浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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D・スペードって、弄り甲斐のあるキャラに感じます。
ナス頭だしツッコミどころ満載だし。(笑)


標的83:甘さある強さ

 何でそうしなかったんだ――そう冷たくツッコまれたデイモンは、呆然とした。

「……どういう意味、ですか」

「最初からそのつもりなら、オイラの対応は違ったってこった」

 まさかの一言に、デイモンは頭を抱えた。

 次郎長は奈々とツナの案件で家光とゴタついており、実際のところ家光を何度か排斥しようと考えたこともある。

 そもそも次郎長は奈々に惚れてはいたが、極道の立場を考えて手を引いたという過去がある。そこに殴り込んだのが家光であり、彼のせいで色んな意味で大変な目に遭ったのだ。

 もっとも、次郎長は家光に代わってツナと向き合ったため、ツナの中で絶対的味方という地位を得ているが、そこは家光の自業自得である。

「オイラはヤクザ。メンツで生きる生き物だ。メンツさえ立てるんなら相応の対応はするんだぜ、誰だろうとな」

「……ああああああっ!」

 デイモンは崩れ落ちた。

 そう、デイモンの非情な選択や手段は、次郎長個人としては別にどうでもいいのだ。ヤクザであろうとマフィアであろうと、反社会的勢力(アウトロー)の稼業は疎まれて当然……弱肉強食の裏社会を生き抜く上での非情な選択は、ある程度仕方のないことだと理解しているからだ。何が言いたいのかというと、デイモンの出方次第では次郎長も手を貸してくれたのかもしれなかったということである。

 

 あの最悪な出会いでなければ。

 暗殺という手段ではなく、交渉という手段を取っていれば。

 辿る未来は全く違ったのだ。 

 

「そんな……」

自分(てめー)の常識だけで物事を判断すっからいけねーんだ」

 バッサリ切り捨て、膝から崩れ落ちて項垂れるデイモン。

 カルボナーラを平らげた次郎長は、出された紅茶を一気に飲み干した。

「さて……お遊びはここまでとしようや」

「……!」

「オイラはケジメを付けに来たんでい。最初(ハナ)からおめーの要望に応える義理はねェ」

 次郎長は立ち上がり、刀の柄を強く握る。

 その真意を汲み取ったデイモンも、愛用の鎌を召喚させた。

「いいでしょう。このまま終わらせるわけにはいきませんし」

「だったら、互いに肩書き捨てて一匹の男として決着(ケリ)を付けようぜ」

「ええ。お互い、後戻りできませんね」

「世の中は一問一答じゃねーからな」

 互いに真剣な眼差しで見つめ合い、得物を構える。

 出会いの形が違えば、因縁の敵という関係ではなかったかもしれない。

 しかし、もう後には引けないし、互いに意地もある。引いた方が負けなのだ。

「一つだけ、聞きたいことがある」

「何でしょう」

「てめーにとって、強さってのは何だ?」

 王たる男からの意外な問いかけ。

 虚を衝かれたデイモンだったが、ニヤリと妖しく笑って言った。

「愚問ですね、次郎長。強さとは力に決まっているでしょう。力さえあれば何者にも屈することなく己を貫き通すことができる。大切なモノも欲しいモノも全て自分の思うがままなのですよ」

 ヌフフ、と狂気すら孕んだ笑みを浮かべる。

 次郎長は「そうか」と一言告げてから、返答した。

「俺にとっての強さは、どこかしら甘いところだと思ってる」

「……は?」

 デイモンは、全く理解できないと言わんばかりの表情を浮かべた。

「力を求めれば求める程、甘さを失う」

「それが正しいでしょう。殺伐とした世界で甘さは弱さ……甘ければ滅んでしまう」

「かもな。だが()()()()()()こそが真の強者の証だ。沢田家康……そっちじゃあ「プリーモ」っつったか? そいつは懐が深く優しさに満ちていたと聞くが、そこらのチンピラ程度の強さだったか?」

 その指摘に、デイモンは息を呑んだ。

 次郎長の指摘を、真っ向から全て否定できなかった。確かに優しい人格者で非情になれない男であったが、ボスとして確かに強かった。

 ふと思えば、次郎長もまた、完全には非情になれない男だ。家光や九代目への怒りと殺意を露わにしつつも、本気で殺そうとはしなかった。殺しそのものには躊躇しないが、それを避けようとしている風にも思える面はあった。

 そんな甘い男が、自分と互角に渡り合い、この並盛(まち)の王者として君臨している。

 それはつまり――

「……プリーモの軟弱な思想にっ……」

「軟弱かどうかは、その考えを貫いた奴次第だ。現に俺ァ、おめーにとっての軟弱な思想で天辺に座れてる」

「……そうですか。なら私は、それを否定するまでです」

 デイモンは殺気立った。

 

 仁義を重んじた統治を敷く次郎長は、デイモンにとっては軟弱な思想だ。

 昔気質の極道を貫き、力による絶対的支配や際限なき成長を求めない姿勢は、まさしくプリーモのそれ。言い方を変えれば、次郎長を排除することでデイモンの思想はようやく正当化される。

 

 次郎長にとっても、デイモンのやり方を快く思わない。

 ならず者の王だの最強の極道だのと呼ばれてきたが、実際のところ抗争を好まない。メンツを潰され縄張りを荒らされまくったら報復として動くが、縄張りを自ら広げて他勢力を殲滅していくことは決してしない。

 だが、デイモンはカタギが血を流すことを厭わない。カタギへの手出し――ただし雲雀恭弥は別――を禁ずる次郎長にとって、一般市民を傷つけてでも組織を強く在り続けようとするのは見過ごせない。

 

 どの道、二人は相容れないのだ。

「ヌフフ……今回は本気で行きますよ」

「そうしといた方がいい。あの時と同じだと思うなよ」

「ええ、勿論!!」

 

 ガギィン!!

 

 次郎長の居合とデイモンの一撃が、火花を散らしてぶつかる。

 七年の時を経て、ついに両者が再度激突した。

 

 

           *

 

 

 同時刻、並盛中学校。

「ツナ君、ジュリーは見つかった?」

「見つからないよ……笹川先輩も知らないって言うし。雲雀さんなんか、おじさんどこにいるか脅してくるんだよ~……」

 炎真とツナは、屋上で昼飯を食べながら情報交換していた。

 というのも、炎真らシモンファミリーのメンバーである加藤ジュリーが、行方知らずとなっているからだ。普段はパチンコ店に通って並盛の女子――特にクローム――の背中を追い、その末に次郎長の義理の娘であるピラ子にシバき倒されるのだが、ここ最近音沙汰が無くて不安になったのだ。

 ついに東京湾に沈められてしまったのかと思い、先日意を決して次郎長に尋ねたところ、「オイラも最近見てない。あとやるんなら東京湾に沈めるより指を三本くらい詰めさせる」という恐ろしい返答だった。

 少なくとも溝鼠組を怒らせたわけではないようだが、何度電話に出ても応じないので不安で仕方ないとのことだ。

「今日、帰り際に探しに行こうか?」

「いいの? ツナ君」

()()だからね!」

 ニカッと笑うツナに、炎真も釣られて笑うのだった。

 

 

           *

 

 

 次郎長とデイモンの戦いは、異次元の領域となっていた。

 互いに本気を出し、一撃一撃に命を乗せるやり取りは、人間の出る幕ではない。

「るおおおおっ!」

「くっ!」

 咆哮と共に、強烈な斬撃の連撃を繰り出す。

 その全てをデイモンは捌くが、受ける度に柄を握る両手が痺れるのを感じ、顔を顰めた。

(確かに、七年前とは比べ物にならないですね……!!)

 次郎長の強さは、デイモンの想像を遥かに超えていた。

 七年前はギリギリ食らいついていたというのに、今では次郎長の方が上回っている。

 デイモン自身が幻術使いであるという点もあるが、七年の年月の間に次郎長は凄まじいまでに成長していた。

「さすがです、そうでなくては面白くない」

「そういう割には余裕が無さそうだ、なっ!」

 次郎長は刀を押しやり、デイモンの体勢を崩した。

 その隙に力強く踏み込み、横薙ぎに気合一閃。デイモンの胴を真っ二つに両断した。

 しかし、手応えを感じないことに気づき、次郎長はすかさず飛び退き納刀し、居合の構えを取った。

幻覚(ダミー)か……」

 正面から来るか。

 背後から急所を狙うか。

 次郎長は五感だけでなく、第六感すらも研ぎ澄ます。

 数秒後、第六感が察知した。

(上かっ!!)

 次郎長は頭上を見上げた。

 視線の先には、デイモンが鎌を振り上げていた。

「ヌハハハ! 隙だらけですよ!」

「ちっ」

 次郎長は舌打ちした。

 真上からの攻撃は、いくら神速を誇る次郎長の抜刀術でも対応できない。

 止むを得ず真後ろへ下がり、着地の瞬間を狙うが……。

「っ!」

 背後から気配を感じ取った。

 まさかと思い振り返ると、そこにはもう一人のデイモンが。

 

 ビュッ!

 

 大きく鎌を振るうが、紙一重で屈んで回避。

 その隙に距離を置き、次郎長は二人のデイモンを見やる。

「ほう」

「どうやら勘も七年前よりも精度が高くなってるようですね」

(……どういうことだ? 実体が二つある? 幻覚にしちゃあおかしいぞ)

 片方は間違いなく幻覚のはずなのに、本当に二人目のデイモンがいるかのよう。

 まさしくマンガに出てくる忍者のような術に、次郎長は困惑した。

「ヌフフフ……さすがのあなたも驚いてるようですね」

「この〝(ゆう)(げん)(かく)〟は初見ですか」

「……成程、肉付けした幻覚か」

 どうやら、デイモンのような幻術を極めた使い手の幻覚は、幻覚を実体化させ物理攻撃を可能にするようだ。おそらくこれも死ぬ気の炎の力だろう。

 有幻覚の仕組みをあらかた理解した次郎長は、あらためて居合の構えを取る。

「ヌフフフ」

「今度はこちらの番です」

 二体のデイモンが、次郎長に襲い掛かる。

 次郎長は先に間合いに入った有幻覚のデイモンを斬り伏せ、そのまま本体と斬り結ぶが、再び背後から気配を感じ取り、剣戟を中断。

 やはりと言うべきか、有幻覚が復活していた。

「ヌハハハ」

「先程までの威勢はどうしました?」

 勝ち誇ったかのように告げ、猛攻を仕掛けるデイモン。

 次郎長は一刀流から刀と鞘での二刀流に切り替え、両者の攻撃を捌いていく。

(有幻覚ごと攻撃したらキリがねェ……)

 どちらかは確実に()()なので、ダメージが入る。

 だが有幻覚の精度は極めて高く、どちらが本物のデイモンか判断できない。

(だったら……()()()()()()()()を狙う!!)

 次郎長は瞬時に間合いを詰め、真後ろのデイモンを攻撃する。

 いくら実体を持っていても、本体と分身とでは必ず差が生じる。それはごく僅かなものだが、次郎長にとっては攻略の唯一の糸口。

 限界まで研ぎ澄ました感覚で、必死に手繰り寄せる。

(……本体の見分けがつきましたか)

 次郎長の凄まじい勘の鋭さに、デイモンは舌を巻く。

 これではいくら分身を作っても、本体さえ倒せば分身が消えると気づいてしまった以上、分身を使った攻撃はあまり意味を成さなくなる。

「さすがにこの程度の小細工は通じませんか」

 デイモンは有幻覚を解除。

 また別の戦術が来る――次郎長は刀を構え直す。

「ならば見せてあげましょう、私の本気を」

 デイモンは懐からトランプのカードを取り出し、不敵に笑った。

 それを見た次郎長は、思わず呟いてしまった。

「……男爵ディーノ?」

「誰と勘違いしてるんですか!?」

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