数日後の夜、並盛中学校の校門前。
この日は恭弥とモスカの戦いが行われる。そして、次郎長が予測した
(恭弥とあのロボの戦いはどうでもいい。結果は見えてる。問題はその後だ)
「おや、次郎長じゃないか」
「雲雀尚弥!!」
考え事をしていた次郎長に声を掛けたのは、並盛でもトップクラスの凶暴性を持つ雲雀家当主と、彼が率いる風紀委員会の面々。
息子の晴れ舞台でも見に来たのだろう。
「おめーも授業参観か?」
「君こそどうなのさ」
「建前はそうだが、
「奇遇だね、僕もそうなのさ」
尚弥の言葉に、意外そうな顔をする次郎長。
どうやら尚弥も尚弥で別の目的があるようだ。
「おめェ、何を狙ってる」
「彼らはマフィアだろう? 恭弥が勝って当然だけど、負け惜しみで何するかわからない。それを口実に全員咬み砕くのさ」
「成程、オイラも似たようなこと狙ってる。早速――」
ドォオン!
「……終わっちゃってたな」
「……」
校門を過ぎてグラウンドに着いた途端、轟音が響いた。
視線の先には、モスカをのした恭弥と
「このまま終わるわけがねェ」
「そうだね。じゃあ動くとするか。君達は待機だ」
そう言って、並盛の表と裏の支配者はグラウンドに展開されたフィールドへと駆けた。
一方のグラウンドでは。
「そのガラクタを回収しに来ただけだ。俺達の負けだ」
「ふぅん……そういう顔には、見えないよ」
焦りを見せぬ
「チェルベッロ」
「はい、
「この一部始終を忘れんな。俺は攻撃をしてねーとな」
恭弥が攻撃を仕掛けようとした瞬間、
その時、恭弥の体に鎖分銅が巻き付き引っ張られた。
「「!?」」
突然の事態に対処できず、なすがままに引っ張られるが、その直後に一筋の閃光が恭弥がいた場所を横切った。あのままいたら、ビームは恭弥の体を貫通していただろう。
「……父さん」
「強くなったね。でもアレで気を抜くのは、らしくないよ恭弥」
恭弥を引っ張ったのは、有刺鉄線を飛び越えて侵入した尚弥だ。
息子の健闘を称えつつ、心配そうに声を掛ける父親に、恭弥はムッとする。
「ったく、銃刀法違反もいいトコだぜ」
その声と共に、今度はフィールドに設置された有刺鉄線と八門の自動ガトリング砲が破壊された。
次郎長の仕業だ。
するとモスカは、次郎長に体を向けて腹部の圧縮粒子砲を向けた。
「そんなモンでオイラの
ガギィンッ!!
次郎長は神速の居合を繰り出し、モスカの圧縮粒子砲を見事に切断。
時代劇さながらの光景に、山本達は歓声を上げ、ヴァリアー側は息を呑む。
――が、モスカは止まらなかった。人の皮膚など簡単に焼き切ってしまう圧縮粒子砲は使い物にならなくしたが、それに代わるようにミサイルが背中から発射されたのだ。
「っ……負け惜しみすんじゃねェ!」
距離を取りながら、暴走するモスカに苛立つ次郎長。
しかし体に備え付けられた強力なあらゆる武器が次々と発射されていき、学校の校舎にも被害が及んでいく。
「ぶはーはっは!! こいつは大惨事だな!!」
辺り一面黒い煙が立ち上がり、その中で
そんな中で、戦場と化したグラウンドで次郎長はミサイルを捌きながら考える。
(ちっ、このまま消耗戦に持ち込みてーが、その間にアイツらが……)
――カチッ ピーーッ
「ん?」
ドガンッ!!
次郎長の足元から感知音が鳴った途端、爆発した。
フィールドに埋めてあった無数の地雷の一つが、
「ふはっ……はーはっはっ! ザマァねェ!!」
「――おい、誰だ地雷埋めたバカは!! 着物がボロボロになっちまったじゃねーか!!」
土煙の中から、五体満足の次郎長が姿を出す。
踏んだ瞬間、ギリギリで爆風と炎を避けたのだ。さすがに無傷とまではいかなかったのか、着物は所々破れ、顔や腕にはススがついている。
地雷を踏んでもピンピンしている次郎長に、思わずルッスーリアは「冗談でしょ」と漏らした。
しかし攻撃の雨は止まず、再び無数のミサイルが次郎長を狙った。次郎長は刀を構え迎撃しようとした、その時だった。
ドウッ
「!?」
「……?」
突如として辺り一面に広がった膨大な炎が、次郎長を護る盾となった。
攻撃が止んだのを確認すると、炎は互いに消え去り、煙の中からシルエットを浮かび上がらせた。
そこに居たのは、額に死ぬ気の炎を灯したツナだった。今のツナはパンツ一丁の死ぬ気モードではなく、いつもの状態ながら冷静沈着な「
「
「…………地雷踏んだんだぞ、無傷じゃねーわ」
軽い会話を交わすと、次郎長はツナに状況を説明した。
「あのポンコツ、暴走して全てを破壊しつくすつもりだ。奴の圧縮粒子砲やフィールドのガトリング砲はオイラが破壊したが、グラウンドの地雷がまだだ。標的はこっちだが、無差別攻撃だから巻き添えを食らいやすい」
「……ありがとう」
「……おうおう、随分と様変わりしたな。おじさんも後れを取るわけにゃいかねーや」
死ぬ気状態のツナの姿に、次郎長は笑みを溢して刀の切っ先をモスカに向ける。
バジルと共にグラウンドに駆けつけていたリボーンは、二人の背中を見てニヒルな笑みを浮かべた。
(……ツナ、次郎長との共闘だゾ。足引っ張りやがったら承知しねーからな)
「そんじゃ、反撃開始でい」
先制攻撃は、次郎長。一瞬にして距離を詰め、モスカの左腕を斬り落とした。
モスカはミサイルを次郎長に集中砲火するが、ツナが放った炎で防がれる。ツナも標的と認識し、右腕の指に付けたマシンガンの銃口を向けるが、発射寸前に次郎長に斬り落とされる。
初めてとは思えない、息の合ったコンビプレー。銃火器豊富なモスカに対し、ツナは死ぬ気の炎を扱えるとはいえグローブ一丁、次郎長に至っては生身で日本刀のみだ。それなのに、劣勢どころか窮地に追い込まれているのはモスカであるのは、誰が見ても明らかだった。
あっという間の猛攻に成す術も無く、モスカは完全に動きを止めた。その隙を突いて、ツナは死ぬ気の炎を灯した平手でモスカを真っ二つに焼き切ろうとしたが……。
「ツナ、そっから先は俺の仕事だ」
「親分……?」
次郎長はツナを制し、代わってモスカの体を居合で斬り裂いた。
すると斬り裂かれたモスカの中から、拘束具でキツく縛られ身動きが封じられた老人が姿を現した。
「……やっぱりか」
「……9……代、目……?」
モスカから出てきたのは、まさかのボンゴレファミリー現ボスだった。
冷たい眼差しで見下ろす次郎長に対し、死ぬ気状態を解いたツナは震えながら見つめている。リボーンは急いで九代目の所に救急箱を持って走る。
9代目は、ゴーラ・モスカの動力源にされていたのだ。
「久しいな、クソジジイ。会いたかったぜ」
「たつ、みく……」
「その名で呼ぶな。本名で呼んでいいのは奈々だけだ、クズが」
まるでゴミでも見るかのような目で、次郎長は衰弱した9代目を見下ろす。対照的に、ツナは今にも泣きそうな顔で見下ろしている。
全ての事情を悟ったのか、9代目は謝罪の言葉を並べた。
「すまない……こうなったのは全て私の弱さゆえ……私の弱さが
「眠り? 何のことだ?
「〝ゆりかご〟?」
リボーンはツナに説明する。
〝ゆりかご〟は今から8年前に起きた、ボンゴレファミリー史上最大のクーデターのことであり、その首謀者が
「綱吉君……君のことはリボーンから聞いていたよ……付き合っている女の子のことや、学校のこと、友達のこと……君はマフィアのボスとしてはあまりにも不釣り合いな心を持った子だ……」
「じゃあ、何で
ツナの言葉に、次郎長を除いた全員が目を見開いた。
「綱吉君……?」
「おじさんが言ってたんだ……一般人として育った子供を、いきなりマフィアのボスにさせるなんておかしいって……」
「……それは……」
「御託はいいよ」
ツナと9代目の会話を、尚弥が遮った。
尚弥は生きも絶え絶えな九代目に、得物の十手を向けて爆弾発言を投下した。
「イタリア系マフィアグループ「ボンゴレファミリー」現首領・ティモッテオ。並盛町風紀委員会の名の下、外患誘致罪で拘束する」
『!?』
尚弥の言葉に、騒然とする一同。
「ガイカンユウチ……?」
「何だ?」
「外国と通謀して、日本国に対し武力を行使させる行為だよ。父さんの言う外患誘致は、ボンゴレファミリー所属の暗殺部隊が並盛で武力を行使したことへの責任を言ってる」
例え死傷者が発生していなくても極刑に処されるけどね、と付け加える恭弥に、ツナ達は呆然とした。
しかし、彼らはそれについてとやかく言える立場ではなかった。実際に被害者は出ているし、町の損失も計り知れない。初めての事態ということもあって慎重に動いているに過ぎず、実際のところは腸が煮えくり返ってる思いなのだ。
「異論はあるかい、溝鼠組組長・泥水次郎長」
「異議は無い」
「……連行して」
尚弥の命令に従った委員により、拘束具をつけられたまま9代目は連行された。
ツナは思わず手を伸ばすが、次郎長は「心配するな」と一言告げて諫めた。リボーンも相手の立場や今回の一件の
「……どいつもこいつも、育児に失敗しやがって。それでもファミリーを束ねるゴッド・ファーザーかよ」
次郎長は笑う。――いや、嗤った。
ボンゴレ当主である9代目は〝神の采配〟と謳われる程に人を見抜く力や決断力に優れた指導者。経験値も実力も経営手腕も、溝鼠組を一代で裏社会屈指の強豪に仕立て上げた次郎長よりも優れている。それは次郎長自身も理解していた。
だからこそ、次郎長は嘲笑った。身内の揉め事一つも解決できない老人が、全てのマフィア勢力の頂点と言えるのだから。
「挙句の果てには息子にガラクタにぶち込まれ、この町を混沌に陥れた。その罪は重いぞ」
そう言うと、今度は
だが、これは彼自身も想定外だった。まさか9代目が町を警備する民間組織に外患誘致の現行犯で拘束されたとなれば、本部が大混乱に陥る。それも相手の言い分も一理あり、マフィアでもヤクザでもない組織への手出しは、上層部も躊躇することだろう。
「
「っ……!」
「そしてチェルベッロ機関の御二方。リング争奪戦はこれで終わりだ。ここから先は俺達が仕切る。お前らの権力はこの町では無意味だ」
主導権の掌握を確信した次郎長は、極悪人のように笑った。
これで全て終わった。ここから先は煮るなり焼くなり好きにできる。
声を上げて高笑いしたい衝動を抑え、背を向ける。が、そこへリボーンが声を掛けた。
「お前……知ってたのか?」
「……何のことだ?」
「9代目がモスカの動力源にされてることに決まってるだろ」
静寂が訪れ、全ての視線が次郎長に向けられた。
次郎長は意にも介さず煙管を取り出し、吹かしながら返答した。
「クク……山ァ張ってただけだ。まさか本当にそうなるたァ思わなかったよ。オイラの怒りに触れといてノコノコ顔出すと思えねーしな」
「……」
「そういうこった。これでつまらねー喧嘩は終わりだ」
完全勝利を確信した次郎長は、堂々と
しかし、このまま終わるはずの戦いは、次郎長自身の予想を裏切って続くことになる。
ヴァリアー編をやってて思うんですよ。やっぱり家族問題は放置しちゃいけないって。
作者はまだ結婚もしてないし彼女もいない二十代ですが。