とある県のとある私立高校。なぜか整った顔立ちの男女が集まるこの学校に、飛び抜けた美少女が2人いた。
1人は弦巻マキ。持ち前の明るい性格と、高いコミュニケーション能力から友達が多く。不意に見せるあどけない表情は庇護欲を誘う。
もう1人は結月ゆかり。弦巻マキとは対照的に物静かで、滅多に崩れない無表情のせいで友達は少ない。しかし根は優しいため嫌厭されているわけではなく、みな遠巻きに話しかける機会をうかがっているだけで、意外と人気がある。
一見真逆の2人であるが、大の仲良しの親友である。
これはそんな2人の日常の1ページを切り取った話である。
〜〜〜
「あれぇ? ゆかりんだぁ!」
「おやおや、これはこれは、マキさんじゃないですか」
校舎の4階の東側よりの廊下。そこから屋上へ上がる階段に腰掛けるようにして彼女、結月ゆかりはいた。
移動教室で音楽室へ向かう途中でゆかりを見つけて驚くマキ。それもそのはず彼女らは別のクラスで、ゆかりのクラスの次の時間は教室で数学のはずである。
「なんでここにいるの?」
「ん、まぁそんな事はどうでもいいじゃないですか」
鉄皮面とも評される、凍りついたような無表情のまま、ゆかりは肩をすくめる。別にゆかりがマキのことを待ち伏せていたわけではない。例え屋上が閉鎖されていてほとんどの生徒が近寄らない場所で、音楽の時間にマキが必ず通る場所だとしても、そんな事はどうでもいいのだ。……決して待ち伏せていたわけではないのだから。
閑話休題
「ごほん。それはともかく、こんなところで会うなんて奇遇ですね」
仕切り直し。Take2とも言う。
「そうだね、いつもはお昼休みにゆかりんがこっちの教室にお弁当を持って来るもんね」
「そう、それなんですよマキさん。最近私たちが噂されているのを知っていますか?」
ピクリとも動かないゆかりの顔を見ながらマキは首をひねる。マキ自身話好きだが、自分の噂はとんと聞かない。反対にゆかりの話はよく耳に入る。冷たく取っつきにくいと思われがちな彼女だが、透き通るような白い肌と整った顔立ちが深窓の令嬢という言葉がふさわしいとかなんとか。男女問わず人気が高いのだ。マキ個人も親友が褒められるのは嬉しい。
「まぁ、マキさんが知らないのも無理はありません。私も今朝聞きましたから」
勿体ぶるように一呼吸。謎の緊張感にマキも唾液を飲み込み喉を鳴らす。
「いつもマキさんのところに行ってるから、通い妻だって噂されてるんですよね」
間
そもそも女の子同士なのに通い妻は成立するのだろうかという野暮なツッコミはさておき、その噂が立って困っているのだろうか?
「じゃあ」
「別に困ってないですし迷惑でもないですからお昼ご飯は今後も一緒に食べましょうというか話の論点はそこじゃないんですよ」
まさかのノンブレスである。無表情な割にこういうところは分かりやすいのがゆかりの良さではあるのだろう。
「私って美人じゃないですか」
「うん、そうだね」
彼女が言うと嫌味にすらならない。事実、女優やアイドルとして売り出せるほどの美貌を持っており、普通はマイナスに働く無表情もミステリアスな印象を買って出ている。
「でもそんな私が通い妻と噂されるくらいなんですから、マキさんと私はお似合い。つまり付き合っていても、いやむしろ結婚していても違和感がないって事ですよね」
「うん? そうなの?」
話が飛躍しているような気がするがゆかりが言うのならばきっと正しいのだろう。
「顔が良く」
1、ミステリアスな美貌
「スタイル抜群で」
2、スカートからスラリと伸びる細い足
「頭も良い」
3、学年トップの優秀な頭脳
演劇のように鷹揚な仕草で目まぐるしくスタイリッシュにポーズを変え、階段をゆっくり下りマキの前まで歩いてくる。そして、目の前で自身の胸に手を当て、反対の手をマキの方へ伸ばして言った。
「私を娶ってみませんか?」
「うーん……いいかな」
まさかのシンキングタイムなし。マキの素気無い返答に体ごと凍りつかせてフリーズするが、すぐさま再起動したゆかりは思い直す。
「ふむ、なるほど。分かりました。ではマキさんが望むのなら何でも叶えましょう。語尾にニャンを付けて安易な猫耳少女のキャラ付けをして甘えてもいいですし、ご主人様と呼んであげるのも許容しましょう。さぁ、どんなことをお望みですか?」
「じゃあ娶るのはなしの方向で……」
「それは認められません」
なんだろう、無表情なのになんとなく彼女の感情が伝わってくるように感じる。焦っているというかもはやいっぱいいっぱいだ。
「わ、私に至らない点があるのでしたら直しましょう。マキさんがクールな私を望むのならフリフリのパジャマを捨て、ベッドに置いたぬいぐるみたちと別れを告げます。元気はつらつな子がお好きでしたら頑張って笑う練習をしますから」
「えっと、別に今のゆかりんに不満があるとかは全くないんだけど」
意外とゆかりは少女趣味だったようだというかむしろのままフリフリなパジャマを着てぬいぐるみを抱いて寝ている姿を想像すると可愛らしくて萌える。あと、笑顔の練習をするゆかりをちょっとだけ見てみたい気もする。真に受けそうだから言わないけど。
「もう、私が提示できる条件がありません……どうすればわたしを娶ってくれますか……?」
「あれ? もともとそういう話だったっけ? ていうか……」
所在なさげに彷徨う手を取り、若干涙目になりながら震えるゆかりの頬に手を添える。
「私はいつも通りのゆかりんが一番好きだからさ。噂されたから娶るとかじゃなくて、私たちは私たちのペースでいいんじゃない?」
キーンコーンカーンコーン
「あ、やっば! 予鈴鳴っちゃった! もう行くね! ゆかりんも遅刻しないようにね」
そう言って走り去っていく背中を見つめる。1人残されたゆかりは鳴り響く予鈴をどこか遠くのように聞きながら、「ふぅ」と熱っぽい吐息を吐きながらポツリと呟いた。
「マキさんはずるいです。そんなこと言われたらもっと好きになっちゃうじゃないですか」
にやけそうになる頬を必死で抑えつけたせいで無表情気味になっていた頬をほぐす。真一文字に結ばれた口は緩み、真っ白な肌に赤みがさす。
やはり自分で作った噂をさも他人から聞いたかのように話すのは大変だ、と思いながら頬に残ったマキの手の感触を思い出すのだった。
設定
・結月ゆかり
高校2年生
定期試験では上位5位以内に入るほど成績優秀
常に無口無表情で初めて話す人は不機嫌なのかと勘違いするが、意外とノリはいいので会話は普通にする
とはいえ友達と呼べるほどの仲にはなかなか進展せず、クラスメイト止まり
フリルの付いた服やぬいぐるみなどファンシーなものが好きだが、自分には似合っていないと思い込んでいるので親友のマキにも話していなかった
マキのことがLOVEの意味で好きで、度々アプローチをしているのだがなかなか気づいてもらえない
初めは好意を匂わせる程度だったが天然鈍感ジゴロマキには通用せず返り討ちになっていたため、今回はストレートにプロポーズするも失敗
もはやキスするか押し倒すしかないのでは?と考えている
・弦巻マキ
高校2年生
頭が悪いというわけではないが、基本的に勉強をしないため成績は下の方
コミュニケーション能力が高くどんな相手に対しても物怖じしないため友達が多い
その中でもゆかりは幼いころからの親友で一番大切な人と周囲に公言している
天然かつ素直で思ったこと、特に好意は隠さないため、多くの男女を恋に落としてきたジゴロ
しかし本人は鈍感なため自分の好意も他人の好意もすべてLIKEの意味だと思っているため、恋する少年少女たちをすべて撃沈してきた
はたして彼女がゆかりの好意に気づく日は来るのだろうか?
続かない