浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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今年もあと一ヶ月ちょっとか……。


標的4:誕生、(どぶ)(ねずみ)(ぐみ)

 喫茶店での一件から数日が経過した。

 学生時代の悪名も含めて次郎長は少しずつ極道社会で認知されるようになり、自分の元に地元のヤクザ勢力「(もも)(きょ)(かい)」や日本有数の一大勢力「関東集英会」、北関東の「芳文(ほうぶん)連合」の組員が接触し始めた。

 理由は至って簡単。スカウトである。

 ヤクザのスカウトで一番多いケースは中学・高校時代とかに不良をやっていて、その後暴走族や()(れん)(たい)――繁華街で違法行為や暴力行為を働く不良青少年集団――に入り、そこか引っ張られてヤクザになるというパターン。他にも少年院・刑務所などで組員と知り合いになってスカウトされることもある。次郎長は中学・高校時代の悪名と先日の蒼竜組との一件で噂が裏社会に広まり、それに興味を持った連中が組員にすべくスカウトしに来たという感じだ。

 しかし、次郎長はそのスカウトを丁重に断っている。そもそも次郎長の行動原理は並盛の住民への恩義にあり、極道組織を立ち上げるのは並盛の住民と町を他の勢力から守るためである。もしここで別のヤクザ勢力の組員になれば、それが後回しになってしまうのだ。ゆえに次郎長はどれ程食い下がられても首を縦に振らないのだ。

 さて、そんな日々を過ごす中、次郎長は土方のバイトをするようになった。重い物を運び足場を組みあげるといった体を酷使するハードな作業が多い上に、現場のルールを守ってコミュニケーションを積極的にするなど、身体的にも精神的にも鍛えられる。次郎長にぴったりの職場である。

「お~い、こっち頼む!」

「うっす」

 次郎長は鉄筋を組み立てる作業をしている。

 若者が少なくなっている昨今、バイトとはいえこういう力仕事をこなせる男は重宝されるのだろう。

「あとどれくらいにしますか?」

「あ~、もう10本ぐれー持ってきてくれ!」

 次郎長は棟梁にそう言われ、もう一度鉄筋を持ってこようとした。

 その時――

「お、おい! 待ってくれ!!」

「?」

 自分を呼び止める声。

 後ろを振り向くと、何と先日絡んできた石塚達がいた。

「……あん時の(あん)ちゃん達じゃねーか。どうしてェ?」

「と、とりあえずここじゃあ迷惑だから場所移すで!」

「………おい、じじい! 少し前に返り討ちにしたチンピラの相手するんで一旦休みます!」

「誰がじじいだ、コラ!! いてもうたろか!? わーったよ、早く済まさねーとぼてくりこかすかんな!!」

(喧嘩は止めへんのかい!?)

 器がデカイのか絡まれるのが嫌なのか、棟梁(じじい)の言葉に唖然とする石塚達。

 すると次郎長が寄って来て、肩を組んで凄んだ。

「……どやされたかねーんでな。早く済ませようや」

「あ、ああ…………」

 

 

 建設現場から少し離れた路地裏で、次郎長は石塚達と対峙していた。

「……で、何しに来たんでい」

 石塚達は次郎長の前で土下座した。

「わ、わしらを子分にしてくれ!」

 その申し出に、目を見開く次郎長。

 先日ボコられたチンピラ共が、一体どういう風の吹き回しなのか――次郎長は石塚達に問う。

「……どういうこった」

「じ、実はのう――」

 石塚達は次郎長に返り討ちにあって以来、リベンジマッチを望んでいて再会したら派手に喧嘩をしようと画策していた。あの時は感情任せで殴りかかっており、冷静さを欠いていたために殴り返されてしまったので、次は冷静かつ堂々と勝負を挑もうとしたのだ。

 そんな中、「蒼竜組が色黒の若者に襲撃され、シノギを奪われた」という情報が流れた。石塚達が色黒の若者は誰かと言われて真っ先に思い浮かぶのが次郎長……彼が関わっているのではと疑い、事の次第を調べることにしたのだ。

 そして情報は本当のことであり、そのきっかけになったのが元同級生の職場で起こった事件だったこともわかったという。

「木刀一振りで単身殴り込み、生きて帰るどころか元同級生の店の問題も解決しおった……しかも何の見返りも求めずに!! それを見てわしらはその(おとこ)()に惚れたんじゃ!!」

「おめーさん達……」

 ――()()()()()って、見てたのかよ。

 何気に暴露された衝撃の事実に、頭を抱える次郎長。

 つまり、石塚達は先日の次郎長と奈々のやり取りを影で見ていたということでもある。

「最悪だ……よりにもよって俺と奈々の関係も知られちまった……」

「あの女、奈々って言うんですか! 可愛いでんな!!」

「フザけたこと言ってんじゃねーぞ、オイラがわざわざ極道社会に首突っ込まないよう配慮したってェのに台無しじゃねーか」

 次郎長は奈々の身の安全を考慮して、彼女との関係を他の連中に決して知られたくないのが本心だが、どうやら手遅れのようだ。見られた以上は、手を打つしかないだろう。

「……わかった。おめーさん達を子分に迎えてやらァ」

「ホ、ホンマでっか――」

「ただし条件がある」

『!』

 次郎長が石塚達を子分にする条件として、「奈々との関係は敵対勢力に絶対に知られないようにすること」と「次郎長への忠誠心・仁義を絶対とすること」の二つを挙げた。

「……ちょっと待ってくだせェ! 敵対勢力って……一体どういう訳で?」 

「それぐれーわかれよ。裏社会に関わんだ、カタギの同級生を人質にとられたらたまったもんじゃねーだろ」

 奈々という存在が、次郎長の弱点になる。

 それが裏社会で万が一にも流れたら、今後の次郎長の生活どころか並盛の治安にも関わってくる。奈々を人質に次郎長を意のままに操ろうと考える奴などいないという保証は無く、むしろ未だにスカウトを諦めていない連中が奈々を狙うかもしれないのだ。

「まァ、これで次郎長一家の出発点ってことにならァ。ケツの青いままのスタートだぜ……まずは資金集めでい、人なんざ後からいくらでも寄って来らァ。おめーらも早くシノギを稼いでこいよ、合法的(・・・)にな」

『――へ、へい!!』

 

 

           *

 

 

 その夜。

 石塚達は次郎長に呼ばれ、彼が住むアパートを訪れていた。

「こ、これは……?」

「もつ鍋。せっかくてめーらの為に作ったってェのに、食わねーのかい?」

『い、いただきます!!』

 石塚達は皿に盛りつけ、食べ始める。

 久しぶりに食べるのもあるが、次郎長特製のもつ鍋は美味しいのかガッツリと頬張っていく。

「改めて自己紹介でい……オイラは吉田辰巳だ、今は泥水次郎長っつー()(せい)(めい)で通ってる」

『ブーーーーーッ!!!』

 次郎長が本名を口にした瞬間、石塚達は盛大に噴き出し咳き込んだ。

 そして震えながら口を開いた。

「よ、よよよよ……吉田辰巳ィ!? ホンマでっか!?」

「吉田辰巳って言えば……並盛で大暴れした伝説の不良の名じゃねェですけ!!」

「ってこたァ、俺達は伝説に喧嘩吹っ掛けたってことか……負けて当然だ……!!」

 どうやら中学・高校時代の暴れっぷりは後輩達に伝説として語り継がれているようだ。

 次郎長は内心そこまで神格化されてることに戸惑ったが、もつ鍋を食べながら気を取り直して石塚達に訊いた。

「オイラは石塚以外は名前知らねェんだが、残り二人は?」

「お、おれは(かげ)()(だい)(すけ)です!」

「す、(すぎ)(むら)(けん)()です!」

「ツルッパゲの方が景谷で、パンチパーマの方が杉村か。覚えた」

 もつ鍋二杯目に突入する次郎長は、三人に今後の動きを伝えた。

「どうせカタギとしてろくに飯食っていけねェだろうし、俺は極道社会に身を投じる。ヤクザとしてこの町を護るって訳だ」

「極道ですかい。そりゃあ血が滾りますなァ」

「組の名は決まってるんで?」

「組の名は溝鼠組だ。ドブネズミはしぶとく図太ェ生き物だが、一方で強かでしなやかさもある。しぶとさ・図太さ・強かさ・しなやかさ……それら全てを併せ持つ極道になるって意味合いを込めている」

「お……うおおお!! 何ちゅーカッコええ組の由来じゃ!!」

(つっても、ただ成り代わったキャラが率いた組なんだけどね~……)

 遠い目をする次郎長。

 すると、石塚が三杯目に突入しつつ次郎長に訊いた。

「そんで……これからはどうすんで?」

「――今の状況だと、ドンパチやるのはオススメできねーな」

 これからたった四人で裏社会に殴り込み、名を上げることになる。

 少しずつ組は成長するだろうが、いずれにしろ喧嘩の才能に恵まれた次郎長や並盛の住民から恐れられた石塚達でも命を落としかねない状況に見舞われることだろう。

 つまり、武力であれ財力であれ、今は力を蓄える時期であると次郎長は言っているのだ。

「………とりあえず、昼間はバイトで夜は悪タレ共をしばいて治安でも護るか。俺に恨みがあるバカもいる上に他の極道(れんちゅう)のスカウトも諦めてねーだろうし。俺は組の掟でも考えるとすらァ」

 次郎長はそう言って最後の一杯を食べ終えるのだった。

 

 

           *

 

 

 次郎長率いる溝鼠組は、たった四人でのスタートだった。

 次郎長や石塚達は資金集めの為にバイトを何件か掛け持ちし、恨みを買われた連中を返り討ちにしたり極道組織によるスカウトを――物理的に――蹴ったり、町の住民にちょっかい出してくるチンピラをのしたりする毎日だ。

 石塚も自らの名を石塚隆から「黒駒勝男」に変えて名乗るようになり、次郎長をオジキと呼んで子分として行動するようになった。人に従うようには見えない男であると言われていた彼の態度が影響してか、周囲から「次郎長が石塚を改心させた」という噂が出回り、ヤクザ者・次郎長の評判は日に日に広まっていく。

 そんな中、事件は起こった。

「杉村が攫われた?」

「何でも、桃巨会の連中が攫ったようで……!!」

(成程、そういうことかい……)

 焦りまくる景谷の言葉に、次郎長は桃巨会の思惑を察した。

 学生時代の暴れっぷりから目をつけられていた次郎長を組織に入れようとしたが、次郎長は頑なに拒み続け使いの組員をボコボコにしてきた。それに痺れを切らした桃巨会が、杉村を攫い人質にしたということだろう。

(大方、人質である杉村の命を助ける代わりに子分になれと言い出すだろうな。人質ってのァ生かしとくからこそ意味がある……すぐには殺さねェだろうが、手を出すのも時間の問題か)

「オジキ、どうすんで?」

「行くに決まってる。子分が危険な目に遭ってるってのに何もしねェ親分がいるか」

「じゃあ、殴り込みでっか!」

「得物があるなら一応持ってけ。できる限り穏便に済ませてーが、戦闘になるかもしれねェ」

 

 

 桃巨会事務所にて。

 会長である西(にし)(かわ)(さとし)は、杉村を踏みつけながら笑みを浮かべていた。

「次郎長ってガキも、子分が酷い目に遭えば来るだろ」

「ぐっ……!!」

 西川の目論見は、次郎長の予想通りだった。

 彼自身、次郎長の学生時代の逸話を知っている。喧嘩の強さだけでなく度胸や性格の面でも申し分なく、子分として従えられれば並盛を頂点だけでなく日本の裏社会の頂点も狙える。

 そんな夢を描いているのだ。

「さて、野郎はいつ現れるんだろうな――」

「今でしょ」

『……は?』

 声が響いた途端、西川の体が吹き飛び壁に叩きつけられた。

 余程の衝撃だったのか、壁には亀裂が生じている。

「待たせてすまねェな、邪魔者の登場だ」

「オジキィッ!!」

 次郎長達の乱入で、その場は騒然となる。

 拳骨一発で戦闘不能になった西川に、数秒程経ってから組員達が激昂した。

「て、てめェ! よくも会長を!」

「ぶっ殺してやる!」

()っちまえェェ!!」

 組員達は得物を手にして襲い掛かり、次郎長達も得物を手にして正面から立ち向かった。

 数としては圧倒的に桃巨会が多いが、個々の腕っ節ならば次郎長達が上。30は超えていたであろう組員は5分足らずで壊滅――しかも組員の内の7割近くは次郎長が倒している――させられてしまった。

 

 

「……これでこの町のゴミ掃除は終わりでっか? オジキ」

「そりゃあどうだか……だが今回の件でこの溝鼠組が――次郎長一家こそが並盛(このまち)の頂点として君臨できる土台は作れただろーな」

 桃巨会を潰した帰り道、次郎長は景谷の問いに答える。

 この並盛における最大の有力者の一つとも言える桃巨会を潰したことにより、並盛はおろか日本の裏社会でも次郎長の名は知れ渡るだろう。

「で、ですがオジキ……この町にはもっとエライのがいますぜ……」

「何?」

 助けられた杉村曰く、この町には雲雀家という桃巨会以上に恐ろしい有力者があるという。

 その影響力は凄まじいもので、町の公共機関も雲雀家の息がかかっているという噂もある程だという。

「雲雀家……〝表の頂点〟か。だがオイラ達は裏社会だぜ? たとえ裏の連中も恐れる有力者といえど、極道がカタギに手ェ出したら(おとこ)失格だろ」

「っ……!!」

「その辺は様子見だな。オイラ達も雲雀家も並盛の為っつー点は気が合うはずだ……今は抗争の時じゃねェ。じゃあ今日はこの辺でお開きだ、また明日な」

『お、おっす!!』

 

 この桃巨会の一件により、溝鼠組は一気に勢力を拡大することになるが、日本どころかマフィア界をも巻き込む程になる。

 当然、次郎長はこの時点で気づくはずなどなかった。




原作との相違は、桃巨会が原作開始以前に壊滅しちゃってる点と雲雀家のことですかね。

ちなみにこちらの次郎長は銀魂と同様、親分でありながらオヤジではなくオジキと呼ばれてます。
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