浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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やっとリング争奪戦に入りました。
ひとまず正露丸と拡声器の戦いです。


標的55:次郎長vs.(バーサス)スクアーロ

 愛する並盛を荒らされ、ついに堪忍袋の緒が切れた次郎長。

 地震のように全方向に等しく衝撃を伝えるような、どんなに鈍い人間でも察知してしまう程の怒気を放ち、血走った目でスクアーロを睨んだ。

(っ……何だアイツ……!? まるで〝ボス〟じゃねーか……!!)

 スクアーロは、他人の怒りを前に久しぶりに怯んだ。

 あの激昂ぶりは、矛先ときっかけは違うが惚れた男と同じ系統だ。目の前の敵を全て滅ぼさないと収まらない、烈火の如く燃え上がる憤怒だ。

 そんな怒り心頭な次郎長と警戒するスクアーロを他所に、バジルはツナに謝罪をしていた。

「う……すみません沢田殿、つけられてしまいました……せっかく会えたのにこんな危険な状態に巻き込んでしまうとは……」

「へっ!? あ、あの、どちら様ですか!?」

「とにかく安全な場所へ……来てください!! おぬしに伝えたいことが!」

「いやいやいやいやいや!! ちょっと落ち着こうよ君!!」

 事態をよく飲み込めないツナだが、嫌でもわかる次郎長の怒気と見るからにヤバそうな銀髪のおかげで緊急事態であることだけはわかった。

「敵襲か……十代目、下がっていてください! 行くぞ野球馬鹿!!」

「おう!!」

 互いに得物を構え、臨戦態勢に入る獄寺と山本。

 しかしその間を、次郎長が目にも止まらぬ速さで割って入った。

 

 ――ドドッ

 

「がっ……」

「んなっ……」

「ケツの青いガキが図に乗るんじゃねェ」

 次郎長は呆れた声と共に手刀を見舞い、獄寺と山本は崩れ落ちた。

 友人が突然倒れ、ツナは二人の名を叫ぶが、次郎長は意にも介さず声を掛けた。

「安心しろツナ、少しの間眠っててもらうだけでい」

「でも、おじさん!」

「ソイツらが迎え撃ったところで返り討ちが関の山だ。今から始まんのァそこらのガキの喧嘩じゃねェ」

 いつも以上に鋭い双眸で、次郎長は敵を睨んだ。

 その荒々しい気迫に、スクアーロは息を呑む。

「……てめーは何者だぁ? 今の動き、只者じゃねぇだろ」

「泥水次郎長……この町の王だ」

「――! う゛お゛ぉい、こりゃあとんだ大物が出てきたなぁ……」

 スクアーロは一瞬驚くが、すぐさま納得したような笑みを浮かべた。

 泥水次郎長の名は、裏の世界ではかなりのビッグネーム。規模は小さくも腕の立つ子分を多数従え、当の本人はルーキー時代の時点で〝若獅子〟と呼ばれた当時の家光とタメを張る程の猛者だったのだ。

 次郎長の現在の戦闘力を知らずとも、名実共に凄まじい豪傑であるのは変わらない。図らずも日本の裏社会で最強クラスの実力者との邂逅に、スクアーロは高揚感を感じていた。

「……じゃあ、代わりに教えてもらおうか? ソイツらとどういう関係かゲロっちまわねーと叩っ斬る――」

 

 ドゴッ!!

 

「ぞおぉっ!?」

 叩っ斬るぞ、と言い終える前に次郎長が爆発的な加速で迫り、それはそれは強烈なぶちかましをお見舞いした。

 何の予告も無しに悪質タックルの直撃を受けたスクアーロは、まるで車に轢かれ弾き飛ばされたように吹き飛び壁に減り込んだ。

「……容赦ねェな、おい」

 日頃の次郎長の器量や性格をよく知るリボーンは、ポーカーフェイスでそう呟いた。

 次郎長という男は、いざ喧嘩となれば最強だの王者だのといった呼び名に恥じぬ圧倒的戦闘力で相手を潰しにかかるが、一定の線引きというべきか、喧嘩の流儀というモノがあった。

 今の次郎長は、それを無視している。無視する程に、怒りを滾らせているのだ。

「誰の指示なのか、黒幕は誰なのか……そこは訊かねェ。どの道オイラのやるべきこたァ決まってらァ」

 腰に差していた刀の柄に手を添え、次郎長はゴキゴキと首を鳴らす。

 臨戦態勢に入った王に、タックルを食らって倒れたスクアーロは跳び起きると笑った。

「う゛お゛ぉい! まさか剣で俺に勝とうなんて(あめ)ェこと考えてんのかァ!?」

「思想・良心の自由はこの国じゃ保障されてるんだよ」

 次郎長は抜刀し、切っ先をスクアーロの顔に向ける。

「ツナ……いいか、奴は俺が食い止める。()り始めたらすぐ逃げろ!」

「おじさん……」

「ここから先は人間の出る幕じゃねェ」

 次郎長は駆け出し、スクアーロに迫る。

 斬り合いが……殺し合いが始まった。

 

 ガギィン!

 

 互いの剣が、衝突する。

 斬撃をぶつけ合い、獣のように食らいつく。己の命をもって敵の命を絡め取るために。

(っ……何だコイツの剣は!?)

 何十回と白刃を合わせる中で、スクアーロは焦りを覚えた。剣を極めるために多くの剣士と決闘した自分の戦い方と、次郎長の戦い方との相性が最悪であることに気づいたのだ。

 いくつもの流派を潰してきたスクアーロだが、次郎長の剣は今までの流派とはそもそも異質……斬り覚えの喧嘩殺法だった。それだけならまだいいが、次郎長自身の常人を遥かに超えた戦闘センスと剣一筋にこだわらない何でもありの戦闘スタイルが、臨機応変・変幻自在の剣技として昇華していたのだ。

「散れ」

 次郎長は一瞬の隙を狙い、突きの構えを取る。

「……ハッ!」

 しかしスクアーロは獰猛に笑うと、剣から何かを発射した。それと共に次郎長の鼻が嫌な臭いを感じ取った。

 火薬の臭いだ。

 瞬時にその場から離れた、次の瞬間―― 

 

 ――ドオォン!

 

 突然の爆発。スクアーロの剣から放たれた火薬が炸裂し、次郎長は爆風に呑まれる。

「ああっ!」

「おじさんっ!!」

「ハッ! バカが、詰めが(あめ)ェ――」

 

 ――ドゴォッ!

 

「がっ……!?」

 煙の中から何かが出現したと思った瞬間、スクアーロが体をくの字に折った。

 スクアーロの鳩尾を、猛烈な速さで細長い何かが抉ったのだ。()(しゃ)(ぶつ)をぶちまけ悶絶すると、立ち込めた土煙を通り抜けて(おとこ)が姿を現す。

「……すっかり忘れてたぜ。てめーらマフィア(モン)は手段を選ばねェ性質(タチ)だった」

 次郎長は苛立つような声色で姿を現す。その手には刀だけでなく鞘も握られている。

 しかも彼は無傷で、着物と襟巻が多少傷み汚れている程度だった。

(あの至近距離で躱せたのか!?)

 スクアーロの顔から、一切の余裕が消えた。

 実は至近距離で火薬を投下した際、次郎長は瞬時に離れただけでなく起爆寸前に鞘を使って弾いていたのだ。そんな芸当をやってのけるような技量の持ち主とは知らないスクアーロだったが、〝大侠客の泥水次郎長〟という男がどれだけの修羅場をくぐり抜け、どれ程の敵と戦ったのかは容易に理解できた。

 一筋縄ではいかない……この男は。

「だったら見せてやる。ヤクザ者とマフィア者の格の違いってやつを」

 泥水次郎長が、本気を解放する。

 

 ――コイツは、確実に殺さなきゃならねぇ(・・・・・・・・・・・・)な……!!

 

 ただ相手を威嚇するように立っているだけの男に、悪寒を感じたスクアーロは距離を置いて体勢を立て直そうと動いた。が、それよりも早く次郎長が懐に潜りこみ、再び浅黒い拳をスクアーロの鳩尾に叩き込んだ。

「ぐあっ……!」

 ズシリとくる、重い一撃。

 豪腕から放たれるそれは、並大抵の喧嘩自慢ならば一撃で仕留める威力を秘めている。スクアーロも相応の修羅場をくぐり抜け、身体を鍛えているために耐えることはできた。が、何度も食らえばタダでは済まないだろう。

「じゃあ、これならどうだぁっ!!」

 スクアーロは踏ん張り、渾身の一太刀を次郎長に浴びせたが……。

「ちっ……聞き分けのねー(あん)ちゃんだ」

 

 バキャアッ!!

 

「んなっ!?」

 次郎長は目にも止まらぬ速さで納刀、そのまま神速とも言うべき速さの居合を放ってスクアーロの剣を一太刀でへし折った。

 実はこの時、スクアーロは〝鮫衝撃(アタッコ・ディ・スクアーロ)〟という技をぶつけていた。渾身の斬撃を相手に受けさせることで、剣から発する振動波を剣を通して相手に伝え、相手の神経を麻痺させる衝撃剣……それをモロに受けたのだ。しばらくの間は腕が使い物にならないはずだ。

 だが次郎長の居合は、その衝撃を真っ向から受けるどころか、彼の剣を一太刀で破壊した。剣士にとって戦闘中に何らかの形で剣を失うことは致命傷に等しい。この時点で剣士として敗北したも同然だ。

(何だアイツは……何だあの化けモンは!?)

 

 ドッ!

 

 刹那、次郎長は凄まじい速さで迫り、刀でスクアーロの右腕を貫いて建物の外壁に叩きつけた。

 右肩から広がる鋭い痛みと全身に伝わる鈍い痛みが、スクアーロを襲った。

「ぐぁっ……!」

「火薬入りの仕込み刀ぶら下げといてダンビラ一丁に勝てねー奴が、よくあんなデケェ口叩けるなクソガキ。てめー程度の奴なんざこの並盛(まち)にゃゴロゴロいるってのによ」

 互いに裏社会の人間である以上、次郎長は卑怯などという言葉は口にしない。いかに義勇任侠を掲げても裏社会は弱肉強食であり、勝った人間が強者という理なのだから、卑怯な手段を使ってでも生き残れば勝ち馬組という訳だ。

 ただ、次郎長は戦闘力と勝敗が別物であるということを自覚できていない相手(スクアーロ)に見下げ果てたのだ。

「ク、ソがっ……!」

「消えな、負け犬。てめーの剣は道を切り開くことも飼い主を護ることもできやしねーよ」

 その言葉に、スクアーロの怒りが頂点に達した。

 怒りに惚れ、忠誠を誓ったボスへの侮辱も込めたそれに、目の前が真っ赤に染まった。

「ふざけんなぁぁぁぁぁぁ!! てめーに何がわ――」

 

 ドガァッ! ズズゥン!

 

「うるせェ。難聴になったらどう責任取るつもりでい」

 次郎長は拳骨を叩きつけ、スクアーロを吹き飛ばした。

 スクアーロはノックダウン。壁を突き破りながら立ち込める土煙と粉塵の中へ姿を消した。

(バ、バカな……相手はヴァリアーの作戦隊長でござるぞ!? それをこうも容易く……!!)

 バジルは震え上がった。

 次郎長が強いということは、情報から得ていたし実際に見て肌で感じ取ってはいた。だがここまで強いというのは想定外だった。スクアーロをほぼ無傷で退けた男の力に、バジルは恐怖すら感じた。

 すると、遠くから屈強な集団が現れた。その先頭に立つのは、次郎長が信頼する傑物。

「尚弥……」

「な、何者でござるか……?」

 風紀委員会会長・雲雀尚弥。

 次郎長とタメを張れる数少ない男だが、立場上は(・・・・)一般市民であるため、スクアーロやバジルがその存在を知るはずもない。

「君達は負傷者の応急処置と救急車の手配、事後処理を頼むよ。僕は次郎長と話がある」

『はっ!』

 風紀委員会の構成員が仕事に取り掛かる中、次郎長の元へと歩む。

「尚弥、すまねーな……」

「いや、謝るのは僕の方さ次郎長。もう少し早く来ていれば被害を抑えられた……よく食い止めてくれた、ありがとう」

「………ケッ、恭弥の不意打ちツンデレは親譲りだったのかよ」

 瓦礫の上で腰を下ろし、煙管を取り出して火皿に刻み煙草を詰める。

 すると、二人の元へ尚弥の右腕・蘭丸が報告をしに駆けつけた。

「尚弥様、途中経過を報告します」

「うん。蘭丸、被害状況は?」

「沢田綱吉とその友人含め、負傷者が14名。死者は一人として出てません」

「14名……素直に喜べねーな」

「何言ってるんだい。死人を出さなかった分大したものだよ」

 煙管の紫煙を燻らせる次郎長は複雑な表情を浮かべているが、二人は察していた。

 

 ――今の次郎長は、臨界点に達している。

 

 並盛を土足で荒らされ、カタギに迷惑を掛けた上、ツナ達に手を出そうとした。

 尚弥も蘭丸も聞いただけで怒り心頭なのだが、間近で見た次郎長はそれ以上。徹底的に叩き潰さないと気が済まないだろう。

 それを止める気は、風紀委員会には無い。むしろ推奨するところである。

「……親分、下手人の特徴は?」

「黒いレザーのジャケット、胸の赤いエンブレムに獅子のマーク、銀髪ロン毛の拡声器だ」

「最後の拡声器は、声がやかましいくらい大きいと解釈してよろしいのですか?」

「そういうこった」

 次郎長の証言を聞き、蘭丸は無線で捜索を促す。

(剣はへし折ったから、逃げるか捕まるかのどちらかだと思うがなァ)

「尚弥様、それと現場にこんなものが」

 蘭丸が持ち出したのは、片手に収まる大きさの黒くて重厚な箱だった。

 中身を開けると、そこには7つの指輪が入っていた。

「……どうやらこれが事件の原因のようだね」

「しかし、たかが指輪ごときになぜ?」

「ま、待ってください!」

 そこで当事者のバジルが、大声を上げた。

 あの箱の中身は、必ず届けなければならない――その思いで必死なのだ。届けなければ、命を懸けて任務を遂行した自分がここにいる意味を失い、〝親方様〟に面目が立たないからだ。

「それは拙者が沢田殿に渡さねば――」

「沢田が、何だって?」

 地獄の底から響くような低い声で、次郎長は額に青筋を浮かべてバジルを睨んだ。

 次郎長は理解してしまったのだ。箱の中のリングの正体と、それがツナに渡る理由を。

「そうか……」

 

 バキッ!

 

 現実は非情だった。

 次郎長は箱を軽く宙へ投げ、居合で一閃。

「次郎長!?」

「ああっ!!」

「こんなガラクタがあるからいけねーんだ」

 まるでゴミ箱にゴミを捨てるように、次郎長は何の躊躇も無く破壊した。

 その目には、怒りと侮蔑が宿っているように見えた。

「……尚弥、その子も運んでやってくれ。少し訊きたいことができた」

(……親方様、拙者はここまでかもしれません……)

 自分はとんでもない相手を敵に回したのかもしれない――バジルは日本に来たことを悔いた。

 

 

 その光景を遠くから見つめる、二人の男がいた。

「ボンゴレファミリーとヴァリアーの内部抗争、か。虚様も動くかもしれんな」

「どうする? もはや一刻を争う事態となったぞ」

「私が虚様に報告しに行く。お前に後を託すぞ朧」

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