あと五話以内には本作は終了します。
もう少しで完結なので、最後までお付き合いしてください。
凄絶な死闘の中、次郎長は必死に町を駆け抜けていた。
(この町じゃあ
思わず舌打ちが出そうになる。
デイモンとの戦いは、並盛山の山頂では窮屈となり、次郎長は追撃を掻い潜りながら思いっ切り暴れる所を探しているのだ。
しかし悲しいかな、今日は平日。普段人がいないところも人がいる。並盛中学校のグラウンドなら近いが、まだ学生と教師がいる以上乗り込むわけにも行かない。
(どこだ……どこなら
その時だった。
「ヌフフ、どこへ行かれるのですか?」
「っ!」
いつの間にか真横へ瞬間移動していたデイモン。
気づいた時には、次郎長は蹴り飛ばされていた。
「がっ!」
地面を何度も跳ねながら、土手を越えて川に落ちる。
刀を杖代わりにどうにか起き上がると、ゆっくりとした足取りでデイモンが歩み寄り、
びしょ濡れの次郎長に対し、服のどこも濡れてないデイモン。まるで両者の差を表しているかのようだった。
「ヌフフフ……さすがに骨が折れますね」
「けっ……余裕綽々の面ァしやがって……」
「ヌフフ……ところで次郎長、手品は好きでしょうか」
デイモンはそう言ってトランプを投げつけた。
次郎長はそれを躱し、一気に間合いを詰めて神速の居合を繰り出す。デイモンは胴を両断せんとする刃を軽やかな動きで避け、お返しとばかりに鎌を横薙ぎに振るう。次郎長は鞘で鎌を受け止めると、デイモンの顔面に強烈な頭突きを叩き込んだ。
デイモンが土手まで吹き飛び、土煙が舞い上がる。次郎長は浅い川底を蹴って土煙目掛けて斬りかかるが、そんな次郎長の眼前に、血を流すデイモンがいきなり現れ鎌を振るった。
「ヌハッ」
余裕の態度を崩さないデイモンだが、消耗は明白。
次郎長は跳び上がって鎌の刃の上に乗り、平突きで〝右目〟を狙った。
凄まじい反射速度でデイモンは平突きを避けるが、次郎長の豪腕から繰り出すそれの速さは彼の想像以上であり、こめかみを掠れて血が噴き出た。
瞬時に後退して体勢を立て直そうとするが、その時には次郎長が走りながら居合の構えを取り、懐に潜り込もうとしていた。
「るおおおおっ!」
「ぐっ……
デイモンは左手の拳を握り締め、正拳突き。次郎長の胸を穿った。
ミシリ、と生々しく嫌な音が響いた。肋骨が折れた音だ。
だが、次郎長は止まらなかった。そのまま踏み込んで、居合でデイモンの胴を斬った。
「うぐっ……!」
「うぁ……」
互いに距離を取り、荒く息をする。
両者共に顔から余裕を失っており、口や鼻、受けた傷口から血を流していた。
次郎長のアルビノの髪は血がこびりつき、デイモンも清潔感に満ちた衣装が返り血で汚れている。傍から見ればすぐにでも病院に送りたい程に痛々しい。
「ハァ……ハァ……」
「ゼェ……ゼェ……」
一進一退の攻防。
しかし追い込まれているのは、どちらかと言うとデイモンだった。
(この器では、限度がある)
デイモンは内心、歯痒くて仕方がなかった。
他人の肉体に憑依し続けながら生き、ボンゴレを監視し拡大させていった彼にとって、器の存在は大きく影響している。現在進行形で憑依している加藤ジュリーは、確かに器として申し分なかったが、目の前の
しかも次郎長は、自分と目を合わせようとしない。目を合わせた瞬間、幻覚を見せられてマウントを取られてしまうと理解しているのだ。
(これ以上長くやれば
デイモンは己の肉体を捨てて他人の肉体に憑依し、それを繰り返すことで精神の器を移し変えながら時代を超えてきた。
手の内を知られてる以上、今の器では次郎長に勝つのは難しい。ならば逃走し、より質のいい肉体に憑依して次郎長を奇襲した方が合理的だ。
(しかし、このまま退く気分にはなれませんね)
息をゆっくり整え、刀を構える次郎長を見据える。
その時、自らの〝異変〟に気づいた。
(待て……私は今、何を考えた!?)
デイモンは困惑した。
彼にとって〝小さな勝ち〟は、邪魔以外の何物でもない。ボンゴレの繁栄に突き動かされているデイモンから見れば、ハッキリ言って次郎長を倒すことよりもボンゴレの方が優先なのだ。
なのに、自分は次郎長との戦いにこだわっているではないか。
「……どうしてェ、スイカ頭」
「……次郎長。やはりお前は目障りだ」
そう言うや否や、デイモンの威圧感が増したことに次郎長は気づいた。
地雷を踏んだつもりはないが、どうやらナニかに触れてしまったようだ。
「フゥン……オイラァてっきり
「減らず口を!」
――ガギィン!!
デイモンと次郎長は、再びぶつかり合った。
鎌と刀が刃を交えて火花を散らし、周囲の大気が震える程の衝撃が走る。
すかさず速すぎて見えない程の連撃を両者繰り出し、押しやろうとするが、全くの互角。一度距離を置き、今度は互いに渾身の一振りを繰り出し、鍔迫り合いに持ち込んだ。
「……ヌハハッ」
「あ?」
「何でしょうね……この高揚感は。こんな戦いは好みではないはずなのですが……!」
デイモンは、不思議と笑みを溢していた。
元々は貴族出身であるデイモンは、このような無骨で泥臭い戦いは大嫌いだ。
なのに、今はそれが楽しく感じる。喧嘩師でも戦闘狂でもないのに、今この戦いが嬉しく思える。
そう語るデイモンに、次郎長は答えた。
「――それが
「!!」
今まで散々ナス太郎だのスイカ頭だのとバカにした呼び方をしていたのに、いきなりちゃんと名前で呼ばれたことに、デイモンは驚いた。
「意地の張り合いってのァ痛快だろ? しぶとく図太く強かにしなやかに……
「!」
「ボンゴレの為、ボンゴレの為……そう言ってるがよう、おめーは今まで
自分一人の為の喧嘩。
そんなことなど、デイモンは一度も考えたことがなかった。
ボンゴレの為――それがデイモンの全てだったのだから。
「いい加減成仏してほしいトコだが、よォ!」
ドガァッ!!
「がはっ!?」
次郎長の浅黒い鉄拳が、デイモンの左頬を抉る。
鉛のように重い拳をモロに食らい、意識が飛びかけそうになりながら、まるで水切りの石のように水面を滑って土手に激突した。
「冥途の土産にこの〝大侠客の泥水次郎長〟との喧嘩を楽しんでけ!!」
「ぐっ……もう勝った気とは、おめでたい頭ですね……!!」
「ハッ! ヤクザの
「これから
次郎長とデイモンは、血を流しつつも互いに笑みを浮かべて斬りかかったのだった。
ついに次郎長がデイモンをちゃんと呼びました。(遅すぎるww)
次郎長はデイモンのことを毛嫌いしてましたが、戦いの最中にデイモンが意地の張り合いに何かを見出してくれたことを嬉しく思い、一端の
次回、次郎長とデイモンの戦いが決着します。
デイモンの最期は、原作よりも救われる予定です。