街へ出た次郎長は、自分の持つ情報網でリボーンの探索にあたった。
しかし一向に進展せず、参っていた。
「どうしたモンだか……」
公園のベンチに座り、缶コーヒーを飲む。
それよりも、先程から胸騒ぎが止まらないことが次郎長にとっては問題だった。
昔から人並み外れた勘の鋭さを有しているとは思っていたが、こんなにも鬱陶しい警告音は今までになかった。
「……落ち着けねェ」
早くどうにかしてくれと、心の中で自分の直感に言い聞かせる。
するとそこへ、次郎長の子分達が慌てて駆けつけた。
「オジキ、ここにいたんですか!」
「えらいことになってきたんじゃ!」
「……何だと?」
子分達が言うには、何とツナや獄寺まで行方不明になったという。
さすがに心配になってきた奈々は溝鼠組に電話し、次郎長にツナの捜索を頼んだという。
風紀委員会ではなく次郎長を頼ったあたり、長い付き合いゆえなのだろう。
「……いよいよ大事になっちまったな」
「オジキ、どないするつもりで?」
「実はリボーンのバカも行方知らずでな。この案件は事前にオイラが引き受けるって登に言っちまった……そうだな、勝男に「しばらく留守になるから組任せんぞ」っつっとけ。おめーらはいつも通りシノギと見回りをしとけ」
『へいっ!!』
命令に従い、子分達は一斉に行動に移す。その統率の取れた動きに、次郎長は微笑んだ。
並盛の裏社会の最高権力者として君臨してから、15年以上の年月が経とうとしている。古参も新参も含めて子分達は極道として申し分ない成長を遂げ、若頭の勝男も次期組長としての力量度量を完全なものにした。
あと数年経てば、組長の座を譲って相談役か顧問として隠居してもいいだろう。それぐらいに成長したのだ、未練はない。
そんなことを考え、缶コーヒーを飲み干した直後。
ヒュルルルルル……
「ん?」
何かが降ってくる音が頭上から聞こえ、天を仰いだ。
刹那、次郎長は爆発と共にピンク色の煙に呑みこまれた。
*
「どわああああああっ!?」
突然の浮遊感のあと、頭に走る鈍い衝撃。
頭から地面に落ちたのは嫌でも理解できた次郎長は、咳き込みながら立ち上がる。
「ゲホッゲホッ!! んだいきなり!?」
頭をさすると、煙が晴れた。
そこに広がる光景は、さっきの公園ではなく――
「な、何だ貴様!?」
「何者だ!!」
「俺が言いてーわ」
見知らぬ戦場と武装集団だった。
(何だコイツら? どこから湧いて出てきやがった)
次郎長は鋭い眼差しで一瞥する。
目の前にいる武装集団は、全員が黒い制服で身を包んでいる。お揃いの服を着用しているため、近頃街でたむろするカラーギャングなのかと推測するが、その割には構成員の多くは外国人であり、何より得物が
かつて暴走族がヤクザの下請け組織として機能していたように、カラーギャングが別の犯罪組織の下部組織である可能性もあるが……いずれにしろ、この場を切り抜けるのが第一である。
「……てめーら、ここで何をしている」
そこへ、一人の男が歩んだ。
金髪のオールバックとアフェランドラの胸章……一見はマフィアの幹部か要人のボディーガード。不敵に笑ってはいるが、放つ殺気が脅しではないと瞬時に察知し、次郎長は即座に居合の構えを取る。
が、よくよく顔を見ると、面識のある人物と理解して声を荒げた。
「おめェ……アリアんトコの!!」
「っ!! まさか次郎長か!?」
そう、男の正体は
ボンゴレファミリーと同等の歴史を持つ「ジッリョネロファミリー」のボス・アリアの側近であり、勘違いをきっかけとした〝ちょっとした騒動〟で顔を合わせた間柄だ。
だがジッリョネロファミリーの活動拠点はイタリアのはず。もしやここは日本ではなくイタリアではないのか?
次郎長は困惑するが、それ以上に
「こりゃ参ったな……まさか全盛期の次郎長とはな……」
「おい、どうしてェ?」
頭を抱えて悩む
「あの……どうしますか?」
「この男もリストに載ってますが……」
「冗談止せよ。目の前にいるのは全盛期の次郎長だぞ。一番強い頃の化け物と殺し合いなんざ無駄に兵力を失うだけだ」
「俺ァ色々と訊きてェこたァある。ここはどこだ、そして
「っ……よくそういう結論を導き出せるな」
どこか呆れたように笑い、
「ここはアンタが支配していた町だよ」
「――まさか、並盛なのか!?」
「…………一緒に付いて来てくれ。場所を移すぞ」
「予定が入っていない今なら、ここにいても問題無い」
「……てめー俺の並盛に何しやがった? オイラだけじゃなく並盛をコケにしたのか?」
「怒る気持ちはわかる……だがこっちも色々あったんだ」
客人として気を遣ってくれたのだろう。次郎長は一言礼を述べるとグラスに注ぎ、一口煽ると
「何から話すべきだろうな……」
「まずは今の並盛の状況を説明しろ。この次郎長のシマがあんなに荒れてるなんざおかしい」
次郎長のドスの利いた声に、
ここは並盛であるのは言うまでもない。だが10年経った未来の並盛であり、現時点では新興マフィア「ミルフィオーレファミリー」が猛威を振るい、ボンゴレ本部を壊滅状態に追い込んだ上、ボンゴレに関わりのある人間を抹殺するボンゴレ狩りを行っているという。
その中でも次郎長はボンゴレと対立したとはいえ、その脅威的な戦闘力を警戒されて先日討伐計画を実行されたという。しかし想像以上の実力としぶとさに苦戦を強いられ、最終的には数に物を言わせて6時間も攻め続け、疲弊しきったところで「この時代最強の剣士」である幻騎士に斬られ川に落ちたという。
「すでに二日以上が経過したが、今のところ遺体は見つかってない……まだ生きてるのかもしれねーな」
「それ以前に隠居したヤクザ一人に向ける戦力じゃねーだろ。袋叩きでようやく倒せたって、役立たず揃えすぎだろ。人選ミスもいいトコでい」
「
遠い目をする
戦いに敗れた後、勝男達はどうなったのか。ボンゴレ狩りは話の素振りからして
その気持ちを察したのか、
「アンタの関係者だと、溝鼠組は規模を縮小させながら繋いでいる。この時代のアンタが異常に強かっただけだからな。風紀委員会って組織は、トップは行方不明で他は生き残ってるらしい。……だがボンゴレの血統を継ぐ沢田綱吉は、今ミルフィオーレが血眼になって探してる」
「……一応生きてはいるのか」
次郎長は安堵の笑みを浮かべた。
抗争――というか状況的にはリンチ――に敗れはしたものの、護るべき存在はまだ生きているようだ。
「……待て、奈々は? 菜奈はどうした!?」
「……わからん。一応門外顧問と一緒に行動しているって情報はあったが……」
それを知り、拳を強く握り締める。
これは現代ではなく未来の出来事だが、恩人が消息不明とあれば不安になるし、自分への怒りが募る。ましてや希望となるのが険悪な関係の家光ただ一人となれば、無事を祈る以外にない。
しかし、未来は未来。次郎長は心を落ち着かせ、ジッリョネロファミリーの現状を訪ねた。
「それを言うんだったら、アリアはどうした? この時代のオイラみてーに隠居したのか?」
「っ……ボスは死んだ。原因不明の病でな」
「! ……それは、気の毒だったな……」
視線を逸らす
裏社会の組織において、トップの急逝は内部抗争を生みやすい。すでに後継者が確定していればまだどうにかなるが、突然の死だと継承問題で派閥争いが発生し、いずれは抗争となり血を流す。
次郎長は現役の頃から若頭の勝男を次期組長と決めてたため、内部抗争はおろか派閥分裂すら起こさずに済んだが、ジッリョネロファミリーはアリアの死後に体制が揺らいだのだろう。
「そうすると……次期ボスは不在なのか」
「いや……ある意味では、そうかもしれねェ」
「何だと? じゃあいるのか?」
すると
ミルフィオーレファミリーは、新進気鋭のジェッソファミリーがジッリョネロファミリーと合併して誕生した組織であり、ジェッソ出身は「ホワイトスペル」、ジッリョネロ出身は「ブラックスペル」として活動している。しかしその合併はジッリョネロ側がアリアの代から拒否していた案件であり、ジェッソファミリーの首領・白蘭という青年に設けられた和解の場が全ての始まりだという。
その和解の場に応じたのが、ジッリョネロファミリーのボスにして今のブラックスペルの頂点である少女・ユニである。
「ボスの娘である姫は……今の俺達のボスであるユニ様は、守護者抜きのボス同士の会談において白蘭と交渉を行った。その交渉の結果、白蘭との合併を承諾した」
「だが母親の代から断ってた案件を承諾したってことなんだろ? その方がファミリーを確実に護れる、という流れじゃなさそうだが」
「ああ、そうだ……!」
ユニは純真で笑顔を常に絶やさない人物だったが、あの会談以降無表情となり、白蘭に忠実だという。まるで感情を奪われたような、それこそ洗脳されて操り人形となったような感じだという。
おそらく、例の会談で白蘭はユニに何かしたのだろう。
「薬でも盛られたか、それとも洗脳でもされたか……気分のいい話じゃねーな」
「ああ……」
(だがこれはチャンスだ。互いに奪われた
次郎長はグラスの酒を飲み干し、
「なあ
「!?」
次郎長が持ち掛けたのは、共闘して元凶である白蘭を倒す、言わば同盟だった。
「お前は
「次郎長……」
「オイラの任侠道とてめーの騎士道で、そんなどこの馬の骨か知れねー三下にヤキを入れてやんねーとシメシがつかねーっての」
不敵な笑みを浮かべる次郎長に、
――コイツとなら、あの白蘭から姫を取り返せるかもしれない。
「……俺達に何ができる」
「俺ァ白蘭を、ミルフィオーレを知らねェ。いきなり
次郎長の要求に応じ、
「ミルフィオーレは白蘭を頂点とし、その下に「
(結構な大所帯だな……)
ボンゴレに匹敵か、それ以上の勢力と知り、次郎長は顎に手を当てる。
それ程の大組織となれば内部抗争ぐらい起きてもおかしくないが、どうも白蘭は組織の長としての経営手腕は優れてるようだ。
「……で、その6弔花ってのァどういうメンバーだ」
「俺がその一人だ。他にもさっき言った幻騎士、ホワイトスペルのグロ・キシニアとジル、そして入江正一……」
「待て、入江だと? そいつが幹部にいるのか?」
「知ってるのか?」
意外な事実に
入江正一は沢田家の近所に住んでいたカタギであり、並盛の人間である。次郎長自身は面識はなく、彼の母親・入江とも子が登とスーパーで顔を合わせ世間話をする程度の交流があったが、いずれにしろ並盛の人間が並盛に危害を加えていたという事実が発覚した。
しかし次郎長は、入江がマフィアとして並盛の支配権を奪い危害を加える勢力に加担していることに、憤りよりも戸惑いの方が上回っていた。
なぜ一般人の人間がいきなり新興マフィアの幹部格になったのか。諸悪の根源である白蘭とはどういう関係なのか。
疑問が次々と湧き出る中、次郎長は
「……入江は、どういう役なんだ」
「入江はミルフィオーレの中じゃあ中心人物の一人だ。白蘭から特務を申し付けられることもある」
「成程、執行部の人間ってことか」
入江はミルフィオーレファミリーの運営を実質的に行っているメンバーの一人で、相応の権限を行使できるようだ。
だがヤクザもマフィアも、幹部格は腕も度胸も階級に相応しいモノでなくてはならない。白蘭の意向もあるだろうが、入江がそれ程の実力を短期間で習得したとは思えない。何か裏があるはずだ。
「……この時代の抗争は、どうもオイラのやり方が
「そうだな。この時代は〝リング〟と〝
「〝リング〟と……〝
次郎長は初めて聞く単語に目を細める。
リングとは、マフィア黎明期に暗黒時代を生き抜くため、先人達が闇の力と契約した象徴とされてきた代物。使用者の生命エネルギーが通過すると死ぬ気の炎が生成される仕組みで、ボンゴレリングがそれに値する。どうやらマフィア界の各勢力ごとにリングは存在するようだ。
そして初耳の〝
「随分と先の未来を行ってやがる。おめーもそうなのか?」
「ああ。この時代で剣や銃は時代遅れの認識だ」
「隠居したオイラはよく渡り合えたもんだ」
次郎長はおもむろに立ち上がると、出口へ向かった。
「おい、次郎長! どこへ行く?」
「入江を誘き出す。殺したと思っていた奴が暴れ回ってたら否が応でも動くだろ。百聞は一見に如かずってヤツさ。ヤクザ
*
ついに動き出した並盛の王。
早速町内を歩き回り、敵を誘き出そうと画策する。
(来やがれ……かかって来い。オイラの並盛を土足で踏み荒らした落とし前、きっちりつけてやる)
ピリピリと殺気立つ次郎長。
並大抵の腕利きでは腰を抜かしてしまう程の威圧感だが、この時代における自らの立場を考えればいい囮役だ。
すると早速、次郎長の罠に引っかかる者が現れた。
「何だ貴様?」
「どこのファミリーの人間だ!」
白い制服で身を包んだ男達が、次郎長に群がる。
ミルフィオーレの三下連中だ。
「黒はアリアんトコだから……ぶっ潰していいのは
『!?』
その言葉に、目に見える程に動揺する男達。
次郎長は話が早いと刀の柄を握った。
「アイツにこう言っとけ。「いい度胸してるじゃねーか」ってな」
ミルフィオーレ日本支部にて。
部下から抗争の報告を聞いた入江は、監視カメラの映像を見て放心状態となった。
「――えっ? まさか全盛期の次郎長親分?」
そこに映るのは、ホワイトスペルの構成員を薙ぎ倒しまくる着流しの男。
その身体的特徴は、この町の裏の支配者だった男のそれと同じで、10年前の姿だ。
「さ、最悪だ……」
一気に顔を青くする入江。
というのも、次郎長の討伐を指揮したのは入江本人なのだ。厳密に言えば白蘭の頼みを受けたという訳なのだが、彼にとって次郎長は正直二度と相手にしたくない人物であった。
何せ第4部隊から第7部隊までの四部隊による連合軍を送り込み、消耗戦に持ち込んで攻め続けて疲弊しきったところで精鋭幹部で追い討ちを仕掛け、それでようやく攻略できた程の豪傑である。何度も胃や頭を痛め、ミルフィオーレ側の被害もバカにできなかったので、入江にとっては黒歴史やトラウマに近い印象なのだ。
そんな旧時代が生んだ怪物が、よりにもよって黄金期真っ只中の姿で大暴れしている。ただでさえ隠居の身で凄まじい強さだったのに、全盛期となれば戦闘力は比べ物にならない。しかも――
《入江正一……この案件はエンコで丸く収まらねーぜ》
明らかに自分を狙って行動している。
しかも指詰めよりも重い制裁を科すつもり満々。
「うっ……お、お腹痛い……」
いつも以上の痛みを発する腹部を押さえ、入江は最強の極道との再戦に頭を抱えるのだった。
十年後の次郎長は、銀魂本編における勝男と出会った頃の姿だと思ってください。
跡目を勝男に譲ってるので、表立って暴れたりすることは無いのですが、異次元の戦闘力は健在なので、入江の次郎長潰しはどうにか成功って感じです。