浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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グロの出番はこれで終了です。(笑)


標的74:試食会場が処刑場に

 ミルフィオーレからの刺客を撃滅すべく、次郎長達は作戦会議をしていた。

「朧さんよォ、何かいい考えあんのかい」

「下手に罠を張るよりも、正面から叩き潰した方がいい。貴様が奴の気を引き、俺が経絡を狙う形にする」

「じゃあ手間を省いてこっちから出向くか」

 真っ向勝負で合意した二人。

 どうやら自分達の能力を一番発揮できる作戦に出るようだ。

 そんな中、一人置いてかれているクロームは、三叉槍を強く握り締めて骸が最も信頼する次郎長(おとな)に尋ねた。

「おじ様……私はどうすれば……?」

「ん? 無理に戦わなくてもいいんじゃねーか? 俺達ゃ別に手の内知られても問題ねーし」

 超が付く凄腕の喧嘩師と、経絡を熟知した戦闘の達人。

 白兵戦ならトップクラスの実力と戦績を持つ猛者に、幸運にもクロームは庇われている状況である。しかし、共に戦うつもりであったクロームは「自分は足手まといなのではないか」と思い表情を暗くした。

 そんな彼女の気持ちを察したのか、次郎長は優しく頭を撫でた。

「凪、おめーに何かあると骸に顔を合わせらんねーのさ」

「っ!!」

「ここはおじちゃん達に任せな。(わけ)ェ衆、それも女子中学生にケツ持たれちゃ極道の面子が形無しだしな」

 極道の男は、面子を重んじる生き物だ。勿論、旧知の仲である人間に余計な心配を掛けたくないのもあるが、それ以上に持つべき責任(ケツ)をカタギや女が持ったら面子が廃れてしまうのだ。

 しかしそれは彼女も同じだった。クロームは次郎長を心から信じているし、骸にとっても恩人である大人を疑うつもりなど微塵もない。だがいつまでも護られてるのは恥ずかしく、次郎長に対して申し訳なく感じているのも事実だ。

「私も戦う。そうじゃないと、骸様にも()()()()()()()

「……ははっ! あっはっはっはっ! 極道相手に大見得切ってくれるじゃねーか、凪! くれぐれも傷物になるなよ? 34歳にもなって中坊に怒られるのァ恥ずかしい」

 次郎長はクロームの啖呵に大笑いし、参戦を了承した。

「これでこっちは全員参戦……まァ強いて言えば、相手の持ってる(ボックス)兵器っつー代物が不安要素っちゃー不安要素か」

「この時代の奴らの兵器についてはよく知らん。皆目見当もつかんが……使い勝手の良いものではあるまい。力とは必ずそれに見合った負荷が存在する」

「っつーか、武器持ってんの?」

 ちょっと出してみ、と次郎長が武器を取り出すよう言うと、一同は各々の得物を取り出した。

 

 クロームは骸と同じ三叉槍のみ。

 朧は合口拵えの小太刀、仕込み錫杖、毒針。

 次郎長は日本刀一振りのみ。

 

 普通に考えれば、詰んでる状況である。

「ハハッ、アナログが過ぎるな俺ら。相手ハイテクだぜ?」

「いかに強大な能力と武器を持とうと、使い手が素人無能では丸腰も同然。貴様もそれぐらいは心得ていよう」

 朧の言葉に、次郎長は「まァな」と首の骨を鳴らしながら短く返答する。

 その直後、地震のような地響きと共に建物が揺れた。

「……始まったか」

「どうやら潰し甲斐のあるデカブツを持ってきたらしいな」

 冷徹な眼差しで朧は呟くと、次郎長にある物を差し出した。

「……こいつァ」

「私が使う毒針だ。急所や経穴を外れたとしても、毒針は毒針。当たりさえすれば効果は出る。……いらんのならそれもいいが」

「いや、ありがたく貰っておくぜ。他人の言葉にゃ甘えられる時に甘えねーとな」

 朧から毒針を三本受け取り、次郎長は好戦的な笑みを浮かべた。

 白蘭からの刺客に対し、一方的な蹂躙が始まろうとしていた。

 

 

           *

 

 

「ククク……どこにいるクローム?」

 一方、クロームを捜索していたグロは内部まで侵入していた。

 馬上鞭片手に舐めるように辺りを捜索すると、その時は来た。

「誰?」

「――クローム髑髏、試食会場!!」

 三叉槍を構えるクロームに、グロはゲスイ笑みを浮かべた。

「私はグロ・キシニアという。どうやらその様子だと、現状を理解できておらんようだな。しかし、10年前がこうもガキだとは……熟したクロームの方が趣味だが……」

 

 ビュッ!!

 

「ヒッ!? き、貴様!!」

「出てって!! この町は私達の居場所!!」

 ブツブツ呟いている隙に、クロームは股間目掛けて刺突を繰り出した。

 これにはさすがのグロも焦ったのか、素早く後退った。

 時空を超えても男の弱点は共通しているようだ。

「ククク……良いだろう。お前に悪夢のようなトラウマを作ってやろう」

 グロは愉しそうに笑うと、衝撃的な言葉を口にした。

 

「六道骸はな……半年前、私に敗れたのだよ」

 

「……!?」

 突然の爆弾発言に、クロームは動揺を隠せないでいた。

 ――骸様が、負けた?

「っ……騙されない!」

「ほう?」

 しかし、だ。

 クロームは骸と同様、次郎長に師事した身でもある。戦闘においては噓やハッタリで相手の冷静さを欠き、戦局を左右させることなどザラにあると教えられた。

 真偽は後で確かめればいいだけの話。大事なのは、目の前の敵に集中することだ。

「成程……これは良い、実に良い」

 グロは感心していた。

 今の一言で冷静さを欠き、自分の思うままにいたぶれると思っていたが、存外()()()()()()には乗らないらしい。

「ならば、多少なりとも本気でかかる必要があるな」

「!」

「開匣! 〝雨フクロウ(グーフォ・ディ・ピオッジャ)〟!!」

 指に嵌めた指輪――マーレリングから青い炎が灯った。

 それを海の波を思わせるような装飾の(ボックス)に注ぐと、中から一羽のフクロウが飛び出た。

 雨フクロウが鳴き声を上げた瞬間、室内なのに大波が発生してクロームを襲った。

 これは幻覚じゃない――そう悟った時には、すでに遅く。

 

 ゴゴゴゴゴゴ……!

 

 大波はクロームに覆い被さり、背後の窓ガラスを全て吹き飛ばして流れ込んだ。

「この時代の魔法だ。雨フクロウ(グーフォ・ディ・ピオッジャ)のような雨の(ボックス)の特性は〝鎮静〟。雨の死ぬ気の炎でできた波を多量に浴びた者は、その身体機能を緩やかに停止させていき、いずれその意識は闇に――」

 闇に沈む、と言いかけた時、グロはある事実に気づいた。

 あの場に立ちすくんでいたはずのクロームが、その場にいないのだ。

 先程の大波で流されたわけではない。確かに強大な威力だが、その場でクロームをいたぶることにこだわってるため、流されないよう加減をしていた。つまり、自分が(ボックス)の説明をしている隙に逃走したのだ。

 しかし、その間は僅か数秒程。ぼんやりとした意識で、そこまでの身体能力を発揮できるわけがない。とすれば、考えられるのは……。

「……ククク、仲間がいるのか。少しは楽しませてくれるじゃないか」

 グロは見る者が不快感を露わにするような笑みを浮かべた。

 しかしグロは、ここで勘違いをしていた。彼は仲間をクロームと同じ年頃か、せいぜいケツの青い若輩者だと考えていたのだ。

 そして実際に、ケツも青くなく若輩でもない、偽りの王・白蘭に支配権を奪われたならず者の王――並盛の王者であったなど、知る由も無かった。

 

 

 グロがいる階の、一つ上。

 そこでクロームは匿われていた。

「よくやった、これで奴の手の内が知れた」

 そう言ってクロームを労ったのはのは、次郎長だった。

 あの大波が襲ってきた際、外から侵入してクロームを片手で抱え、割れた窓枠を使ってパルクールの要領で跳び、上の階へ避難したのだ。

 その身のこなしと身体能力に、クロームは驚くばかりだ。

「ありがと……おじさま……」

「いいってこった。しっかし、んだ今のフクロウ……なみのりしてんじゃねーよ。俺ァ筋者(スジモン)であってポケモンじゃねーぞコノヤロー」

 想像以上の能力に、思わず舌を打つ。

 しかもこれは、(ボックス)一つだ。複数持っていれば、あの変態おかっぱ頭の攻略はかなり難しくなる。

(こりゃ屋内戦(なか)の方がいいな。外だと避けられねーし、不意打ちもできる)

 次郎長はクロームを下ろす。

 決闘ならばいざ知らず、これは殺し合い。わざわざ相手と同じ条件下で戦う必要は無い。常に自分達が有利になるように手を打つのが定石だ。

(朧は別行動取ってるが……弱けりゃこの際オイラが仕留めちまうか)

 クロームには厳しいだろうが、自分には及ばないだろうと考えた時だった。

「これはとんだ邪魔者だ。せっかくの試食会場を」

「っ!」

「……礼儀のなってねー野郎だな。ノックぐらいしろって習わなかったのかい」

 グロが追いつき、相変わらずの不快な笑みを浮かべていた。

 クロームは思わず次郎長の背後に隠れてしまう。芯が強くても女子だからか、変態への嫌悪感は凄まじい。

「貴様は……そうか、泥水次郎長だな? それも10年前の」

「だから何だってんだ。てめーにゃどうでもいいこったろうに」

「貴様の実力は把握している。戦ってはいないが、多くの部隊を単独で壊滅せしめたその強さ、得るまでにはさぞ多くの年月と代償を払っただろうな。だがその強さも、この時代では無意味!! (ボックス)兵器の前には、どんな猛者も等しく屍と化す!! 白蘭様に逆らう愚かな()()()に生き場所は無い!! クロームを渡して死ぬがいい!!!」

 グロはもう一つの(ボックス)を開匣する。

 匣の中から飛び出したのは、今度は巨大なイカの触手だ。

「〝雨巨大イカ(クラーケン・ディ・ピオッジャ)〟!!」

「んだこりゃあ……」

 その巨躯に、さすがの次郎長も度肝を抜かれた。

 おそらくこれが、変態おかっぱ頭(グロ・キシニア)の切り札なのだろう。

「いくら10年違うっつったって、こりゃちょっと進みすぎやしねーか……?」

「驚くのも無理はあるまい。旧世代(ロートル)のならず者にはな」

 グロがそう言うと、イカの触手に青い死ぬ気の炎が宿り、回転しながら纏った。

「…………歯医者さん?」

「そんな訳ないだろう!!」

「凪、おめー結構天然だな……」

 次郎長が呆れた笑みを浮かべると、その隙を突いて二本の触手が襲い掛かった。

 クロームは危ないと叫ぶが――

 

 ドォン!

 

「なっ、何ィ!?」

「不意打ちは悪くねェ。だが相手が悪かったな」

 次郎長を潰さんとした触手は、一閃されて斬り落とされた。

 この時代の自分がどれ程の苦戦を強いられたか、次郎長は詳しくは知らない。だがグロの前にいるのは、肉体の衰えが少しずつ現れるようになった未来の次郎長ではなく、心技体が絶頂を迎えた全盛期(さいきょう)の次郎長である。

 そう簡単に倒せるような柔な相手ではない。

「フン! 薙ぎ払ってしまえば変わらぬわ!」 

「そうかい。じゃあ今度はこっちの番だ」

 刹那、次郎長は一気に加速してグロに急接近した。

 懐に飛び込み、まずは居合で一撃必殺を狙う。

「ヒッ!!」

 その速さは、まさに神速。グロは咄嗟に後ろへと退いて躱したが、あと一秒遅れていたら勝負は()()()()()()

 続いて次郎長は刀による連撃で攻撃し始めた。豪腕から放たれるそれは、掠っただけでも命を脅かす程の迫力があり、次郎長の強烈な殺気に気圧されたことも相まって中々反撃できずにいた。

 グロは常識に縛られない考え方を持ち、素早く状況を把握する冷静さを兼ね備えている。しかし百戦錬磨の強者の殺気で怯んだ瞬間にそれはマヒしており、本来の実力を発揮できずにいたのだ。

「どうした、そんなにオイラが(こえ)ェのか」

「っ!! 舐めるなァァァァァ!!!」

 次郎長に煽られ、グロは右目の周りをピクピクさせて激昂。

 接近戦用の馬上鞭で右手を打ち、刀を落とさせた。

 これで奴は丸腰になった――そう判断し、意地の悪い笑みを浮かべた瞬間、脇腹に衝撃が走った。

「――なっ……!?」

 目を向けると、次郎長は左手で鞘を逆手で持っていた。

 次郎長の武器は刀だけではない。鉄拵えの鞘も使い、敵を屠る。豪腕で振るう鞘による打撃は、筋肉や骨はおろか内臓にもダメージを与える。

 本人は全く気づなかったのだが、グロは次郎長の戦闘勘を見誤っていた。裏社会でもトップクラスの実力者である次郎長の最大の武器を、彼は封じ込めていなかったのだ。

「幻騎士に比べると、やっぱり白兵戦の素人だな」

「な、何っ……!!」

「基礎戦闘力がなってねェ。()()()()()()()()()

 油断や慢心、情報不足はどんな猛者でも弱点となるが、それは精神面や準備段階で克服できる。

 だが戦闘技術や身体能力と始めとした基礎戦闘力は、鍛錬で培うモノであり、素質で左右されるが戦闘においては欠かせない分野。優れた科学技術や兵器にあやかっても、決して無視してはいけない。

 グロはその部分を蔑ろにしたわけではない。ただ、次郎長は基礎戦闘力を極限にまで高めていたため、格闘戦で絶対的な差がすでに存在し、それが目に見える形となっただけなのだ。

「ま、まだだっ!!」

 グロは残った全ての触手を動かし、総攻撃を仕掛けた。

 次郎長はすかさず落とした刀を拾って斬り捨てるが、その内三本を斬り落とすことに失敗。クローム目掛けて襲い掛かった。

 その直後!

 

 ドドドッ!!

 

「なっ!?」

「俺達が全員揃ったと言った憶えはねーぞ」

 どうにか残った三本の触手が、あっという間に細切れにされた。

 それは次郎長の仕業でも、クロームの仕業でもなく――

「な、何だ貴様は……!?」

「貴様のような下種に名乗る名など無い」

 八咫烏陰陽道の指導者の一人・朧だった。

 彼の手には合口拵えの小太刀が握られており、それで目にも止まらぬ速さであの巨大な触手を斬りまくったのだ。

「白蘭の刺客とやら……貴様に一つ教えておく」

「何ィ?」

「真の八咫烏の羽からは、何者も逃れられはしない」

 

 ドパァン!

 

「ギャアアッ!?」

 刹那、朧が一瞬でグロの懐に潜り込み、鳩尾に掌底を叩きつけた。

 それも、ただの掌底ではない。気功術を駆使し、経絡を的確に突いたのだ。

 グロはそれをモロに食らい、多量の吐血と共に悲鳴を上げ、そのまま壁を次々と突き破りながら吹き飛んでいった。

「……必要最小限の動きで致命傷を負わせるってか。エゲツねーな」

「それこそが戦闘の極意だ。八咫烏の教えの一つでもある」

「さすが秘密結社」

 次郎長は思わず拍手する。

 一方、二人の戦いぶりを目の当たりにしたクロームは、その強さに唖然としていた。

「これが……泥水次郎長……」

 奪われた王座を取り返さんとする男の、底知れない強さ。骸が認め敬意を払う王者の力。

 クロームは次郎長の実力に感嘆すると同時に、隠居同然の身だったとはいえ、10年後の彼を退けたミルフィオーレに戦慄を覚えたのだった。




ちなみにどうでもいい設定ですけど、10年後の次郎長の強さは10年後雲雀恭弥と互角程度です。
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