浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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8月ギリギリでやっと更新です。
お待たせしました。


標的62:溝鼠組最凶(・・)の女

 翌日の夜、並盛中学校にて。

「第1回戦は無効ですって!?」

 ヴァリアーに属するルッスーリアは、声を荒げた。

 というのも、ボンゴレ公認の決闘「リング争奪戦」の第一戦が、フィールドが破損して使えなくなったというまさかの理由のため中止にせざるを得なくなったのだ。第一戦の準備をしていたものは何者(・・)かの(・・)襲撃(・・)によって全滅し、現在は廃院となったクリニックで集中治療を受けているという。

 XANXUS(ボス)への忠誠心が厚いルッスーリアにとって、活躍の場を失うのは受け入れられないことだ。対する了平は「そういう場合もある」と戦う気満々でありながら割り切っており、妹を心配させずに済むと本音を漏らした。

「……よかった……」

 ツナはホッと安堵する。

 なぜこのような事態が起こったかはともかく、仲間が傷つき苦しむ姿を見ずに済んだのだ。

 争いを好まないツナにとって、これ程嬉しいことは無い。

「その為、第1回戦の晴のリング戦を取りやめ、本来は第2回戦から始めさせていただきます」

「え!? やっぱりやるの!?」

「第2回戦目……あいつら、今日が雷雨だと知って判断したな」

 仕切り直す形で行われたのは、屋上で行われる「雷のリング戦」。

 エレットゥリコサーキットと称される戦闘エリアで、7本の避雷針の他に地面には電気をよく通す特殊な導体(ワイヤー)が無数に張り巡らされている。その導体(ワイヤー)は避雷針に落ちた電流が何倍にも増幅されかけ巡る仕組みであり、ざっくり言えば立っているだけで焼け焦げになるというわけだ。

 しかもヴァリアー側は次郎長にフルボッコにされたとはいえ、歴戦の暗殺者。それに対するツナ側はヒットマンと言えど5歳の男の子。一般論としては勝負にならないはずである。それでも試合――正しくは殺し合い――をするというのだから、頭のネジが跳んでるのではと疑いたくなる。

「……」

「ツナ?」

「ランボ、嫌なら行かなくていいんだぞ」

 ツナはしゃがみ込み、真剣な表情でランボを見据えた。

「父さんがどんなつもりで決めたか知らないけど……棄権したっていいんだ。男だからって逃げちゃいけないってわけじゃない。生きてナンボなんだぞ」

「……っ!」

 ふと、リボーンは目を見開いた。

 見た目も性格もまるっきり違うのに、ほんの一瞬だけ、ツナが次郎長と重なって見えたのだ。

「いざとなったらオレ達が割って入っから」

「ご心配にはおよびません! 10代目!!」

 山本と獄寺の言葉に、ツナは顔を明るくする。

 しかし審判のチェルベッロは、それを認めなかった。

「いけません。そのような行為は失格とし、阻止します」

「そして助けようとした者と助けられた者……二人分のリングが相手の物となりますよ」

 チェルベッロの言葉に、獄寺は腹が立ったのか睨みつけた。

(おじさんだったら、迷わず助けに行くだろうな……)

 ツナは沢田家を見守り続けた次郎長の姿を思い出す。

 物心がつく前から、ツナはあの男の背中を見た。実父ではないが、父親同然だった実母(なな)の同級生を。

 彼がこの場にいれば、迷わず助けに入るだろう。自分が傷ついてでも、それこそ死にかけてでも。だが、それは圧倒的な強さと揺るがぬ覚悟の持ち主だから成し得ることであり、ツナは自分にはできないことだと考えていた。

「では、雷の守護者は中央へ」

 その声と共に、レヴィは一瞬でフィールドに立ち、ランボはトタトタと元気よく走り出す。

 二人がフィールドに立ったことを目視したチェルベッロは、二人が持つ雷のハーフボンゴレリングを査定。本物であることを確認し、開始を宣言した。

「それでは雷のリング、レヴィ・ア・タンVS.ランボ。勝負開始!」

 

 

 同時刻。

 並盛中央病院の一室で、次郎長は登の見舞いに来ていた。

「登、どうでい? まだ痛むかい?」

「婦長さんのおかげで大分楽です……体も少し動けるようになってます」

 明るい笑顔を見せた登に、見事な包丁捌きでリンゴの皮をむく次郎長は安堵の笑みを浮かべた。

 目覚めてからも多少なり傷痕が痛むが、婦長の看病によって順調に回復してきている。今では起き上がって談笑できる程になっており、病院側からは早ければ2週間以内には退院できるという。

「登……」

 ふと、リンゴの皮むきを終え、次郎長はふわりと優しく登を抱きしめた。

「オ、オジキさん……?」

「生きててよかった……っ」

 その小さな声に、登は泣きそうになった。

 いつもの次郎長は、ヤクザの親分としての堂々たる佇まいを忘れない男。腕の立つ子分達をまとめあげる町の「裏の顔」で、最強の極道として己の弱みや隙を見せない若き組長だ。しかし今の次郎長はヤクザの親分というより、家族を失うことを恐れる「吉田辰巳」という一人の人間だった。

 血の繋がりは無くとも、どんなに出来が悪くとも、盃を交わした子は決して見捨てない。それを言葉にせず態度で示す次郎長に、登は「自分はこの人に愛されてる」と改めて自覚した。

「……あの、オジキさん」

「あ?」

「何か……血の臭いが……」

「! ――おお、(わり)(わり)ィ」

 鼻を突き刺すような血の臭いに、登は顔を顰めた。

「ま、まさか……抗争でも?」

「ボンゴレがオイラの並盛(シマ)で後継者争いすることになった」

「ハァッ!?」

 登は目を大きく見開かせ、思わず大声で叫んだ。

「……登、個室だからってここは病院だぞ」

「あ、すいません……じゃなくて!! え!? 何がどうなればそうなったんですか!?」

 頭が混乱し、何から訊けばいいかわからなくなる。

 すると、次郎長は登が倒れてから並盛で何が起こったかを話した。

 ボンゴレ現当主の息子たるXANXUS(ザンザス)率いるヴァリアーの襲来、勝手に開幕宣言したボンゴレ公認――ただし次郎長非公認――の決闘、7年ぶりに再会したヌフフのナス太郎(デイモン・スペード)……あまりにも情報量が多すぎた。

 要するに並盛で戦争が起ころうとしている――登はそう結論づけた。

「……で、どうするつもりですか?」

「水面下で町中の猛者達と連携を取り、連中を町へ閉じ込める。完全封鎖を終え次第、全戦力で叩き潰す手筈だ」

「それ抗争と言うより、一方的な蹂躙ですよね……?」

「そうだ。要するに溝鼠組と風紀委員会主導の包囲殲滅戦を仕掛けるってこった。奈々には(わり)ィが、家光には登と同じ目に遭った上で落とし前をつけさせる」

「半殺しにしてからのケジメ、ですか……」

 うわぁ、と顔を引きつらせる登。

 これも仕方ないことだ。ボンゴレは次郎長の逆鱗に触れたのだ。

「今まではイザコザ程度だったから忠告や脅しで済ませたが、今回はガチだ。全てが終わるまで手打ちの申し出は全部断るようにと通達したしな」

「そ、そうですか……何か、自分が知らない間でとんでもない事態になっているようで……」

 次郎長の発言に、登は震え上がった。

 抗争が終わるまで和解の話し合いに応じないということは、ボンゴレとの武力衝突が確定しているということだ。事態を重く見た、というより堪忍袋の緒が切れた次郎長の決断は、組員総出で反対しても覆ることは無い。それどころか今回は幹部格や古参の組員ですら怒りを露わにしたため、ボンゴレとの戦争は時間の問題である。

「オイラは人情派だが、今回はバリバリの武闘派で通す。この泥水次郎長をコケにしたことがどういう意味かを教えてやらねーとなァ……」

 次郎長から放たれる、威厳すら感じ取れる迫力に登は心の中で合掌した。

 無論、ボンゴレに対してである。

 

 

           *

 

 

 雷のリング戦は、急変していた。

 当初こそランボはレヴィに圧倒されていたが、10年バズーカの連発で逆転。あと一歩のところまで追い詰めたが、その時に効果が切れてしまったのだ。

 元に戻ったランボは電撃を食らって倒れ、レヴィの非情な猛追を受けていた。

「消えろ! 小僧!」

 まるで嫉妬に狂っているかのように、しつこくランボを踏みつける。

 小さな体からは血が滲み、踏みつけられる度に血飛沫が飛ぶ。

「ランボ!!」

 ツナは顔を青くして立ち上がり、走り出す。

 が、リボーンに引き止められた。

「手を出せば失格になるゾ」

「でも!!」

 その時だった。

 

 ドカッ

 

『!?』

「そこまで~!!」

 ランボの息の根を止めようとしたレヴィの前に、短刀(ドス)が突き刺さる。それと共に、あまりにも場違いな軽い調子の声が響く。

 声がした方向に一同は振り向くと、そこに立っているのは、日本刀を腰に差した可憐な少女だった。

「ピラ子さんっ!」

「ツナく~ん! 首の皮まだつながってますか~?」

 両手を振るのは、溝鼠組最凶(・・)であるピラ子。

 意外な乱入者に、ざわつきが広がる。

「リボーン、彼女はまさか……」

「次郎長の義理の娘だ。オレには到底及ばねーが、手強い方だゾ」

 リボーンの言葉に家光が息を呑む中、ピラ子はランボの前に移動し「ランボ君、死んでる~?」と声を掛ける。

 戦場に現れた華に見惚れていたレヴィは、ハッとする。

「何と麗しい……ではない! 貴様、なぜ邪魔をする!」

「そんなの決まってるじゃないですか。生命保険も掛けてない人間、勝手に殺そうとしないでくださいよう。まあ、ツナ君は無条件で助けますけど」

「えーーーーーーっ!?」

 裏を返せば、ツナ以外は生命保険掛けてさえいればどうなってもいいという意味である。

 まさかの言い分に、ツナ達はおろか家光やヴァリアー側も唖然とし、チェルベッロ機関もポカンと口を開けている。なお、唯一笑っているのはリボーンだけである。

「そういう訳なので、この戦いは中止ですよ~!」

「それを認めると――」

 

 ギィン!!

 

「ぐっ……」

「話し合いは一対一(サシ)でも、殺し合いに一対一(サシ)で行く程ヒーロー気取りじゃないですよ」

 ピラ子の一太刀を受け止めるレヴィだが、その顔には冷や汗が。

 笑顔で肌を突き刺すような殺気を放つピラ子に、一瞬怯んだのだ。

「……あ、アレ邪魔(・・)なんで斬っちゃいますね~♪」

 そう言うや否や、ピラ子は跳躍して7本ある避雷針を次々に斬り倒した。

「おおっ! 何と!」

 華奢で可憐ながらも、怪物・次郎長を彷彿させる剣腕。

 レヴィは舌を巻いた。

「はい、じゃあ今日のところはこれでお開きで――」

「お待ちください。その提案は承諾できません」

 ピラ子は終了を勝手に宣言しようとしたが、チェルベッロが待ったをかけた。

「オジキの言っていたクソジジイの嗜好全開の審判とやらですね? ボンゴレファミリーの9代目はいい趣味してますねェ」

「クソジジイの嗜好……ハハハハ!! そいつは傑作だ!!」

 ピラコの毒舌が気に入ったのか、XANXUS(ザンザス)は高笑いする。他のヴァリアーの面々もそれに釣られ、笑いを堪えた。

 一方の家光とバジルは、可憐な少女が平然と9代目を罵倒したことに胆力を認めるべきか口を慎むよう忠告すべきか戸惑った。ツナ達やリボーンも何とも言えない表情を浮かべるしかない。彼女らの詳細を確かめる術が今のところないのだから。

「敵と言えど、仁義は切っておきましょうか」

 ピラコはそう言うと体を斜めに構え、頭を少し下げて右手を前に出した。

「お初にお目にかかります。あっし、大侠客の泥水次郎長が義嬢・椿平子。人呼んで〝人斬りピラ子〟と申します」

「人斬りだとぉ!? あのもっさり女、鉄砲玉だったのかよ!!」

 仁義を切ったピラ子が極道の鉄砲玉だったことを知り、スクアーロは唖然とする。

「失礼ながら、お手前は?」

「わ……我々はチェルベッロ機関です」

(ピラ子さん、失礼も何もないんじゃないかな……)

 相手のことを「クソジジイの嗜好全開の審判」と言い放った時点で失礼だとツナは思っていた。

「それで、承諾できないとは?」

「この争奪戦において我々の決定は9代目の決定だと思ってください。我々は9代目に仕えているのであり、あなたの力が及ぶ存在ではない」

「それ、そっくりそのままお返ししますね~。私は極道です。あなた達の言うことを聞く義理は無いし、あなた達に都合のいい耳じゃないですから」

 ピラ子は冷たい視線を送る。

 彼女は溝鼠組の人間であり、組長である次郎長に仕えている。ゆえにボンゴレの強大な権力など何の効果も無いし、ツナ達と関わりはあれど9代目や家光の権限に従うわけもない。

 自称(・・)9代目直属であるチェルベッロ機関の決定が9代目の決定と同等であっても、業界の違う老獪の言葉に従うわけなどあるはずもなかった。

「我ら溝鼠組一門は沢田綱吉の味方です。どんなに大金を積まれても、どんな圧力を掛けて来ようとも、この事実は覆らない。まあツナ君がなりたがるわけがないですけど。ね、ツナ君?」

 ピラ子に問われると、ツナは強く言った。

「いくら大事だって言われても、ボンゴレリングだとか次期ボスの座だとか、そんなものの為に俺は戦えない!! でも友達が、仲間が傷つくのは嫌だ!!!」

 ツナの確固たる意思に、リボーンはほくそ笑みピラ子は拍手した。

「ほざくな」

 不機嫌そうな低い声。それと同時に、突然ツナが何か大きな力によって吹き飛んだ。

 しかし、吹き飛んだツナの体を受け止めた男が。

「待たせてすまねーな、邪魔者の登場でい」

「じ、次郎長!!」

 吹き飛んだツナを受け止めたのは、いつの間にか推参した次郎長だった。

「お、おじさん……!」

「ツナ、今の啖呵よかったぜ。身内を失いたかねーのァオイラも同じだ」

 ニッと笑みを浮かべ、ツナを優しく下ろす。

 そして次郎長はピラ子に目を配ると、「そいつを頼む」とランボの手当てを任せた。

「……家光、おめー自分(てめー)息子(ガキ)手ェ出されて駆け寄りゃしねーのかい。それともオイラがバカか?」

「っ……それは……」

「……まァいい、おめーはそういう奴だってこたァ前から知ってらァ」

 次郎長の鋭い眼差しに、目を逸らす家光。その拳は強く握り締めており、震えているようにも思えた。

 一方のXANXUS(ザンザス)は、次郎長の姿を視認した途端、左手から眩い光を放ち始めた。

「……てめェ」

()る気か? いいぜ、男は喧嘩(コイツ)に限る」

 双方喧嘩腰。

 緊張感が漂う中、チェルベッロが止めに入るが、XANXUS(ザンザス)は「うるせェ」の一言と共にチェルベッロを攻撃した。

「楽しくなってきたぜ。その腐った戯れ言……沢田綱吉、お前はあの老いぼれとよく似ている」

「え!?」

「こいつは悲劇。いや喜劇が生まれそうだな!!」

 XANXUS(ザンザス)は吹き出すように笑うと、チェルベッロに「続けろ」と命令した。

「では勝負の結果を発表します。今回の守護者対決は沢田氏側の妨害によりレヴィ・ア・タンの勝利とし、雷のリングならびに大空のリングはヴァリアー側のものとなります」

「えっ!?」

「ツナ、そんな曰く付き(・・・・)とっとと渡した方がいいぞ」

 驚愕するツナに、次郎長は一言告げた。

 ボンゴレのボスを狙う者にとって喉から手が出る程欲しい代物は、次郎長から見れば因縁物だ。指輪の為に数多の血が流れているのだ、内部抗争を収めるには手放すのが賢明のはずだ。

「でも、おじさん……」

「どの道向こうの理屈が通るんだ。そんなガラクタにこだわる必要はあるめェ」

 次郎長の淡々とした声に、ツナは複雑な表情を浮かべつつも、首元に下げている大空のハーフボンゴレリングをチェルベッロに渡した。

 リングを手にしたチェルベッロは、XANXUS(ザンザス)の元まで跳び、リングを差し出した。

「これがここにあるのは当然のことだ。俺以外にボンゴレのボスが考えられるか」

 そう言いつつ、XANXUS(ザンザス)は二分化したリングを一つにし、大空のボンゴレリングを中指に嵌めた。

 その様子に、家光やリボーン、獄寺達は顔を歪めた。

「他のリングなどどうでもいい。これで俺の命でボンゴレの名のもと、お前らをいつでも殺せる」

 次郎長はXANXUS(ザンザス)の言葉に溜め息を吐くと、刀の鯉口を切った。

 言葉無き恫喝。その気ならこっちも黙っちゃいない――口を動かさず、次郎長は視線と殺気で応じた。

 それに気づいたのか、XANXUS(ザンザス)は次郎長を一瞥してから目を閉じる。

「――だが老いぼれが後継者に選んだお前を、ただ殺しただけじゃつまらねェ。殺るのはリング争奪戦で本当の絶望を味わわせてからだ……あの老いぼれのようにな」

 XANXUS(ザンザス)は目を開けて嘲笑する。

 家光はハッとした表情で怒鳴り声を飛ばした。

XANXUS(ザンザス)!! 貴様!! 9代目に何をした!!」

「それを調べるのがあなたの仕事ですよねぇ」

 そこへまさかのピラ子のキレのいいツッコミ。

 慈悲など無用と言わんばかりの情け容赦のないそれに、空気が凍りついた。

「――ぶはっ!! ザマァねェな門外顧問!! そんな小娘に小言言われるようじゃボンゴレも終わりだな!!」

「カッコイイこと言ってるつもりだろうけど、その終わりそうなボンゴレのボスになりたがってるバカはどこのどいつだ?」

 親子揃って煽りに煽る。

 これにはカチンと来たのか、XANXUS(ザンザス)は「カッ消す!!」と叫んで発砲。次郎長とピラ子はそれを難なく避ける。

「……で、どう出るつもりだ。こちらとしちゃあ、このまま不戦敗の方が色々と(・・・)都合が(・・・)いい(・・)わけなんだが」

「ハッ……てめーがそう言うってことは、この決闘の後の展開を見越してか」

 次郎長の真意を悟ったXANXUS(ザンザス)は、眉間にしわを寄せた。

 この決闘は、ツナ達が負けてくれた方が次郎長としてはありがたいのだ。負けたらヴァリアーがツナ達を殺しに来ることは明白であり、自分の縄張りと住民を護るために彼らを迎撃して抗争に持ち込み潰すという次郎長の謀略(シナリオ)が成立するからである。

 ただでさえ次郎長一人にスクアーロとレヴィが醜態を晒している上、並盛には他にも一騎当千の実力者がいる。XANXUS(ザンザス)自身は次郎長を殺す自信はあるが、組織的な被害は計り知れない。

 つまり、実際に行動に移すのは得策とは言えないという訳だ。それは彼自身も承知していた。

「ならばこうしてやる。喜べ沢田綱吉、チャンスをくれてやる」

「え?」

 XANXUS(ザンザス)は獰猛な笑みで告げた。

「残りの勝負も全て行い、万が一お前らが勝ち越すようなことがあれば、ボンゴレリングもボスの地位も全てくれてやる。だが負けたらお前の大切なモンは、全て消える」

「た……大切なもの、全て……?」

「せいぜい見せてみろ。あの老いぼれが惚れこんだ力を」

 

 

 ピラ子の乱入によって意外な幕切れとなった雷のリング戦。

 ヴァリアーやツナ達が去った屋上で、次郎長とピラ子、家光は残っていた。

「……それで、あなたはツナ君の味方? それとも古狸の味方?」

「何だと?」

 ピラ子の言葉に、家光は眉を顰めた。

「塩対応もいいところです。オジキも言ってたでしょう? 自分の息子が手を出されて何も思わないんですか?」

「……ツナは強くなってるし、XANXUS(ザンザス)も分を弁えてると判断した上だ。掟に反するようなマネはしない」

「あんな狂犬が分を弁えてるとは思えませんけどねェ。あの場合はオジキが飛び込んだからどうにかなったのであって、奴さんが手加減してくれる保障はどこにもないじゃないですか。護身術や戦闘技術を習っていても、裏社会のイロハを知らねばまだ一応カタギという扱いです。それに中学生を暗殺集団とぶつけるなんて、頭大丈夫ですか?」

 何かのハズミで死にかけたらどうするつもりだったのか――ピラ子はそう訊いていたのだ。 彼女の言葉が、家光に鋭く突き刺さる。

「家光、おめーは息子(ツナ)を一番軽視してるんだぜ」

「なっ……そんなことは無い!!」

「ツナが吹っ飛ばされた時と9代目のジジイに手を出したであろうボンボンの時と、態度が全く違うの気づいてるか?」

 次郎長の氷のように冷たい眼差しに、家光は気圧された。

 どんな立場であれ、妻が命懸けで産んだ子を護ろうと動くのが父たる男だ。血の繋がってる家光が動かず、血の繋がりが無い次郎長が動くなど、本来はあり得ないのだ。

「おめーにとっちゃツナはその程度の存在なんだろ、本当は」

「そんな訳あるか!! 俺は――」

「今更言ったってもう手遅れだ。ボンゴレの伝統だの歴史だのほざく前に、まずは自分(てめー)の家庭での立場ってモンを考えるべきだったな」

 ――今となっちゃあ、何もかも間に合いはしねーだろうがな。

 次郎長の言葉に、家光は一切反論できなかった。

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