すいません、感想の指摘もあって修正しました。
並盛山にて。
「ハァ……」
「何を溜め息吐いてやがる、ダメツナ」
スクアーロの襲撃から2日後。ツナは海よりも深そうな溜め息を吐いていた。
2日間は怒涛そのものだった。次郎長が破壊したリングは偽物で、本物はディーノの手に渡っていたこと。そのリングはボンゴレファミリーの歴史においてもどれだけの血が流れたか
わからない程の重要アイテムであること。怒り心頭の次郎長にフルボッコにされたスクアーロは、ボンゴレ最強の独立暗殺部隊「ヴァリアー」のNo.2であること。――数え始めたらきりがない。
しかも、だ。父親の家光が帰宅したのだ。奈々は実に嬉しそうにごちそうを振る舞ったが、次郎長の影響をダイレクトに受けているツナは別人のように冷たく接した。家庭放置していたことを怒るわけでも、蒸発して心配をかけたことを責めるわけでもなく、ただ血の繋がっているだけの他人扱い……それがむしろ家光の心を抉った。おかげでしばらく立ち直れなくなったくらいだ。
問題はそれだけではない。
「そうも言ってられないよ~……また母さんとおじさん大喧嘩しちゃったんだし、ダメ親父は役に立たないし……」
「……確かにな」
ツナとリボーンは遠い目をした。
そう、次郎長と奈々の口喧嘩が再び勃発したのだ。前回は歩く理不尽であるリボーンを宴会に加えるか加えないかで揉めたが、今回は家光絡み。マフィアの件で家光を毛嫌いしている次郎長と、反対に家光にベタ惚れである奈々の口論。次郎長の沢田家突入により勃発した大喧嘩は開始早々臨界点に達し、お互い34歳でありながら頓痴気女だの社会のゴミだの、前回よりも酷い罵り合いとなった。
また始まっちゃったよと嘆くツナ達に、家光はツナに父として良い所を見せようと仲裁に入ったのだが……。
――分別不可能な工場廃棄物一号が邪魔すんな!
――
二人の清々しいまでの暴言に、家光は撃沈。
もはや戦場と化した沢田家のリビング。ツナはともかく家光すら役に立たない現状に危機感を覚えたリボーンは懸命に説得し、家光にも非があると告げて互いの頭を冷やさせることに成功した。やはり理想のママン像をブチ壊されるのはリボーン自身かなり嫌であるらしい。
ちなみに彼は家光を一度たりともフォローしていない。むしろ全責任を擦りつけたいくらいだ。
「……そういう訳だ、とっとと修行再開するぞ」
「ええ!? もういいじゃん、おじさんや尚弥さんが対応するって言ってるし、子供が出る幕じゃないだろ!!」
「甘えんじゃねェ。そんなに嫌ならあの化け物共超えるぐらいの腕っ節つけてから言いやがれ☆」
「理不尽!!」
ツナはリボーンの無茶ぶりに嘆いた。
先日のスクアーロの件において、来日したバジルから事情を聞いたツナ達は今後の襲撃に備えて体を鍛えることとなった。リボーンに迫る程の強さを有する次郎長や彼とタメを張る尚弥が出張れば済むと言えばそれまでだが、次郎長も尚弥も人の子……護れる範囲に限界がある。
そこでリボーンはツナ達を強くさせ、ヴァリアーに対抗できる程になるという無茶ぶりを思いついた。当初はツナは猛反対していたが、周りが全員賛成するという現実の非情さに敗北。やむなく修行に付き合うこととなったのだ。
「そもそも何でこんな目に……」
「ツナ、このままだと次郎長はボンゴレと全面戦争するつもりだ。もしそうなっちまったら、この町が戦場になっちまう」
「ぜ、全面戦争……!」
「ぶっちゃけた話、お前を快く思ってない勢力がいないわけじゃねェ。ヴァリアーだけじゃなくそいつらとも戦うとなれば、自衛の術ぐらいもたねーと大事なモン全部失うぞ」
ツナをめぐる、次郎長とボンゴレの衝突。それが抗争という形で勃発すれば、双方無事では済まないだろう。
しかし、歴代ボスの中でも典型的な穏健派として知られる9代目は、かつて日本に来日した際に若き日の次郎長と出会っている。聡明な9代目が有事とはいえボンゴレの後継者争いを日本に持ってくるとは到底思えない。9代目の身に何かがあったのだろうか。
だが、それ以上に気掛かりなことがリボーンにはあった。
(一番気になるのは、次郎長が何も言わなかったことだな……)
リボーンが一番引っかかっていたのは、次郎長の態度だった。
ツナ達は今、ボンゴレリングというボンゴレファミリーの至宝を所持させられている。掟に基づいて代々ボンゴレファミリーのボスとその幹部格である守護者が所持してきた代物で、リングを巡った内部抗争も絶えなかった程の価値がある。言い方を変えれば、ツナ達がこれを所持する以上は必ずヴァリアーが奪いに来るということでもある。
だが、次郎長はその件については「そうか」の一言で咎めなかったのだ。逆にそれが不気味で、次郎長の腹の内が読めなくなったのだ。
(まさかとは思うが……いや、アイツもそこまでやるつもりはねーだろ)
嫌な予感がして、リボーンは眉を顰めた。
その時、二人の背後に近寄る者が。
「誰だ」
すぐさま振り向いて愛銃を向けるリボーン。
その先に立つのは、三叉槍を携えたオッドアイの少年だった。
「クフフフ……初めまして、沢田綱吉君」
「だ、誰!?」
「僕は六道骸です、以後お見知りおきを」
「ちゃおっス」
「これはこれは、呪われた赤ん坊〝アルコバレーノ〟ではありませんか。いえ、今日からリボーンと呼ぶべきですか」
「ア、アルコ……?」
謎の単語が飛び出し、ツナは首を傾げる。
「お、おいリボーン、この人知ってんのかよ」
「知ってるも何も、六道骸はマフィア狩りで知られる男だ」
リボーンは語る。
「非人道的な活動をする黒マフィアを組織丸ごと潰す形で粛清する「骸一派」のリーダー……それが六道骸だ。神出鬼没だが最近会った」
「ど、どう見ても俺と同じ中学生だろ! しかもあれは黒曜中の――」
「人を見かけで判断しない方がいいですよ? ましてやこの町の有力者達は尚更」
「ひえっ……」
組織どころか拠点ごと潰す次郎長と重ねたのか、ツナは顔を引きつらせた。
「それで、マフィア狩りで恐れられるおめーが何の用だ」
「僕の身内……厳密に言えば保護者というよりも保証人ですが、
「!! じゃあ骸も、おじさんと!?」
「ええ……〝僕達〟の命の恩人です。あの人が手を差し伸べなかったら、僕達はとうの昔に屍となって土に還っていた」
骸は次郎長に多大な恩義があると語る。
リボーンが口にした情報で骸に対して恐怖心すら抱いていたツナだが、次郎長の関係者であると知って安堵の笑みを溢した。
(マフィア狩りで有名な六道骸も、やっぱり次郎長の影響を受けてやがるのか。次郎長は人の心の隙に付け入るような野郎じゃねェ……ってことは、アイツの生来の器のデカさか)
「しかし、あれから君達のことを観察させてもらいましたが……アルコバレーノは綱吉君のお目付け役というわけですか?」
「
「クフフ……成程、それはユニークですね。僕も他人のことはいえませんが」
愉快そうに笑う骸。
殺し屋の家庭教師と何をやらせても冴えない生徒、里親のいないマフィア狩りと保証人役の極道……傍から見れば実に奇妙な関係と言えよう。
「……それで、ツナを護るってのはヴァリアーからか」
「アルコバレーノ……僕を失望させないでくれませんか? わかりきった答えじゃないですか」
リボーンは険しい顔をする。
骸の敵は、おそらくボンゴレ全体だろう。マフィアそのものを嫌う彼にとって、その頂点であるボンゴレに何も思わないわけが無い。骸はボンゴレをも敵とみなしているだろう。
「……ですが、今は敵対するつもりはありませんよ」
「分を弁えてるのは賢いゾ」
「クフフ……残念ながらそうではありません。こちらの都合というモノです」
挑発するように言葉を紡ぐ骸と、ニヒルな笑みを浮かべるリボーン。
それは本当の笑みか、腹芸なのかは本人達にしかわからないだろう。
「さて……早速ですが忠告です」
「何?」
「今回の一件は、必ずしもボンゴレと並盛の問題ではないのですよ」
骸は真剣な表情で、ある組織について語り出した。
その組織こそ、八咫烏陰陽道。日本の守護者と言える秘密結社だった。
「八咫烏陰陽道はこの国の陰で動き、何度も日本を危機から救ってきた。マフィア界でいう〝
「ヴィ、ヴィンディチェ……?」
「マフィア界の掟の番人ですよ。法で裁けない者を裁く存在で、マフィアなら誰もが恐れる」
つまり、今回のスクアーロの件で八咫烏陰陽道が動いたということだ。
日本を陰で支えた秘密結社までも敵対するとなれば、ボンゴレも無事では済まないだろう。ただでさえ単騎で一個勢力に匹敵する次郎長と対立しているというのに、これ以上厄介な敵を増やすわけにはいかない。
「……俺にどうしろってんだ。それが本題だろう」
「愚かですね……僕はあくまで忠告をするまで。そこから先を導く義理は無い」
「くっ……」
「クフフフ……では失礼。
刹那、骸の体が突如発生した霧に包まれた。
霧が晴れると、そこにいたはずの骸は消えていた。
「え!? 何、何やったの!?」
「今のは……」
リボーンは驚愕していた。
アレは〝術士〟の扱う幻術だ。それも骸の幻術は一流クラス……「無いものを在るものとし、在るものを無いものとすることで敵を惑わし、ファミリーの実態をつかませないまやかしの幻影」を担う霧の守護者に相応しい。
あの骸をうまく丸め込めれば――
「ファミリーには必要だな。だが……」
リボーンは並盛最強の男の存在を思い出し、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
*
同時刻、並盛町のある河川敷。
血塗れになった男達が、壊滅状態で無惨に転がっていた。周辺には輪切りにされた拳銃やへし折られたナイフが無数に転がっており、文字通りの死屍累々。その真ん中で次郎長は返り血がついたまま煙管を咥え、ある人物と連絡を取っていた。
《お前さんが戦ったヴァリアーの二番手、スクアーロの飼い主は
「……
《ああ、それも今のボンゴレボスの倅らしい》
電話の相手は、〝蜘蛛手の地雷亜〟こと羽柴藤之介。現在は弟子と共に暗殺稼業から一線を引いた伝説の殺し屋で、蜘蛛の巣の如き深く広い情報網を持っているため、次郎長は情報売買の顧客として関係を築いている。
さて、そんな二人の間で出てきた
「だったらツナより先に話振られねーか?」
《俺も怪しく見ている。8年近く前にクーデターを起こして処罰されたらしいが、端から見れば威厳も実力もある正統な後継者だからな》
次郎長と地雷亜の知見が一致する。
そもそもマフィアの中でマフィアらしく育てられた男と、初代ボスの血統とはいえマフィアとは無縁な暮らしをしていた平凡な14歳の少年が後継者争いになる時点でおかしな話なのだ。カタギだった少年を一大マフィア勢力のボスにしたら、それはそれで反発が起こって内部抗争となりかねないからだ。
後継者としての条件が揃っていても実力が不足しているのなら、周りがサポートすればいいと軽く見るのは禁物であるのは言うまでもない。人質や裏切り、脅迫に反逆、暗殺や奇襲は卑劣ではなく〝当たり前〟――裏社会で生きるとはそういうことなのだ。
「……マフィアはどっちかっつーと血統主義だ。そう考えれば――」
《
「だよなァ……」
次郎長は9代目への怒りを募らせた。
親子ってのは上司と部下の関係じゃねーんだよ――そう愚痴を零しそうになる。
《お前さんも随分苦労しているようだな》
「おかげさまだよバカ野郎」
《クク……まあいい。
「……打つ手はそっちに任せる。俺は俺で動く。じゃあな」
ブツッと通話を切り、懐に仕舞ったその時。
次郎長は背後の気配に気づき、振り返った。
「……てめェ」
「次郎長、話がある」
次郎長の視線の先には、つなぎを着た家光が何名かの部下を引き連れていた。
その部下の一人、オレガノは次郎長の姿を見て汗を一筋流していた。
(アレがジャパニーズマフィアのジロチョウ……強い!)
銀色に近いが色が抜け落ちたようにも見える白髪、浅黒い肌、頬の十字傷と鋭い双眸、そして並々ならぬ威圧感。黒い着物で身を包み赤い襟巻をなびかせる王に、オレガノは畏怖の念を抱いた。
彼女自身、裏社会で相応の修羅場をくぐり抜けては来た。だからこそわかってしまったのだ。次郎長が、今までボンゴレに敵対した人間の中では別格であると。
「……このドさんピン共の後始末なら大歓迎だが」
「実は9代目が、お前に協力を求めている」
「9代目? 身内の暴走を食い止めることもできねーカスのことか」
神経を逆撫でするような次郎長の言葉に、家光の部下達は憤慨する。
家光を含め、ボンゴレファミリーのほとんどが9代目を敬慕・敬愛している。彼への侮辱は、とても許せるものではなかった。
しかし、家光は部下達を制した。
「妙なマネは止せ。お前ら全員が束になっても傷一つ付けられん」
家光は前に出て、次郎長に声を掛けた。
「次郎長。お前か、バジルの箱を破壊したのは」
「箱……? ああ、アレか。それがどうした」
「あの中のリングは、俺が作った偽物だ。精巧に作られていて、たとえ奪われたとしても10日は――」
「ごちゃごちゃ言ってねーで結論を言えよ」
苛立ちが募ったのか、次郎長は家光を睨む。
ここ最近のボンゴレ絡みのゴタゴタでストレスが溜まってるからか、いつになくおっかない。
「本来なら、ツナ達にヴァリアーを迎撃できる準備をするはずだったんだ。ここまでバジルが囮となって動いたのは、それも一因だ」
「――そういうことか……」
次郎長はある結論に辿り着いた。
敵方のヴァリアーの首領・
そうでありながら、9代目は息子ではなく部下の息子に継がせようとしている。たとえ血の繋がりが無くとも、次郎長から見れば
もし仮に、
つまりこれは、ツナをボンゴレの正統な後継者に仕立て上げるためのマッチポンプである可能性が高いのだ。
「次郎長、俺とお前は長い付き合いだ。ボンゴレの危機は裏社会全体の危機に繋がる。最悪の事態を回避するためには、俺も贅沢を言っていられない。――手を貸してくれ、次郎長。報酬はいくらでも払う」
「そうかい。じゃあ丁重に断らせてもらうわ」
「何だと……!?」
次郎長の躊躇いの無い返答に、家光は目を見開いた。
家光は気づけなかった。次郎長を動かすのは損得ではないと。
「……家光、おめーは親父として何を成したよ」
「……一体何の話だ」
「家族の為なら悪にでも
ヤクザになって15年以上経った今。
次郎長は任侠一家の長として、町内一の極道組織を率いる大親分として生きるようになって、家族というモノの重みと親の責務を知った。それは血の繋がりがあろうが無かろうが、どこの世界でも立場が違っても家族の「中身」は大して変わらないのだと気づいたのだ。
「俺にとっちゃあ、ツナも奈々も立派な身内だよ。20年も前の貸し借りから始まったとはいえ、盃交わしちゃいねェってのにかけがえのない存在になっちまった」
「!」
「弱きを助け強きを挫く……それが任侠心でい。弱きがツナ達で強きがボンゴレだってんなら、極道を名乗る以上は実行しねェと
猛々しい覇気を双眸に宿し、殺気を膨らませ、王は声に怒気を乗せた。
「こんの腐れ外道が。
精神すら蝕みかねない、強烈なプレッシャーが
ある者は青ざめた顔で腰を抜かし、ある者は滝のように汗を流し、たった一人のヤクザに畏怖を感じ取った構成員達は重圧に押しつぶされそうになる。唯一平常心を保って仁王立ちしている家光も、そのとてつもない威圧感に一筋の汗を流していた。
それはまさしく、王の気迫。裏社会に君臨する、支配者の一人としての貫禄。浅黒く端正な顔に刻まれた刀傷が、その剣幕に拍車をかける。
「ツナも、奈々も、並盛も……てめーらの好きにはさせねェ。王とは臣民と領地を統べる者であり、それを全部護るのが務めだ。他人様の縄張り荒らすんなら、放逐するのが筋ってもんだろう? 大黒柱赤点野郎」
「――これが最後通告だ」
家光の額に、死ぬ気の炎が宿った。
先程までちゃらんぽらんな部分が抜けきらなかった家光が纏っている空気が、まるで抗争や戦場の真っ只中にいるようなそれに変わった。
どんな正論を並べても、ボンゴレの権力をちらつかせ脅しても、次郎長は意にも介さない。彼を動かすには、拳しかなかった。
「……上等じゃねーか」
それに呼応するかのように、次郎長は飛ばしていた殺気を膨らませる。
四の五の言わずかかって来いよ、と。ボンゴレファミリーを恐れていない
(奈々、すまん……!)
家光はつるはしを構え、次郎長は刀を抜いた。
「ツナじゃないとボンゴレは継げないんだ! 諦めろ次郎長!」
「だったらボンゴレ滅ぼしてツナとの約束を果たすだけだ!」
ガォン!!
つるはしと日本刀が、火花を散らして激突した。
15年の時を経て、大侠客と若獅子が再びぶつかった瞬間だった。
段々とリング争奪戦が近づいてきましたね。
活動報告でご確認した方もいらっしゃるでしょうが、ドリフターズのパロディを軸とした新しい小説の参戦キャラを募集しております。
ちなみに現時点では、ドリフターズとしてプリーモを出す予定です。