浅蜊に食らいつく溝鼠   作:悪魔さん

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外、寒っ!!
ってなわけで、第7話です。

皆さん、インフルに気をつけましょう。


標的7:襲撃、(ざん)(ねん)()

 数日後、並盛神社。

 東京から戻った次郎長は、日本刀を購入して戻って来た。

「おお……モノホンのドスや……」

「初めて見た……」

「ドスは経済的事情により多く買えなかったんでな、オイラと勝男が腰に差すことにすらァ」

 次郎長は日本刀を左腰に差しながらそう言う。

 屋敷と土地の方にお金を回している以上、揃えられる得物は限られてくる。自前は次郎長と勝男の分で精一杯のようだ。

「今は屋敷の件で頭一杯でな。暫くの間は――」

 その時、次郎長の懐から携帯の着信音が鳴った。

 川平のおじさんからだった。

「こちら次郎長」

《次郎長かい、ちょうどいい土地が見つかったよ》

「そうか、一体どこでい?」

《並盛町の三丁目。今は誰も使われてない広い土地があってね……そこなら大きな屋敷を建てても大丈夫そうだ》

(わり)ィな、助かるぜ」

 次郎長は口角を上げる。

 溝鼠組はこのままだと構成員が三桁を超えることになるだろうし、シノギを得るための資材も管理する必要もある。その上では広い土地は欠かせない。

「じゃあ、それを買わせてもらうぜ。金は今週中には払う」

《わかった。詳細はメールで送るよ》

「おう」

 次郎長は川平のおじさんとの通話を終えると、携帯を懐に仕舞う。

「まァ、そういう訳で今は我慢の時だ。後でお前らの分のドスも買ってやるよ」

 その時だった。

「オジキィィィィ!! アニキィィィィ!!」

『!』

 突如大きな声を上げ、景谷が慌てて駆けつけた。

 肩で息をしながら、汗だくで彼は次郎長に告げた。

「た、大変ですぜオジキ!! 「関東集英会」の傘下勢力である「(ざん)(ねん)()組」の連中がこっちに向かってきます!!」

 景谷の報告に、一同は息を呑む。

 斬念眉組は東京都のある区に根を張る日本有数の一大勢力・関東集英会の二次団体だ。巨大な勢力であるわけではないが、武闘派揃いの構成員で他勢力との暴力・傷害沙汰が絶えない危ない連中である。

「オイラを傘下に取り入れるために、ついに実力行使に出たか」

「そらァあんだけ蹴ってりゃあしびれ切らしますわ……」

 次郎長は今まで格上の他勢力からの勧誘をことごとく――物理的な意味で――蹴ってきた。ある時はラリアット、またある時はジャイアントスイング、またある時はジャーマン・スープレックス……勧誘の度に様々なプロレス技(へんじ)で応えてきた。

 しかしあまりにも頑固な次郎長についに我慢の限界が来たのか、実力行使で屈服させようという考えに至ったようだ。

「待ってください、何でプロレス技!?」

「あ? だってホラ、ただ蹴るだけじゃあ食い下がってくるから面倒だろ?」

「食い下がるどころか命落としかねませんけどォ!? アンタ勧誘の度に止め刺しに行ってるじゃねーか!!」

 次郎長の勧誘の蹴り方にツッコミを炸裂させる子分達。

 しかし当の本人は意にも介しておらず、後悔もしていないようだ。

「さてと……武闘派の連中が総出で来ている以上は住民への手出しもあり得る。連中は俺と勝男が引き受けよう、それ以外は陰で監視していろ」

「む、無茶ですぜ!! いくら何でも……ならば俺達も行きます!!」

「ダメだ、下手に大人数でやると周囲への被害が甚大なものになる。それに少人数で挑んだ方が相手も油断しやすい」

 景谷達は次郎長の助太刀をしようとするが、次郎長に止められる。

 大多数対大多数の抗争になれば、自分達だけでなく並盛の住民(カタギ)にも被害が生じかねない。溝鼠組は並盛を他勢力の支配を跳ね除け護るためにある……ゆえに守護者が護るべき存在を傷つけては面目丸潰れであるのだ。

「ここは俺達二人に任せな。来い、勝男」

「ええ、やったるでオジキ!」

 斬念眉組を迎撃するために動く次郎長と、その後を追う勝男。

 残された子分達は心配そうに二人の背中を見つめつつも、自らの主とその右腕を信じて次郎長の命に従って行動するのだった。

 

 

 十分後――並盛の三丁目の住宅街で、次郎長は勝男と共に斬念眉組と対峙していた。

 二人の前にはガラの悪い男達が50人近くおり、その前にはリーダー格であろうパンチパーマの男が立っている。

「俺達は斬念眉組……俺が総長の崎田だ。お前が溝鼠組の泥水次郎長で、その隣の七三が黒駒勝男だな?」

「ああ、その通りだ」

 上から目線の物言いである崎田の問いに、あっさりと答える次郎長。

「何や連中! 誰に向かって――」

「勝男。……ここは穏便に行くぞ」

 崎田の舐め腐った態度に腹を立てる勝男だが、次郎長の覇気がこもった言葉を聞き押し黙る。その気迫は斬念眉組の連中にも伝わったのか、崎田も気圧されて彼の部下にも汗を流す者も多々いる。

 極道組織とは組長である親分――会長、総長、総裁も同様――を中心に動く「完全なる縦社会」であり、親分が黒と言えば黒となり、白と言えば白となる。すなわち次郎長の意向は溝鼠組の意向そのものであるという意味で、溝鼠組の若頭(ナンバーツー)である勝男ですら彼の意向には逆らえないのだ。

 もっとも、そんな厳しさがヤクザ社会特有の絆を作っているのだが。

「んで、このオイラに何の用でい?」

「はっきり言おう、関東集英会の傘下になれ。そうすればお前らの命も生活も保障するし、贅沢な暮らしもできる。悪ィ話じゃねェはずだぜ?」

「――断る、と言ったらどうする気でい?」

「てめェの組を潰し、この町を俺達が支配するだけだ」

 崎田はニヤニヤと笑いながら次郎長を見据える。

 それに対して次郎長は「そうかい」と短く告げて前に出て、崎田の頭頂部を鷲掴みにすると……。

「これがオイラの返事だァァァ!!」

 

 ドゴォン!!

 

 力を込めてアスファルトに叩きつける。

 不意打ちでもある分、地面が少し陥没する勢いで叩きつけられた総長はそのまま動かなくなった。

「……そ、総長(そうちょ)ォォォォォォ!!!」

「や、やりやがったなてめェ!!」

 総長の瞬殺により、斬念眉組の構成員達は一斉に殺気立ち得物を手にする。

 次郎長の暴挙を前に驚愕し大声を上げたのは、勝男も同様だった。

「オ……オジキィィィィ!! 何やってんですかァァァァ!!」

「あ?」

「あ? じゃないで! さっきまで散々穏便にっつってたやないかオジキ!! 穏便って、まさか全滅って意味合いやったんでっか!?」

「あたりめーだろ、それぐらい理解しろい」

 平然と肯定する次郎長に、勝男は顔を引きつらせた。どうやら次郎長は最初(ハナ)から斬念眉組を町から力づくで追い出すつもりだったようだ。

 しかしそれが、次郎長にとって穏便に済ませる最善の手段だったのだ。そもそも次郎長は誰かに従う気などないし、たとえ関東集英会の傘下に入ったとしても体よく利用されるのがオチだろう。それに傘下に入った場合、並盛が他勢力に乗っ取られる可能性もある。

 並盛を護るには、介入してくる敵対組織をなりふり構わず排除するのが一番手っ取り早いと次郎長は考えたのだ。

「ふざけやがって……()っちまえェェ!!!」

 ついに斬念眉組が蜂起し、男達が波のように押し寄せてきた。

 一斉に襲い掛かる男達に対し、次郎長は冷静に勝男に声を掛ける。

「……勝男、行けるか?」

「勿論や、オジキ。久しぶりの喧嘩、お先に楽しませてもらうでェェ!!」

 先陣を切ったのは、勝男だった。

 地面を蹴って軍勢のど真ん中に特攻し、まず一番前に立っていた男にラリアットを見舞い、その勢いを利用して吹き飛ばして大勢を巻き込む。背後から金属バットを持った男が迫るも、勝男はその男の顔面を殴り沈黙させ、金属バットを奪って男達を屠っていく。

 勝男は「銀魂」の世界――特に長篇――において、集団戦を得意とする傭兵部族〝辰羅族〟を二人瞬殺するなど若頭として申し分ない実力を見せつけている。こちらでもその通りであるのならば、特に心配する必要はなさそうだ。

「中々やるじゃねーの……若頭にしたのはやはり正解だったない」

「余所見してんじゃねェ!!」

「!」

 勝男の暴れっぷりに感心する次郎長の前に斬念眉組で一番ガタイのいい男が現れ、拳を振るい襲い掛かった。

 すると次郎長は掌を握り締めて拳をつくり、男の拳目掛けて振るった。数多のチンピラ共を薙ぎ倒してきた拳骨の威力は健在であり、襲い掛かった男の拳にぶつけた途端、男は次郎長の腕力で弾き飛ばされた。

 その直後、三人の男が鉄パイプを手に迫った。次郎長は腰に差していた刀の柄を握り、居合を放つ。初めての真剣だが、やはり成り代わっているキャラの影響もあるのか、いとも容易く鉄パイプを両断する。

「な……んなァァァ!?」

「そ、そんな……!!」

「んなバカな!!」

 三人が得物を破壊されて驚愕する中、その隙に次郎長が刀を返し峰打ちで倒す。

 それは文字通り一瞬の出来事であり、三人はまるで糸が切れた人形のように倒れた。

「なっ――」

「この手に吸い付く感じに、この振りやすさ……いい刀だ」

 次郎長はニヤリと笑みを浮かべながら、勝男と共に男達を薙ぎ倒す。

 数としては圧倒的不利だが、個々の腕っ節だと話は別。蹴って殴って大暴れしている内に男達は次々と身を後退させていき、ついには逃げ出す者も現れた。

「なっ、何なんだよ……こいつら人間か!?」

「何でこんな町にこんな化け物がいんだよ!!」

「くっ……ずらかるぞ! 次会った時はタダじゃおかねーからな」

 捨て台詞と共に撤退していく残党。

 二人の圧倒的実力によって地に伏せた連中を見捨てて一目散に逃げていく様子は、何とも惨めなものだった。

「終わったようじゃのう……」

「ああ……しっかし、連中は学習能力がねーのか? 財布の中身くらいは盗られないよう管理しねーといけねえってのによう」

「全くやなァ」

 顔を見合わせ、嫌らしい笑みを浮かべる次郎長と勝男。

 次郎長達にとって抗争は、敵の身ぐるみを剥いで売り飛ばし換金することで経済的危機を乗り越えるチャンスという一面がある。力のある勢力であればある程、当然服装やアクセサリーに金がかかっている上、日頃の鬱憤晴らしや腕試しという意味合いでも願ったり叶ったりだ。

 中々質が悪い稼ぎ方だが、現に次郎長は何度も金欠状態を回避することに成功している。

「オジキィィィィ!! アニキィィィィ!!」

「無事でっかあァァ!!」

「「!」」

 そこへちょうど、景谷達が駆けつける。

 地に伏した男達を見て、彼等は驚愕する。

「ほ、本当にたった二人で……!」

「し、信じられん……」

「わっははは! 今回も大漁じゃのうオジキ!!」

「クックック……そうだな」

 地に伏した崎田を踏みつけながら、次郎長は笑うのだった。

 

 

 二時間後。

 次郎長と勝男との抗争に敗れ、身ぐるみを剥されパンツ一丁にされた崎田率いる斬念眉組。その中で最初に沈められた崎田が、屈辱に震えながら起き上がる。

「う、うう……!!」

 呻き声と共に、どうにか立ち上がろうとする。

 たった二人に組を壊滅状態に追い込まれ、言葉で表しようの無い怒りと屈辱を味わった崎田は、この町から一旦出て報復の為に出直そうとする。

 だが――

「ち、くしょ………」

「酷くやられたものだね」

「!? お、おお、お前はまさか……!!」

 立ち上がろうとした男の前に、黒い着物姿で十手を手にした尚弥が現れる。

 その姿を目にした男は、みるみるうちに顔を青くしていく。

「世の中は基本的に弱肉強食だよ。表の資本主義も裏の実力主義も、自然界も……強いモノが生き残ることを許される。君達は次郎長と勝男という強者と争い、そして負けた………よって君達は負け犬なのさ」

「ヒエッ……!!」

 尚弥の氷のように冷たい声色に、身震いをする崎田。

「失せろ、草食動物……二度と並盛(この)(まち)に来るな」

 殺気を孕んだ眼差しで冷たく言い放ち、尚弥は得物の十手を振るった。

 

 

           *

 

 

 翌日。

 次郎長は川平のおじさんと共にこれから買う土地の下見をしていた。

「これくらいの広さなら、問題無いんじゃないかな?」

「まァ、今後のことを考えるとこれぐらいは必要かもな」

 次郎長は顎に手を当てながら呟く。

 川平のおじさん曰く、元々は公園として使われる予定だったのだが並盛中からかなり遠い上に広いだけで遊具も無いことから何だかんだで売り飛ばされたとのこと。

「今なら2000万で売るけど?」

「買うに決まってらァ。拠点が個々であると金の無駄だ」

「……そう言うと思ったよ。契約成立だ」

 次郎長の即答に、川平のおじさんは笑みを深める。

 それと共に次郎長はアタッシュケースを彼に渡す。アタッシュケースの中身は、勿論札束である。

(あともう少しだ……もう少しで「土台」が完成する。そこから、ならず者の王として並盛を統べる〝大侠客の泥水次郎長〟がスタートする!)

 次郎長はすぐに訪れるであろう未来に思いをはせ、クスッと微笑んだのだった。




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