女神転生 -人形黙示録- 作:名無しの執筆人形
「………よし、よし! 良いぞ、確かに『デビルバスター』で仲魔にした悪魔のデータが丸々移されてる。後は召喚さえ出来れば…!」
パズスの言っていた『悪魔召喚プログラム』を大急ぎで確認していく人哉。その顔色には、少しずつ希望の色が見え始めている。
だが、いざ悪魔を召喚しようとしたその時、たった1つの…しかしあまりに大きすぎる大問題にぶつかってしまう。
「マ、マグネタイトが必要…だと?」
PC画面に表示された警告に、人哉は顔面を真っ青に染める。
「な、何だかよく解りませんけど、必要な物があるなら私が取ってきましょうか!? 何処にあるんですか? そのマグなんとかとかいうのは」
人哉の顔色を見て、必要な物が近くにはないと、傍でPC 画面を見ていたM99も理解したのだろう。ライフル銃を構え、今にも部屋を飛び出していきそうな勢いで人哉に尋ねたのだが、
「残念だけど、探して見つかる物じゃないんです…」
沈痛な声でM99 を止める人哉。
「そ、そんなの、探してみないと…」
「『デビルバスター』の設定通りなら、『マグネタイト』とは『生体エネルギー』の事なんです。つまり、このプログラムは生け贄を寄越せと要求してるんですよ…!」
尚も食い下がろうとするM99 に、悲痛な叫びに近い声色で説明する人哉。冷や汗をだらだらと垂らし、戦慄で震えているその姿を見ても、彼の心境は容易に想像出来る。
「い……いい…生け贄…?」
そしてM99も人哉が言った、探して見つかる物じゃないという言葉の意味を理解したのだろう。震える声で呟きながら、視線を人哉からPC へとゆっくり移す。
「お困りのようですね。我が救世主よ」
その時、不意に響く聞き覚えのある声。二人が声のした方に振り向くと、プログラムを開いている画面の片隅に小さなマドが開いており、そこにあのパズスが映し出されていたのだ。
「パズス! なあ、マグネタイト無しで何とか召喚できないか!?」
わたりに船、とばかりに掛け合ってみる人哉だったが、パズスはゆっくりと首を左右に振るのみだ。
「どうして!? 何故そんな酷いことを…!」
パズスの素っ気ない対応に思わず激怒してしまうM99 。
「悪魔を現界させるには多くの生体エネルギーを必要とし、そしてそのエネルギーに最も適しているのが人間だからです。貴女も、動くためには他からエネルギーを摂取し、その質が高いほど多く動けるでしょう? それと一緒です」
しかし、あくまでも冷静なパズスからの理路整然とした反論に、M99 は悔しげにしながらも、更なる反論を口にできずに押し黙ってしまった。
「とはいえ、このままでは埒があかないのも事実。そこで、我が救世主よ。1つ提案があるのですが…」
「提案…?」
パズスの言葉に、訝しげに尋ねる人哉。
「確かに、悪魔をそのまま呼び出すには大量のマグネタイトが必要ですが、あらかじめ素体を用意しておき、そこに悪魔の力を注ぎ込むだけなら、少量のエネルギーで十分事足ります。この方法では悪魔が全力を出せないという欠点こそありますが、意思無き人形程度なら、問題なく蹴散らせるでしょう」
パズスの提案に、人哉とM99は顔を見合わせる。今この場にいる人間は人哉だけだ。つまりマグネタイトを取り出せるのは人哉しかいない。必然、素体の方はM99という事になる。
「―――分かった、その方法で俺は構わない」
「ひ、人哉さん、危険ですよっ!?」
腹をくくったらしい人哉の宣言に、M99が慌てて止めようとするが、
「このままじゃいずれ俺たちも殺されてしまいます。なら、一か八か賭けるしかありません…!」
険しい目つきをしながら話す人哉。今人哉達がいる階層はシェルターの中でも最下層に位置しているのだが、段々と銃声が近づいてきている。もう、一刻の猶予もないのだ。
「それより、M99さんこそ大丈夫ですか!? 悪魔をその身に憑依させる事になりますが…」
「わ、私は大丈夫ですよ!? もともと私は戦うために生まれてきた人形ですし、それにもしかしたら今回のことで新ワザを手に入れられるかもしれないですからね!」
逆に人哉に問われて、少し憤慨した様子で応えるM99。この程度で怯えたりしないという意思表明なのだろうが、確かに恐怖はまるで感じていないようだ。
「どうやら、話は纏まったようですね。では、我が救世主よ。どの悪魔を償還しますか?」
「鬼神・コウモクテンだ! 俺のデータの中で一番強かったやつだ!!」
高らかとパズスに指示を出した人哉だったが、その直後に人哉の体に異変が起こった。体から、みるみる力が抜けていったのだ!
「う…っ!? ……が……あ、は、はあっ! はあっ!」
直ぐに力が抜けていく感覚は終わったが、全身をぐったりとうな垂れさせ、肩で息をしている人哉を見るに、だいぶエネルギーを吸われたようだ。
「わ…あ…あ…! な、なんだか体に力が湧いてきて…!?」
対して、M99は人哉がぐったりとしだした直後に声を上げ始めた。見ると、M99の体から憤怒の如き赤いオーラが噴出していたのだ。
しかもそれだけではない。なんと、欠損していた筈の右腕が元に戻っていたのだ! しかし、改めてみるとその腕はサイズこそM99に合っているのだが、なぜか甲冑の篭手のような物を装備していた。恐らく、これは憑依元となった悪魔の特徴が出てきてしまっているのだろう。
「こ、これは…新ワザとしていけるかも…! 人哉さんっ!! いけますよこれっ!! すごく力が湧いてきて、今なら誰にも負ける気がしませんっ!!!」
嬉しそうにはしゃぎながら、己が得物であるライフル銃を両手でしっかりと持つM99。
「人哉さんはここに隠れていてくださいっ! 私は隊長やその他の人達の救助と、この騒動の原因を叩いてきますのでっ!!」
人哉に指示を出した後、勢いよく部屋の外へと飛び出そうとしたM99だったが、
「ま、待って下さい…」
そんなM99の後ろからかかる弱弱しい…しかし、ハッキリと聞こえた人哉の声。M99が振り返ると、人哉は疲弊しきっている筈の体で立ち上がっていた。
「だ、駄目ですよ人哉さん! 今はゆっくり休んで」
「た、確かに今のM99さんからは凄いオーラを感じます。けど、それだけではこの騒動は抑えられない…そんな予感がするんです…。だ、だから、俺も一緒に…!」
慌ててふらついている人哉の体を支えるM99に向かって、同行を求める人哉。
「だ、駄目ですよ!? そんな体じゃ危険すぎます!」
と、最初は断ったM99だったが、この後も人哉はしつこく頼み込み、仕舞いには一人でも行くと言い始めてしまったため、渋々同行を認めるM99だった。
いつのまにか消え去ってしまったマグネタイトですが、個人的にはまた復活してほしい要素の一つです。