浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

69 / 90
やっと更新です。
いつもより短めですかね。


標的67:最強の邪魔者

 三日後、並盛中央病院の屋上。

「これで少しは胸がすいたぜ」

 どこか満足気に紫煙を燻らせる次郎長。

 ようやく忌々しい9代目を拘束することに成功し、下らない後継者争いにひとまずの()()()をつけることができたのだ。あとは手打ちに持ち込んで煮るなり焼くなり好きにしてやればいい。

「アンタにも礼を言わねーとな、羽柴藤之介。……いや、地雷亜」

「フン……お前さんが積んだ分の金に見合った仕事をしたまでだ」

 和装の男――地雷亜はそう言って笑う。

 伝説の殺し屋として恐れられた裏社会のフィクサーに、次郎長は交渉して情報売買などを行っていた。そのおかげでボンゴレの動きを知り、そしてイタリアの情勢を知ることができた。情報は時にはあらゆる武器を凌駕する効果があるのだ。

「……そういえばお前さんが敵視している沢田家光、イタリアで影武者に撃たれて病院送りだそうだ」

「うわマジか。ザマァ、門外顧問ザマァ」

 偉いぞ影武者、と付け加えてニヤニヤ笑う次郎長。

 この男も大概である。

「それで、お前さんこれからどうするつもりだ? すでに向こうの内乱は鎮圧したようだが、9代目の狗共がそろそろやって来るぞ」

「オイラだって裏の人間だ、裏社会は所詮は弱肉強食だってことぐらいわかってらァ。報復行為は闇討ち暗殺何でもアリ、人質脅迫なんぞザラとある。まあ大義はこっちにあるからな、良心に付けこみゃどうとでもならァ」

「よくわかってるじゃないか」

 らしくなってる、と次郎長を評する地雷亜。

 そう、裏社会は他の組織や勢力からいつ侵害を受けるか判らない、食うか食われるかの弱肉強食の世界なのだ。法による保護は頼ることができず、暗黙の了解はあれど秩序はほとんどあらず。様々な人間の思惑・策略・欲望が渦巻く中で勢力を示威し組織を護らねばならない。

 並盛という魔界都市の裏の世界を支配する次郎長も、一端の首領としての非情さは持ち合わせるようになっている。ただ非情になる機会が滅多に無いだけだ。

「これで契約は解除だ、失礼する」

「また今度会ったらよろしく」

 軽く挨拶を躱すと、地雷亜は一瞬で姿を消した。

 次郎長は「ホント忍者だよな」と呑気に呟き、再び煙管を咥え吹かし始めるのだった。

 

 

 十分後、病院の相談室では。

「わざわざごくろうなこった、本部(イタリア)が随分と大変(てーへん)だったらしいじゃねーか」

「いや、こちらこそ今回の一件で巻き込んでしまい申し訳ない」

「まあ今回の件はウチだけじゃなくカタギもキレちまったからな。ケジメはつけねーとシメシがつかねーってんだ」

 次郎長は勝男と共に二人の人物と秘密の会談をしていた。

 一人は左腕に義手をつけている初老の男性、コヨーテ・ヌガー。もう一人はメッシュ髪の男性、ガナッシュ・(サード)。二人共、現ボンゴレ当主である9代目の補佐的存在だ。

 本来ならばこの場に9代目が来る必要があったのだが、治療中に加えて一刻も早く事態を収拾させる必要性があったため、ボンゴレ側はトップ不在のまま交渉することとなったのだ。

「そんで、今日決めてーのァ誰が責任(ケツ)持つんだって話だ」

「今回の一件、XANXUS(ザンザス)達の暴走を止められなかったのは重々承知だ」

「受けた被害の賠償は、全て責任を持って――」

「カネの問題を言ってんじゃねーんだよ。誰が責任(ケツ)持つんだっつってんでい」

 次郎長は眉間にしわを寄せて言葉を遮った。

「これは伝手から聞いたんだが……ボンゴレリングっつったか? そもそもアレを持ち込んだの家光の子分らしいじゃねーか。それもあのバカの指示で」

「それは……!!」

自分(てめー)の組織のゴタゴタを他所に持ってくる必要があったか? とばっちり食らって大変だったんだ。カネを出せばどうとでもなる話じゃねーんでい」

 その言葉に、コヨーテは押し黙った。

 今回のボンゴレのゴタゴタで一番の迷惑を被ったのは、並盛で暮らす民間人だ。商店街の被害に加え、それ以前に起こっていた数件の被害。そして溝鼠組組員・幸平登が遭った襲撃事件。立て続けに起きた抗争事件で、どれ程の町民が不安に駆られたことか。

 次郎長率いる溝鼠組は、昔気質の任侠道を標榜しているが、所詮は暴力団だ。非合法な経済活動をするし、同業者同士の抗争もある。世間様からしたら、真っ当な生き方をしているとはとてもじゃないが言えない。だからこそ出来る限り〝裏〟の問題を〝表〟に出して拡大しないようにしなければならない。それによって肩身が狭くなり追い詰められるのは、自分達自身なのだ。

 だがボンゴレは……厳密に言えばヴァリアーなのだが、それを破った。よりにもよって白昼にも事件を起こし、本来はカタギの少年達も巻き込んでいる。これについては弁解の余地もない。

 ゆえに、次郎長の提案する和解の案は――

「ボンゴレを解体しろ。…………それで手ェ打ってやるよ。そうすりゃ風紀委員会も文句は言わねーさ」

「なっ……!」

「知らんのかいな? 手打ちの選択肢にゃ組織の解散ってのがあるんやで?」

 次郎長の妥協案に、コヨーテとは立ち上がりガナッシュは目を大きく見開いた。

 一万近い傘下組織を置く、イタリア最大最強のマフィアの解体。一世紀もの歴史を持つ巨大勢力の解散は、裏社会のパワーバランスを破壊しかねない滅茶苦茶な要求だった。

 しかし、それはあくまでも海外の場合だ。日本の裏社会を牛耳る勢力は暴力団(ヤクザ)であり、海外勢力であるマフィアとは資金源や勢力拡大を巡って対立することもある。それにボンゴレを解体したとしても、構成員は別の組織で生きるのもカタギとして第二の人生を歩むのも自由であるのだ。

 次郎長の狙いはあくまでもボンゴレ本家と直系。傘下と同盟組織は眼中にないのだ。

「今のボンゴレの立場を理解しているのか、次郎長!」

「てめーの上司の息子(ガキ)とその仲間(ツレ)がウチの子分(ガキ)に瀕死の重傷負わせたんだぞ。登はこの町で戦争が起きねーようにと黙って斬られたんだからな」

「っ……!!」

「こっちにゃ大義名分があんだよ。てめーらの本部(ねじろ)に乗り込んで一人残らずぶった斬りてー気分押さえてる俺の気持ちも考えろや」

 若き組長の全身から放たれる、円熟した威圧感。

 最強の極道の気迫に、勝男ですら息を呑む。

 そこへ、思わぬ人物が顔を出した。

「あの……」

「「登!」」

 その場に現れたのは、患者衣姿の登。

 かなり回復しているのか、血色もよく包帯が巻かれた箇所もほとんどない。

「おめェ……ケガはもういいのか?」

「はい。あと二、三日で退院できます」

「…………そうか」

「ようやく華が一輪しかないむさ苦しい男所帯に癒しが戻るわ!」

 次郎長は安堵した表情を浮かべ、勝男はバシバシと肩を叩いて笑う。

 何気に自分の組をディスるような発言をする勝男に、登は苦笑いする。

「ところで、そちらの方々は……?」

「クソジジイの側近共だ。今ちょうど手打ちをしてるところでい」

 和解の会談をしている最中だと語る次郎長だが、醸し出される迫力を感じ取ったのか、登は生唾を飲んだ。

「……おめー当事者なんだから、何か言っといた方がいいぞ。なァに、大義名分はこっちにあるんだ。無ければ無いで言いがかりつけるかでっち上げりゃいい」

「オ、オジキさん! 僕そこまで鬼じゃないですよ! ちょっと思いましたけど!」

「お前も大分染まってきたのう」

 若手も一端の裏社会の住人と化している。

 成長というべきか純真が汚れてゆく様なのか、何とも言い難くしんみりする。

「……君が、幸平登君か」

「あ、はい……」

「私はコヨーテ・ヌガー。こちらはガナッシュ・(サード)。9代目の代理として来日した」

 きょとんとした表情を浮かべる登に、次郎長は一緒に手打ちに加われと促す。

 別に拒否してもよかったが、極道の人間である以上ケジメはつけねばならないので、登は無言で頷いた。

「今回の一件、誠に申し訳ない。次郎長から話は聞いた」

「……」

「報復合戦による全面戦争にならぬよう、命懸けで動いた君の面子をコケにしてしまった。この件は我々に非がある。許してくれとは言わないが……」

 そう言って、コヨーテはガナッシュと共に頭を下げた。

 許さなくて結構、しかし詫びだけはせめて入れさせてほしい――そういうことなのだろう。

 登は二人の心中を察すると、本音を吐露した。

「……正直に言うと、許せません」

「……」

「でも、僕にしたことじゃなく、ツナ君達を巻き込んだことが許せない」

 その言葉に、一同は目を見開く。

「ツナ君はまだ子供なんです。14歳の、一般人なんです。今となってはカタギと言い切れる状況かはわからないけど、それでも……」

 裏の人間は、表の人間に手を出すようなマネはしてはいけない。

 なのに、ボンゴレはなぜツナに固執するのか。マフィアの世界を何一つ知らないごく普通の少年を、自分達の都合でボスに担ぎ上げるとはどういうことか。

 それが、登は理解できなかった。

「慰謝料とか謝罪とか、もういいです。それよりも、金輪際この町に……オジキさんとツナ君達をあなた達の手前勝手な都合に巻き込まないでください」

 それだけは守って下さい、ツナ君の人生を決めるのはあなた方じゃない。

 穏やかに告げて頭を下げる登に、次郎長は優し過ぎるなと思いつつも、その意思を尊重して口を開いた。

「――登に免じてボンゴレ解体は見送らせてもらう。だが登をもう一度コケにしようもんなら……」

「わかっている。9代目に伝え、沢田綱吉のボンゴレ継承権の剥奪を検討しよう。XANXUS(ザンザス)の処遇について、何か要求はあるか」

「他所の家庭問題に口を出す程、オイラァ野暮じゃねーさ」

 次郎長は先程までの圧力はどこへやら、穏やかな様子に変わった。

 剥奪という言い方が気に食わないが、これでツナはボンゴレに操られることはなくなるだろう。9代目からも家光からも解放される。そうなれば、自然と次郎長もボンゴレと対立する必要性はなくなる。

 ボンゴレがツナと距離を置くことで、多くのメリットがあるのだ。この機を逃すわけにはいかないだろう。

(これで全てが丸く収まる……今までよく耐えたなツナ。あとは〝おじさん達〟に任せろ)

 そうほくそ笑む次郎長。

 だが、事件はその日の夜に起こった。

 

 

           *

 

 

 夜の並盛。

 月の光が輝く世界で、次郎長は酒を片手に沢田家へ向かっていた。

 昼間の手打ちの件を、ツナ達に伝えるためだ。ゴーラ・モスカを目の当たりにした次郎長は、電話越しでは盗聴される可能性があると踏み、直接伝える方がまだマシと判断したのだ。

(……今回のはツナにとっていい手土産になる。リボーンのこたァどうでもいいが……まあアイツはボンゴレ直属じゃねーからよしとするか)

 少しは息がつける、と考えたその時だった。

 

 ドンッ! パリィン!

 

「っ……!」

 銃声と共に、次郎長が持っていた酒瓶が砕け散る。

 すぐさま真後ろへ向き直り、距離を取って居合の構えで迎撃態勢を取る。

「……行儀の(わり)ィこって。おめーさん、今どういうタイミングかわかってんだろうな」

 苛立つように吐き捨てる次郎長。

 その視線の先には、XANXUS(ザンザス)がいた。

「……展開としちゃ悪くねーはずだろ。ツナのボンゴレ継承権はチャラになる。必然的に後を継ぐのァおめーになるだろ」

「確かに、これでボンゴレは俺のモノになる。だが…………てめーのような格下の思い通りになるのが気に入らねェ」

「格下ね……その格下に思い通りになるようじゃあ、おめーも半人前でい」

 互いに殺気を放ち、睨み合う。

 しかし次郎長は殺気を収め、構えも解いた。

()るってんなら場所を移す。その気じゃねーなら失せろ」

「ほざけ。ボンゴレの頂点に立つ俺に盾ついた奴を生かすわけねーだろ」

 次郎長を嘲笑し、XANXUS(ザンザス)は最強の邪魔者の排除に動いた。




もしかしたら、今月……というか今年最後かも。
来年は未来編も行けるかな……?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。