前回慣れないクロスオーバーで慣れない超多人数の応酬をやった影響か、たった二人のやりとりが超書きやすい件(・ω・)
あの騒乱(八幡調べ)のクラス替えから早一週間。俺の安定のぼっち生活は混迷を極めていた。
──由比ヶ浜結衣は人気者。
そんなことはわかっていたつもりだった。
しかし、『本当に理解する』ことと『理解したつもり』になっていたこととはまるで別物であるのだと、この一週間で痛いほど思い知らされることとなった。
隣に座る由比ヶ浜をちらり盗み見してみれば、こいつがそういう立場になるのもよくわかる。見た目は間違いなく美少女。雪ノ下のような美人系ではない、所謂可愛い系の女の子。
頭が緩そうな頭髪と着崩した制服、そしてそこから覗く偏差値低そうなネックレスはまさにイマドキのギャルそのもの。にも関わらず、どぎついギャルにありがちな「あたしイイ女〜」オーラを纏うわけでもなく、誰にでも分け隔てのない優しく元気な笑顔を見せるこの少女は、今や我がクラスのトップカーストである。
わかっていたつもりだったのになぜ本当の意味でわかっていなかったのか。それは、こいつの周りにいた連中があまりにも特殊すぎたからに他ならない。
学校一の有名人で学校一の美少女。我らが部長様でもある雪ノ下雪乃と二人で居れば、当然人々の目は雪ノ下に向く。なにせ雪ノ下はただ美人というだけでなく、その存在自体がカリスマ性の塊でもありとてもミステリアス。だから違うクラスの女子と居れば、その不可思議さも相まって視界が雪ノ下で埋まってしまうのも致し方のない事だろう。
さらにひとたび部活から離れれば、そこに待っているのはこれまた校内指折りの有名人、リア充キング葉山隼人と獄炎の女王三浦優美子率いる校内トップカーストグループなのだ。
そんな特別なグループに属していれば、当然普通の美少女が目立たなくなるのは道理。
つまり、学校で……いやさ学校という枠に捉われないレベルの容姿やカリスマ性を備えた特殊な人物達が周りに居なければ、由比ヶ浜結衣という少女はクラスのぼっちなどには口を聞くことすら許されないほどの、ヒエラルキー最上位の人物なのである。
もとより由比ヶ浜は葉山グループという制約のない一年生時には、相模辺りとクラスのトップに君臨していた女の子。それから一年という時を費やし、奉仕部や葉山グループでの様々な出会いや経験を経て人として大きく成長した由比ヶ浜が、あまりにも突出しすぎた異質の存在が居ないクラスでトップにならないわけがなかったのだ。
さすがは、今や名物生徒会長として校内トップカーストにまで上り詰めたあの後輩小悪魔様に対して「敵う部分ないだろ」と俺に言わしめさせるほどの素敵な女の子である。
つまり、現在なぜ俺のぼっちライフが混迷しているのかと言うと……
結局、俺の席の隣がトップカーストグループの溜まり場と化している件について(白目)
× × ×
「えへへ〜、ねぇねぇヒッキー! ゆうべのリーガルV、めっちゃ楽しかったよねー!」
「すまんな、頭の悪そうなドラマとか観ないんだわ」
「いやいや頭とか超使うし! だって、ほ、ほーてー? モノだよほーてーモノ! 超頭良さそうじゃん!」
「法廷モノドラマだと頭良さそうとか思ってる時点で頭悪いんだよ。ああいうのは創作ゆえのご都合主義に溢れてるんだよ。なんならご都合主義しかないまである。都合よく都合がいい証拠が見付かって都合よく都合がいい決定的な証言が得られて、都合よく大どんでん返しで都合がいい快感を得られる。裁判沙汰がそんなに上手くいくわけがないだろうが。裁判がそんなに簡単だったら、葉山んちの商売上がったりだ。誰にでも出来ちゃうんだからな」
あとほーてーほーてー言わないでくれませんかね。なんかお股がムズムズしちゃう!
「もう、ヒッキー捻くれすぎ! ドラマなんてそんな難しいこと考えないで、頭カラッポにして観ればいーじゃん!」
「お前が頭良さそうって言ったんだろ……。だいたい普段からエブリタイム頭カラッポの奴が頭カラッポにして観たら、それもうなんも残らねぇだろ」
「むきー!」
──しかし、俺のぼっちライフが混迷を極めているのは、ただ隣がトップカーストグループの溜まり場になっているから、というわけだけではない。
なぜ混迷を極めているのか。それは、クラスのトップ女子が、こうしてクラスの隅っこぼっち男子に朝から気軽に話し掛けまくってくるからに他ならない。
マジで視線が痛いんだって、ガハマさん! 特に明らかにお前狙いの野郎共の視線が! あ。あと初日に隣になった名も知らぬモブ女子も由比ヶ浜に擦り寄ってきててウザイです。
よくよく考えたら、俺と由比ヶ浜はクラスで隣同士になったことがなかった。それどころか、なんの因果か近くに寄ったためしさえない。
部室では隣といえば隣ではあるが、ゆきのんの隣のガハマさんの横の席、と言った方が正しいだろう。横と言っても距離が凄くあるんだけどね!
そんなわけもあり、俺は自分の隣の席に由比ヶ浜が来たとき、こいつが俺に対してどんな対応をするのかを予測出来ずにいた。
2Fの教室内ではほとんど話し掛けてくることが無かったから、隣になってもそういうもんなんだろうと勝手に決め付けていたのだが、いざ蓋を開けてみたらそんな事はない。前のクラスでのアレがまるで幻であったかのように、こいつはことあるごとに気軽に話し掛けてくるようになった。
今まで由比ヶ浜結衣が教室で俺にあまり話し掛けて来なかった原因、それは俺にある。なにが原因か。それは他でもない、俺が話し掛けるなオーラを発していたから。
トップカーストの女の子が、いくら部活メイトとはいえ教室で底辺の男子と楽しげに話しているのは、その女の子の評判的にとてもよろしくない。だからこそ俺は由比ヶ浜が話し掛けてくるのをよしとしなかった。まぁそれはなにも由比ヶ浜の為だけではく、単純に俺が目立ちたくなかったというのもあるが。
あ。あともうひとつ原因があるとしたら、心配性のおかんを心配させない為ってのもあるよね! だって恐いし。
だから空気読み名人の由比ヶ浜は、周りの目を気にして極力俺に話し掛けないようにしてくれていたのだ。
『ごめん……』
多分それを決定づけたのは、あの花火の夜。相模に嘲笑われたあの日、ただでさえ腐った目を暗く濁らせていた俺に、由比ヶ浜は謝った。
謝る必要など一切ない由比ヶ浜が、なぜあのとき俺に対して謝ったのか。それは“自分のせいで俺に嫌な思いをさせてしまった”から。
由比ヶ浜のことをよく知りもない奴がこういう状況を見たら、由比ヶ浜が教室で俺に話し掛けてこないのは周りの目を気にしている保身の為、とか考える考えなしも馬鹿も中には居るかもしれない。
しかし、ちょっと考えればわかることだ。本当に自分の為に周りの目を気にして俺に構ってこないのであれば、そもそも知り合いに出くわす危険性が高いあんな社交場に、俺と二人で出掛けるわけがないということを。
そしてそこで知り合いに出会ってしまったとしても『同じクラスのぼっち・比企谷八幡』という存在を知らない相手に、わざわざ同じクラスの男子だと報告する自己保身の強い人間など居るだろうか? ただの部活メイトとでも言っておいた方がよほど傷が浅く済むのだから、わざわざクラスメイトだと教えてやる必要もないだろう。
しかし由比ヶ浜は俺を紹介した。相模の態度からして、自分が嘲笑される事などいくらでも読めただろうに「クラスメイトの比企谷くん」と紹介した空気読み名人が、保身で俺に話し掛けてこないとはこれいかに。
その上あいつはなぜか謝ったのだ。謝る必要など一切ない由比ヶ浜が。
アレ、本当に保身しか考えてない奴だったら、謝るどころかその時点で不機嫌になって解散だからね。で、夏休み明けにはもう部室以外では俺との関わりを一切断つから。
でも由比ヶ浜は、それでも俺との関わりを持とうとした。あまり周りの視線が向いてない隙を狙って、俺に話し掛けにきた。文化祭での、俺自身が作り上げた悪評渦巻く中でさえも。
しかし視線が向いてない隙といったところで、誰も見ていない保証はない。そしてそれを見られたら、由比ヶ浜を良く思わない層の連中が陰でネタにしないわけがない。なぜなら由比ヶ浜結衣はトップカーストなのだから。
にも関わらず、空気読み名人のこいつは俺に関わってきた。それってつまり、教室で俺と話さないのは保身ではなく、目立つのが嫌だという俺の下らない考えを尊重してくれていた優しさであるという、何よりの証明なんだよね。
しかしである。そんな気配り上手な空気読み名人たる由比ヶ浜が、クラスが変わった途端、なぜこうも俺のAT的なフィールド的なバリアを易々と突破してくるのだろうか。
いや、まぁ確かにクラスが変われば環境も変わる。俺なんかと仲良くすることによって、クラス内での立場が悪くなるかもと心配していたであろう三浦ももう居ない。未だにちょくちょく由比ヶ浜んとこに遊びにきては、由比ヶ浜と話してた俺を射殺すさんばかりに睨んできますけども。睨んできますけども!
……とにかく、四六時中心配性のおかんが居るわけではないから、三浦に気を遣わず喋りやすくなったのはまぁわかる。
にしたって、これは話し掛けてきすぎではなかろうか?
朝のHRやら休み時間やらに、由比ヶ浜グループの連中が由比ヶ浜の元に集まる前に嬉々として話し掛けてきて俺が危機に瀕する甘い日々。甘さはカケラもなかった。
おかげで由比ヶ浜率いるトップカーストグループ以外のクラスメイトには、まるで俺までトップカーストグループの一員と勘違いされているフシさえある。なにそれ恐い。
だから、俺は言わねばならない。なぜクラスが変わっただけでこうも構うのか、と。あまり俺に構っていると、いつか立場が危うくなるかもしれないぞ、と。
「うー、ヒッキーってテレビとかあんま観ないの? ぜんぜん話に乗ってこないし! あ、じゃあ音楽番組とかは!? 今夜のMステでU.S.AやるよU.S.A! あたしテレビの前で踊っちゃうかも!」
「なんでアメリカンなダンスで興奮しなきゃなんねぇんだよ……。悪いが偏差値低そうな音楽番組とかも観ないから」
「アメリカンなダンスじゃないからね!?」
そうなの? てか俺とテレビの話で盛り上がりたいんなら、日曜の俺的ゴールデンタイム(朝)を観てください。
「……んなことより、なんだ」
そう。今はテレビの話より、もっと大事なことがある。今はグループ連中が寄ってきていないから、今のうちに言ってしまおう。別に由比ヶ浜の身を心配しているわけではない。あくまでも俺の安寧のためだ。
「……なぁ、由比ヶ浜」
「どしたの?」
「……あー、なんだ。なんつーか……、だな」
「? うん」
「……お前、前のクラスんときはこんなに話し掛けて来なかったよな……。最近、ちょっと話し掛けて来過ぎじゃねぇか……? なんつーか、周りの目が、ちょっと恥ずかしいんだが……」
って言ってる今が一番恥ずかしいというね。なにこれまるっきり自意識過剰の気持ち悪い奴なんですけど。うわぁ、やばいよぅ、顔がみるみる熱くなってくよぅ!
「……っ。……だ、だって」
するとガハマさん。痛いとこを突かれたのか、びくっと肩を震わせると、俺に負けず劣らずみるみると頬を染めてゆく。え、なに? そんな恥ずかしいことなの? 今から恥ずかしいことでも言うの? もしかして聞かない方が俺の身の為だったのん?
しかし、自分で選んでしまった自業自得な悪手っぷりに焦っている俺の気持ちなど知らんとばかりに、ガハマさんはとてもズルい潤々な上目遣いで、弱々しく、でもとても強い思いを秘めた真っ直ぐな眼差しを向けてくるのだった。
「……だって、今までずっと我慢してたんだもん……。やっぱヒッキーはこういうの、やだ……?」
「べ、別に嫌ってわけでは、ない……が」
「ホント!? えへへ、良かったぁ」
やだ! 俺ってば意思弱すぎィ! 由比ヶ浜の為にも多少は拒絶するつもりじゃなかったのん?
いやいや由比ヶ浜の為じゃねーし? 俺の為だし?
……それにしても、なんだよ我慢してたって。それじゃまるで──
『二年の時も教室でヒッキーと他愛のないどーでもいい会話をキャッキャウフフと楽しみたかったけど、ヒッキーの為にずっと我慢してたんだよ……?』
に聞こえるんですけど!
うっかり惚れそうになるんで、そういう可愛い顔と勘違いしそうになる態度を自重してください(鼻血)
……ちょっとくらい、そう文句のひとつも言ってやりたかった俺ではありますが、メンタルが絹ごし豆腐並みの強度しか持ち合わせていない俺の「嫌ってわけではないけど」発言なんかにホッと胸を撫で下ろし、まだほんのり頬を赤らめたまま嬉しそうに次から次へと話し掛けてくる隣のガハマさんの元気な笑顔を見せつけられた俺は、ま、もうちょっとくらいならグループ連中の生暖かい視線くらい我慢してやってもいいか、なんて思ってしまいました、まる。
続く
というわけで、なんと早くも二話目が書き上がってしまいましたんっ(・ω・)
まぁ、今回は書きたい内容のカタチが明確だったからですかね(´▽`)
今後もどう続いていくか、てか続くのかさえ定かではありませんが、仮に続くとしてもこの作品は『となりの相模さん』同様八幡とガハマさんのやりとり特化型SSなので、他の原作キャラクターはまず出ないと思いますm(__)m
厚木は別腹。
それでは次回の更新があるようならまたノシ