今回は未来編初登場キャラが出ます。
グロ・キシニアを難なく撃破した次郎長一行。
気絶して伸びたグロの身ぐるみを剥ぎ、パンツ一丁にして窓から投げ捨てると、こう提言した。
「ここを捨てて並盛に戻るぞ、凪」
「え?」
「ここは危険だ、すでに追手も大勢来るだろうよ。その前にトンズラだ」
別に次郎長自身は追手に囲まれても返り討ちにはできるが、クロームの身を考えると無駄な戦闘は避けたいところ。
ならず者の王は肉体の全盛期を迎えているが、彼女はあらゆる意味で未発達な女学生。戦闘力はそこらのチンピラでは相手にならない強さだが、生憎この未来の並盛はワールドクラスの猛者が多い。戦闘の達人・朧が同行していると言えど、慢心や油断はできない。
「……止むを得んな。だがどうする? この世界の貴様は王座を奪われた身……何もかも失ってるやもしれんぞ」
「そこだよなァ……」
そう。未来の世界の次郎長は〝敗者〟なのだ。
裏社会は弱肉強食。どんなに屈強な強豪や猛者でも、負けた人間は全て奪われても仕方ないのが条理。ましてや溝鼠組が壊滅状態である以上、身を潜める場所や拠点となり得る場所は非常に限られる。
黒曜ヘルシーランドがグロに見つかった以上、ここには居られない。そうとなれば、やはり並盛で拠点を一から設けるほかない。
「……ひとまず出るぞ」
「そうだな、話ゃそっからでい」
*
長居は危険と判断し、一行は並盛へ帰参。
戦闘後というのもあり、三人は定食屋に訪れていた。
「いやー、10年先だから通貨変わってるかと思ってたから、念の為に身ぐるみ剥いで正解だった」
「……貴様は馬鹿か」
一応は追われる立場であるのに呑気な次郎長に、朧は呆れる。
グロの身ぐるみを剥いだ際に偶然財布を手にし、その金で食べているのである。
なお、三人が頼んだ品は異なり、次郎長はとんかつ定食、朧は山菜そば定食、クロームはきつねそばである。
「こんな人目の多い所で昼食を取っては、敵に気づかれるだろう」
「仕方ねーだろ。登のトコはバラしたくねェ。それに万が一もあるだろ」
その言葉の心意を悟り、朧は「それもそうだな」と頷いた。
次郎長の危惧していることは、知らない内に盗聴器や発信機を仕掛けられている可能性だ。10年という年月の間に科学は進歩し、もしかすればミリ単位の高性能な代物を付けられているかもしれないのだ。
クロームが持っていたカバンにはそれらしきものは見当たらなかったが、いつどこで仕掛けられるかはわからない。その為、協力者や味方となり得る者達がいる所はできる限り行かないようにしなければならず、そういう意味では人目に付く場所の方が安全とも言えるのだ。
「ハァ……まあいい」
「そんでよ、これ見てくれや」
定食を食べ終えて茶をすすると、懐からある物を取り出した。
それは、並盛町の地下商店街のパンフレットだった。
「おじ様、これは……?」
「登から貰った」
「これに何の用だ」
「ここを見てくれ」
次郎長が指差すのは、店の名前も何も書いていない空白のスペース。
テナント募集かもしれないが、ここを拝借して寝泊りしようというのだ。
「雨風凌げる上、集合場所としてもいいと思ってる。それに襲撃を受けても、登達がすぐ駆けつけて包囲殲滅も可能だ」
「ほう……」
このスペースは、偶然にも登が総裁を務める並侠連の事務所が近い。ミルフィオーレの刺客の襲撃があっても、少しその場で持ちこたえれば挟み撃ちが可能という訳だ。
そもそも地下商店街という狭い空間において、接近戦や白兵戦を得意とする次郎長とグロのように広範囲攻撃を仕掛けるミルフィオーレとでは、どちらが有利かは一目瞭然。その上並侠連の事務所は巧妙に隠されてるため、近づいても気づくことは無い。
一見はリスクが高いが、実際は敵に囲まれても状況を打破できる砦になるのだ。
「いつ向かう?」
「今すぐだ!! ――と言いてーが、少し
不敵に笑う次郎長に、慢心は無い。
だが、彼自身は知る由も無かった。
まさか目を付けた場所が、本当に敵地だったなど。
*
翌日。
次郎長はクロームを朧に一度預け、登に連絡した。
組長の連絡と要求を受け、登は自身の部下を呼びつけ次郎長と面会させていた。
「ほーう、アンタが泥水次郎長か。わしは
「……何だこのガキ」
次郎長の前に立つのは、古風な言い回しをする一人の若者。
Tシャツと黒いズボン、学ラン風のジャケット、左目に刻まれた稲妻のような傷。その姿は一昔前の不良校の番長のよう。ヤクザになる前の、
「並盛高校で不良やってた子です。趣味はタイマンで、
「成程、喧嘩師か」
次郎長が知らないということは、元いた世界ではまだ名を馳せて間もないか、あるいはなかったか。それでも子分として組に尽くした登がスカウトしたのだから、少なくとも次郎長の足を引っ張るような半端者ではないのだろう。
すると、剛田は好戦的な笑みを浮かべて挑発した。
「何じゃ、王だの最強だの呼ばれてた割には及び腰なのか?」
「……ハッタリの目じゃねーな」
その鋭い眼光に、次郎長も口角を上げた。
あの目は、本物だ。他者よりも遥かに上を行く自分の強さに自信を持ち、それでいて決して強さに溺れることはない、真の強者の目。
久しぶりに骨のある奴が出たと、内心歓喜していた。
「来い、剛田。お前の強さを確かめさせてもらう」
「試験は苦手なんじゃが……
次郎長と剛田。
二人の
「ここなら邪魔なモンはねェ。ドサンピンが徒党を組んで来ても対応できる」
「……中々燃えるじゃねーか」
最強の極道と若き喧嘩師が対峙する。
それは、テストというよりも下剋上を懸けた決闘だ。
(オジキさんと剛田君……どっちも一騎当千の実力者。どっちが上だろう?)
純粋に興味を持ち、生唾を飲み込む登。
「行くぞ」
「おう、かかって来いガキ」
次の瞬間、両者は同時に右腕を振り上げ、互いの顔面を穿った。
その結果は――
「うぐぐ……」
「ぐうっ……」
メリメリと押し込まれながら、拮抗していた。
膠着状態が数秒程続くと、互いに一度退き、再び激突した。
「おりゃあっ!」
大ぶりの一発を放つ剛田。
次郎長はそれを捌いてアッパーを放つが、身体を仰け反らせて紙一重で躱す。続けて狙いすました蹴りを剛田の鳩尾に向け放つが、彼は仰け反らせた勢いを利用してバック転して避けた。
今度は剛田のターン。一気に距離を詰め、裏拳を見舞い、それを躱されるや否や回し蹴りを繰り出す。次郎長は頭一つ分だけしゃがみ、そして跳んで回避し、至近距離の飛び蹴りで剛田を吹っ飛ばした。
地面に倒れた剛田を見下ろすと、彼は手を使わずブリッジの姿勢から起き上がった。
「――
「……おめェ、年は?」
「二十五じゃ!」
「……成程、まだ
実力は、やはり次郎長が上。
しかし剛田は、ならず者の王に迫る程のチカラを秘めていた。
高い身体能力、隙を抑えた連撃、そして次郎長に匹敵する豪腕と戦闘勘。これでなお肉体の全盛期を迎えてないのだから、驚きだ。
コイツは成長すれば、
「アンタの強さは、尊敬に値する。敬意を込めてぶん殴る」
「――
強さに関しては、驚嘆に値する。
だが剛田は、喧嘩では無類の強さを発揮するが、ここから先は殺し合いだ。
弱肉強食の掟が絶対の、裏社会の住人が生き残りを懸けて争う死地。登の部下であることから、一端の極道であるだろうが、マフィア相手となれば卑怯という言葉が通じなくなる。
覚悟ある無頼漢でなければ、生き残れない。
「……足ィ引っ張りやがったら承知しねーぞ」
「そりゃあ、わしの台詞じゃけェ」
剛田と固く握手を交わし、次郎長は兵力として認めたのだった。
後に剛田は、ミルフィオーレの間で〝次郎長の後継者〟として悪名を轟かせることになる。
*
それから一週間後。
ついに時が来た。
「ここが例の場所だ」
次郎長・朧・クローム・剛田の四名は、例の地下商店街のスペースの前にいた。
シャッターで封鎖された入口には、でかでかとテナント募集の紙が貼られ、パッと見は無人。だがこういう場所に限ってヤバイ連中の隠れ家や拠点の一つだったりするのだ。
「じゃあ、行くとするか」
ガキィン!
神速の一閃。
次郎長は居合でシャッターを両断。豪快に倒れ、中へ乗り込んだ。
「ああ?」
「ああ?」
そこに居たのは、重装備の巨漢。
誰がどう見ても敵だ。
「……何だてめー」
ドガッ!!
「らァッ!?」
間髪入れず、剛田が殴り飛ばした。
その豪拳の威力は言語に絶し、二メートルはある大男が天井に減り込んだ。
理不尽と言っても過言ではない末路に、クロームは敵ながら憐れんだ。
「おめーさァ、そりゃあちょっと喧嘩っ早くね?」
「何じゃ、やられる前にやるもんじゃろうが」
「いや、まァそうだがよ……」
天井に減り込んだ巨漢を引っ張り、横にさせる。
男は鼻と口から血を流し、失神していた。
「あーあー……何か情報でも持ってるかと思ってたんだが」
「ミルフィオーレの者か」
「ああ、黒の方かはわからんが」
そう、ミルフィオーレの黒服――ブラックスペルの前身はジッリョネロファミリー。アリアや
アリアと次郎長は面識があり、この世界でも利害の一致で
「とりあえず、目ェ覚ますまで待ってるか……」
剛田が恭弥以上に喧嘩っ早い性格だと知り、次郎長は頭を抱えるのだった。
皆さんはゴリラ原作者の読み切り「ばんからさんが通る」をご存知ですか?
自分がまだ中学生だった頃にジャンプ本誌に載ってて、読んでて面白かったんですよ。
実は本作の主人公、最初は成り代わるキャラを剛田にしようと思ってました。結構印象深いキャラだったし、死ぬ気の炎扱えたらいいなと思って。
ただ、そういうのに頼らず鍛え抜き研ぎ澄ました己の肉体と技術で勝負する奴がいいなと思い、不良だと雲雀さんと被るので、全盛期はとんでもなかったであろう極道の次郎長にしたわけです。
こうして出せて、よかったです。
暫くしたら、彼のプロフィールを追加しようと思います。