第一弾のテーマは、「もしも次郎長と奈々が結婚したら」です!
もしも二人が結ばれたら
並盛町。
平々凡々で、小さく平和な町には、その道の者なら誰もが知る支配者がいた。
泥水次郎長。
本名は吉田辰巳と言い、〝大侠客の泥水次郎長〟と呼ばれる「ならず者の王」である。
並盛の裏社会の頂点に長く君臨し、いかなる勢力の干渉を自らの示威で跳ね除け続け、あのイタリア最大のマフィア・ボンゴレすらもお手上げ状態にさせた最強の極道。彼が率いる溝鼠組は一騎当千の無双集団であり、抗争となれば無敵と謳われた。
そんな最強や王者の称号を欲しいままにした彼にも、決して敵わない存在がいる。
学生時代の同級生にしてクラスメイトであった、奈々だ。
喧嘩に明け暮れ誰とも関わろうとしない暴れん坊の次郎長に対し、奈々は常に笑顔を振りまくクラスの人気者。学校一の不良であった次郎長の隣で、奈々は常に世話を焼き、小言を言ったり啖呵を切ったりして、いつの間にか唯一無二の友人となった。
そして極道の世界に足を踏み入れ、組を立ち上げた次郎長は、奈々への好意に悩み始めた。
恩義もあり、好意もあるのも自覚してしまったが、果たして極道の自分が彼女を幸せにできるのか。
次郎長は迷う自分へのケジメとして、奈々に告白した。フラれても結ばれても、次郎長の中の迷いは消える。フラれたら距離を置けばいいし、結ばれたら傍で護ればいい。
次郎長は奈々と面と向かって今までの想いを語り、告白した。
結果は……後者だった。
次郎長と奈々は結ばれ、あっという間に晴れて夫婦になったのだ。
それから、十四年の歳月が流れた。
*
溝鼠組の屋敷。
日本の昔ながらの屋敷の一室で、次郎長は愛妻の奈々と二人の時間を過ごしていた。
「さっき商店街でね、百地ちゃんから頂いたの! 美味しいでしょ?」
「いい味だ」
モグモグとわらび餅を頬張る次郎長に、奈々は微笑んだ。
その笑顔からは、とても極妻だとは想像できない。
しかし奈々は、溝鼠組において次郎長と真っ向から言い争える唯一の人間であり、組員からは姐さんと慕われ、一部の若い組員からはビッグ・マムも呼ばれてもいる。
「……そういやあ、今度授業参観らしいな」
「そうなの! せっかくだからタッ君も出ない? 久しぶりの母校なんだし」
「そうしてェーのも山々なんだが……」
次郎長はモリモリと頭を掻く。
息子の授業参観に行くのは、親として当然だ。それに次郎長極道ではあるが町の顔役の一人でもあるため、町の住人との関係は良好。行くこと自体に抵抗はない。
ただ、今の並盛中学校の支配者が――戦闘狂の風紀委員長は、過去の件から次郎長をライバル視している。授業参観に来た暁には、隙を見ては咬み殺しにかかる。そうなれば戦闘となり、周囲に迷惑が掛かる。
「そうとなると、ツナに訊くのが一番
緑茶を啜って呟いた、その時だった。
「ただいま! 父さん、母さん!」
「あらツッ君、おかえり」
「おう、
襖を開けて、ツンツンとした栗色の髪の少年が現れる。
学校を終えて帰宅してきた一人息子――綱吉だ。
すでに着替えたのか、並盛中学校の制服ではなく彼岸花があしらわれた橙色の着流しを着用している。
「父さん、最近雲雀さんにスゴい目を付けられるんだけどー!」
「あー……うん、それはすまん。雲雀対策の為に鍛えたの、裏目に出ちまったな」
「アハハ、それ以前の問題な気もするけど……」
ツナの愚痴に次郎長は頭を悩ませた。
泥水次郎長の実の息子であるツナは、色んな人間から狙われやすいため、次郎長から直々に護身術を習っている。血は争えないのか、争いを好まない優しい性格でありながら、溝鼠組若頭の黒駒勝男も一目置く程の腕っ節を有している。
ゆえに不良やチンピラに絡まれても、いざという時は正当防衛ができる。問題なのは、並盛中の風紀委員長に目を付けられたことだ。
並盛中学校の若き帝王、風紀委員長の雲雀恭弥。
彼は幼い頃から凶暴な暴君で、同時に最強の称号を持つ次郎長を倒すことにこだわっている生粋の戦闘狂だ。
並盛町で名を轟かす人外フレンズは、誰もかれも化け物染みてるが、恭弥も例外ではない。次郎長と唯一互角に渡り合える雲雀尚弥の息子であり、その強さは父親譲り。本気になれば勝男ですら手に余る。
そんな彼がツナに目を付けたのは、間違いなく獲物としてだろう。立場上、恭弥は並盛の秩序を乱すマネは避けてるが、喧嘩であれば容赦なく襲い掛かる質であるのは明白。むしろツナをボコボコにして、本気になった次郎長を誘き出す可能性すらある。
それぐらい、雲雀恭弥という男は凶暴なのだ。
「俺が尚弥に言っとく。無駄かもしれねーが」
「絶対言いがかりつけて戦うハメになる……」
「そん時ゃ諦めて戦え。程々に善戦すりゃあいい」
戦わないといけないと聞き、ツナはズーンとした空気を纏って落ち込んだ。
父親も匙を投げる中学生とは、解せぬ。
「ツッ君、せっかくだからわらび餅食べたら? 美味しいわよぉ!」
「うわ、美味しそう!」
「いや、マジで美味いんだよ」
ツナはモキュモキュとわらび餅を堪能。程よい甘さに舌鼓を打つ。
極道の父と
*
その日の夜。
次郎長は親戚縁組である古里家を屋敷へ誘い、飲み会を開いていた。
イタリアから帰化した訳アリ一家だが、ツナは古里家の長男・炎真とすぐ打ち解けて親友となり、今では妹の真美とも親しくなっている。
次郎長と奈々も、炎真の両親と親密な関係を築いており、立場も忘れる程に仲良くなっている。
「ねえツナ君、そういやあ京子ちゃんとはどこまで行ってるの?」
「「ぶーっ!!」」
「いや、何で炎真も吹き出すんだよ。
真美の一言に、ツナと炎真が吹き出した。
学校では無難な付き合いをしているツナだが、唯一好意を寄せている人物がいる。
その名は、笹川京子。奈々によく似た雰囲気を持つ、並盛中学校のアイドルである。
彼女は実は、溝鼠組の斬り込み隊長・椿平子の顔馴染みであり、彼女を介してツナと仲良くなっている。彼氏彼女の関係までには至ってないが、数少ない男友達として登下校は一緒である場面は目撃されている。
ただ、最近は三浦ハルというツナに好意を向ける女子生徒が乱入したため、恋の行方は誰も想像がつかなくなっている。
なお、この件に関して実父の次郎長は不干渉を貫いている。父に頼らず、自力で女の心を理解して漢を見せろということだろう。
「親分は何も言わないのかい?」
「人間は一から千の感情を持つ生き物なんだ、俺と奈々の馴れ初めが必ずしも参考になるとは限らねェ。実る恋もありゃあ破れる恋もあるってこった」
「フフ、親分らしいわ」
次郎長の持論に、古里夫妻は笑った。
すると、次郎長は酒壺を取り出して二人に向けた。
「久しぶりの飲み会……今日はオイラの奢りでい」
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
猪口を持ち、酒を注いでもらって一口。
真は「飲みやすくて美味しい」と語り、お返しにとグラスに赤ワインを注いだ。
今度はそれを次郎長が飲み、赤ワイン特有の渋味を堪能する。
「……そう言えば、こんなに月がキレイに見える時だったね。あの日を思い出す」
「ああ……今思えば、我ながら無茶やったな」
二人が思い出すのは、6年前のイタリアでの出来事。
日本から遠く離れた異国の地で、次郎長はボンゴレファミリーの刺客である
それ以来、次郎長は海外勢力については格段に強硬的な姿勢を取るようになり、抗争になる前に殲滅するようにもなった。
古里家の件は、良くも悪くも次郎長の認識を改めさせていた。
しかし、古里家はすでにマフィアの世界と縁を切り、並盛に移住した。言いがかりをつけられて排除の対象になっても、次郎長のお膝元である以上は余所者も迂闊な行動はとれない。結果、古里家は次郎長の庇護下で平和を謳歌している。
「……まあ、オイラが生きてる内は手出しできねーだろうよ」
次郎長は真の目を見据え、不敵に笑った。
次郎長が最強であり続ける限り、次郎長が頂点に君臨し続ける限り。
何人も並盛を落とすことはできない。
どんなに束になっても、どんなに圧力をかけようと。
無敵の次郎長には、いかなる猛者もおいそれと手を出せない。
王者とは、その為の称号であり、権威なのだ。
勿論、次郎長も心臓一人の人間一人。いつまでも最強ではいられない。
だが、己を継ぐ者がいれば、次郎長に代わって護り通すことはできる。
それまでは次郎長は、負けるわけにはいかないし、負けるつもりはない。
並盛の王者――その称号は、決して軽いものではない。
「だから、全部任せろ。
「……そうだね」
次郎長に釣られ、古里夫妻も微笑んだ。
*
古里家との飲み会がお開きになった、午後十時頃。
静かな室内で、次郎長は晩酌として奈々に酒を注いでもらっていた。
「タッ君、今日もお疲れ様」
「そいつァ、お互い様だろう」
クイッと酒を嗜む次郎長。
飲んでいる酒は、特別値段が高いモノではない。居酒屋でよく売ってる瓶の日本酒だ。
しかし、一人ではなく愛する者と同じ席で飲めば、美味さが違う。
結ばれた者の特権か、と次郎長は微笑んだ。
「……お前も飲め、奈々」
「いいのよ、別に。私そこまでお酒強くないし」
「よく言うねェ。組員何人酔い潰したんだか」
次郎長は猪口を取り出し、トクトクと注いで奈々に差し出した。
奈々は困ったように笑うと、一口煽った。
「……ねえ、タッ君」
「ん?」
「ツッ君に、組を継がせる気はあるの?」
いつも通りの優しい表情で告げた言葉に、次郎長は面を食らった。
ツナは立場上、未だ中学生。しかし高校に進学するか中卒で働くかでは、今後の人生の道は大きく違ってくる。ましてや溝鼠組組長の息子という肩書きは、大きく影響してくるだろう。溝鼠組の人間として生きるというのも、ある種の選択肢の一つではある。
だが、次郎長は「それはない」と断言した。
「ツナの人生はツナが決めるのが道理でい。オイラが口出しするのは野暮ってヤツさ」
「タッ君……」
「未来は与えられるモンじゃなく選ぶモンだ。そして変える権利も平等にある。真っ当に生きるにしろ、〝こっち側〟を選ぶにしろ、親父として俺はツナの背中を見守るさ」
次郎長は、そう宣言した。
ツナはこれから先、多くの悩みを抱えることになる。分厚い壁にぶつかり、時に挫折し、みっともなく泣き喚き、悔しさに打ちひしがれるかもしれない。
次郎長はそれを、暴力も駆使して突破してきた。覇道を突き進み、敵から畏怖され味方からは畏敬の念を込められ、頂点のイスに座った。
だが、それではダメなのだ。ツナに暴力は似合わない。
ゆえにツナには、多くの友人や仲間を作り、共に楽しみも苦しみも分かち合い、共に乗り越えてほしいと次郎長は願っている。ツナには自分よりも、親しくなった友人や奈々に頼ってほしいというのが、本心なのだ。
それでも、どうしても次郎長に助けを求める時は、
それが自らの義務であり、ヤクザの息子であることを受け入れ、ロクな死に方が期待できない立場である自分を父として接してくれるツナへの謝意でもあった。
「奈々……俺達ゃ家族だ。家族である限り、たとえツナが一丁前に巣立っても、切れぬ絆の中では寂しさなんざねェ。そうだろ?」
「ええ……そうね」
顔を見合わせた二人。
どちらともなく、笑みが零れる。
正直な話、奈々は自分に子供が育てられるのかと不安になった時期があった。
多くの子分を従える次郎長もまた、ヤクザの自分が実子とどう向き合うべきか悩んだ時期もあった。
けど今は、杞憂な心配もない。ツナの成長を心から楽しみ、見守る余裕を持てるようになった。それがたまらなく嬉しかった。
「……奈々、たまには添い寝しようか?」
「っ……!?」
突然の誘いに、狼狽する奈々。
顔をボンッと赤く染める妻に、次郎長は更に頬が緩んでいくのを感じた。
「……がい」
「ん?」
「お手柔らかに……お願いっ!」
両手で顔を覆い、必死に次郎長から顔を背ける。
次郎長は「んな疾しいこたァしねェって」と笑いながら、残った酒を飲み干すのだった。
〈この話でのキャラについて〉
【泥水次郎長(吉田辰巳)】
晴れて奈々と結婚、一人息子を儲ける。
息子への教育は真剣に取り組んでおり、最強の極道の息子という立場を踏まえ護身術も教えている。
授業参観に出たいが、九割の確率で雲雀恭弥と戦闘になるため、行きたいのに行けない状態になっている。
ぶっちゃけ家光よりも父親の責務を全うしている。
【沢田奈々】
この話では次郎長と結ばれてるため、名前は吉田奈々となっている。家光ザマァ。
ボンゴレに一切絡むことなく、次郎長の妻として平和に過ごしている。組の方針に基本関与しないが、そこは極妻、次郎長のサポートをする時も。
【沢田綱吉】
この話では次郎長の息子であるため、名前は吉田綱吉となっている。
原作通りの優しい性格だが、次郎長が真面目に向き合い教育したため、学校の成績はそこそこ良い方。身体能力も高く喧嘩も強い方だが、それゆえに雲雀に目を付けられているのが最近の悩み。
【溝鼠組の皆さん】
奈々を「姐さん」、ツナを「若」と呼んでいる。
一部の人間は奈々をビッグ・マムとも呼んでいたりする。
【雲雀恭弥】
次郎長を倒すのが最大の目標である暴君。
本編と全く変わらないが、最近はツナも獲物認定しかけているため、ツナにとって最大の頭痛の種でもある。
【笹川京子と三浦ハル】
ツナの女友達。
仲は良好で、関係は原作よりも進んでる……?
【古里炎真】
本編と変わらない立場。
ただツナがボンゴレの人間じゃないので、本編以上に親密な関係になっている。
【古里一家】
本編と変わらない。
【沢田家光】
未登場だが、実は息子を儲けるべくナンパに躍起してる。
残念ながら、未だ運命の相手は見つかってない。
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