「おじさんと
「左様」
帰宅途中、ツナと炎真は思わぬ面々と邂逅した。
「ジロチョウは長きに渡る因縁たる
「君らに知らせたのは、昔の義理さ」
二人が知られたのは、次郎長とデイモンの殺し合い。
遥か昔から亡霊としてボンゴレの陰で暗躍した男との、文字通りの命のやり取りに、ツナと炎真は酷く驚いていた。
「元々
「彼を殺すべく、デイモンは全力で戦ってるだろうね」
「そんな……!」
――一刻も早く助けに行かないと!
そう焦る二人に、リボーンは待ったをかけた。
「ちょっと待て、それはボンゴレに言う案件だろ。次郎長はツナや炎真に押し付けるタイプじゃねェしな」
「……」
「次郎長が負けたら、ツナ達にデイモンを始末させるつもりか?」
「……沢田綱吉と古里炎真に関係する点では正しいね。もっとも、厳密に言えば二人の祖先――ボンゴレ
バミューダの言葉に、炎真は目を瞠った。
「……シモン=コザァート?」
「僕のご先祖様で、シモンファミリーの初代ボスだよ。友人だった君のご先祖様に裏切られて死んだって聞いてる」
「!?」
親友の言葉に、ツナは動揺を隠せない。
一方のリボーンは、どこか納得できない表情だ。
「……そうなん、ですか……?」
「否。事実はそうではない」
ツナの質問を、イェーガーはきっぱりと否定する。
それに続くように、バミューダが口を開く。
「シモンファミリーは
「!!」
「じゃあ、
「まあ、ジロチョウだったら「コザァートが死んでたら何で炎真は生きてるんだ」って返すだろうけど」
その言葉に、一同は納得するように頷いた。
次郎長は割と常識的なので、結構鋭いツッコミを入れてくる。ジト目でツッコミを入れる姿が容易に想像できた。
「沢田綱吉。そして古里炎真。君達二人には、ジョット君とコザァートの絆が生んだ誓いの行く末を見届ける義務がある。ジロチョウと
そう言うと、バミューダは背後から黒い炎を立ち昇らせた。
〝夜の炎〟だ。
「さあ、来たまえ。決着はもうすぐ着くと思うよ?」
*
「ハァ……ハァ……!」
「ゲホ、ゴホ……!」
バミューダの読み通り、熾烈な一騎打ちは終盤が近づいていた。
次郎長は体力が底を尽きかけており、刀を杖にしなければ立つこともままならない。
一方のデイモンも、次郎長の奮戦ぶりに相当参っているようで、血が流れる頭を片手で覆いながら肩で息をしている。
双方、共に限界を迎えている。おそらく次の一撃で、勝負が決まるだろう。
「ハァ……ハァ……」
「……名残惜しいですが……そろそろ、終わりにしましょう」
デイモンは息を整え、鎌を構え直すと同時に死ぬ気の炎の炎圧を高めた。
大技を仕掛けることを察した次郎長は、刀を鞘に収め、悠然と仁王立ちした。
(一見は丸腰でも、隙が無い……お得意の居合で終わらせるつもりですか)
(お互いに取っておきか……外したら死ぬかもな)
互いに繰り出すのは、間違いなく一撃必殺。
諸刃の剣で、この因縁に終止符を打つ腹積もりだろう。
しかし、不思議と勝っても負けても悔いはないような気がした。
(ナス太郎……いや、
ふと思い出すのは、六年前のあの日。
それと共に、彼に付けられた右肩の傷がズキズキと疼く。
(これでシメーにしようぜ)
次郎長がデイモンを斬り伏せるのが先か。
デイモンが次郎長をズタズタに斬り刻むのが先か。
時が凍りついたような静寂が訪れる。
(次郎長の速さは神速ですが、躱せば隙だらけ……抜かせて止めを刺せば私の勝ちだ)
そう、どんなに神速を誇っていても、抜刀術は抜いた後は無防備の時間が生じる。
タイミングを見計らえば、確実に殺せる〝キルゾーン〟を制することができる。デイモンは意を決し、次郎長へ飛びかかった。
巨大な剣閃が次郎長に牙を剥いた、その時。
「……!」
次郎長の目が、デイモンの懐にある〝ナニか〟を捉えた。
――〝
――〝
命を乗せた一振りを繰り出す両者。
それと同時に、少し離れた場所に〝夜の炎〟が現れ、中から追い出されるようにツナと炎真が姿を現した。
「「!?」」
互いに最後の一撃を放つ瞬間。
もしかすれば、どちらかが死ぬ。そのどちらかが……。
「「おじさぁぁぁぁん!!」」
二人が最後の一撃を放ったと同時に、ツナと炎真の悲痛な叫びが木霊した。
未来で最強の剣士となった幻騎士を一撃で撃破した、次郎長の逆抜き不意打ち斬りか。全てを無残に斬り刻む、デイモンの
勝利の女神が微笑んだのは……次郎長だった。
「…………砕けたのァてめーの
バキャアァッ!
『っ!!』
次郎長がそう宣言した直後、デイモンの鎌が粉々に砕け散り、彼の右胸から血が噴き出た。
だが傷はかなり浅く、内臓までは斬られてない様子だ。
「……次郎長……なぜ、加減したんですか……」
「てめーの胸に訊いてみな……」
(胸? ……まさかっ……!)
納刀しながら返答する次郎長に、デイモンはハッと胸元を見た。
羽織っているコートから、懐中時計が出ていたのだ。
その中には――
「……じ、次郎長……」
「……オイラだって心臓一つの人間一人でい。相手が敵でも情に絆される時ぐれーあらァ……」
ペンダントの
次郎長にとって、あくまでもケジメを付けるのが目的であり、殺生は別問題なのだろう。
「ヌ、フフ…………完敗です、次郎長……」
「……そうかい」
デイモンは己の敗北を認めるような言葉を口にし、次郎長はそれに素っ気なく答えた。
その直後、二人は崩れるように倒れた。
次郎長とデイモンの戦いは、引き分け。しかし会話のやり取りから、勝敗は明白だ。
「おじさん!」
「しっかりして!」
「ったく、とんでもねー無茶したな」
次郎長の元へ駆け寄るツナと炎真。
息はしているが、二人の声掛けには答えない。血を流しすぎて気絶したのだろう。
すると、仰向けに倒れているデイモンが口を開いた。
「……フフ」
『!』
「その顔……まるでジョッ……
声の主の元に、二人は顔を向けた。
足元からサラサラと光の砂のようなモノが還っていき、その下から炎真にとって見慣れた足が現れている。
(アレはジュリーの……! ジュリーの体を乗っ取って……!?)
仲間である加藤ジュリーの体を乗っ取り、何か企んでいたのだろう。
しかし次郎長との死闘で、おそらく頓挫。敗れたことで解放されると思うと、少しばかりホッとなる。
「初め、ましてですね……沢田綱吉……。それと……久しぶり、ですね……古里炎真……」
「デイモン……」
「お前が、おじさんの……」
二人の複雑な感情が入り混じった眼差しに、デイモンは呆れるように笑った。
「初代霧の守護者……まさか生き続けていたとはな」
「あなたは……アルコバレーノ、ですね……沢田綱吉の用心棒ですか……?」
「いや、家庭教師だゾ」
相変わらずのニヒルな笑みを浮かべるリボーン。
デイモンは目を細めると、「そうですか……」と呟いてそれ以上の追及はしなかった。
「……その懐中時計、何が入ってんだ? 次郎長の野郎は何か感じてたらしいが」
「……見たければどうぞ……私ももう長くない……」
ボンゴレの亡霊が、肌身離さず持っていた物。
そっと手に取り中身を見ると、時計の蓋の裏に古い写真が貼られていた。
真ん中のイスで足を組む、笑顔のボンゴレ
自分達のボスを笑顔で取り囲む、デイモンを含めた六人の守護者。
そしてデイモンに寄り添う、ボンゴレの歴史にも精通するリボーンも見たことのない一人の女性。
「……キレイな人だ」
「フフ……美しいでしょう……? 我が生涯を照らす永遠の光……エレナ……私もエレナもあの頃のボンゴレファミリーを何より愛していた……」
最初から
「えっ……じゃあ……何で……?」
「……次郎長が起きる前に……教えてあげましょう……」
デイモンは、己の過去を赤裸々に語り始めた。
デイモンは貴族出身の人間であった。
しかし当時の堕落しきった同胞達に嫌気がさし、地位は無くとも優秀な人間が社会の中心にあるべきだという考えを持っていた。
そんな彼に共感したのが公爵の娘、エレナ。太陽のように微笑み、月のようにデイモンを癒す彼女は、当時のボンゴレファミリーのボス・ジョットを紹介した。
ボンゴレファミリーは市民を守るという大義の下、貴族・無法者・政治家・時には警察……全ての腐敗したものを正していった。そんなボンゴレファミリーに愛着を持ち全力で貢献したデイモンは、常に弱者の味方であった。
だが、ある頃を境にジョットは「強く在り続けてこそのボンゴレ」というデイモンの意見を聞き入れず、平和路線へと切り替えて戦力を減らしていた。あくまでボンゴレは自警団というジョットの主義主張ゆえだろう。
そんな中、デイモンとエレナは敵対勢力から攻撃を仕掛けられ、エレナは致命傷を負ってしまう。
あなたは弱き者の為。ボンゴレとともに。……そう言い残し、エレナはこの世を去った。
「強くなくては、弱き者どころか愛する
『……』
「……血さえ流れなきゃあ平和……そこは同感だよ」
聞き慣れた声に、一斉に振り向く。
次郎長が起きたのだ。
「次郎長……いつから起きてた……?」
「……次郎長が起きる前にってトコから」
「結構早い段階で覚醒してたんだ!」
何とデイモンの過去をちゃっかり全部聞いていた。
狸寝入りを決め込んでいた次郎長に、デイモンは少し怒りが湧いた。
「……ったく、まさかお互い似た者同士とは思わなかったよ……」
「お前と私が……?」
「ツナの母親……奈々に俺ァ「一生の恩」があってな。
「……ヌフフ……同じ穴の狢、ですね……」
一人の女性に鉄の誓いを立てた者同士と知り、デイモンは表情を綻ばせた。
「……今になって……親近感が湧きましたよ」
「バカタレ、俺ァ勝手に約束したが、おめーは約束間違えただけだろーが……」
「な、んだと……!?」
次郎長の言葉に、デイモンは眉間にしわを寄せた。
「今までやらかしたこと棚に上げやがって。兄弟分のファミリー皆殺しにしようとした彼氏のこと、何も思わないわけあるめェ」
「じ、次郎長!! 貴様にエレナの気持ちがわかるというのか!!!」
「知るか。死人に口なしだ、
次郎長はどっこいせ、と起き上がり、胡坐を掻いてデイモンに告げた。
「……いい加減許してやれよ、自分を」
『!!』
一同の視線が集中する中、次郎長は言葉を紡ぐ。
「弱肉強食の裏社会だ。悲劇は遅かれ早かれ起きていたさ。お前の愛した女は、それを承知の上でお前やボンゴレと関わったはずだ」
「っ!!」
「まあ、それら全部ひっくるめて、少なからず感謝はしてるはずだろ。自分の為にずっと必死に生き続ける彼氏なんだからな」
「……エレナ……お前を救えなかった私を……許してくれ……!!」
次郎長に諭され、デイモンは一筋の涙を流す。
その涙すらも、無に還っていく。
「……泥水次郎長……いえ、吉田辰巳……感謝しますよ」
「! ……おめェ、やっぱ俺の本名知ってやがったのか」
デイモンは笑いながら、最期の言葉を伝えた。
「この私にそこまでズケズケと言ったのです……決して約束を違わないようにしなさい……でなければ祟りますよ……?」
「ナス風情が何をほざきやがる。――六年のよしみだ、墓ぐらいは用意してやらァ。そこで大人しくおネンネしやがれ。もう気色悪い笑い声聞くのヤなんだよ」
「……フフ」
しがらみから解放されたような、心からの笑みを浮かべ、
ケジメはついた。六年に及ぶ因縁は終止符を打ち、古里家もツナも
ただ、唯一心残りがあるとすれば。
(……おめーとは、違う形で会えたらよかったな)
もっとも、たらればの話に過ぎないが。
「……全て丸く収まったようだね。行こうか」
「御意」
約束の行く末を見届けた
その姿を見た次郎長は、少しばかり口角を上げた。
*
二週間後。
松葉杖がまだ放せない身で、次郎長は墓地を訪れていた。
「……日本の墓はどんな気分だ」
墓前で笑みを浮かべながら、次郎長は酒を供える。
約束通り、デイモンの墓を用意したのだ。しかも彼だけでなくエレナの名前も刻まれている。
「日当たりがよくていいだろ? 光合成し放題だ。ざまぁみろ」
「……ここにいたのかい」
「!」
聞き慣れた声に、振り返る。
視線の先には、何と古里真がいた。
「……炎真から全て聞いたよ。ありがとう」
「礼を述べる程じゃねーさ。あんなんただのエゴだ」
次郎長は真の目を見据え、尋ねた。
「……これからどうする。稼業続けんのか?」
「……実はシモンの看板を畳むのも、選択の一つだと思ってね。裏社会の組織として在り続ける必要は無いんじゃないかなって」
「そしたら、手伝いはするぞ。人手も金も
「ハハハ、それはありがたいよ」
マフィアからもボンゴレからも解放され、二人は満面の笑みを浮かべるのだった。
【特報】
次回、最終話です!
……とか何とか言って、前篇と後篇に分ける可能背もゼロじゃないんですけど、最後までどうぞお付き合いください。