浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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7月最後にどうにか更新できました!


標的61:決闘を潰さんとする者

 次郎長と尚弥が訪れたのは、源外の工場。

 花火から屋台まで、町の伝統を背負う頑固親父の仕事場は初めてだ。

「それで、本命は?」

「このデカブツよ」

 源外が指差す先にあるのは、胴体部分が深く斬り裂かれたロボット。

 配線もイカレたのか、ピクリとも動かない。修復は不可能だったようだ。

(……あん時のロボか)

 次郎長は目を細めた。イタリアから来た不届き者共……ヴァリアーの中に一際目立った巨躯の幹部と瓜二つだったのだ。

 家光の野郎(バカ)がボンゴレ公認の決闘を行うと言っていたのだから、相手側の数合わせなのだろう――次郎長はそう判断し、心の内で嘲笑った。

「コイツは〝モスカ〟だ」

「「モスカ?」」

「旧イタリア軍が開発した有人の人型軍事兵器よ。第二次大戦後に研究資料がマフィアに売り捌かれちまったって話を昔聞いたことがある。まァ、まさか本当に存在するたァ驚いたがな」

「メタルギア的な?」

「あっちと比べるとカッチョ(わり)ィが、性能は侮れねーよ」

 このモスカと言う兵器は文字通り全身が武器で、ミサイルやマシンガンだけでなく近未来的武器である圧縮粒子砲をも搭載しているのだ。戦車や戦闘機と比べればはるかに小型で、しかも搭載している兵器は戦略爆撃に匹敵する。

 戦争の歴史において、兵器の小型化は日々研究されていた。命中精度や威力、安全性は当然であるが、小型化あるいは軽量化による運搬性や可搬性の飛躍的向上は物量作戦で重要視されるのだ。

 この兵器(モスカ)が第二次世界大戦の最中に完成していたら、歴史は変わっていただろう。

「軍事国家なら喉から手が出るほど欲しがるエライ代物だ。シャバだろうが裏社会だろうが、勢力争いに大きく影響を与えるだろうよ。ただなァ……」

「?」

「……動力源だけはどうもわからねーのよ。有人である以上は乗って操縦することは間違いねェ。操縦方法も何となくわかるが、どうやって動かすんだか……」

 この驚異の兵器のおかしな点は、動力源だ。

 これ程の兵器と鈍重な機体を動かすのだ。かなりのエネルギーを必要とするはずなのは、こういう分野に疎い次郎長や尚弥でも明白だ。

 源外曰く、見た目からしてロボットなのは確定だが、電気やガソリンでは到底動かせる代物とは思えず、原子力など論外だと言う。

(……そうとなりゃあ、あと思いつくのは〝死ぬ気の炎〟ぐれーだが……)

「ふぅん……一体誰が持ってきたんだい? あなた一人では無理だろう」

「次郎長、おめーんトコの嬢ちゃんが持ってきたんだよ」

「ピラ子が?」

 それは、数時間程前のやり取りだった。

 

 ――クソジジイ~、面白いゴミがあったからタダであげるね~。

 ――おめーこんなデケェ鉄屑持ってくんな!

 

「……ちょっと親子会議してくるわ」

「おめーしつこく食い下がると嫌われんぞ」

「うるせェ」

 次郎長は頭を抱えて帰宅した。

 そんな彼と入れ替わるように、学ランをなびかせて恭弥が姿を現した。

「恭弥……?」

「〝鬼雲雀〟の倅か」

「ちょっといいかな、父さん」

 

 

 溝鼠組の屋敷にて。

「……ピラ子、おめー今どういう状況かわかってんだろうなァ」

「もちのろんですぜ、オジキ~」

「何がもちのろんだ。この町はかなり不穏なんでい。おめーの身に何かあっちゃ困るんだよ。ちなみに若頭補佐だから心配ご無用とかいう言い訳はなしだぜ」

「うっ……」

 ピラ子は顔を引きつらせる。

 だが次郎長としては今すぐにでも叩き潰したいのが本音。家光もヴァリアーも叩き潰し、あわよくば9代目に倍返しで(・・・・)落とし前をつけさせねば気が済まない。

 が、残念ながら先程遭遇したスイカ頭のナスのせいで、おいそれと手が出せなくなった。ヴァリアー以外に警戒しなければならない相手、(デイモン)・スペードの方が厄介だからだ。ゆえに下手に動けば足を掬われかねず、否が応でも慎重に動かねばならない必要があった。

「……で、本当のところはどうなんだ。親分に黙っておいた方がいいような勝手か?」

「っ……やっぱりオジキは鋭いですね」

「子分の隠し事一つも見抜けねーような間抜けに成り下がった覚えがねーんでな」

 次郎長の眼差しに、観念したかのようにピラ子は言葉を紡ぐ。

「オジキ、連中の今の居場所がわかりました」

「!」

 ピラ子はスクアーロの例の事件以降、並盛近辺や都内のあらゆる宿泊地に根回しをしていた。

 溝鼠組の名が利くのは並盛だけではない。最強の極道として日本の裏社会で恐れられる次郎長の組ともなれば、縄張りの外でも影響を及ぼす。ピラ子は一家のシノギの一部を情報屋である地雷亜と月詠に渡し、情報網を駆使して日本でのヴァリアーの居場所の特定に成功したのだ。その場所は都内のホテルだと言う。

「潰すのは並盛の中でだ。それに日陰者である以上、カタギへの手出しは御法度だぞ」

「当然。私が気になるのは、イタリアの方ですよう。今ボンゴレ内部で何が起こってるのかを知るには、わざわざ海外(そと)に出るより懐からドサマギに盗むのが合理的です。居場所を特定できたんです、あとはオジキもわかってるんじゃないんですかァ?」

「……お膳立てはすでに完了ってか」

 クク、と次郎長は口角を上げた。

 彼らが確実に留守になるのは、並盛に来た時。その隙に溝鼠組の面々がホテルに忍び込んで工作活動を行い、情報を盗み取ってこのフザけた決闘を終わらせる。

 ホテルに向かう面々は後で決めてもいいが、問題は餌の役を誰がするかだ。次郎長は一家で唯一ヴァリアーを全員返り討ちにできる可能性を秘めた実力者なだけに、王としての矜持もあって町外に出るわけにはいかない。

 しかし、子分達を総動員するだけでは心許ない。彼らの腕っ節と度胸を信じていないという訳ではないが、一家総出の武力抗争は初めてな上に相手がマフィア。殺し合いは一対一(サシ)で来る程のヒーロー気取りではないので、もう少し兵力が欲しいところだ。

「そうとなりゃ……声かけに行くしかあるめェ」

「オジキ、お出かけですか~?」

「ちょいとぶらりとな。それと骸達にウチに来るよう伝えておけ。大事な話があるってな」

 次郎長は立ち上がり、刀を腰に差した。

 

 

           *

 

 

 翌日。

「……妙だゾ」

「え?」

 ヴァリアーとの決闘で生き残るべく、修行を重ねるツナ。

 その休憩時間中、リボーンが怪訝な表情でそう呟いたのだ。

「どうしたんだよ、リボーン……」

「静かすぎる。家光とヴァリアーに手を出して警告しながら、あれ以来目立った動きがねェ」

「次郎長親分が?」

 バジルも食いつく。

 ヴァリアーと対峙した際、次郎長は凄まじい程の殺気を飛ばして威嚇して「ボンゴレは全員一人残らず俺が叩き潰してやる」と豪語した。しかしそれ以降鳴りを潜めており、あのボンゴレ絶対潰すマンな次郎長にしては奇妙なのだ。

「それだけじゃねェ、アイツと縁がある骸がやけに協力的なんだが……」

 隣町の黒曜で暮らす骸一派は、次郎長の息がかかっている。厳密に言えば次郎長が昔のよしみで無償で個人的に支援しているわけだが、マフィアへの憎しみが強い彼らが次郎長に対しては別人のように友好的である。

 そんな彼らに家光がツナの守護者になるよう要請したら、これといった条件を付けることもなく了承した。何の見返り(・・・・・)も求めずに(・・・・・)、だ。

 家光は満足気だが、リボーンは妙な胸騒ぎがして仕方なかった。というのも、同時刻にディーノが恭弥に声を掛けたところ、「父の許可も下りてる」と言って了承した。

(――何かおかしい。人に従うような男じゃねーと判断してたが、何でこうも容易く首を縦に振った?) 

 正直な話、リボーンは次郎長が陰で暗躍しているのではないかと疑っている。

 次郎長はXANXUS(ザンザス)のような冷酷漢ではないが、町や身内を護るためなら時には無慈悲な報復措置を取る。それはたとえ相手が自分の組よりも上回る存在でも、カタギでなければ一切容赦しない。

 しかし武力抗争となれば、いくら最強の次郎長でもタダでは済まない。それも縄張り内の被害が。それは彼自身も不本意なので、慎重にならざるを得ないだろう。

(……次郎長の奴、まさかな……)

 

 

 その夜、並盛中央病院。

「…………ん……?」

 ベッドの上でゆっくりと目を覚ます一人の青年。

 意識不明の重体だった登だ。レヴィの襲撃に遭っておよそ一週間、ようやく起きたのだ。

「……病院……」

「登! 目ェ覚めたんかワレェ!!」

「!? ……勝男、兄さん……」

 口をあんぐりと開けて見つめるのは、若頭の勝男。

 見舞いに来たところ、偶然彼が起きたのを目撃したのだ。

「こうなっちゃおれん! オジキにはよ連絡せんと……ってああ! 何でこういう時に携帯置いてきたんや!!」

 一刻も早く朗報を伝えようとしたが、こういう時に限って忘れ物をするのが人間。

 勝男は頭を抱えた。

「……ごめんなさい……!」

「……何を謝っとるんじゃ」

 まだ体が痛むため自由に動かせない登は、涙をポロポロと流した。

 敬愛する次郎長にどれ程心配をかけ、どれ程悲しませたか。あの時発砲していれば、こうはならなかったのではないか。

 登はそう思えて仕方なかったのだ。

「僕……オジキさんの子分として未熟ですよね……自分の身もろくに護れやしない……!!」

「そうやって自分を卑下すると、オジキ怒るで」

「……え?」

「お前はこの町で戦争を起こさんように、チャカを抜かなかったんやろ?」

 勝男はフッと笑みを浮かべた。

「お前が眠りこけてた時、オジキが見舞いに来てたで」

「オジキ、さんが……」

「帰ってきてから、わしらにこう言ったんや……「登は強くなった」ってな。親より先にくたばりかけてたことは呆れとったが」

 登は涙が止まらなかった。

 次郎長は登の覚悟を、命懸けで平穏を守ろうとした捨て身の行動を受け止めてくれたのだ。

「……登、もう無茶すんなや。お前はオジキと違うんや、みっともなくてもええから助けを求めりゃいい」

「何気にオジキさんを化け物扱いしてません……?」

「ここだけの話やで?」

 人差し指を口に当てる勝男に、登は微笑んだ。

 それは、ほんの一時だけだが、次郎長一家に日常が戻り始めた瞬間だった。

(問題なのは、ボンゴレ連中やな……)

 

 

 同時刻、並盛中学校の校舎脇。

 そこでは、男達が慌てた様子で動いていた。

《どうしましたか?》

「た、大変な事に……「日輪のコロシアム」が何者かに破壊され使用不能です!」

《!?》

 電話の相手――チェルベッロ機関は言葉を失った。

 というのも、明日の夜はリング争奪戦の第1回戦「晴のリング戦」を行うため、準備に取り掛かっていたのだ。その舞台である鉄檻のように囲われた特設リング「日輪のコロシアム」は、周囲のロープが電熱によって熱せられる鉄線で、あまりの眩しさでサングラスを使用しなければ視界を確保できない程の擬似太陽も動くため、前日に試運転をしようとしていた。

 その矢先に、特設リングごと資材が何者かに破壊されるという緊急事態が発生。

《リングはどんな状況に?》

「もう何もかもズタズタで修復不可能です!! まるで巨大な刃物にでも斬られたような……えっ?」

 男は後ろから近づく気配を感じ取り、ゆっくりと振り返った。

 そして目を大きく見開いた。

 なぜなら、リングを破壊した下手人が姿を現したからだ。しかも――

「お、お前は、まさか……!!」

 

 ザシュッ! ドッ!

 

「だから言ったろ……それでもやるんなら、こっちも考えがあるってよう」

 男を斬り捨て携帯電話を刀で貫き破壊する下手人。

 その正体は、氷のように冷たい眼差しをした次郎長だった……。




ここからボンゴレ及びチェルベッロ機関に対し、次郎長が素敵な嫌がらせを始めます。(笑)
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