浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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お久しぶりです。
4月最初の投稿です。


ヴァリアー編~第一次並盛戦争と門外顧問の受難~
標的54:嵐の予感


 月日は流れ、日本は秋を迎え始める。

 ここは並盛の隣町、黒曜。日本へと移住することとなった六道骸は、恩人である次郎長と酒を酌み交わしていた。

「――待て待て待て待てェ!! てめーまだ中坊だろ!? 何でワイン飲んでんでい!?」

「自分の家の敷地内なら問題無いでしょう?」

「倫理的な問題があるわ! てめー自分の立場わかって口にしてんのか!? してねーだろ!!」

 盃を片手に怒鳴る次郎長の言う立場とは、骸が通学先の黒曜中学校の生徒会長であるということだ。

 骸は周知の通り、裏社会の人間である。いくらマフィアの干渉が少ない日本でも、昨今の極道組織の衰退ぶりを考慮すればマフィアの日本進出は火を見るよりも明らか……いかに腕の立つ骸でも、息の詰まる日常を過ごすこととなる。そう判断した次郎長は、骸に普段の身内には甘くとも冷酷非情な性格を潜めさせ、さらに本名とは別の名前を用意するように提案した。それを――面白がったのが一番の理由だが――一理あるとして骸はすんなりと受け入れ、黒曜中学校では「(かば)()」という名で通している。

 さて、そんな骸がなぜ生徒会長になったのかというと、それは次郎長との間に起こったあるイザコザが原因である。次郎長は骸の扶養者として暫く面倒を見ることになっているのだが、荒廃していた黒曜中学校の不良によって仕送りが盗まれるという事件が起こり、知り合いに迷惑を掛けたケジメとしてその不良を見つけて血祭りに上げたのだ。その不良が当時の生徒会長・()(つじ)真人(まさと)の同級生である八木沼で、隣町の顔役に喧嘩を売った同級生の非行に真人は謝罪し、負い目を感じたのかそのまま会長職を辞したのだ。

 突然の事態に慌てふためいた生徒会と教職員だったが、そこに付けこんだのが骸本人。裏社会を生きてきた処世術であっという間に丸め込み、見事に臨時の生徒会長に就いたのである。今では骸の活動で黒曜中の風紀は正されたのだが、次郎長自身は骸が幻覚を用いている部分もあると勘繰っている。

「クフフフ……ご心配なく、僕を誰だと思っているのですか?」

「仕送りから学校関係の手続き、税金や保険……ここまで面倒見てもらっといて何様のつもりでい」

「……」

 ぐうの音も出ない切り返しに、骸は一瞬固まり、その後視線を逸らした。

 その直後、溝鼠組の古参組員・景谷が駆けつけ大声で次郎長を呼んだ。

「オジキィィ!! 一大事でっせェ!!」

「あ? どうした、トイレの排水管でも詰まったか」

「もっとヤバイことです! さ、さわ……」

「さわ?」

「さ、沢田家光が……並盛に来るそうですっ!」

 沢田家光――その名を聞いた瞬間、次郎長の雰囲気が変わった。

 身体から溢れ出る殺気と怒り。肌を引き裂くようなそれに、骸と景谷は震え上がった。

「オ、オジキ……!?」

「……いつ来るんだ、あのバカ」

「え?」

「いつ来るんだっつってんだ」

 地を這うような低い声に、景谷は後退った。

「あ、明後日だそうです……」

「じゃあそれまでに見つけ出して町から追い出さなきゃなんねーってことだな」

「ま、まさか戦争するつもりでっか!?」

「景谷、勝男達に気合入れとけって伝えろ。溝鼠組はヤマを迎える」

 ヤクザらしい凶暴性と暴力性を露わにし始めた次郎長。

 沢田家と次郎長は一枚岩ではなさそうだ。

「言わない方がよかったか……」

「どう転んでも同じではありませんか?」

 骸のもっともな返しに、景谷は何も言えなくなった。

 

 

           *

 

 

 翌日。

 ゲームセンターが軒並み揃う、並盛町でも一際賑わう繁華街で、次郎長は缶コーヒー片手に書類に目を通していた。別段目つきが険しいということではないが、昨日から始まったストレスの蓄積からか醸し出される雰囲気が恐ろしく剣呑であり、周囲の一般人達は危険を察知した草食動物のように距離を置いている。

「情報をリークしてくれた奴には感謝するがよ……」

 彼が手にしている書類には、二人のマフィアの顔写真が載っていた。

 一人は碧眼に亜麻色の髪が特徴の少年、バジルことバジリコン。見た目からしてツナや炎真と同い年で、優しそうな眼差しと雰囲気はあの二人と馬が合いそうだ。

 もう一人は長い銀髪が特徴の血の気の多そうな男、スペルビ・スクアーロ。見た目からして凶暴性がむき出しであり、まるで獰猛なサメを彷彿させる。

「何でコイツらが日本に来てんだ」

 苛立ちを隠せない次郎長は、缶コーヒーをグシャリと握り潰した。

 書類に乗っている二人は、共にあのボンゴレファミリーに所属する人間。しかもバジルはあの忌々しい家光の子分の一人であり、スクアーロに至ってはボンゴレファミリー最強と謳われる暗殺部隊の作戦隊長だという。

 普通に考えれば、狙いはツナだと思うだろう。

「……あの古狸、そんなにオイラとドンパチしてーのか」

 今のボンゴレの首領は、典型的な穏健派だとリボーンから聞いている。ゆえに彼らが日本に来ているのは独断行動の可能性も否定できないが、少なくともツナとの接触を試みているという可能性が極めて高いのは変わらない。

 今のツナでは、あの二人を倒すことはできない。炎真達も最近鍛えているらしいが、スクアーロという男の方には及ばないだろう。だとすれば、書類に載った二人を一度に相手取っても確実に倒せる人間が必要だ。

 それは、この町では次郎長(じぶん)ぐらいだ。

「家光も、奴のケツについたクソも……一人残らず叩き潰す」

 握り潰された缶をゴミ箱に叩き込む。

 するとそこへ、思わぬ集団が次郎長の前に現れた。

「おじさん!? 何でここに」

「! ツナか」

 ツナと出くわした次郎長は、目を見開いて驚く。

 後ろには獄寺や京子、ハルといった友人達がおり、どうやら仲良く外で遊びに行っている最中のようだ。

「彼女と女友達とデートか。三下数名が邪魔してねーか?」

「誰が三下だ!! 果たすぞ!!」

「落ち着け獄寺! お前が敵う相手じゃないのな!!」

「離せ野球バカ!!」

 三下呼ばわりした次郎長に激昂した獄寺は、ダイナマイトを手に持ったまま山本に取り押さえられる。

 一方のツナはクラスメイトの笹川京子を彼女扱いされたことに顔を真っ赤にし、京子とハルも突然の言葉にあからさまな動揺を見せている。

「それよりもツナ、聞いたぞ。家光のバカが(けェ)ってくるらしいな」

 若干ドスの利いた声に、一同は体を強張らせる……リボーンとツナを除いて。

「……ツナ?」

 リボーンは気づいた。

 チワワにもビビるあのツナが、町を牛耳る極道の一声に一切動じていないことに。

「おじさん、頼みがあるんだ」

「……言ってみろ」

「母さんにバレないように家のお掃除(・・・)手伝ってくれてもいい?」

 ツナがそう言った途端、次郎長は笑みを浮かべた。

「腹を括れるようになったか」

「おじさん、手伝ってくれるの!?」

「オイラァ最初(ハナ)からそのつもりだ。奈々はおめーが丸め込め、証拠の偽造と後始末は任せろ。金は要らねェ」

「ちょっと待て、家光を殺す気かてめーら!?」

 黒い笑みを浮かべるツナと次郎長に、リボーンは焦る。

 リボーンは今まで鬼のように厳しく指導してきたが、その中でツナが次郎長に関わるネタだと食い下がる傾向であるのに気づいた。それ程までに次郎長という存在は、ツナの中に強く在り続けているという訳でもある。元はと言えば家光が沢田家を放置している間を次郎長が代わって見守っていたのだから、当然と言えば当然である。

 しかし言い方を変えれば、ツナは次郎長に毒されていることに他ならない。ただでさえ蒸発した家光を疎ましく思っているのに、そこに尊敬できる母親の元同級生が武力行使も辞さない程に嫌っているとなれば、事態の悪化は免れない。―というか、家光のやり方が全部裏目に出ている。

「大丈夫だよリボーン、俺は殺しなんかしないよ。おじさんと一緒にムチを打ちつけるだけだよ」

「じゅ、十代目……?」

「だって母さんはどんなに放置されても父さんに一途なんだもん。アメばっかだから、割に合わないじゃん? でもおじさんの力を借りて俺がムチ入れれば、バランスいいでしょ?」

「はひいい!? ツナさんがご乱心ですぅ!!」

 ブラック綱吉の発現に、リボーン達は冷や汗を流す。

 暴力団の威力を借りて実の父親に一言申したい息子の強かさ。明らかに一方的な暴力を仕掛けようという腹積もりだ。裏社会だったら、れっきとしたクーデターである。

「おめーにゃわからねーよなリボーン……自分(てめー)の女房子供をほっぽいて古狸に尻尾振るゲス野郎に対する怒りってのが。しかも家庭のことは知り合いのヤクザに一任し、護衛もロクに付けやしねェ。これでツナがキレねーとでも思ってたか?」

「っ………」

「そういうこった、これは至極真っ当な考えなんだぜ? おめーが悩むようなことじゃねェ、沢田家の問題だからな」

「そうそう、俺とおじさんは気が触れたわけじゃないよリボーン」

 

「「ただ、殺意が沸いただけさ」」

 

 これがボンゴレⅠ世(プリーモ)の血筋なのか――リボーンはそう思ったが、感心している場合ではない。

 この状態では沢田家崩壊という最悪のシナリオが始まってしまう。次郎長とツナがタッグを組んで家光を潰しにかかる非常事態など、誰も望まないに決まっている。少し前のリボーンならば「父親の力を見せるいい機会」と判断しただろうが、ツナのバックが家光以上の猛者なのでシャレにならない。

「明日来るらしい、来たら呼んでくれ」

「あ~……おじさん、それがさ」

「?」

「今日来るかも――」

 

 ドォーン!! ドッカーンッ!!

 

 突如響き渡る轟音。

 粉塵が立ち込め、周囲の人々がパニックに陥る中、人影が宙を飛んで来た。

「っ!」

 次郎長は反射的に体を動かし、ツナの前に立ってから足を踏ん張り受け止めた。

 人影の正体は、先程目に通していた書類に載っていた少年・バジルだった。その額には青い炎――死ぬ気の炎が揺らいでいる。

 並盛に来てしまったのは気に入らないが、どうやら敵に追われているらしい――そう判断した次郎長は、眉間にしわを寄せた。

「ぐっ、うう……かたじけ、ない……」

「……おい、誰かコイツの手当てしろ。女子供は避難させ、動ける奴は重傷者を運び出せ。尚弥達が来るまで気ィ抜くなよ、誰一人として死なすんじゃねェ」

「え……」

「え、じゃねェ! ちんたらしてねーで動け!! 死人だしてーのかてめーら!!」

 次郎長の一喝で、人々はハッとなる。

 その直後、晴れてきた煙の中から、光に当たって輝く銀色が見えた。

「う゛お゛ぉい!! 何だあ外野がゾロゾロと。邪魔するカスは叩っ斬るぞぉ!!」

「……」

 長い銀髪を振り回しながら見下ろす一人の剣士。

 スペルビ・スクアーロだ。

「嵐の予感だな」

 リボーンはそう呟いた。

 おそらく、旧知の仲である九代目が率いるボンゴレ関係者が、これまた旧友の家光の部下を追いかけ回しているのに驚いているのだろう。

 そんな中、体を小さく震わせる男が一人。

「気に入らねェ……全くもって気に入らねー連中だ、ボンゴレ」

「おじ、さん……?」

「あのボケナスの謀略かは知らねーが……」

 怒りに震えるような声で、次郎長はブツブツと呟く。

 これが果たして因縁深きヌフフのナス太郎の策謀かどうかは不明だ。根拠はあっても証拠がない。そう決めつけるのは早計だろう。

 いずれにしろ、次郎長の思いはただ一つ――

「ボンゴレだけは、絶対に許しゃしねェ」

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