浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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三月最初の投稿です。


標的71:10年後の幸平登

 γ(ガンマ)と別れてから、次郎長は思う存分に暴れ回っていた。

「入江のガキの居場所を教えろってんでい。てめーら雑魚に構う暇ァ、オイラにゃねーんだよ」

「……!」

 男の胸倉を掴んで睨む次郎長。

 その周囲には、真っ白の隊服を血で染めて倒れ伏すホワイトスペルの下っ端達が無惨に密集していた。

 数が多かろうが武装が充実していようが、百戦錬磨の次郎長、ましてや10年前(ぜんせいき)の次郎長にはミルフィオーレも手も足も出なかった。力も技術も経験値も、次郎長は全てを勝っていた。

「フン、使えねェ」

 そう吐き捨て、男を放り投げる次郎長。

 これまでに百人以上は確実に薙ぎ倒したが、全員が口を割らないか知らないの一点張り。秘密主義のマフィアらしいと言えばそうだが、早く居場所を特定しなければ逃げられてしまう。

 焦りを覚えつつも、冷静に関係者をボコりながら尋問を続けるしか方法がない。

「ちっ、こりゃあまさか地下とかか……?」

 元いた時代では、並盛駅に地下商店街が造られる計画があり、溝鼠組はそこから得られる利権を独占しようと動いていた。

 10年もあれば、すでに完成しているだろう。その近くに、入江正一の潜伏先があっても不思議ではない。

「……並盛駅に行くしかねーか」

「そこまでだ!」

 目的地を決めた次郎長に声を掛ける男達。

 振り返ると、何とマシンガンを手にした白服達が。

「っ! ちったァ配慮できねーのか……!」

 一般人(カタギ)を巻き込むことすら厭わない姿勢に腹を立て、次郎長は抜刀する。

 その直後だった。

 

 パァン! パァンパァン! パァン!

 

「ぎゃあっ!」

「うぐッ!?」

 破裂音を抑えきったような銃声と共に、白服達がバタバタと前のめりに倒れ全滅した。

 急所はギリギリで外れている。後ろから撃たれたようだ。

「大丈夫ですか?」

 次郎長に優しく声を掛ける狙撃手。

 その正体は、背広を着用したオールバックの男性。今の自分と変わらない三十代前半の見た目で、右手には減音器(サプレッサー)が付いた拳銃(マカロフ)が握られている。

 その顔は、次郎長にとって見覚えのある人物だった。

「おめェ……登か?」

「っ! まさか……オジキさん……!?」

 次郎長を助太刀したのは、10年後の幸平登だった。

 

 

 並盛駅の地下商店街にて。

「どうぞ」

「おう、(わり)ィな」

 次郎長は登に案内され、地下商店街の奥にあるテナント募集の張り紙が貼られた空き店舗の中へ入り下へ続く階段を降りた。

 そこに広がるのは、総絨毯の事務所だった。

「ここは……」

「僕が総裁を務める、溝鼠組の二次団体である秘密組織「並侠連(へいきょうれん)」の事務所です」

 並侠連。

 それは、並盛の裏を仕切る溝鼠組の二次団体で、存在を秘匿されている極道組織。溝鼠組の暗部であり、裏取引・裏工作を専門とした集団である。人質や拉致監禁はしない一方で、抗争の兆候があれば水面下で情報収集と工作活動に徹し、組内きっての武装で制圧するのだ。

 その総裁(トップ)が、何と溝鼠組の構成員で最もヤクザらしくない登なのだ。言い方を変えれば、裏組織として最も適した人材とも言えよう。

「今、飲み物持ってきますね。適当に腰掛けて下さい」

「それじゃあ、お言葉に甘えて」

 ドカッとソファに座る。

 周囲に目を配ると、スーツ姿の男達が時折様子を窺うように顔を出している。

 登の客人と言えど、一切油断せず警戒しているようだ。

「お待たせしました」

「瓶のコーラか……久しく飲んでねーな」

 蓋を開けて一口煽ると、次郎長は登を見据える。

「……ジッリョネロのγ(ガンマ)から、並盛の情勢は把握している。オイラの組に……溝鼠組に何があったか教えてくれ。勝男やピラ子は……皆はどうした」

「勝男兄さんは……二代目は今、服役中です」

 登のいきなりの衝撃の一言に、次郎長は唖然とした。

「勝男警察(サツ)にパクられたのか!? 何やってんだ二代目」

「並盛を一旦離れて体勢を立て直そうとした矢先に、警察の嫌がらせに逆らった組員の「使用者責任」を問われて……」

「暴対法か……並盛は魔界都市だから影響受けなかったもんな」

 並盛を離れた途端に警察との揉め事で逮捕された勝男。

 次郎長と勝男を同時に失った溝鼠組は、京次郎を代理に立てたが、これ以上指導者を失うわけにもいかず、登が並盛に残って他は国内外のどこかで身を隠しているという。

「あの例のマフィアが来て以来、この町はガタガタです。連中が恐れてるのは〝王の帰還〟……そして〝科学力〟の封殺」

 この時代の次郎長が敗れたのは、飛ばされる二日以上前。

 次郎長という秩序を失った並盛はミルフィオーレが支配権を奪取したわけだが、それでもなお遺体が見つからないからか、次郎長が生きている可能性を拭えず内心ビクビクしているだろう。

「武力で言えば、我々が有利でした。たかが極東の島国の一組織だからと油断したのもあったでしょうが、八咫烏陰陽道の皆さんも動いてくれたので」

「まさか、奴らですらミルフィオーレには勝てなかったのか……?」

「いえ、実はもっと別の問題で……何でも龍脈というモノに異変があったらしくて、かなり切羽詰まった状況になったからと戦線離脱しました」

 次郎長は眉間にしわを寄せた。

 龍脈は大地の気の流れであり、風水学において「大地の血管」とも言える超が付く程に重要な存在。そのエネルギーが噴き上がる「龍穴(りゅうけつ)」に住むと一族は永く繫栄するとされ、莫大な恩恵にあやかれるのだ。言い方を変えれば、龍脈に何らかの異変があれば大きな災いに繋がりかねないということでもある。

 八咫烏陰陽道にとって、海外マフィアよりも龍脈の方が優先されるのは当然の流れだ。龍脈にもしものことがあれば、海外マフィアごと国が亡びかねない災いに見舞われる可能性があるからだ。

「タイミングが悪かったってのァよくわかったよ。それで――」

「はい、あとはオジキさんの予想通りに……」

 そして、崩壊が始まったという訳である。

 登曰く、この町でミルフィオーレファミリーと真っ向から張り合える者は一人としていないという。

「僕も表立って動くと連中に勘づかれてしまうので……」

「秘密組織が存在バレちゃ世話ねーわな」

「オジキさんは、何が何でも死守しなければならない。オジキさんでないと、この町を……いや、この時代を救えない」

 己の未熟さに歯がゆさを覚えながら、登は次郎長に頭を下げた。

「オジキさん、この町を……この世界を一緒に救ってください!」

「……ひとまず入江正一を探さねーとな」

 了承以前に事を進めようとする次郎長に、登は頭を上げると笑みを溢した。

 頼むまでもなかったのだ。最初からそのつもりだったのだ。

「オジキさん……」

「登、暫くはここで居候させてもらうぜ」

 次郎長は瓶のコーラを一気に飲み干し、立ち上がって階段へ向かった。

「オジキさん! どこへ?」

「……〝釣り〟に行ってくる。自分の足で探さねーとなんねーだろ、、こういうのは」

 

 

           *

 

 

 その頃。

 ランボの10年バズーカによって未来へ飛ばされたツナ達は、ボンゴレの秘密基地に手次郎長の訃報――ただし10年後の次郎長のだが――を知って呆然としていた。

「う、ウソだ……おじさんが負けるはずない!! いい加減なこと言わないでよ!!」

 目に見える程に取り乱すツナ。

 ツナにとって次郎長とは、実父以上に頼れる身近な大人であり、大きな柱の一つでもあった。

 時に厳しくも優しく接し、常に真っ直ぐ向き合って、いつもどこかで助けてくれる。そんな無敵の次郎長が死んだなんて――

「……次郎長の強さは、俺も承知している。だが家光以上の猛者でも、ミルフィオーレに……」

 元イタリア海軍の軍人である門外顧問機関(チェデフ)の構成員ラル・ミルチは、複雑な表情で告げる。

 次郎長の規格外の強さは、10年後も健在だったが……。

「そんな……」

 涙を流すツナに、獄寺は何と声を掛ければいいかわからなくなる。

 次郎長とツナの奇妙なれど確固たる絆は、獄寺としては嫉妬に近い感情を抱くものだった。だからこそ、ツナがいかに次郎長という大人を信用していたのかが嫌でも理解できた。

 身近な大人を失うことは、裏社会ではよくあることだ。しかし、長く一般人として生きてきたツナにとっては、そのショックの大きさは計り知れない。

 しかし、そこへリボーンが飛び蹴りを炸裂させた。

「狼狽えんじゃねェ」

「ぎゃっ!?」

 首に直撃し、悶絶するツナ。

 そんな生徒に、リボーンは腕を組んで強く言った。

「死体が見つかってねー上に、そいつをミルフィオーレが血眼になって探してるってことは、まだ生きている可能性があるからってことだろーが」

「リ、リボーン……」

「アイツがその程度でくたばる奴じゃねーことは、俺も知ってる」

 リボーンは次郎長の生存を信じるような言葉を口にする。

 彼もまた、泥水次郎長という並盛最強の無法者(アウトロー)の強さを直で感じた者。ならず者の王が新興マフィアごときに易々と殺されるような男じゃないと、リボーンは確信している。

「それよりも、今は味方を集めることが先決だゾ」

 

 

 某所。

 巨大なビルの高層階の、高級感漂う家具が置かれたある一室。

 そこでは、窓際で立ってマシュマロを頬張る青年がいた。

「白蘭様! 先日征圧が完了した並盛町で、連続的に情報が入りました!」

「やあレオ君、ご苦労。早速その情報、教えてくれないかな?」

 白蘭と呼ばれる、ハネた白髪と左目の下についている三つ爪のマークが特徴の青年。彼こそが、この時代で猛威を振るうミルフィオーレファミリーの首領である。

 そしてレオ君と呼ばれた青年は、白蘭の伝達係であるレオナルド・リッピ。その風貌は、幸平登と酷似している。

「昨日より、並盛町でホワイトスペル部隊への襲撃事件が相次いでいます」

 端末を操作し、モニターに映像を映す。

 紅花があしらわれた黒地の着流しを着用し、赤く長い襟巻を巻いた浅黒い男。その周囲には一方的に叩きのめされたホワイトスペルの構成員達。年齢的には白蘭よりも上、三十代半ばに見える。

 その姿を見た瞬間、白蘭の目が鋭くなった。口角は上がっているが、どこか不愉快そうにも見える。

「これは6弔花を動かさないといけないかな」

「白蘭様、この男は一体……」

 レオナルドの疑問に、白蘭は淡々と答えた。

「ホラ。何日か前に、並盛の支配者を正ちゃんが部隊指揮して討伐したじゃん」

「ジャパニーズマフィアの泥水次郎長、ですか?」

「うん。これ、彼の10年前……一番強かった頃の姿だ」

「そ、そんなまさか!!」

 思わず声を荒げるレオナルド。

 入江による次郎長の抹殺計画の報告結果を知る彼にとって、それはあまりにも想定外で、無視できない案件だった。何せこの時代の次郎長は、隠居同然のヤクザ一人に多くの兵隊を派遣し、かなりの損害を被ってようやく倒せた程の強者だ。

 それが、よりにもよって10年前の全盛期の姿で暴れ回っているとなれば、ツッコミどころもあるがすぐに対処しなければならない。

「い、一体なぜ……」

「正ちゃんが頑張って研究してた10年バズーカの仕業だね」

 マシュマロを一つ口に入れ、白蘭は軽い調子で呟く。

 が、ここであることに気が付く。

「……レオ君、ブラックスペルの被害は?」

「え? いえ、一度も確認されてませんが……」

 白蘭はその報告に、ある可能性を考えた。

(……ブラックスペルは元ジッリョネロファミリー。確か10年前のボスは、観光目的で来日していたらしいね。とすると……)

 ――次郎長は、ジッリョネロファミリーと何らかの接点があり、その縁でわざとブラックスペルに手を出してない。

 次郎長がミルフィオーレのホワイトスペルにのみ攻撃する理由としては足りない気もするが、ゼロではないだろう。

「……まあ、この件は6弔花に任せれば問題ないさ。通達はしといてね。それと正ちゃんに護衛として6弔花の中から一人選んどいて」

「はっ」

 白蘭はそう命じ、愉快そうに笑った。

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