となりのガハマさん   作:ぶーちゃん☆

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お勉強とガハマさん

 

 

 

「うう〜……」

 

「……」

 

「うぬぅ〜……」

 

「……」

 

「むぅ〜……」

 

「……」

 

 ……う、うるせぇ。

 

 

 

 今日も今日とて、うんうんと頭を抱え黒板とノートを交互に睨み付ける我が隣人。三年に進級してからしばらく経つが、ここ最近の授業中のお隣さんは大体こんな感じである。

 今までこいつが授業中にこんなにも勉強に精を出していた所など見たことがない。いやいや、それじゃまるで二年の時から常に授業中に由比ヶ浜の様子を窺ってたみたいじゃないですかー? ……ぜ、全然見てなかったし? あいつ今日も暇そうにボーッとしたりノートに落書きしたりしてんなー、なんて思いながら、遠くに座る由比ヶ浜を眺めたりなんかしてなかったし? ……ストーカーか。

 

 ……けぷこんけぷこんおこぽーん! そんなことよりも、一体なにがあのガハマさんをこんなにも勉学へと駆り立てているのだろうか。

 授業に真剣に臨むガハマさん。この一文だけで、これが如何に異質なことなのか誰の目にも瞬時に伝わる奇跡の一文だろう。

 

「ぐぬぬ〜……」

 

「……いい加減うるせぇよ。こっちが授業に集中できないだろうが。勉強に真剣に向き合うのはいいが、少しは静かに唸りなさい?」

 

「うー、だって難しいんだもん〜……」

 

「授業でやる程度の勉強に頭悩ますってのは、裏を返せば今までちゃんと授業受けてなかったって事だろ」

 

 などと偉そうに言っている俺ですが、数学や物理の授業は謎の呪文を聞きながら謎の古代文字を書いてる気分になりますどうも比企谷八幡です。

 

「はぁぁ〜……、二年のトキ、もっと真面目に授業聞いてれば良かったぁ……」

 

 これはまたこの女の子の口から飛び出てきたとはとても思えない物凄い台詞を聞いてしまった。すごいよガハマさん!

 

「って、ヒッキー邪魔しないでよ! ヒッキーと話してる間に授業進んじゃってんじゃん! あぁー、もうノート取り間に合わないよー」

 

 そしてなぜか俺が罵られてしまうという理不尽。まぁ俺から話し掛けたんだから間違いではないんだけど、俺にちょっと文句言われた程度で板書くらい余裕で出来ない時点で、こいつがいかに勉強に向いてないのかが解る。なお俺も数学や物理の板書は以下略。

 

 しかしあれだな。今まで由比ヶ浜とこんなに近くに居たこと無かったから気付かなかったけど、うんうん唸りながら困り顔でシャーペンの背を押し当てる尖んがった唇がぷるんぷるんだったり、問題が難しくてぱたぱたと小さく地団駄踏んだ時にふわり舞う短いスカートから覗く艶々すべすべむっちりの太ももがいやに艶めかしかったり、ばたーんと机に突っ伏した時に巻き起こる風に乗ってくるサボンの甘い香りが鼻腔をくすぐったりと、なんか勉強してる時の由比ヶ浜がとても可愛……げふん、エロ……げふんげふん、見てて飽きないんだよね。

 おかしいな、こいつってこんなに魅力的だったっけ。あまりに魅力的すぎて、目のやり場に困った挙げ句ガン見しちゃうまである。授業中にお隣さんをちらちら盗み見る危険性ゆえの吊橋効果かな? 違うかな、違うね。

 ……ふぇぇ、こんなんじゃ俺が授業に集中できないよぅ……! うるさくて授業に集中できないだろうが! ……とか散々文句言ってましたが、実は自分のやましい気持ちを彼女に悟られない為の方便でしかなく、本当はお隣さんの無自覚なテンプテーションが俺の集中力を根こそぎ奪っていってるだけなのでした!

 

 ……ま、まぁそれはそれとして。

 

 

 ──由比ヶ浜結衣はアホの子である。よくもまぁ総武に受かったよねってくらいのアホの子だ。

 なにせ総武はここいらの学生の間では知らない人が居ないほどの進学校。俺が着ていた制服を見ただけで、あの頭空っぽの折本でさえ「え、比企谷って総武なの? いっがーい。頭良かったんだー!」って言うくらいには、偏差値がなかなか高いことで有名な学校なのである。俺の中学からは俺一人しか受験しなかったくらいだし。

 

 そんな総武に曲がりなりにも合格したということは、実は由比ヶ浜だってそれなりに勉強が出来る……はず? 思わず疑問系になっちゃうくらい、未だ由比ヶ浜が総武生なのは謎だらけ!

 

 まぁ総武を選んだのはたまたまだろう。バス通とはいえ実際は徒歩圏内に総武高校という進学校があったから、記念受験でもしてみようかなー? くらいの気持ちで受けてみたら、たまたま奇跡的にヤマが当たってうっかり合格しちゃった☆ってレベルのはず。

 だがしかし、こうして一度も留年せずに三年まで進級出来ているということは、ウチの学校の中では仮に成績最下層だったのだとしても、そこらの高校生達にくらべたらそれなりにやれる子なのである。

 そんなそれなりに優秀な由比ヶ浜。総武をストレートで卒業出来るのであれば、高望みしなければそれなりの大学には進学出来るだけの地頭はある。はず。

 一見するととてもそうは見えないが、我が校に入学出来てきちんと進級出来ているという現実がこうして目の前にある以上、誠に信じがたいことではあるがそういうことなのだ。

 

 そんな由比ヶ浜が三年に進級した途端にこの勉強熱心っぷり。今まではテストは一夜漬けで乗り切ってきたであろうくらい、普段勉強している姿を一切見せたことがないあの由比ヶ浜が、何故ここまで授業に真剣に臨むというのだろうか。

 

 三年になった途端突然受験に目覚めた? ナイナイ。三年になった途端勉強の楽しさを知った? ナイナイ。

 

 やはりこれは────こいつ、進級マジでギリギリだったな……? で、中間ヤバかったな……?

 

「うがー!」

 

「……だから静かにしようね」

 

 

× × ×

 

 

「なぁ、お前ずいぶんと勉強熱心になったよな」

 

 授業も終わり、頭からプスプスと煙が出ているお隣さんにそう声をかけてみた。

 こんなになるまで勉強に集中するとはよほどヤバいらしい。卒業大丈夫? 知恵熱には気を付けて!

 

「……へ!? そ、そーかなっ」

 

 え? なんでそこで恥ずかしそうにはにかむのん? いや、そりゃ確かに恥ずかしいよね、留年ギリギリだったなんて。

 お団子をくしくしして照れ笑いする由比ヶ浜の様子に一瞬疑問符が浮かんだが、そう考え方を改めてみたらとても納得できてしまった。がんばれ由比ヶ浜。

 

「もう受験生だし、ようやく勉強に身が入ったっつうんなら確かにいい事ではあるが、もともと頭の出来が普通とは違うんだからあんま無理すんなよ? 熱出てもしらんぞ」

 

「バカにすんなし! ヒッキーマジキモい! いーじゃん、今はちょっと頑張りたいなって思ってんだから!」

 

 そう言って、どこかの養殖モノとはまるで違う天然モノのあざとさで、ぷくーっと頬を膨らませて抗議してくるお隣さん。なにそれきゃわたん。

 まぁね、卒業がかかってるくらいヤバかったら、多少の熱くらい我慢しちゃうよね。

 

「別に悪いとは言ってないだろ。ただな、人には人それぞれに見合ったペースってのがあるんだよ。今のうちからそんなに無理してっと、受験まで保たないぞ」

 

 受験よりはまず卒業だけどね!

 

「むー、そんなのわかってるよ。でも……、さ」

 

 すると、なぜか由比ヶ浜はまたもやほんのり頬を染めて小さく俯くと、ちらっ、ちらっ、と、横目で俺に熱い視線を寄越してきた。だからなんでそこで恥ずかしそうにはにかむの? その謎の熱視線はなんなんでしょうか。

 

「……だ、だって、最近すっごい奇跡起きちゃったから、ちょっと欲が出ちゃったんだもん。期待はしてたけど、ぶっちゃけ無理なんだろうなぁ、ってどっかで諦めてたのに、もともと夢見てた以上の奇跡が起きちゃったの。……だから、めっちゃ頑張ったら、もしかしたらまた奇跡起きちゃうかもしんないじゃん……!? 今までは諦めてた……ちゅーか望む事だって考えてなかったくらいのおっきい奇跡かもだけど、でも…………欲、出ちゃったから。だから、少しでも奇跡に近づけるように、今は頑張って勉強してみようかなって」

 

 はじめは弱々しくぽしょりぽしょりと、しかし後半になるにつれ、次第に鼻息荒く熱っぽくそう語った由比ヶ浜は、潤んだ瞳を細めてえへへっと小さく微笑んだ。

 

 

 ──最近起きたすっごい奇跡とは、やはり無事進級出来たことだろうか。もしくはまさかの中間好成績? そして今までは望む事さえ考えてなかった奇跡とは、無事卒業すること……無事進学することなのだろうか。

 

 なんだろう。なんだかそれは違うような気がする。たかがと言ってしまうのはアレだが、いくら成績がギリギリであろうとも、たかが進級や卒業、進学くらいで、ここまで熱っぽく語れるものなのだろうか。ここまで奇跡を夢見られるものなのだろうか。

 

「……奇跡、か」

 

 そういえば、俺もつい最近奇跡という言葉を耳にした気がする。

 

『またおんなじクラスだね! しかも隣の席になっちゃうとかすっごい奇跡だし……っ』

 

 ……ああ、そういえば言ってたな。同じクラスになって隣の席になったとき、由比ヶ浜がそれを奇跡だと嬉しそうに話してたっけ。

 ……それも確かに奇跡といえば奇跡なのかもしれない。普通こんなことなかなか無いからね。ま、あの奇跡と由比ヶ浜の勉強熱心さはどこにも繋がる部分がないから、いま由比ヶ浜が語っている奇跡とアレとは、また別の奇跡なのだろうけれど。

 

 なんにせよ、これから望む奇跡とやらがなにがそんな大層な奇跡なのかは知らないが、「めっちゃ頑張った」末に起きる事象なら、それは偶然の幸運から舞い降りる奇跡なんかではなくて、起こるべくして起こる必然だ。努力した結果で得られる必然の為に由比ヶ浜が今必死で頑張るのなら、それはもう俺が口を出すことでもないだろう。

 だから俺に今出来ることは、由比ヶ浜の頑張りに水を差すことではなく──

 

「そうか。じゃ、せいぜい頑張って、その奇跡とやらを掴めばいんじゃねぇの?」

 

 水を差すことではなく水を差さないでいること。

 俺にはなにが出来るわけでもないから、ただお隣さんが満足するまで、お隣さんが後悔しないで済むようになるまでは、心の中でひっそりと応援を送ってやることくらいだろう。

 

「うんっ!」

 

 そして、ご主人様にいい子いい子と撫でられたわんこのように、元気いっぱいに頷いた由比ヶ浜のお団子が元気に揺れた。

 

 

 

 ──そんな、迷いのない太陽のような笑顔で元気に微笑む由比ヶ浜を見て俺は思うのだ。

 

「……ま、それでももし俺になにか出来ることでもあれば、適当に協力してやるか」

 

 と。

 

「え、マジで!?」

 

「は?」

 

 あ、やべ、いま口に出てたの?

 マジかよ、ホントいい加減この厄介なクセ治さないと、今にとんでもない失言をしてしまいそうで恐い。去年の体育祭の時の脳内長文ゼリフ垂れ流し独り言とか、周りから見たらただの危ない人だったもんね!

 

「は? じゃなくて、いま協力してくれるって言ったよね!? てか絶対言った!」

 

「ぐ……」

 

 ……しかしいくらただの失言とはいえ、一度言質を取られてしまった事を無かったことにして知らん顔出来るのは、特権階級な選民意識を持った無責任な一部政治家と自称ジャーナリストくらいなものである。つまり特権階級どころかカースト最下層の俺などに、そんな真似ができるはずもない。

 俺がぼっちなのは普段の言動による自己責任ですから! バッシングされちゃうから英雄扱いしないでね!

 

「……おう。出来ることくらいならな」

 

 だからまぁ、一度言ってしまった以上は、出来うる程度の協力くらいならしてやろうではないか。

 ……それでお隣さんが喜んでくれるのならば──。

 

 

 

 

「じゃあじゃあ、今度一緒に勉強しよ!? 来月には期末あるし、ヒッキー勉強教えてよっ」

 

「は? そんなの雪ノ下に頼んだ方がよっぽど効果的だろ」

 

「……う、うぅ〜、……も、もちろんゆきのんにはよく勉強見てもらってるんだけど……、な、なんてゆーか、スパルタ過ぎといいますか厳しすぎて死ぬといいますか……。だ、だからたまにはああいうさ、さつばつ……? としたヤツじゃなくって、もうちょい気楽で楽しい勉強会をしたいなぁといいますか……、た、たはは〜」

 

 気楽で楽しい勉強会とか、なんの身にもならない気がするんだけどいいの?

 しかし、問題児相手に手加減抜きの完全戦闘モードに入っているであろう雪ノ下との地獄の勉強会を想像すると、由比ヶ浜の気持ちがちょっとだけ解らんでもないです(白目)

 

「……だめ?」

 

「ダメじゃねぇけど……」

 

 突然の勉強会のお誘いにどぎまぎして嫌そうな顔してたら、いつもの卑怯な上目遣いが猛攻を仕掛けてきましたよ。だからその潤んだ上目遣いはズルいよガハマさん!

 

「えへへ〜、やった!」

 

 あれ? なんか掌の上で踊らされてない?

 ガハマさんは無垢なのがウリなんだから、どっかの後輩小悪魔に毒されないでね?

 

「んじゃさっ、今度パセラ行こ!? ずいぶん前に約束したハニトーおごって貰ってないし、ハニトーつまみながら一緒に勉強しようよ!」

 

「いやいや、なんで勉強だっつってんのにカラオケ屋行くんだよ」

 

 ヤル気満々なのかと思ったら遊ぶ気満々かよ。満々どころか、なんなら遊ぶ気しかないまである。

 でもあの約束反故にしたままだから、交渉にハニトーを持ち出されると弱いんですよ!

 

「ふっふっふ、甘いなヒッキーくん。こないだテレビで見たんだけど、世間では最近勉強とか仕事とかでよくカラオケ屋さんが使われてるらしいよ? なんかさ、防音だし邪魔も入らないしごはんも食べれるし、結構集中できるみたいなんだー。勉強しすぎで煮詰まっちゃったら気分転換に歌えちゃうし!」

 

「マジかよ世間様、使い方間違っちゃってるよ……。あと煮詰まるってのは結論に近付いているっていうポジティブな意味であって、頭が煮立ってパンク寸前みたいなネガティブな使い方は誤用だからな、受験生」

 

 世間はカラオケ屋の使い方間違えて由比ヶ浜は言葉の使い方間違えてるっていうね。俺は青春の使い方まちがってますがなにか。

 

「し、知ってるし! ヒッキー細かすぎ! そーゆーのは勉強会んトキに教えてくれればいいじゃん!」

 

「へいへい」

 

「もー! 約束だからね!」

 

 と、なんだかいつの間にか勉強会が約束事になってしまったらしい。まぁ出来ることであれば協力するって言っちゃったしハニトーを持ち出されちゃったし、これはもう回避できそうにもない。

 今までの俺であれば、あることないことでっち上げて全力で拒否していたかもしれないけれど、今のお隣さん関係はもうしばらく続くだろうし、こじれたら厄介だと噂の隣人トラブルを回避する為にも、仕方ない、ここは素直に了承しておこうか。

 

「……また今度な、また今度」

 

「うん!」

 

 ……また今度という言葉は、次の機会を約束する言葉でありながら、決してまた今度の機会が訪れる事がないという、とても不思議な言葉である。

 俺も今まではまた今度という言葉にそんな認識を持っていたのだが、今回のまた今度ばかりは、本当に訪れる日がくる今度なのだろう。

 正直、多少面倒くさくはある。正直、多少緊張してしまいそうではある。

 ……でも正直、多少楽しみでもある。

 

 だって、隣の女の子がとても嬉しそうに笑っているから──。

 

 

 

 

 

「でもあれだからな。俺が教えられるのなんてすげぇ偏ってるぞ。数学とか教えろとか言われても無理だから、あとで文句言うなよ」

 

 いやマジで、他人のテスト勉強やら受験勉強に役立てるとは到底思えないんだけどいいんですかね。文系なら小町に教えてやってたから慣れてるけども。

 

 するとお隣さん、今の俺の発言のどこら辺に照れるポイントがあったのか、またも会話と噛み合わないあの謎のはにかみ笑顔を浮かべ、なんとも恥ずかしそうにちらちらと熱視線を送ってくる。いやなんでだよ。

 

「うん、だいじょぶ。……だって、あたしもヒッキーが得意なヤツだけ勉強頑張れば大丈夫だから……っ」

 

「お、おう? そ、そうか」

 

 だからさっきからなんでそんなに恥ずかしそうなぽしょぽしょ声なのん? わけがわからないよ。

 それにこいつって、文系だけ頑張れば大丈夫とか言えるくらい理数系得意だったっけ。確か俺が九点だった数学十二点とかじゃなかった? ゆきのんに拘束調教されて出来るようになったのかな?

 

 

 そんなことを考えながらも来たる勉強会に思いを馳せ、今日も平和で騒がしい隣人ライフをとなりのガハマさんと一緒に過ごす八幡なのでした。

 

 

 

続く

 

 




というわけでありがとうございました!

なんとか三話までは無事投稿できましたが、そろそろ更新が滞りそうな予感で悪寒(白目)
でも、今まで不遇な目に遭い続けてきたガハマニアさん達が少しでも喜んでくださるのなら、もうちょい頑張りたいです(>_<)


ではではまたお会いいたしましょうッノシ


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