得していた。それ以前にそんな危険人物を雇った院長にもある種の恐怖を抱いたが。

 しかし、先程と比べると静かであるのは事実。恭弥と相部屋なのが気掛かりだが、彼を幾度となく退けた次郎長がいる限りどうにかなるだろう。

(どうか、何事も起きませんように……!)

(もうトラブルは御免だよ……)

 ツナと炎真は心の中で願いながら、松葉杖を動かしてベッドで横になった。

 

 

 横になってから、半日が経過した。

 廊下の足音も時計の針の音もしないこの病室は、殺風景だが心置きなく休める。見舞いに来てくれたのは嬉しいが、こうして静かにゆっくり休めるのが一番だ。

(まさかおじさんとヒバリさんと同じ部屋になるとは思わなかったな……)

(二人は一体何を……)

 寝たフリをしつつ、チラッと並盛町にその名を轟かす実力者達の様子を伺う。

 二人は本をめくるだけだった。恭弥は小説を読んでおり、その物静かな横顔はとても中学校で恐怖政治を敷いている人物とは思えない。それに対し次郎長は週刊誌を読んでおり、ヤクザの組長の休日というよりも一般家庭の世帯主の休日と言う方が似合う雰囲気だ。

 ただ、次郎長が愛読している週刊誌の表紙には「イタリア系マフィア、日本進出か」という文字がこれ見よがしに記されている。マフィアとの接点が増える一方のツナにとって、これ程不安を煽る謳い文句は無いだろう。

 そんな中、次郎長が沈黙を破った。

「……おい、恭弥。ババ抜きで賭け事しねーか? 負けた奴は売店まで全員分のジュースを買うってルールで」

「咬み殺さないのかい?」

「病院でケガ増やしちまったら世話ねーだろ」

 ごもっともである。

「……わかった。ただしそこの小動物達もね」

「「へッ!?」」

「おめーらどうせ起きてるだろ? 暇だしやろーぜ」

 どうやら寝たフリをしていたのは次郎長と恭弥に見破られていたようだ。

 溜め息を吐きつつ、松葉杖を使って歩き、次郎長のベッドへ向かう。ババ抜き自体はたまにやるが、これ程個性的な面子で遊ぶなど滅多に無い。ましてやジュースを賭けているので、賭け事の要素を含んだトランプは初めてだ。

「う~っし、やるぞ。カードはオイラが切るぜ」

 カードを手の中でシャッフルさせる次郎長だが、他の三人はカードよりも次郎長の体に視線を集中させていた。

 程よく引き締まった褐色の肉体、サラシを巻いていてもはっきりと割れているのが見える腹筋、そして数々の生々しい傷痕。とても同じ町で暮らす者とは思えない次郎長の体に、ツナと炎真は絶句。恭弥は目を見開いたまま呆然とした。

 この人はどれだけ戦ってきたのだろうか。どれだけ血を流し、自分を傷つけてきたのだろうか。どれだけ死を覚悟してきたのだろうか。

 自分達が平和に暮らしている裏で、次郎長はこんなにも傷ついている。当の本人は一切気にせず振る舞っているが、彼に護られている二人は胸が苦しくなった。なぜか恭弥は獰猛な笑顔を浮かべているが。

「……そういえば、おじさんは何で入院したの?」

「あ!」

「ああ、何だかんだ言ってなかったな」

 炎真の言葉にハッとなるツナ。

 次郎長は頭を掻きながら、入院の経緯を語る。

「昔潰した敵対組織の残党が徒党を組んでオイラの(タマ)ァとりに来てな。一人残らず返り討ちしたらリボーンとの喧嘩で負った傷が開いた」

「お、おっかねェ……じゃなくて! ごめんなさいっ!」

 事情を知ったツナは、顔を青くして頭を下げた。

 次郎長は突然の謝罪にきょとんとした後、口を開いた。

「ツナ……なぜ謝る?」

「だ、だってリボーンがおじさんを――」

「この傷は自分(てめー)が売った喧嘩の結果だ、自分(てめー)責任(ケツ)を持たなきゃ筋が通らねーってんでい。ツナが気負うようなことじゃねーさ」

 それは次郎長の一端の極道として譲れない信念だった。

 〝自分から吹っ掛けた因縁でどんな目に遭いどれだけ傷ついても、自分で責任(ケツ)を持って事を収めるのが(おとこ)〟――

 その考えが次郎長を(おとこ)たらしめるものであり、町一帯の裏社会の頂に君臨する無法者でありながら町の顔役となれる「王の覚悟」なのだ。

(しかし、また不完全燃焼で終わっちった。家光と尚弥に続いて(こん)()ァ〝アルコバレーノ〟……尚弥は同志だから諦めがつくが、家光とリボーンは別だ)

 シャッフルしたカードを配り、同位の札を二枚ずつペアにして場に捨てていきゲームを始める。次々にカードを引いていき、黙々と手札を減らしていくと、いつの間にか全員が残り三枚となっていた。

 ちなみにジョーカーはツナである。

「そういやあ話変えるけど、恭弥(おめー)は何で入院してんだ? 俺と違ってピンピンしてんじゃねーか」

 話は入院目的になる。

 ツナと炎真はディーノのペットであるスポンジスッポン――水を吸うことで巨大・凶暴化するカメ――のエンツィオの暴走に巻き込まれて入院。次郎長はかつて潰した敵の残党を返り討ちにした際に完治しきっていない傷が開いて入院。この流れでは恭弥は何か感染症か何かの手術の後かと思われた。

 しかし実際は、もっと別の理由で呆気ないものだった。

「風邪を(こじ)らせてね……もうほとんどいいんだけど、大事をとって療養しているんだ」

「え? おめー風邪拗らせたの? そんな柔な身体じゃあ天下の次郎長に勝つのァ当分先だな」

 

 ガキィン!

 

 何の前触れも無く、目にも止まらぬ速さでトンファーを振るってきた恭弥。次郎長はベッドの横に置いていた刀をそれ以上の速さで抜いて受け止めると、病室に金属音が響く。

「――咬み殺されたい?」

 次郎長の一言に機嫌を損ねた恭弥は、肌をビリビリとさせる殺気を放って睨む。その威圧感にツナと炎真は気圧されるが、次郎長は余裕に満ちた表情で不良の頂点を見据える。

「……それに好きで入院したわけじゃないんだ。父がうるさいんだよ」

「あー……あの親バカじゃあしゃーねーわな」

 次郎長は余裕に満ちた表情を一変させ、今度は引きつった笑みを浮かべた。

 〝大侠客の泥水次郎長〟と対の立場でありつつ、共に町を想う同志である〝鬼雲雀〟こと雲雀尚弥。彼の強さは文字通り鬼のようであり、並盛町の住民の中では唯一次郎長と互角に渡り合える猛者だ。ゆえに強者との戦いを求め続ける恭弥にとって、父親の尚弥は次郎長と共に超えるべき目標として定めている。

 そんな尚弥だが、彼は次郎長と互角の猛者という事実だけでなく自他共認める親バカとしても知られ、その親バカっぷりは日常はおろか仕事中にも出てくる始末。実子である恭弥はおろか彼を慕う部下すら呆れかえる程で、ドがつく溺愛ぶりなのだ。

「アイツの辞書に子離れって単語ァ載ってねーからな。多分これから加筆されることねーんじゃね? バカ光に比べりゃまともだろうが」

「露骨に蒸発した俺のクソ親父嫌ってる!!」

「ツナ君、君も大概だよ?」

「君がそこまで嫌う沢田家光は何をやらかしたんだろうね。ハイ、一抜けた」

「「ああっ!」」

「おいおい、マジか……!?」

 いつの間にか一抜けた恭弥に、出し抜かれた三人は驚く。

 そこへ、扉を三回叩いて一人の男が見舞い品を片手に姿を現した。

「恭弥様」

「やあ、蘭丸」

「「恭弥様!?」」

 恭弥を様付けで呼ぶのは、並盛町風紀委員会の副会長である男・黒部蘭丸だった。

 次郎長や尚弥の一つ下の世代だが、その経営手腕と腕っ節はかなりのものだ。

「恭弥様、あまりご無理なさらないでください……あなたは尚弥様の跡を継いでこの町を統べるんですよ?」

 呆れたように呟ながら見舞い品のシュークリーム――並盛駅で販売――を振る舞うと、今度は次郎長に目を配り会釈した。

「次郎長親分もご苦労様です、此度の一件は助かりました。あなたが囮になってくれたことで連中の息のかかった人間を一人残らず全め……粛正でき、尚弥様も大層喜んでおられる。謝礼として入院費はこちらで負担します」

「ああ、いいってことよ。オイラ達とおめーさん達は持ちつ持たれつだろ? こちとらきっちり元を取れたから万々歳でい」

(全滅って言いかけた!?)

 話の流れでは、どうやら次郎長と尚弥が手を組んで悪党共を一人残らず掃討したようである。色々ツッコミ所がある会話だが、聞かない方がいいかもしれない。

「じゃあ、そろそろ退院とするか。蘭丸、院長に掛け合っておいて」

「もうよろしいので?」

「もうほとんど治ってるからね。それに一日でも早く体づくりをしないと次郎長を超えられない」

 トンファーを携えてパジャマ姿のまま靴を履く恭弥。

 蘭丸はその上から学ランを羽織らせ、ドアを開けて敬愛する少年を連れて風のように去っていった。

「ヒバリさん……本当に何者なの……?」

「パジャマのまま行っちゃったね……」

「ったく、変なところで意地張るようになりやがって。意地にも張り方があんだぞ」

 好き勝手に振る舞う恭弥をそれぞれ語りながら、ババ抜きの続きを始めるのだった。

 

 

           *

 

 

 その日の深夜。

 日付が変わるまであと数十分……月の光が映える中、次郎長は一人屋上で煙管を吹かしていた。

 口からゆっくり煙を吐けば、風が優しく吹き抜け色を失った髪が煙と共になびく。目の前に広がる並盛の夜景を見る度に、自分の稼業(いきかた)が愛する町を護り抜いているという事実を実感する。

 二十年前と比べれば賑やかで、それでいて秩序が安定している。自分と肩を並べる同志の尽力もあるが、その結果が目の前のどこか優しい光に包まれた夜景だと思うと、内心嬉しくなるものだ。

「……だからこそ、てめーらの思い通りにゃさせねーってんでい、ボンゴレ」

 火皿の灰を落とし、次郎長は星空を仰ぐ。

 この町をマフィア共に荒らされるわけにはいかない。奈々の笑顔を奪われるわけにも、ツナを裏社会に引きずり込ませるわけにもいかない。(おとこ)捨てて、人間やめてでも、這いつくばってでも生きて護り抜かねばならない。それが信念――(おとこ)の鎖なのだ。

 たとえ相手が家光だろうと、ヌフフのナス太郎だろうと、世界最大のマフィアだろうと、この世界そのものだろうと、大切なモノを護り抜くために全てを叩き潰す。それが並盛の王者〝大侠客の泥水次郎長〟なのだから。

 ふいに、背後から気配を感じた。殺気は感じないが――殺しの道を歩んでいるがゆえか、常人以上に薄く並の人間では認知できないような気配だ。

「……見知った顔にそりゃあねーんじゃねーかい? 月詠」

「ハァ……わっちは患者が起きんようにしただけなんじゃが」

 現れたのは、地雷亜の弟子にして彼を継ぐ暗殺術を心得ている女の殺し屋(ヒットマン)・月詠であった。

「ぬしが師匠に頼んでおったシモンファミリーの情報じゃ」

「おう、ありがとよ」

 次郎長は月詠に礼を言い、マッチに火を点けて口角を上げる。その意を察したのか、月詠は自らの煙管を取り出して刻み煙草を詰めて火皿を寄せた。

 実を言うと、次郎長と月詠は喫煙仲間。男女の関係などこれっぽっちも無いが、嗜好が同じゆえか妙に気が合い、たまに一服して日々の愚痴を零したり互いに情報提供をする。今回は次郎長が地雷亜に依頼したため金の取引が発生するが、事前に払っておいたので問題は無い。

「――で、どうだったよ」

「シモンファミリーの情報じゃが、その多くがもみ消されておった」

「! ……理由は?」

「わからん。どういう訳か執拗なまでにかき消されておるんじゃ」

 次郎長は目を細め、煙管を持っていない方の手を顎に当てる。

 シモンファミリーはただのボンゴレの同盟ファミリーではない。当時のボンゴレの中核団体と言っても過言ではなく、創設のきっかけとなったⅠ世(プリーモ)の親友シモン=コザァートが率いた組織である。しかし(デイモン)・スペードの策略によって身を隠し、それ以降は日陰者の道を歩み現在に至る。

 これは五分の盃を交わした義兄弟の現ボス・真から聞いており、次郎長もシモンの歴史はある程度把握している。だが真自身が把握している情報は少なく、気になった次郎長は地雷亜に依頼したのだが、あの地雷亜ですら入手できる情報は少なかったようだ。

「じゃがわかったことはある。今のシモンファミリーの構成員は、全員が早くに家族を亡くしておる。しかもボンゴレの迫害付きでな……」

「……」

「とはいえ、あくまでもボンゴレというよりもその同盟ファミリーのようじゃ。まあ、ぬしから見ればどっちも同じようなものじゃろうが」

「ったりめーだ、盃返すようなマネしてる奴を放っとくバカがどこにいる」

 火皿の灰を落とす次郎長は、呆れた様子で言葉を紡ぐ。

「しかし参ったな。まさかおめーさんの師匠でも引っ掛からねーのァ想定外だった」

「――ぬしはどうする」

「角度を変えてみるしかねーな……同じモンでも見方によって見える景色が違う。――情報ありがとよ」

 煙管を仕舞い、病室へと戻るため屋上の入口へと向かう。

 その背中を、紫煙を燻らせながら月詠はただ黙って見つめていた。

 

 

 同時刻、イタリア某所。

 この地には麻薬の密売や人身売買、希少動物の違法貿易で勢力を拡大してきたファミリーが君臨していたが、たった今(・・・・)とある少年グループによって壊滅させられていた。

 マフィア狩りと恐れられている六道骸とその一味。彼らは皆日本でいう中学生くらいの若さではあるが、それに不釣り合いなまでの強さと抜群のチームワークで銃火器で武装した大人を肉弾戦で次々に屠っていた。

「呆気ないものですね」

 返り血を浴びた少年――六道骸は冷酷な笑みを浮かべて屍となった男を見下ろす。

 彼を含めてたった三人の少年によって、組織は壊滅された。敵から見れば恐怖そのものと言えるその一味は、マフィア潰しとして恐れられていた。

「クフフ……」

 穏やかでありながらどこか冷酷そうな笑みを浮かべる骸の脳裏に、一人の男の顔が浮かび上がる。

 それは彼が唯一裏社会の人間で、いや、今まで関わってきた人間で唯一心から敬意を払える男の顔……泥水次郎長の顔だ。

 

 ――骸……泣きてー時は涙一杯流して泣きゃあいいし、笑いてー時は思いっきり笑えばいい。もうおめーを縛る奴ァいねェ、思うがままに趣いたままに生きろ。

 

 次郎長と出会ってから早6年。まだロクに能力を扱えない未熟で無力な自分を地獄から救い、その自由を保障してくれた彼と過ごした時間はあまりにも短すぎた。それでも骸は昨日の出来事のように憶えており、一日たりとも忘れなかった。

 骸についてきた犬も千種もだ。彼らは骸と同様マフィアを憎悪しているが、同じ裏社会の人間でも次郎長だけは違った。マフィア界で彼に関する話題が広まるとすぐに興味を示し、早く会いたいと骸に迫る程だった。

(人間は醜く、すぐに裏切る。ゆえに僕はこの世界を嫌っている。でもあの人だけは……)

 次郎長は骸の人間に対する考えから外れた、唯一無二の存在だ。

 あの忌々しいエストラーネオファミリーの実験室で出会ったのは、間違いなくただの偶然だろう。だが人間不信に陥った自分を恐れも軽蔑もせず、何の見返りも求めず自由の身にしてくれた。六道輪廻の能力を利用しようとも考えず、ただ見ず知らずの子供を救ってやりたいという思いだけで組織丸ごと敵に回して潰し、命を繋げてくれた。

 だからこそ、骸は確信している。あの人間だけは――次郎長だけは決して自分を裏切らないと。

(そろそろ頃合いですかね……)

 すると、マフィアとの戦闘で返り血を浴びた仲間――柿本千種と城島犬が駆けつけた。

「こっちは全部始末しました………」

「楽勝だったぴょん!」

「クフフ……そうですか」

 得物の三叉槍についた血を払うと、骸は仲間達に宣言した。

「千種、犬。もういいでしょう……約束を果たしますよ」

 その言葉に、二人は目を見開いて歓喜に近い表情を浮かべた。

「骸しゃん!!」

「まさか、ついに……!」

「ええ……行きましょう、日本へ」

 約束の時は、刻一刻と迫っていた。




そろそろ骸を並盛に招待しようと思います。(笑)
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