浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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お待たせしました。
やっと更新です。

え? 雨のリング戦が無いって?
その前の話で次郎長がボッコボコにしたので、あえてスルーします。


標的64:霧のリング戦・前半

 翌日の夜。

 並中の校舎で山本とスクアーロが雨のリング戦を繰り広げる最中、クロームと骸は次郎長の屋敷を訪ねていた。

「二人共、並中で今やってる戦いの後におめーらの出番だと聞いた」

「ええ、次は霧のリング戦です」

「お前らがボンゴレに加担するとは思わなかったが……一応理由を知りたい。戦う理由は何だ?」

「決まってます。マフィアの殲滅です」

 骸は妖しげな笑みを浮かべず、真剣な眼差しで告げる。

 次郎長に助けられた幼少期、彼は復讐者(ヴィンディチェ)と繋がりつつ黒い利権を貪り民を苦しめるマフィアを次々と滅ぼした。それはボンゴレファミリーも例外ではない。

 次郎長とボンゴレはツナをめぐって対立しているし、彼と義兄弟の関係にある古里真の一家も、ボンゴレを筆頭としたマフィア達に苦しめられた。そういう負の連鎖を止めるためにも、マフィア殲滅の使命感を持ち続けている。それが、エストラーネオファミリーから自分達を救った次郎長への恩返しだと考えているのだ。

「力ある者はいつか衰える。ゆえにあなたが最強である内にマフィア殲滅を実現しなければならないのです」

「さすがに世界大戦は誇張が過ぎたと思ってるか」

「それクロームがいる前で言わないでくれますか」

 躊躇なく黒歴史を抉る次郎長に、骸は頭を抱えた。

「――まあいい。カタギならばアレだが、おめーらはバリバリの裏社会の人間だからな。少し気が楽だ。望み通り、おめーらを本番までにどうにかしてやんよ」

 次郎長はクロームに視線を向けた。

「オイラァ幻術も含めてマフィア(モン)の戦い方に知見はある……だが凪。オイラァおめーの腕っ節や癖、練度や覚悟を知りたい」

「はい」

「だが時間がねェ。こういう時ゃシンプルで俺好みのやり方でやらせてもらう。ピラ子も経験があるから、問題ねーはずでい」

 そう言うや否や、次郎長は腰に差した刀を外した。

 

「どんな手を使っても結構……オイラに(ドス)抜かせてみな」

「それ最初から鬼畜過ぎませんかね!?」

 

 骸は半ギレに近い表情で声を荒げた。

 次郎長が求める技量は、わかりやすく言えば雲雀恭弥以上ということである。いくらマフィア狩りで名を馳せる骸でも厳しい。

「……骸様、私頑張る」

「クローム、お前は人間をやめないでください!」

「おい。オイラも心臓一つの人間一人なんだが」

「あなたとクロームは違うんです!!」

 特に強さが! とキツく言う骸。

 人間を卒業している次郎長と新米の術士であるクロームとでは、あらゆる意味で雲泥の差である。

「……まあ、確かに戦闘においちゃズブの素人である凪には酷かもな。だから少し(・・)変える(・・・)

「「変える?」」

「得物は(ちげ)ェが、基礎戦闘力を上げるために必要な技術を教える。それを勝手に咀嚼して自分自身に叩き込め」

 次郎長はジャキッと刀を鳴らし、獰猛な笑みを浮かべた。

「凪。今から教えるのァ、オイラ達の……並盛男児の戦い方だ。これを使えるようになれば、おめーは間違いなく強くなれる。だが時間が無い分ちょいと厳しいぞ……付いてこれるか?」

「はいっ!」

「じゃあ早速行くぞ……!」

 

 

           *

 

 

 五日後。並中の体育館に、ヴァリアーとツナ達が集っていた。

 今夜行われる「霧のリング戦」のフィールドは、この体育館内のようだ。

「十代目!」

「沢田殿、こんばんは」

「獄寺君にバジル君! お兄さんも来てくれたんですね! ……山本、ケガは大丈夫?」

「おう! ロマーリオのおっさんが大丈夫だってさ!」

 ツナは前の戦いで山本がケガを負ったことが心配だったが、元気よく笑う山本にひと安心した。

 しかし内心、哀しかった。何せ敵といえど、死人が出たのだ。雨のリング戦で、獰猛な鮫が放たれた水中に姿を消した対戦相手(スクアーロ)のことが、どうにも忘れられなかったのだ。

 あの場におじさんがいたら助けてくれたのかな……と、思ってもいたのだ。

「ところで10代目、ウチの霧の守護者は?」

「それが……俺もわからないんだ」

「僕達ですよ」

 そこへ、三叉槍を携えたオッドアイの少年が姿を現した。

 六道骸だ。

「っ! 君は、おじさんの――」

「ええ、六道骸です。そしてこちらがクローム髑髏です」

「何だこの二人は……?」

「ツナの知り合いか?」

「うん……でも俺が知ってるのは……」

 ツナが知っているのは骸だ。次郎長との繋がりで、どこかミステリアスと言うか、本当の姿を隠しているような得体の知れない人物だと認識している。

 しかし骸の隣に立つ少女は、ミステリアスではあるがどこか純粋な気もした。

「こいつらがお前の霧の守護者だゾ」

「二人も? 一人じゃないの?」

「こいつらの事情があってな」

 リボーン曰く、骸が率いる骸一派は中立の立場にあり、本来マフィアと手を組むことをよしとせず不干渉を貫いているという。今回ツナ達に加担したのは、ある種の数合わせや補欠のようなものであり、今回だけ力を貸すというのだ。

「アルコバレーノの言う通り、本来は実に不本意なんですよ。仲間になる気など毛頭無い。ですが僕はあの人(・・・)に大恩がある。その恩返しの一つとして、この不毛な戦いに身を置くのですから感謝してほしいものです」

「何だと!?」

「獄寺君、いいんだ」

 噛みついた獄寺は、ツナに諫められたことで怒りをどうにか抑えた。

「やっと会えた…ボス……」

「へ?」

 するとクロームは、一瞬嬉しそうな表情をしてから何の前触れもなくツナの頬に口を近づけた。が、彼女の肩に浅黒い手が乗せられた。

「おじさん!」

「次郎長……」

 このリング戦の最強のイレギュラー・次郎長親分だ。

「凪……そういうコトは本当に大切なヒトにやれ。ツナ以上の存在がいるだろうに」

「おじさま……」

「お、おじさまァーーーーーッ!?」

 ツナは思わず絶叫した。

「お、おじさんが、おじさま……? え、何、どうなってんの!?」

「いい加減察してくれよツナ、オイラが他人にそう呼ばれる場合は身内に決まってんだろ」

「っ!? それじゃあ――」

「まあ、こいつら(・・・・)の場合は家族っつーより身元引受人や保証人に(ちけ)ェけどな」

 どっこいせ、と胡坐を掻く次郎長は懐から煙管を取り出して吹かし始める。

 一方のヴァリアー側も、マフィア界でも屈指の知名度を誇る若者に興味深そうに目を細めた。

「六道骸……あのマフィア狩りか……」

「少しは期待できそうね」

「隣の女子が気になって仕方ない……」

「レヴィ、お前その発言アウトだぜ」

 リボーンのおしゃぶりが突然光り始めた。

 それと同時に、迷彩服を纏った軍人のような赤ん坊が姿を現した。

「おお、コロネロ師匠!」

「コロネロ……? (なに)(モン)だ」

「イタリアの特殊部隊「COMSUBIN(コムスビン)」の生え抜きだゾ」

「銃火器の扱いに長け、接近戦も得意の軍人か……」

 持ち前の洞察力でコロネロの力量を測る次郎長。

 その鋭い眼差しに気づいたのか、コロネロも次郎長の強さを肌で感じていた。

(無防備に見えて隙がねェ……かなりの猛者だぜコラ!)

「……で、そのチビ軍人は今にも眠そうなんだが大丈夫か」

「完全におねむだぜコラ……。けど俺も確かめたいことがあってな」

「……あのフードの奴か?」

 次郎長の口から出た言葉に、リボーンとコロネロは目を見開いた。

 一方のツナ達はしっくりこないのか、首を傾げている。

「てめェ、何でわかったんだコラ!」

「大方の予想はつく。あのボンボンのツレだった二頭身、てめーらと同じアルコバレーノの可能性が高い。そしておめーの言っていた「確かめたいこと」……もし奴が仲間や顔馴染みってんなら、それを指す言葉にしちゃあ疑念すら感じる言い方でい。死亡説でも流れたか?」

(あの男……ホントに何も知らないのか!?)

 次郎長の真実を知っているかのような推理力の高さに、マーモンは戦慄すら覚えた。

 するとチェルベッロが時計を確認して、ルール説明に入った。

「今回の戦闘フィールドはこの体育館全域です。館内の物は何を使っても構いません」

「この体育館には先日までのような特殊な装置や仕掛けはありません。ただし、観覧者の行動は制限させていただきます」

 上から何か檻の外枠のようなものが両チームに降りてくる。

「このエリア内より外に出ることは出来ませんのでそこはご了承ください」

(ここから出れば問答無用で失格と見なされるってか。センサーか何か張ってるようだな)

「大丈夫かな……」

「オイラの短期集中戦闘講座受けたんだ、どうにかならァ」

 次郎長に鍛えられたクロームか。ボンゴレ最強の暗殺部隊の幹部か。

 生死すら懸かった試合が、ついに始まった。

「霧のリング戦、マーモンvs.(バーサス)クローム髑髏、バトル開始!」

 チェルベッロが右手を掲げ、開戦を高らかに告げた直後。

 クロームは接近し、槍による突きを繰り出した。 

「何っ!?」

「接近戦!?」

 幻術や精神攻撃ではなく、いきなり物理攻撃を仕掛けたのが想定外だったのか、マーモンは紙一重で回避した。

「格闘のできる術士なんか邪道だぞ!!」

「女々しい言葉……」

「何を!?」

 クロームの煽りに近い言葉に、マーモンは憤慨する。

 しかし、それこそクロームの狙いだった。

(おじさまの言う通りに戦えば、骸様に貢献できるはず)

 

 

 ――二日前。

「術士は肉体的苦痛に弱い、か……いい情報だ。そうなると格闘戦に持ち込むのがいいな」

 クロームと組手をする次郎長は、それを眺めていた骸の言葉を聞き口角を上げた。

「凪、戦闘っつーモンは冷静さをどこまで維持できるかが大事だ。頭に血が上ってると判断を間違える」

「……目の前の敵に集中すればいいの?」

「察しがいいな、凪。(つえ)ェ奴が重要視するのァ自分(てめー)の〝間合い〟と〝冷静さ〟だ。自分に有利な距離を保ち、研ぎ澄ました感覚で落ち着いて対処する……これができれば格上相手でも勝機が訪れらァ」

 

 

(……なら、次は)

 クロームは三叉槍で突き・払い・叩きの三種類の攻撃をランダムで繰り出し始めた。

 短く持ったり長く持ったり、変幻自在の連撃が続き、中々攻撃に出れないマーモン。邪道を地で行く相手に、思わぬ苦戦を強いられていた。

「あの子、強い!」

「や、やるじゃねーか……」

 次郎長の手で鍛えられたクロームの強さに、ツナ達は感嘆する。

「っ……小賢しい!」

「きゃあっ!」

 マーモンは無数の触手を放ち、クロームの身体を絡め取った。

 が、気づけばクロームがマーモンの後ろに立っていた。捕らわれていたはずの彼女の姿は、いつの間にかバスケットボールのカゴに代わっていたのだ。

「え!? 何で!?」

「落ち着けバカツナ。あれは幻覚だゾ」

 この試合は、幻覚同士のぶつかり合いだ。互いに発動する幻覚のリアリティさが勝敗を決める、息もつかせぬ騙し合いである。

 しかしそれだけに、周囲への影響力も大きい。ツナ達も例外ではないのだ。

「ムムッ、ある程度はできるみたいだね……よかったよ。ある程度の相手で。これで思う存分〝アレ〟を使える。ファンタズマ、行こう」

 マーモンがそう言うと、頭に乗せていたカエルが黄色い蛇のような形に変わり、 胸元から光が漏れた。

「やっぱりな、生きてやがったぜコラ!」

「やはりな、奴の正体はアルコバレーノ・バイパー」

 コロネロとリボーンが、マーモンの真の名を言う。

 バイパーは超一流の超能力者(サイキッカー)であり、幻術の達人でもある程の術士。最強の赤ん坊の一角に恥じぬ強者なのだと言う。

「僕はお前達みたいな間抜けと違って、呪いを解く研究を――」

 

 ビュッ!

 

「わっ!?」

「目の前の(てき)に集中して」

 リボーンとコロネロに対して一言告げようとしたところを攻撃されるマーモン。

 それを見ていた次郎長は、ニヤニヤと意地汚い笑みを浮かべていた。

「邪道を地で行くなんて聞いてないぞ! 次郎長、あんな汚いマネを教えたのはお前だな!?」

「何言ってやがんでい、裏社会で殺し合いを真っ正面からやる奴は少数派(マイノリティ)に決まってんだろ。弱肉強食の闇の世界に生きといて、汚いだの卑怯だのと女々しい言葉ほざくんじゃねェ」

「うわ、ド正論で殴りつけてきやがった」

 次郎長の完璧な切り返しに、ベルフェゴールは引きつった笑みを浮かべた。

「それにオイラはただ〝勝ち方〟を教えただけだぜ? その場しのぎじゃねェ、本当の完勝の仕方ってヤツだ」

「ムッ! 自惚れも大概にしな!」

「そりゃこっちのセリフでい。己の常識だけで物事を判断すると墓穴掘るぞ……っつーか目の前の敵に集中しろっての」

 外野の次郎長と言い合っている内に、マーモンの後ろが赤く染まり蛇に絡まれた。

「ムッ! これは幻覚じゃないね」

「おお、やるではないか!」

 クロームの奮闘ぶりに、了平が感心する。

 蛇に気を取られている内に、クロームは三叉槍で床を叩き、火柱の幻覚で攻撃する。直撃を受けるが、相手はアルコバレーノ。強力な幻覚が前でも余裕を崩さない。

「君の幻覚は一級品だよ。一瞬でも火柱にリアリティを感じたら焼け焦げてしまうだろう……ゆえに弱点もまた、幻覚!」

 その直後、クロームの作り出した火柱を一瞬にして氷柱に変えてしまった。

「何だ!? この寒さは!」

「火柱が凍った!?」

「不覚にもかかっちまったぜ、コラ!」

 幻覚に巻き込まれる一同。

 だが――

「息が白い……こりゃアイツ(・・・)と同じぐれーの強力さか?」

「平気なのか? コラ!」

「耐性があるだけでい。オイラもまだまだだな」

「おめーこれ以上強くなってどうすんだ」

 冷静過ぎる次郎長に、リボーンはツッコんだ。

「君は幻術を幻術で返された。つまり僕の幻覚に呑み込まれたんだよ」

「っ……!」

 幻術とは人の知覚、すなわち五感を司る脳を支配するということだ。術士の能力が高ければ高い程に支配力は強く、術にかかる確率も高まる。一方で術士が幻術を幻術で返されるということは、知覚のコントロール権を完全に奪われたことを示すのだ。

「もう何を念じても無駄だよ!」

「……それは私の言葉」

「何?」

 勝ち誇るように言うマーモンは、劣勢なのに余裕にも似た落ち着きのクロームに苛立つ。

 するとクロームは三叉槍で床を叩き、火柱でその身を包んだ。

 自分の死体を隠そうとする女術士によくあるパターンか、と一瞬思ったが、それにしては大胆と言うか苛烈が過ぎる。もっと別の意味があると、マーモンは警戒心を強めた。

「上出来でしたよ、可愛い僕のクローム。君は少し休みなさい」

「なっ!? まさか!!」

 マーモンがクロームの謎の行動の真意を悟った瞬間、火柱が消滅して骸が現れた。

「え!? 骸が二人!?」

「バカな!?」

「極限どうなっている!?」

 体育館内は騒然とする。

 というのも、フィールドには確かに骸がいるのだが、クロームがいないのだ。しかも気絶してピクリとも動かない骸がツナ達の傍で横たわっており、まるでクロームの身体に乗り移って支配したかのように見えた。

 誰もが目を疑う光景だが、次郎長だけは違った。

(……骸の言っていた凪の特異体質か。日本刀の写しみてーな状況か?)

 そう、クロームは一時的に骸を憑依させることのできる特異体質で、その体を媒体とすることで一時的に骸を実体化することが可能であるのだ。

 つまり目の前にいる骸は、肉体は凪であるだけでそれ以外は骸の性能(スペック)なのだ。

「さあ、粋がるアルコバレーノに六道のスキルを見せてやるとしましょうか」

 霧のリング戦は、クライマックスを迎える。




ちなみにこの間、炎真達は何をしてるのかと言うと、彼なりに人知れず修行をしています。
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