浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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なるべく早く終わらせたいので、ささっと進めます。


標的80:仲間入り

 次郎長の提案により、チョイスのドタキャンが決定した一同。

 残された10日間は、入江と彼の友人である親日家ロボット工学者・スパナが元の世界に戻る装置の完成を間に合わせ、それまでは各々の時間を過ごしていた。

《元の世界に帰るのか!?》

「連中と戦う必要性も義理もねェ。タネさえわかればこっちのモンだしな」

 そんな中、次郎長は公衆電話で知人と話していた。

 ブラックスペル――ジッリョネロファミリーのγ(ガンマ)である。

「オイラと手ェ組んで白蘭潰そうって話、無かったことにしてくれ。元の世界で弱い内の白蘭潰す方が楽だかんな」

《それはそうだが……そう簡単に行くのか?》

「心配すんな、オイラにゃ〝最強の伝手〟がいるからな」

 声が笑っている次郎長に、電話越しでγ(ガンマ)は引きつった笑い声をあげた。

「じゃあ、もう切るぞ。盗聴の可能性も否定できねェ」

《ああ……無事に帰れるといいな》

「おう」

 通話を終え、電話ボックスから出ると次郎長は久しぶりに町を散策した。

 ミルフィオーレファミリーに支配権を奪われた事実を知らなければ、当たり前たる日常だ。便利ではないが不便でもない平々凡々な、ならず者の王の唯一無二の縄張り――大侠客次郎長の始まりの地。十年の時が影響してか、それとも白蘭のせいか、町は不気味な程に静かだ。

 次郎長が統治していた頃は、行き交う人々の多くが顔見知りで、ヤクザの組長という立場など意にも介さず話しかけてくれた。行事になれば縁日で交流し、時にはカタギとヤクザが並んで酒を飲み、喧嘩はあっても戦争抗争のない平和な町。

 その並盛から平穏を奪われたことに、白蘭への怒りとこの時代の己に対する不甲斐なさで心を痛めてしまう。

 

 ぶらりと歩いていると、気づけば並盛中学校を訪れていた。想い人である同級生・沢田奈々と出会い、沢田家との親交のきっかけにもなった母校にいつの間にか足を運んだことに、帰巣本能でもあるのかとほくそ笑んでしまう。

 そう言えば、並中だけは恭弥に支配権を譲ってたな――そんなことを考え、校庭に足を踏み入れた時だった。

「不法侵入だよ、次郎長」

「!」

 聞き覚えのある声が響いたかと思えば、研ぎ澄まされた殺気を感じ取り、次郎長は抜刀。

 刹那、ガギィィン! という金属音が木霊した。

 目の前には、学ランをなびかせ獰猛な笑みを浮かべる、並盛中学校の若き帝王がいた。

「……俺ァ並中の〝OB〟だぜ? ちったァ配慮してもらいてーモンだな」

「卒業生だろうと、並中は僕の縄張りだよ」

 トンファーの棒身と刀の刀身がせめぎ合い、一度距離を置く両者。

 隙を見せない次郎長に、恍惚とする恭弥。

 これは、風紀委員長としてではない。一人の強者として次郎長に挑もうとしている。

 下剋上だ。

「……()るつもりだってんなら、受けて立ってやらァ」

 ――かかって来い、若造。

 身体を強張らせる恭弥の殺気すら呑みこみ、次郎長は強烈な殺気をぶつけた。

「ワオ……これだよ。僕が待っていたのは!」

 鳥肌が立つ程の威圧感に、武者震いする恭弥。

 

 この町の強者達の頂点に長く君臨してきた、最強の極道。

 その背中を追い続け、超えるために何度挑み続け、何度敗れたか。

 

 超えるべき目標との再戦。

 息がつまる程の圧迫感すら興奮剤となる、闘争心渦巻く校庭で、風紀委員長は久方振りの下剋上を仕掛けた。

 

 

           *

 

 

 かつての自宅に戻ったり商店街を満喫したり、ツナ達は平穏な時間を過ごしていた。

 この世界でこれ以上の血を流さずに済むこととなり、ツナの顔には自然と安堵の笑みが浮かぶ。

(オレって、いつもおじさんに助けられてるな……)

 思い返せば、ツナ達の平穏の陰には、常に次郎長がいた。

 幼少期から実父に代わって気にかけてくれ、成長してからも色んな面で叱咤激励してくれた。リボーンの策略で拳を交える時もあったが、次郎長は奈々の息子だからと見守ってきてくれた。

 いつか恩返しをしたいのに、中々踏み出せないことに、歯痒さを覚えてもいた。

(元の世界に帰ったら、恩返ししないと)

 ツナは思い切って、獄寺と山本に相談した。

「ねえ、二人共」

「おっ?」

「どうしましたか、十代目」

「いや、オレもう十代目から外されてるんだけど……」

 中々ツナって呼んでくれないなぁ、と思いつつも口を開く。

「おじさんに贈って喜ぶものって、何かな」

「……あのガングロにですか?」

 次郎長への贈り物。

 それを問われ、二人は首を傾げた。

「……安物でも十分でしょう」

「いや、そういうのはちょっと……オレの恩人だしさ」

「まあ、何か贈るだけでも喜んでくれるだろ! ツナの母ちゃんの顔馴染みだから、母ちゃんに聞けばいいんじゃね?」

 山本の答えに、ツナは「そうだね」と微笑んで納得した。

 そうだ。自分の母親は、次郎長を誰よりも知っているではないか。

「山本。獄寺君。ありがと」

「いいってことよ!」

「些細なことでも、ぜひ声を掛けて下さい十代目!」

 二人の返事を聞いて朗らかに笑うツナだった。

 

 

 同時刻。

 次郎長と恭弥の決闘は、壮絶を極めていた。

 

 ガガガガガガガッ!!

 

 激しくぶつかり合ったトンファーと日本刀が、何度も火花を散らす。

 文字通りの高速戦闘。

 常人では、一瞬でも目を逸らせば斬られ殴られてしまうだろう。

「伸びしろはおめーがあるが、そう易々と王座()れたらつまらねーだろ」

「勿論!」

「じゃあ、こいつはどうだ!」

 刹那、鉛のように思い拳骨が恭弥に肉迫する。

 咄嗟にトンファーを組み、盾となし、豪拳を受け止めた。顔面への直撃こそ防げたが、威力を殺すことはできず、そのまま校舎まで吹き飛ばされてしまう。

「……何でい、ちったァ強くなったかと思ったらこのザマかい」

「まだだよ」

 その声と共に、恭弥は急加速して次郎長の懐に潜り込んだ。

 そして横薙ぎの一閃を見舞う。

「くっ」

 後ろへ一歩下がる次郎長だが、頬に痛みが走るのを覚えた。

 よく見ると、トンファーの棒身からは棘が出ている。中に仕込まれたギミックの一つだ。

「どうしたのかな、王様」

 鋭く、それでいて素早い連撃。

 ギラギラと鈍く光る棒身と棘が、死角を容赦なく狙う。

「……悪くねェ。だが足りねェ」

 次郎長は刀を鞘に収めた。

「鍛錬も戦略も覚悟も十分でも、おめーは場数が足りねェ」

「っ!」

 次郎長は十八番の居合抜きで、大勝負に出た。

 

 ギンギンギンギンギンギンギンギンッ!!

 

 抜いて、斬って、鞘に収める――それを神速で何度も繰り出し、居合抜きの嵐を展開。

 その一撃一撃が、渾身。

 何人も寄せ付けぬ王の攻撃に、恭弥は防戦一方となった。

「ぐっ…………!」

 反撃すら許さない王の猛攻を、ギリギリ捌いていく恭弥。

 その顔には、不思議と笑みが浮かんでいた。

 

 己を遥かに上回る尚弥(ちちおや)ですら、肩は並べても超えることはできなかった。

 それ程の強者が、全力を出して下剋上に受けて立っている。

 

 それが、戦いを好む肉食動物として嬉しかったのだ。

(神速の居合の連撃……さすがだよ。でも、これで終わりにするよ!)

 恭弥はトンファーから仕込み分銅を飛ばした。

 至近距離から放たれたそれは、次郎長の顔面を穿とうとするが、紙一重で避けられた。

 それこそが、恭弥の狙いだった。

(もらった!)

 構え直す一瞬の隙を見逃さず、渾身の一撃を頭部へ振るった。

 刀とトンファーでは、手数が多いのはトンファー。しかも短い分〝返し〟が速い。

 次郎長の先手を打つことに成功し、勝利を確信するが――

 

 ゾクッ!

 

「っ!?」

 刹那、感じたのは死の気配。

 本能的に足を止め、何が起こったのかを把握しようとすると……。

「……いつの間に」

 次郎長の刀がいつの間にか抜かれており、刃が肩に数ミリ程食い込み血が滲んでいた。

 明らかに先手を打ったはずなのに、あと少しで斬り伏せられていた事実に、動揺を隠せない恭弥。

 幻騎士を撃破した、逆抜き不意打ち斬りだ。

「……惜しかったな、恭弥。あと二・三年もしたら、天下の次郎長も並盛で最強を語れなくなっちまうかもしれねーなァ」

 驕りも嘲りも無く、純粋に目の前の相手を称賛する次郎長。

 かつては赤子同然だった少年が、切り札を使()()()()程にまで強く逞しくなった。

 最強を自負しているが、近い将来にその座を雲雀恭弥に奪われることになるかもしれない――そう感じさせたのだ。

「……また僕の負けか」

「いや……引き分けと考えてもいいレベルだぜ? 切り札使われちまったら、あとはもう根性しか残らねェ」

 カチン、と刀を鞘に収める次郎長は笑みを溢す。

 そろそろ恭弥も並盛人外フレンズの仲間入りか、と感慨深くなる。

「恭弥。一つ訊いていいか」

「何?」

「俺を倒したら、お前はどうする?」

 最強の次郎長を倒せば、恭弥が最強になるだけでは終わらない。

 裏社会では、自分が打ち負かした相手を配下に収めることなどよくある話。言い方を変えれば、恭弥が次郎長を倒せば、裏社会で雲雀恭弥の名が轟き、その首を狙う者も現れるということだ。

 支配とは程遠い若者に、自分に代わって並盛の裏を統治するのか――そう問い質しているのだ。

 それに対する答えは……。

「……くだらないな」

「!」

「僕は並盛を愛している。君も愛している。それだけじゃないか」

 次郎長を倒すのは、確かに恭弥の目標ではあるが、強者と戦えればそれで十分なのだ。

 裏社会で名を轟かすつもりも、並盛の裏を牛耳るつもりもない。

 実に自由気ままな風紀委員長の回答に、次郎長は「そうか」と笑った。

「……もう少ししたら、元の世界に戻る。そうしたらまた、続きをしようじゃねーか。もっとも、俺も自分(てめー)が生んだ因縁に決着(ケリ)を付けなきゃならねーが」

 ちょっと病院行ってくらァ、と手を振りながら去っていく次郎長。

 ――だったが、恭弥もその隣に並んだ。

「僕だって、肩やられたからね。保健室のだけじゃ()()()

「……今日学校休みだから保険医もいねーしな。……せっかくだし、一杯やってくか?」

「断る。僕は群れない」

一対一(サシ)で飲むぐれーいいじゃねーか。おめーいい加減酒イケるだろ」

 そう誘う次郎長に、恭弥は「日本酒しか受け付けないから」と笑みを浮かべるのだった。




次回、未来から現代に戻ります。
その後は、ついにあのナス太郎との最終戦争が……!

乞うご期待。
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