新年初投稿です。
目を覚ませば、いつもの光景とは限らないものなのか。――それが今の次郎長の心境だった。
(ここァ……
雲一つ存在しない満月の星空、どこにも咲いていないのに桜の花びらと紅花の花びらが舞う。無限に続くように思える荒野には、山も無ければ谷も無い。しかしその荒野には、よく見ると刃こぼれした刀が無造作に刺さっており薬莢が無数に転がっていて、何かの戦いが終結したかのようにも思える。
「夢の中、なのか? ――っ!」
ふと、突然現れた背後の気配に反応し、次郎長は目にも止まらぬ速さで振り返り居合の構えを取る。
しかしその視線の先にいたのは、意外な人物だった。
「そう警戒しないでください……僕ですよ親分」
青い左目と赤い右目、六の文字が見える右の瞳、
その特徴的かつ独特のシルエットに次郎長は目を見開いた。
「…………パイナップルが喋った!?」
「何ですかその間は!? わざとですね!?」
――僕だって若いんですよ!!
着物を掴んで怒る骸に、次郎長は「
「ハァ……親分、さっさと殺気解いてください。そこまで警戒しますか?」
「
「こんな殺伐とした世界なわけないじゃないですか! ここは
次郎長は周りを見渡して「殺伐、ねェ」と呑気に呟く。
骸曰く、深い眠りに就いた時こそ他人の精神世界を渡れるとのこと。彼は豊かな草花が咲く草原からこの日本刀と薬莢が転がる荒野に辿り着いたらしい。
「この精神世界は……初めてですね。荒れ地でありながら花が舞うなんて。これはあなたの人生そのものかもしれません」
裏社会という荒野で、花を咲かせ落としていく。それは
「……で、何の用でい」
「おや、意外と戸惑わないんですね」
「こんな体験は初めてだが、オイラも極道の組長なんだ。何事にも悠然と構えておかなきゃならねェ」
本題を切り出す次郎長に、骸は目を細めながら口を開いた。
「実を言いますと、僕達は隣町の黒曜ヘルシーランドを根城としてまして」
「そうなのか? そこって確か廃墟だった気がしたが」
「ええ、ぜひ来てほしいのです。できれば並盛町で一番美味しいチョコレートのお菓子を持参していただいて。即興ですがお茶会をしたいのです。お願いしますよ……クフフ」
「ん? おいちょっと待て……」
骸の言葉に何か気がついた次郎長は目を見開くが、それと共に視界が真っ白になった。
「――恩人をパシリにするたァいい度胸じゃねーかこのクフフナッポー!!」
「うわっ!? オ、オジキ、おはようございやす!」
「な、何や? どないしたんオジキ?」
「何の夢見とったんじゃ……」
ツッコミと共に布団から跳ね起きた次郎長に、朝食が出来て起こしに来た子分達がビックリするハメになった。
*
おやつ時、次郎長がラ・ナミモリーヌで販売中のチョコレートケーキを土産に訪れたのは、かつては複合娯楽施設として栄えていた廃墟・黒曜センター。
旧国道の開設によって訪れる人が激減したことで閉鎖された店は、見る影もない程に廃れている。改築計画もあったのだが、一昨年の台風で発生した土砂崩れのせいで建物もあちこちが土砂に埋まり、撤去にかかる費用が莫大なため土砂崩れ直後の姿のまま放置されている。夢の跡という言葉が最も似合うだろう。
「カギは錆びきってるか……」
入り口は錆びついた門で閉ざされており、その上これまた錆びている鍵で頑丈に施錠されている。錆を落とすための道具を持ってきていない以上、開けるのは至難の業だ。
ただし、次郎長の場合は当てはまらない。
ガゴォン!
次郎長は刀を抜くまでもないと言わんばかりに蹴り一発で破砕。並盛最強の喧嘩師に恥じない鍛えぬいたパワーは、錆びついてるとはいえ鉄製の扉を軽々と吹っ飛ばした。吹き飛ばされた扉は轟音と共に土煙を上げて地面に転がった。
その直後、甲高い悲鳴が木霊した。声色からして男、それも中学生ぐらいの声だ。
まさかと思って次郎長は声が聞こえた方へと足を運ぶと……。
「あ、危ねえ……ジロチョーのおっちゃん、何すんら! ちょっとズレてたら直撃してたんらぞ!!」
腰を抜かして激怒しているのは、骸一味の城島犬。
「いやァ、スマン。……アレ? おめー滑舌悪かったっけ?」
「う、うるへーら!!」
再会して最初の一言が口調の指摘であることに、城島は思わず顔を赤くして怒鳴る。
その背後から、どこか気怠そうにもう一人の少年が姿を現した。その少年もまた、憶えのある顔だ。白い帽子に眼鏡を着用し、バーコードのタトゥーが特徴の少年など、6年前に会った彼以外いないだろう。
「……お久しぶりです」
「
面倒臭そうに、それでいてどこか嬉しそうに挨拶する柿本千種。
6年の時を経て次郎長よりも少し背が高いくらいに成長しており、中学生ながらもどこか大人びているようにも思える。
「手紙を送られることが何度かあったから大丈夫たァ思ってたがよう……元気そうじゃねーか千種」
「はい。それにしても……」
千種は顔を引きつらせながら次郎長が蹴飛ばした扉を見る。扉は蹴られた部分が大きく変形し、足形らしきモノがくっきりと残っている。
次郎長は豪腕の持ち主であり、幼少期から多くの悪タレ共を薙ぎ倒してきた猛者。それは脚力も例外ではなく、一撃で戦闘不能に追い込むことも可能なまでに鍛えてあるのだ。
「……別に正面から来なくてもいいのに」
「俺ァ
「か、かっちょええ……」
誰の家であっても正面から堂々と入る――ただし入り方は別のようだ――と言い放つ次郎長に、城島は思わずカッコよく感じてしまう。
「……どうした、客が来たんだからアイツに会わせろよ」
「わ、わかったびょん!」
「……付いて来て」
城島と千種に案内され、次郎長は黒曜ヘルシーランドの三階にあるシネマフロア手前の扉に辿り着いた。
その扉を開けると、目の前のソファーで骸が手を組んで座っていた。
「クフフ……また会えましたね」
怪しげな笑みを浮かべる骸。テーブルにはカップと湯呑みが置かれており、確かに茶会をする気であるようだ。彼の醸し出す雰囲気は危険さを孕みつつも、かつての大恩ある人物との再会を喜んでいるのか、とても穏やかそうにも感じる。
次郎長はズカズカと肩を怒らせてソファーに腰掛けると、鋭い双眸で睨んだ。
「……おめー今度からクフフナッポーって呼んでやるから覚悟しとけ」
「僕が一体何をしたっていうんですかっ!?」
命の恩人をパシリ扱いしたことに未だ腹を立てている次郎長。当の骸は自分の言動で怒りを買ったことなど全く知らずに驚いており、それが余計にカチンとくる。
それを見ていた犬は腹を抱えて爆笑し、不愛想な千種でさえ笑いを必死に堪えている。命の恩人に口癖と髪型を同時にイジったあだ名で呼ばれたら笑うに決まっているのだが。
「いいよ、ホントおめー今度からクフフナッポーで。六道骸って二度と呼ばねーから」
「今朝のこと引きずってたんですか!?」
「ったりめーだろ。何様のつもりなんでい、てめーは」
どうやら精神世界での一件を忘れていなかったようである。
骸はようやく腹を立てていることに気づいて平謝りする。次郎長は「わかりゃいい」とあっさり水に流すと、要求していたチョコレートケーキを差し出して骸に訊いた。
「吸っていいか? オイラァ喫煙者なんでい」
「クフフ……お好きにどうぞ」
次郎長は煙管を取り出して紫煙を燻らせる。
すると骸は何かを思い出したのか、一度目を見開いてから次郎長に告げた。
「ただ犬は嗅覚が人一倍強いので気を遣っていただけると――」
「じゃあおめーに向けとくよう」
煙管の吸い口から口を離し、骸の顔面向けてフッと口から勢いよく煙を吐いた。不意打ち同然の行動に骸は避けることもできず、モロに浴びてゴホゴホと涙目で咳き込んでしまう。
胸がすいたのか愉快そうに笑う次郎長に、骸はムカついたのか右目の六の字を「三」の字に変えた。
「~~~~~っ!! 畜生道!!」
「ん?」
刹那、頭上から大量の蛇が落ちてきた。
次郎長は煙管を咥えたまま、傍に立てかけていた愛刀を振るい、あっという間に全ての蛇を斬り伏せてしまう。
「おい骸、おめーまさか環境整備もロクにできねーのか?」
「いやいやいや! 毒蛇落とされても一切動じず斬れるなんて、あなた本当に人間ですか!?」
「おい、今の言い方だと恩人に毒蛇落としたって聞こえるんだけど」
ちょっと聞き捨てならない言葉が飛び出したことに次郎長は呆れながらも、刀を鞘に納めて再び傍に立てかける。
「ま、まあチョコレートケーキに免じて許しましょう。犬、千種。僕は彼と二人で話したいのでよろしいですか?」
二人きりで話したい骸の意思を尊重し、城島と千種はそそくさと出ていく。
次郎長は煙管を咥えたまま、骸の双眸を見据える。
「……6年前の記憶が正しけりゃあ、おめーって幻覚見せられるんじゃなかったのか?」
「おや。その洞察力はさすがと言ったところでしょうか……今のも僕の
「人間は死ぬと生まれ変わってどっか行くっつー仏教のアレか?」
「ちょっと、雑ですよ表現が。……僕の体には前世に六道全ての冥界を廻った記憶が刻まれていましてね、六つの冥界から六つの戦闘能力を授かった――」
「ああ、そういう設定ね。6年の間に頭のネジが飛んじまってるってことじゃなくて」
「設定とか言わないでください!! 中二病だと思われるじゃないですか!!」
「言っとくけど名前の時点で十分中二病だと思われんぞおめェ」
畳み掛けるトゲのある発言に若干涙目になる骸は、気を取り直して
相手に幻を見せ、永遠の悪夢により精神を破壊する「地獄道」。
憑依された人間の技を使う「餓鬼道」。
相手を死に至らしめる生物を召喚する「畜生道」。
右眼から
体から黒い闘気を出し、修羅道以上に格闘能力を上げる「人間道」。
相手をマインドコントロールし、意のままに操る「天界道」。
骸はこの六つの特殊能力――〝六道輪廻〟を行使して非人道的な資金獲得活動を行う黒マフィアをひたすら潰し回っているという。
「憑依? んだその幽霊みてーな能力は」
「僕は憑依弾という特殊弾を用いて、この三又槍で傷付けた相手に憑依できるのですよ。――当然あなたの身体も乗っ取れる」
「やってみるか?」
「いいえ、遠慮します。憑依弾は数が少ない上、あなたの身体を支配するなんてマネは僕の美学に反する」
骸は命の恩人を失望させるような行動は絶対にしないと断言する。
(もっとも、確実に乗っ取れる自信も無いんですけどね……)
「……カタギにゃ手ェ出してねーだろうな?」
「愚問ですね。千種も犬も弁えてますよ……当然僕も」
「……そうかい」
次郎長は安心したように表情を緩めた。
復讐心とはこじれやすいものであり、一度囚われたら本来は関係ない人間まで巻き込み手を掛けてしまいやすい。そして復讐には見返りなどなく、深い悲しみに囚われ続けてしまうものでもある。
いくら大人びてる骸でも、マフィアへの憎しみを募らせている以上その刃を向ける相手を間違えてしまうのではと危惧していたが、杞憂のようだ。彼らの裏にいるバミューダ達が目を光らせていたのかもしれない。
「……そう言えば、あなたは随分と沢田綱吉に肩入れしてますね」
「……骸」
話は突如ツナの話題に切り替わった途端、次郎長は殺気を漂わせて骸を威嚇した。
どんなにマフィアへの憎悪が強くとも、その矛先を血統以外は何の接点も無いカタギ同然のツナに向けるのならば、次郎長は剣を抜く。
その意思を汲み取ったのか、骸は「興味があるだけで手は出しませんよ」と弁明する。
「……20年も前の義理をずっと果たし続けてるだけのネタに随分食いつくんだな」
「20年……義理というのは沢田綱吉の親の方ですか?」
「正確に言えば同級生であるツナの母親の方
次郎長は煙を吐きながら天井を仰ぐ。
「そういやあ、ソッチで何か動きとかあったか? ボンゴレの情報あると嬉しいんだけど」
縄張りである並盛町を護ることにこだわる次郎長とその一家にとって、海外情勢は本来どうでもいい話だ。しかし近頃のマフィアの介入は著しいものであり、特にリボーンを軸にして町内で騒動が度々起こる。海外勢力の台頭を溝鼠組ができる範囲で防ぐためにも、情報収集は欠かせないのだ。
そんなことを考えている次郎長の要求に、骸は「一つだけありますよ」と目を細めて告げた。
「……これはあくまでも噂なのですが、ボンゴレの一部関係者があなたを目障りな敵と認識しているようです」
「……その情報、どこからでい?」
「ボンゴレの縄張りですが……意外ですね、わかってたのですか?」
「むしろそう読んでいただけでい」
ツナを10代目にしたがるボンゴレファミリーにとって、次郎長はツナの強力な味方である反面ツナをマフィアにさせないよう動くため、不都合な存在と見なされる可能性が高い。ただでさえ家光とは仲が悪い上、人間離れしている圧倒的な実力とツナ自身からの信頼の厚さが拍車をかけている。
ツナをボンゴレ次期ボスにさせるには、次郎長を排除せねばならない――9代目がどこまで関わってるかはともかく、ボンゴレの上層部にはそういう結論に至った輩が一定数いるのだろう。
「オイラとしちゃあ
「相当の恨みを買ってるようですね……」
「創立者の血統っつー理由でカタギを巨大マフィアの
「それは……不愉快極まりないですね」
「だろ? ツナたァ
無性に苛立ってきた次郎長に、骸は心の中でボンゴレに合掌したのだった。
*
一方、並盛町にある道場「あさり組」で、二人の男が竹刀をぶつけ合っていた。
一人は、寿司屋「竹寿司」を経営する板前・山本剛。もう一人は町の秩序たる雲雀尚弥の右腕・黒部蘭丸。二人は剣の道に秀でており、あの次郎長も一目置く程の実力者である。
「ハァ……ハァ……」
「ゼェ……ゼェ……」
互いに一歩も譲らず。
手合わせを始めて早一時間弱……鍔迫り合いの力押しから僅かな隙を狙ってバランスを奪う技まで、あらゆる手を使って渡り合った。
それでも決着がなお着かないのは、二人の技量が同格であるということに他ならない。
「さすがにこれ以上はダメかな。店の準備も事務もあるんだ、ここらで御終いとしよう」
試合終了を告げたのは、二人の試合をずっと観覧していた尚弥。
その隣には、何と並中生である持田剣介がいる。実は剣介は風紀委員会に属するようになり、恭弥の部下となったのだ。
尚弥は並盛町の実質的な最高権力者であり、教育委員会や各学校で持ち上がった話題を全て把握している。その中でツナと剣介の体育館での騒動が持ち上がり、悲運にも剣道部主将という肩書きもあって尚弥に目を付けられ強制的に入れられたのである。
ちなみに剣介の親は泣いて喜んだとか……。
「僕達風紀委員会はトラブル解決の為にも〝個の武〟を求める。鍛え抜いた強さで風紀を維持するのが、風紀委員会の伝統でもあるからね」
「お、おっかねェ……」
「きっちりかっちり鍛えさせてあげる。君のようなモブにはこれ以上無い名誉だよ」
「モブ言わないでください!!」
極道顔負けの威圧的な笑みに、剣介は泣きそうになる。
しかし、だ。眼前の本物の剣豪の強さに憧れているのも事実。剣道部主将として、心に火が点いているのも事実である。
(……学校では散々な目に遭ったそうだけど、そのまま終わらせるわけにはいかないな。恭弥のために強くなってもらうよ、持田剣介)
尚弥は口角を上げ、不敵に笑う。
その同時刻――
「さて、私の弟子達は一体どうしているのでしょうか……」
また一人、赤ん坊が並盛を訪れていた。
次回、赤いアルコバレーノが現れてまさかの戦闘に。
ちなみにオリキャラをあと一人くらい出そうと思ってます。