浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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最終章、開始。

次郎長とデイモン、案外良いコンビになったりするかも。(笑)


最終章:ヌフフのナス太郎編~第二次並盛戦争~
標的82:ナス太郎、再び


 度重なる抗争がついに区切り。

 次郎長は溜まりに溜まった疲労を癒していた。

「あー……(わり)ィな、登。オイラァ最近疲労が溜まりやすくなっちまってなァ」

「いえいえ。オジキさんこそ、しっかり休息を取るべきですよ。勝男兄さん達をもっと頼っていいでしょうに」

 次郎長の肩を丁寧に揉む登。

 ボンゴレという巨大組織を相手取り、並盛町を巻き込んだ抗争終結に躍起になっていた次郎長は、心身共に疲れが蓄積されている。並盛を統べる者として引くわけにも行かなかった分、発散する機会もなかったので、こうして反動が来たのだ。

 一番の年長者、それもヤクザ一家の首領が若い衆に甘えるのには抵抗はあったが、子分達も()()()()()()()ので、ここは受け入れることにしたのだ。

「オジキさん……オジキさんって、やはりボンゴレファミリーは構わなければいけないんですか?」

「何でい、急に。嫉妬か?」

「し、嫉妬だなんて! 冗談言わないでくださいよっ!!」

 茶化す次郎長に、登は顔を赤くする。

 しかし、ボンゴレファミリーにこだわる理由は確かに気になる所だろう。

「ボンゴレは……まあボンボンが継ぐことが確定したし、一応ツナとは距離を置くように話はまとまってる」

「じゃあ、何で……」

「――ケジメだ」

 次郎長は、静かに告げた。

「俺の戦いは、まだ終わってねーんだよ。その決着(ケリ)がついて、それでこそ終わる」

 それは、七年に及ぶ因縁――遠く離れたイタリアの地から始まり、海を越えて続く二人の男の対立。

 その対立が本格的に始まる……次郎長はそう予感していた。

 相手は、遥かな時を生き続ける正真正銘の亡霊にして、次郎長にとって最凶最悪の敵。倒さなければしつこく付き纏い続け、後の憂いとなる。そうなる前に、滅ぼさねばならない。

 己が護るべき者達の、安寧の為に。

「……そういやあ、ケガは完治したんだっけか?」

「……さすがに痕は残ってしまいましたが、平気ですよ」

 次郎長に話を振られ、登は服を脱いだ。

 細く引き締まった、華奢な肉体。一見すればモデルとして活動できそうだが、その胸部や腹部には痛々しい刺し傷や切り傷が刻まれている。

 ヴァリアーの騒動の後、ようやく回復したが、やはり傷の痕は消えなかったようだ。

「……すまねーな」

「何を言うんですか。僕達は無法者です、死の淵を彷徨う覚悟はできてます」

 キリッとした眼差しで告げる登に、次郎長は「そうかい」と微笑んだ。

「……ところでなんですけど、オジキさん。実は朝、手紙が二通届いてまして」

「手紙?」

 次郎長は目を細めた。

 ヤクザの一家にわざわざ手紙を寄越すとは、酔狂な輩がいる者だ。

「なんて書いてある?」

「それが外国語で書かれてて……無駄に達筆なので読めないんです。英語じゃないのは確かですけど……」

「まあ、ウチは海外(そと)の組織との取引はしてねーからな」

 溝鼠組は、広域暴力団と違って海外組織との裏取引はしない。

 ドスや銃は国内のブローカーから取り寄せるのがほとんどで、違法薬物(ドラッグ)や密輸にも一切関与していない。その手のビジネスに手を伸ばす必要がない程、資金は豊富であるのだ。

 もっとも、クスリの捌きは組の中で御法度として定めているのだが。

「んで、その手紙は?」

「こちらなんですけど……」

 差し出した手紙を手に取る。

 数秒流し見てから、次郎長は決断した。

「イタリア語っぽいな。ランチアに見てもらうのが手っ取り(ばえ)ェ」

 

 

 次郎長はすぐさまランチアを召喚、解読を依頼した。

 すると……。

「組長、こいつはイタリアから……それもボンゴレファミリーの当主からだ」

「……!」

 何と、差出人はボンゴレファミリー九代目だった。

「……何の手紙だ」

「一通目は、継承式についてだ」

 ランチア曰く。

 書面に書かれている内容は、ヴァリアーの一件での謝罪から始まり、その上で和睦も兼ねて継承式への特別参列にぜひ来てもらいたいとのことだ。

 継承式は、言わずと知れた次期当主(ザンザス)への跡目の譲渡だろう。しかし、そこに次郎長が参列するのは、前代未聞だろう。

「急務ゆえ、返事は明後日までと書いてあるが……」

「オジキさん、どうします?」

「んなモン出るわけねーだろ。シカトだ、シカト」

 次郎長は即答。九代目の手紙を奪い取るや否や、クシャクシャに丸めてゴミ箱に捨てた。

 そもそもボンゴレとはツナを巡ってイザコザがあった間柄。リング争奪戦で起こった全面抗争においては、登が重傷を負うという事態にまで発展した。

 今になって和睦など、到底受け入れられるものではなかった。しかも参列すればどさくさ紛れでボンゴレの同盟組織か傘下組織にさせられる危険性もある。

 それに次郎長はイタリア語で文を書けない。イタリア旅行に行った際は喋れないから在住の日本人を捜索したため……イタリア語を喋れない奴がイタリア語で文を書けるわけがない。

 以上のことから、シカト一択であるのだ。

「それで、もう一通の方は?」

「それなんだが……差出人不明だ。名前も書いていない」

「……!」

 困った様子のランチアに、次郎長は何となく察した。

 もしかしたら、〝奴〟からかもしれない。

「一応読み上げるが?」

「……頼む」

 

 ――泥水次郎長殿へ

   時は来た。

   今こそ長きに渡る因縁に終止符を打つ時。

   どこにも逃げはしない。私は町の頂で君を待つ。

                 崇高なる理念を守り貫く者より

 

「……野郎」

「組長、誰かわかるのか?」

「ああ」

 ――差出人は、間違いなくあの男だ。

 次郎長はこの手紙を「宣戦布告」と受け取り、真剣な眼差しで口を開いた。

「……手出し無用で頼む。これは()()()()()()でい」

「オジキさん……?」

「――組長、まさかあの男と?」

 手紙の意味を悟ったランチアは顔色を変えて次郎長を質すが、当の本人は無言で立ち上がった。

 まるで、何も言わないでほしいと言っているかのように。

「……安心しな。ヤクザ(モン)がくたばり損ないのマフィア(モン)になんざ敗けやしねーっての」

 

 ――息子達(てめーら)は引っ込んでな。これは()()()()()()片ァ付けなきゃならねーんでい。

 

 次郎長は一言残し、どこかへ導かれるように屋敷を後にした。

 

 

           *

 

 

 アルビノの髪と赤い襟巻をなびかせ、次郎長は迷わず並盛山へ向かった。

 この山の頂上に、あの変態野菜妖精が待っている可能性が高いと踏んだからだ。

 その予想は、山頂に辿り着いた直後に的中した。

(……! アイツ、炎真の連れになりすましてたのか?)

 目の前にいたのは、炎真の取り巻きの一人である老け顔・加藤ジュリー。

 しかし醸し出す気配は、七年前のあの時と変わらない。

「……おや」

 すると、次郎長に気づいたのか、彼はすぐに本性を現した。

 霧が掛かったかと思えば、あっという間に房のある頭が出現した。

「ヌフフ……お久しぶりですね、泥水次郎長」

「……てめーが呼び出すとは思わなかったぜ、ナス太郎」

 加藤ジュリーは……いや、(デイモン)・スペードは酷薄な笑みを浮かべ、対する次郎長は剣呑な眼差しで睨みつけた。

 七年ぶりの邂逅。因縁の敵との再会に、緊張が走るかと思われたが――

「……だから(デイモン)・スペードです。しかも七年前より悪意を感じる声色なのですが?」

「そりゃあ敵だからな」

 次郎長の返答に、デイモンはこめかみをヒクヒクさせた。

「あとお前、手紙寄越すなら日本語で書けよ。ゴミ箱にポイしそうになったじゃねーか」

「人の手紙をすぐ捨てようとしないでくれませんかね!? 名前ぐらい読めるでしょう!?」

「あんなミミズが這ったような字、読めっこねーだろうが。無駄にカッコつけやがって」

「達筆と言いなさい!!」

 ボロクソに言ってくる次郎長に抗議の声を上げるデイモン。

 コントのようなやり取りだが、これでも七年にも及ぶ因縁がある。

「……で、()るのか」

 チキッ……と鯉口を切る。

 この山頂にいるのは、次郎長とデイモンの二人だけ。幸いにも付近には誰もいないため、思う存分に戦える。もっとも、それでも()()()かもしれないが。

「ヌフフ……野蛮ですね、まだそのつもりはありませんよ」

 デイモンはパチンッと指を鳴らす。

 すると、どこからともなくイスとテーブルが出てきた。

「……何のマネでい」

「お茶でもいかがでしょう」

 穏やかに微笑むデイモンに、次郎長は眉間にしわを寄せた。

 宿敵を前に、こんな緊張状態でティータイムかよ……と呆れてしまう。

 もっとも、あらゆる意味で規格外なリボーンならやってそうだが。

「今更毒なんか盛っていませんよ。神に誓ってもいい」

「神への信仰に一番程遠い奴の言葉なんざ、信用できるか」

 次郎長はそう吐き捨てると、迷いなくイスに座ってテーブルの上に置かれた茶菓子を食べた。

「ちょ、何をちゃっかり頂いてるんですか!?」

「食い物粗末にしちゃあバチ当たらァ」

 次郎長の言い分に、ポカンと大口を開けるデイモン。

 次郎長も次郎長で規格外だった。

 デイモンは「調子が狂う」とグチグチ呟きながらも、対面に座って紅茶を嗜み始めた。

「おいナス太郎……スパゲッティ出してくんね?」

「あなた私を何だと思ってるんです!?」

「昼飯食ってねーんだよ。幻覚なのか本物なのか知らねーけど」

 次郎長の要求に、嫌々ながらもデイモンはマジシャンのようにポンッとカルボナーラを提供。

 どこから出したのかは詳しく突っ込まず、次郎長は食らいつく。

「……ってか、てめー戦う気あんのか? オイラを殺したい態度じゃねーだろ」

「始末したいですよ。でも血の臭いを嗅ぎつけて()()()()()が来ると面倒なんですよ! 何なんですか、この町!? 守護者と同等の実力を持つ民間人が複数いるなんて聞いてないですよ!!」

「それな」

 次郎長はデイモンの言い分に納得した。

 凄腕の巣窟と化した魔境・並盛。加藤ジュリーとして並盛で過ごしたデイモンにとって、局地的にボス級の実力者が首を揃えるこの町に、ある種の恐怖を抱いていたのだ。

 地元の人間にとっては「普通の平和な町」、余所者から見れば「火薬庫みたいな土地」……それが平々凡々な並盛町である。

「てめーの愚痴は聞いてやるが……ケジメとは別だろ」

「暴力で事を収めようとするのですか。品性下劣ですよ。私はある〝儲け話〟を持ち掛けてるんですから。あなたの命はその返答次第です」

「〝儲け話〟?」

 デイモンはヌフフと笑うと、指を突きつけて言い放った。

 

「泥水次郎長、私と手を組みませんか?」

 

 その言葉に、次郎長はきょとんとした。

「何言ってんだ、てめェ……」

「そのままの意味です。正直な話、()()()()()()()()()()()

 まさかの爆弾発言に、次郎長は驚いた。

 ボンゴレに固執していた男が、ボンゴレを見限ろうとしているのだから。

「この七年間、私は考え続けました。どうすればボンゴレの栄華は永遠となるのか、今のボンゴレに必要なモノは何か、と」

「……」

「答えは出ましたよ。私が家光を支配すればいいのだと。彼は曲がりなりにもプリーモの血筋、条件としては申し分ないはず。門外顧問機関など、別に解体しても害はない。また別の機関を設ければいいだけだ」

 デイモンは己の企みを次郎長に語った。

 ブラッド・オブ・ボンゴレを継ぐのは、家光も同様。家光をボスに据え置き、その裏で操ればいいという結論に至ったようだ。

 確かに家光はそれなりの人望を集めており、マフィア界でも屈指の実力者として名を馳せている。若い頃は〝若獅子〟と恐れられ、実力も折り紙付き。ボンゴレから独立してもマフィアのボスとして食っていけるだろう。

 その上で、次郎長はひとまず一言言った。

「何でそうしなかったんだよ」

「えっ」

 ……並盛山に、静寂が訪れたのだった。

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