浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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標的5:ベビーカステラ

 桃巨会の壊滅後、並盛に変化が訪れた。

 まず次郎長率いる溝鼠組が幅を利かせるようになり、彼の下に続々とゴロツキ達が集い始めた。今では溝鼠組の構成員は組長たる次郎長を含め20人近くに上り、並盛の裏社会を牛耳るようになりつつあった。現時点ではそれぞれアパート暮らしであるが、近い内に大きな日本家屋を建てて本格的にヤクザとしての活動を始める予定だ。

 組に入ったゴロツキ達は次郎長の侠気(おとこぎ)と愛郷心に惚れ、勝男達のように忠誠を誓った。収入がバイト代メインであるとはいえ、一人一人に気遣いを見せる次郎長に文句一つ言わずにコツコツと地道に金を稼いでいく。しかし稼げるお金などバイトでは高が知れるので、もっと多く稼げるような活動をする必要があるのも事実だ。

 そこで次郎長は子分達を並盛神社に召集させ、こう宣言した。

「的屋やるぜ、てめーら」

『極道らしいのキターーーー!!!』

 次郎長の言葉に、子分達は盛り上がった。

 的屋運営は古くからヤクザのシノギとして存在しており、警察も的屋をヤクザ勢力の起源の一つと定義している。そもそもヤクザというものは博徒集団と的屋集団との二つが主体となっており、その歴史も古い。

「この間の桃巨会を潰した件で連中が稼いだシノギをどさくさ紛れにパクったが、その金で屋台とかの商用品買って並盛神社(ここ)でやることにした」

「えげつないなァ、オジキ……」

「じゃが、やっと筋者らしい仕事ですな、オジキ!」

「そこでなんだがよう………てめェら、売りてーモンはあるか?」

 次郎長は勝男達に意見を求める。

 すると多くの子分達が串焼きや焼きそば、豚汁、もつ煮などのネタを上げていく。中にはケバブやポンポン焼きといったマイナーなネタも出てきたが、次郎長は子分一人一人の意見を聞いていく。

「成程……やりてーこたァ腐る程あるってのはよくわかった。だがコストって面を考えると、ケチ臭くなる」

「やるなら準備費をなるべく抑えられるモンがええっちゅーことで?」

「そーいうこった」

 次郎長曰く、見込み違いによって売れ残りが生じた時の大損に備え、準備費の時点でなるべく出費を抑えたいとのこと。そう考えると、手っ取り早くて安く作れる商品がいいだろう。

「そうなると……ベビーカステラがいいかと」

「ベビーカステラ……ああ、あの丸っこいのか」

 ベビーカステラ。

 いわゆる「粉もの」の一種で、祭りの的屋や縁日でよく売られるお菓子だ。卵・砂糖・牛乳・小麦粉・ベーキングパウダーを混ぜて焼くだけであるので材料費が安く済む上、子供達を中心にバカ売れする人気商品だからハズレが無いのだ。

「機械は高いですが、すぐ元は取れますぜ!」

「それはいい情報だ……それで行ってみるか。次の縁日まで時間があるから、試食会でも開くとするか」

 次郎長は手を叩いて集会をお開きにした。

 子分達が帰宅する中、神社の境内に残るのは次郎長と勝男だけとなる。

「オジキ……ちょっとええか?」

「勝男、どうしてェ」

「実はのう……」

 

 

「俺の名を騙るバカが増えてる?」

「桃巨会の壊滅で勢力図が変わり、ドグサレ共がオジキの名で悪さしとるようなんじゃ」

「まァ、そういうロクデナシが出てくるのは当然だろうな」

 若頭となった勝男の言葉に、次郎長はそう呟く。

 日本のヤクザは通常、親分に対して弟分と子分が絶対的に服従する家父長制を模した序列的・擬制的血縁関係を構築することを特徴としている、いわば疑似家族組織だ。通常は組長を「オヤジ」あるいは「親分」と呼ぶのが通常だが、溝鼠組の組員は必ず次郎長のことを「オジキ」と呼ぶ。

 これは次郎長の「自分(てめー)を今まで育てた実の父親こそ〝オヤジ〟だ」という彼なりの生みの親・育ての親に対する配慮が理由なのだが、実際は「自らの子分と偽の子分を区別するため」というもう一つの理由がある。泥水次郎長と溝鼠組という巨大な名で金品を騙し取ったり信頼や威厳を損なうリスクを負わせる者は、必ずどこかで現れるのが常というもの。そんな偽者連中を炙り出してケジメをつけ、組の内外からの信頼を確実なものにするという次郎長の狙いがあるのだ。もっとも、次郎長自身も子分全員の顔を覚えるよう努めてもいるのだが。

「今んトコはこれといった騒ぎは起こしちゃいねーようだが、近い内にふざけた連中にケジメつけさせる必要があるようだな」

「初期対応は大事やで、オジキ……」

「次の縁日でどう出るかだな……ボーナスチャンスかもしれねェ、気ィ抜くなよ」

(オジキに刃向かう連中、出棺やなァ……)

 次郎長が獰猛な笑みを浮かべながらその場を去り、彼の背中を見ながら勝男は思わず手を合わせるのだった。

 

 

           *

 

 

 数週間後。

 並盛神社ではお祭りが開かれ、溝鼠組はベビーカステラを運営していた。機材で大分出費をしたが、やはり子供ウケがいいのかどんどん売れていき、うまくいけば黒字になれそうだ。

「売り上げはまずまず……地道に金を稼ぐとすっか」

『うっす!!』

「……ラーメン売ってくれるなら、おじさんは何円でも出すけどね」

 次郎長達が札を数えている横でラーメンを啜る、緑の着物を着て眼鏡をかけた白髪の男性。彼は自らを「川平(かわひら)のおじさん」と呼称しており、不動産屋を母と営んでいる。

 この町の住民は本名こそ知らないが、ラーメン好きのイケメンとして認知されているらしい。どうやら屋台のラーメンを求めて並盛神社を訪れたようである。

「……おめーさん、相変わらずラーメンばっかだな。うどんやそばも食ったらどうだ?」

「口に合わない料理は食べないのでね。君こそラーメンは好きかい?」

「麺類は基本イケる口だってのァ事実だねい」

 次郎長の返答に、川平のおじさんは「そうかい」と呟く。

 すると、勝男が次郎長の耳に口を近づけ囁いた。

「オジキ……知り合いなんか?」

「ああ……前に家売る時に一度世話になってな」

「あの小池さんの上位互換みたいなのに世話んなったんかいな?」

「誰だ、今「小池さんの上位互換」って言ったのは」

 こめかみをひくつかせる川平のおじさん。

 その直後、今度は唐揚げ屋の屋台から怒号が響き渡った。

「何だと!? もういっぺん言ってみやがれガキ共!!」

「だからショバ代払えっつってんのが聞こえねェのかじじい!!」

「さっき払ったんだよバカ野郎!! これ以上取るなら花火打ってやんねェぞ次の夏祭り!!」

 髭を蓄え、作業着に身を包んだ壮年の男性が柄の悪い男三人と揉めている。

 相手はチンピラらしく、恐喝しているようだが相手も気が強いため水掛け論状態になっているようだ。

「何や? あの唐揚げやっとるじいさん……」

「ああ、(むろ)(たけし)っておじいさんだよ。江戸時代の天才・平賀源内をモジってるのか、今は(ひら)()(げん)(がい)って名乗ってるんだ」

 川平のおじさん曰く、頑固親父であるが手先が器用なマルチ人間でもあり、花火師や屋台、機械の修理とかもできるという。その上昔は並盛中学校の理科教師として働いていたらしく、随分と評判のいい先生だったそうだ。

(う~わ、まんま源外のじじいじゃねェか……)

 次郎長は遠い目で源外を見る。

 まさか銀魂のキャラがこうも出てくるとは思わなかったのか、顔を引きつらせている。その内もっと濃いキャラ(・・・・・)が出てきそうである。

(出るなら俺の手に負える範囲のキャラであってほしいんだがなァ……)

 次郎長がそんなことを呑気に思っている間にも、チンピラ達と源外の口論は激しさを増す。

「ここは泥水次郎長親分のシマだ!! 次郎長親分に喧嘩売ってタダで済むと思ってんのか!?」

「何が泥水次郎長だァ! そんなに金取りたきゃあてめェの親分連れて来やがれ!!」

 チンピラの言葉を聞き、眉間にしわを寄せる次郎長。

 数週間前、彼は勝男から次郎長の名を騙るバカが増えてることを聞いていた。まさかその張本人が現れたのは想定外である。

「オジキ?」

「……ちょっくらシバいてくらァ」

 次郎長は源外の屋台へ向かい、チンピラ達に近づくと……。

「おい、てめーら」

『?』

 

 ガカァッ!

 

「ひでぶっ!?」

「ぼへっ!?」

「ごぼァ!?」

 次郎長は拳を振るい、三人を殴り飛ばす。

 目にも止まらぬ速さで振るわれた拳をモロに浴び、三人は10m以上飛んでいく。

「――じいさんやい、安心しな。オイラはアンタからシノギを取る気はねェよ」

「おめェが次郎長か……意外と華奢な野郎じゃねェか」

「クク……まァこうして顔合わせんのァ初めてだしな」

「ありゃあ、おめーの子分じゃねェのか?」

「オイラはオヤジじゃなくオジキって呼ばれてんだ。呼び方の時点で本物(シロ)偽物(クロ)かはっきりしてらァ」

 そう言いながら、次郎長は懐から財布を取り出す。

 財布から一万円札を一枚抜くと、それを源外に渡した。

「迷惑料だ……受け取んな」

「ほう……ヤクザ者の割には懐が広いじゃねェか。もうちょっとケチ(くせ)ェ野郎だと思ってたが」

「この並盛町(まち)の王になるんだからな、ケチな王様に護られるのは嫌だろ」

 次郎長は不敵な笑みを浮かべ、自らの組が運営する屋台へ戻っていく。

 その背中を見ながら、源外はゴーグルに目を細めた。

(あのガキは、この町の守護者になるのか? 何とも不思議な空気を持った若造だ……)

 

 

           *

 

 

 結論から言おう。初めての的屋運営は、大成功を収めた。

 機材こそ100万近くかかったが、材料費が安く済んだ上に子供連れからのまとめ買いによりすぐ元が取れ、見事に黒字経営となった。今後はある程度稼げたら屋台を増やし、縁日・お祭りにおける的屋運営をほぼ独占状態にする方針である。

 さて、勝男達が屋台を撤去していく中、次郎長は川平のおじさんと二人っきりで対峙して懐から書類を取り出していた。

「おめーさんだろ、桃巨会に土地売ったのは。この町の不動産屋は川平不動産だけだからな」

 実を言うと、次郎長は桃巨会を潰した後に事務所から「ある土地」に関する書類を押収したのだ。その「ある土地」は並盛山の麓にあり、人の出入りが少ない土地であるため格安である。不動産業を営む彼はヤクザ相手に土地を売るのはさすがに嫌であったが、相手が土下座をしてまで乞うて「ラーメンを奢る」とまで言ったので渋々「ある土地」を売った。

 だが、売ってから思わぬ落とし穴――とんでもない事実が発覚した。それは、その「ある土地」にはケシの花が自生していたということだ。ケシの花は世界で最も古い麻薬であるあのアヘンの原料であり、モルヒネやヘロインの素でもある。そんな代物が自生している土地を、彼はよりにもよって反社会的勢力に売ってしまったのだ。

「あの土地にケシの花が自生していることを知った以上、桃巨会のクスリの捌きに加担することになる。そうなると厄介事になるのは明白……おめーさんは一刻も早く後始末をつけたかった」

「……」

「だが全部一人でやると時間がかかり、万が一にも誰かに見られたら違法栽培だと思われる。だから最近極道になったオイラを利用して桃巨会を潰し、その隙にあの土地のケシも処分するつもりだった……雑だが筋書は大方こんなところだろう?」

「………大したものだ、そこまで読めてたなんてね」

「やっぱり溝鼠組(オイラたち)を駒にしようとしたってのは事実だったかい……まだ処分してねェならその土地の場所教えろよ。オイラ達が代わりにおめーさんのケツ拭いてやるよ」

「――成程、ここへきて商談かい」

 川平のおじさんは、頭を掻きながら呆れた笑みを浮かべる。

 次郎長は桃巨会を潰した礼金代わりに、桃巨会が手に入れようとしていた「ある土地」に自生しているケシを摘み取り焼却するための〝処分金〟を要求したのだ。

「口止め料と手数料、人件費もろもろで150万で手を打ってやらァ」

「……いいよ。あの土地のケシを私一人で処分することはできなくもないけど面倒だからね」

「商談成立だ、間抜け業者」

「誰が間抜けだ。ラーメンがマズくなるような言葉は慎みたまえ」

 

 後日、次郎長は子分達を引き連れて「ある土地」のケシを全て摘み取り焼いたという。

 仕事を終えてから川平のおじさんから大金を得た次郎長は、「請負もいいシノギになりそうだ」とご満悦だったとか。




川平のおじさんに加え、源外のじじいを出しました。
一話限定のキャラじゃないので、ご安心を。

リクエストあったら、銀魂キャラをもうちょっと出します。
ちなみに今、オリキャラで雲雀の親父を出そうかどうか検討中です。
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