浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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五月最初の投稿です。


標的73:グロ・キシニアの誤算

 未来に飛ばされて、早三日が経とうとしていた。

 白蘭と入江を誘き出さんと暴れ回る次郎長だったが、その効果が薄いことに苛立っていた。

(クッソ……連中、思いの外バカじゃねェ)

 ミルフィオーレファミリーの意外な一面に、次郎長は不機嫌になる。

 傘下勢力――ただしホワイトスペル限定――に甚大な被害を与え、この10年後の世界で最強の剣士である幻騎士と互角以上に渡り合うという、戦果としては大金星とも言える無双っぷりを見せつけたことで幹部格を動かし、それを介して白蘭を引きずり出す。……それが次郎長の作戦だった。規格外の戦闘力を有する並盛の王者ならではの、腕っ節に物を言わせた無骨な謀略だ。

 だがミルフィオーレは、幹部格を動かすことなく、次郎長に対処している。舐めプのように思えるが、裏社会で長きに渡って君臨してきた次郎長は、これがミルフィオーレの上層部の意思が動いていることを察知した。

 ミルフィオーレの最優先事項は、ボンゴレ狩りだ。それには民間人も含まれ、ボンゴレ直系の血筋であるツナの義理の身内のような立場である次郎長も例外ではない。なのに次郎長への対応を変えないのは、自らの兵力に対する自信があり、なおかつ下手に相手取って幹部を失うという事態を避けたいという考えがあることに他ならない。

 今まで対峙してきたどの勢力よりも狡猾で慎重――それがミルフィオーレだったのだ。

「……俺を後に回すくらいの標的となりゃあ、やっぱツナか……?」

 次郎長よりも優先的に抹殺せねばならないツナ。

 だが、理解はできても納得がいかなかった。

 そもそもあのリング争奪戦において、次郎長の暗躍によってツナはマフィアの世界から距離を置くことに成功したも同然。この世界でヴァリアーやボンゴレ本家を潰せば、ツナ達はどうなろうと関係ないはずだからだ。

 それでもツナを狙う理由、並盛の住民を狙う理由が、次郎長には思い当たらない。

(……ミルフィオーレファミリーの台頭以前に、ボンゴレに何かあったのか?)

 ふと思えば、次郎長はデイモンとの決着がまだ済んでいない。

 ボンゴレ本家が知ってるかは不明だが、水面下で長年対立してきた男は、狡猾で残忍だ。強いがどこか甘い次郎長と違って、目的の為なら手段を選ばない。

 ――もしデイモンが、自分の理想の為にミルフィオーレファミリーと手を結んでいたとしたら?

「ゼロじゃねーか……だとすりゃあ、幻術使いがいるな」

 術士との戦闘経験はあれど、幻術そのものに対する対策が強靭な精神力による忍耐しかない次郎長にとって、術士の存在は戦力的に非常に貴重だ。是が非でも仲間にしなければならない。

 そう考えると、自分の伝手で得られる戦力は――

「……黒曜に行くか」

 隣町に根を張る、長い付き合いの骸一派だった。

 

 

           *

 

 

 黒曜ヘルシーランド。

 10年もさらに時を経て、廃墟がもっと廃墟化したこの場所にクローム髑髏は飛ばされてきた。

 突如振ってきた10年バズーカの弾に当たり、気がつけばいきなり廃墟の中となれば戸惑うに決まっている。現に彼女は、骸もツナ達もいない一人っきりの状況下で、どうしようか迷っていた。

「……骸様、おじ様……」

 南国果実(むくろ)正露丸(じろちょう)のことを、ついつい思ってしまう。

 それが功を奏したのか……。

 

 キキィン! ドゴォッ!

 

「!?」

 突如コンクリートの壁が、刃物で斬られたような音と共に崩壊。

 敵かと思い、身構えるクロームだったが、その姿を目にして驚愕した。

「おいおい、誰かいねーのか? 千種辺りはいるかと思ったんだが……」

「おじ様!?」

「っ! その声、凪か?」

 面識のある人間がいると知り、互いに目を見張る。

「凪、おめーも飛ばされてきたんだな」

「おじ様、骸様は……?」

「残念だが会ってねェ。この世界じゃあボンゴレ狩りが行われてるからな」

 この世界に来て間もないと察した次郎長は、クロームにボンゴレ狩りについて説明した。

 その無情な事実に、段々と顔色が悪くなっていき、戸惑いと悲しみに溢れていく。

「まさか、骸様もボスも……」

「さァな……だが奴らと()り合って一度もその話題が出てねェ。まずは生きてるだろうな」

 次郎長はそう言い切る。

 そこへ、シャラン、と独特の金属音が鳴り響いた。

「浅蜊に食らいつく溝鼠よ、お前も時を超えて馳せ参じたか」

「!?」

「その声は……!」

 次郎長とはまた違った、威圧を感じさせる低い声。

 二人の元へと現れたのは、八咫烏の紋章が付いた法衣を身にまとう白髪の男。

 随分と久しいその姿に、次郎長は瞠目する。

「お前は……朧!!」

「こうして顔を合わせるのは久方ぶりだな……泥水次郎長」

 鋭い眼光で次郎長を見据える八咫烏。

 支配権を奪われた王者と日ノ本の守護者が、時空を超えた邂逅を果たした瞬間だった。

 

 

 次郎長と朧。

 二人の密談が、商業施設の廃墟で行われた。

「……」

 クロームは、非常にソワソワしていた。

 片や日本の裏社会に君臨するならず者の王。片や歴史の裏で日本(くに)を守護してきた者達の末裔。

 二人から放たれる威圧感は、自分がこの場にいることが場違いな気すら思える。

「この国は、かつてない危機に見舞われている。龍脈の異変は虚様達が引き受け、俺はお前と共に事態収拾にあたるよう直々に命ぜられている」

「ミルフィオーレを、か……」

 八咫烏陰陽道が危険視している程の組織。それがミルフィオーレファミリーなのだ。

「っつーか登からも聞いたんだが、龍脈に何があったんだ。あいつが知ってるってことは、()()()になってるんじゃねーのか」

「――次郎長、貴様は龍脈とはどういう存在(モノ)か知ってるか」

「……まあ、何となくってところだ」

 すると朧は、次郎長に八咫烏陰陽道に何があったのかを語る。

「今からちょうど一週間前、日本列島を通る龍脈の中でも特に強大な富士山の龍脈の気が弱まったという。それはまるで吸い取られたかのようで、今までにない事態に虚様が百地や柩らと共に調査・原因究明に急いでいる」

「……」

「龍脈の異変は、多くの災いをもたらす。八咫烏陰陽道は、代々龍脈の異変による災いを取り除いてきた。そして沢田家康が金鵄であった頃に強力な結界が張られたことで、龍脈が溢れかえることによる異常事態はなくなった」

「だが今回は、逆に弱まるっつー今までにない事態だったと」

 朧は次郎長の言葉に無言で頷く。

 龍脈の異変は、その全てが異常なまでの活発化、いわゆる「暴走」だ。八咫烏はその暴走を食い止め、その技術を後世に伝えてきたという。だがその逆という前例のない非常事態を経験しておらず、状況は切迫しているようだ。

(オイラの並盛を奪ったミルフィオーレ、連中が躍起になってるボンゴレ狩り、そして龍脈の異変……どうも裏を感じるな)

「おじ様……朧さん……もしかしたら……」

「娘……貴様、まさか龍脈の異変が人為的なものだと言いたいのか?」

「娘じゃなくて凪な。ちゃんと名前あんだから憶えとけ。……まあ、絶対に無いとは言い切れねーだろ」

 その言葉に、朧は眉間にしわを寄せた。

 死ぬ気の炎も然り、憤怒の炎も然り、この世界には人智を越えたエネルギーが存在し、それを利用する者達が多い。龍脈を意図的に狂わせ異変を起こすことも、信じ難いだろうが否定することもできない。

「結界張ったのがツナのご先祖様ってこたァ……その縁でツナが狙われるかもしれねェ」

「ああ……話の規模の大きさから考えると、そう考えるのが妥当だろうな」

 朧曰く、沢田家康(プリーモ)が結界を張って以来、度々見舞われる龍脈の暴走による災害は無くなったという。

 もしかすると白蘭達は、その結界を解いて龍脈のエネルギーを意のままに操ろうと画策しているのかもしれない。その為にボンゴレ狩りを行っているのだとしたら、許しがたいことである。

「そう考えると、まずはツナ達を探さなきゃならねェ。ボンゴレ狩りに躍起になってるとなりゃあ、必然的にツナとその周りは狙われる」

「ああ、沢田綱吉はその結界に関連した()()で利用し、用済みとなったところで始末するだろう」

「っ……これだからマフィア(モン)ってのァ……」

 次郎長はイライラした様子で頭を掻く。

 自分自身が昔気質が過ぎるのか、それともマフィア達が合理的で狡猾なのか、どうも折り合いが悪い。ディーノのように聞き分けのいい奴はいるが、揃いも揃ってロクじゃない。

「だが探すと言えど、元々いた世界とは違うぞ」

「んなこたァわかってるよ、10年も違うん…………っ!」

 ふと、次郎長は立ち上がって刀を握った。

 それと共に朧も立ち上がり、錫杖を握り締める。

「おじ様……?」

「――朧、気づいたか?」

「ああ。どうやら奴らの刺客のようだ」

 その言葉に、クロームは驚愕する。

 ミルフィオーレが差し向けた刺客が、この施設に現れたのだ。

「……続きは後だ、ひとまずは()るぞ」

「次郎長、一応は殺すな。何か情報を握ってるやもしれん」

「そう簡単に口を割ってくれるとは思えねーが……まあ、イケ好かねー野郎ってことだけは事実だな」

 

 

 同時刻。

 ミルフィオーレファミリー第8グリチネ隊の隊長であり、γ(ガンマ)や幻騎士と肩を並べる6弔花の一人、グロ・キシニアは黒曜ヘルシーランドの入り口に立っていた。

 その目的は、次郎長の首ではない。クロームだ。

「くくく……ここにクローム髑髏がいるのだな」

 廃墟になったレジャー施設に潜伏しているという情報をどこからか入手したグロ・キシニアは、クロームを独占するべく、悪意に満ちた笑みを浮かべ嬉々として乗り込む。

 

 しかし、彼は二つの誤算があった。

 

 一つは、次郎長の強さを一度たりともその身を以て経験していないこと。

 そしてもう一つは、次郎長以外にも猛者がその場にいたことだ。

 

 独り占めするために部下にも入江にも内緒で単独で乗り込んだ男。

 まさか三対一の状況で、その内の二人が鬼のような強さを持っているなど、知る由も無かった。




次回は試食会場が処刑場に変わる話です。
全盛期の並盛の王者&八咫烏陰陽道の首領格の最強白髪タッグを倒し、クロームの試食を実現できるのか!?
次回、「グロ・キシニア最期の戦い」! デュエルスタンバイ!(笑)
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