となりのガハマさん   作:ぶーちゃん☆

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たったこれだけを書くのに費やした時間が20日……
もうダメかもわからんね(白目)






ハニトーとガハマさん

 

 

 

「ありがとうございました〜♪」

 

「……っす」

 

 とびきりな笑顔(業務用)の女性店員からレジ越しに渡された小さな手提げの紙袋。指に触れないよう、恐る恐る受け取ったそれをぎゅぎゅっと鞄に押し込んで、気恥ずかしさに耐えきれずそそくさと店をあとにする。

 

 ──マジで買ってしまった……

 

 生暖かめなビジネススマイルをひしひし背中に受けながら、俺はそんな事を考えているのだった。

 

 

 

 今日は水無月に入ってから二度目の日曜日。あと数日もすれば六月も折り返しを迎えるというそんな日。

 俺はこのあとに控えている謎のイベントに赴く前に、待ち合わせ場所である千葉中央駅よりも自宅から近い商業施設でとある買い物を済ませた。

 

 ──あぁ〜……なぜ俺はこんなものを買ってしまったのか……。つい魔が差してご購入してしまったが、勢いに任せてこんなモノをくれてやってドン引きされでもしたら、まず間違いなくビルから投身してしまいたくなる事だろう。本当にそうなってしまったら、今宵も愛しの布団ちゃんに優しく慰めてもらおうか。二度と出てこられなくなりそうで怖い。

 

 出来れば布団の世話にはなりたくないなー、なんて思いつつ、俺は重い足を目的地へと向けるのだった。

 

 

× × ×

 

 

 

「かーもんべいびー」

 

「……」

 

 あれ? 俺ここになにしに来たんだっけ? 

 確か期末試験、ひいては受験勉強の為に勉学に励みにきたはずのカラオケ屋。勉強の為にカラオケ屋とか、何度考えても謎イベントすぎだろ。……いや、確かにそれは大きな謎なのだが、今現在の論点はそこではない。これがいかに謎イベントなのかは、この際すすっと横に置いておこう。

 いま問題提起するべきは、なぜ勉強しにカラオケ屋にやってきたか、ではなく、なぜ勉強しに来たはずのカラオケ屋で早速歌謡ショーが開催されてしまっているのか、という点だろう。

 てか女子と二人きりで狭く薄暗い密室に籠もっているというシチュエーションだけで、ただでさえドキがムネムネ状態だというのに、カモンベイビーと可愛い声で歌って踊る由比ヶ浜を間近で見なくちゃならないとか、もう天国なんだか地獄なんだかよくわからなくなってるんですが。だって、短めのスカートがふわりふわりと舞い踊るわ二つの物体がばいんばいんと激しく揺れるわで色々まずいんですもの。

 ……これが由比ヶ浜曰くダサかっこ良いとかいう今話題のアメリカンな盆踊りとかいうやつか。なるほど確かにダサいが最高です。

 おいガハマ、お前の元気いっぱいなおっぱいのせいで、立ち上がろうにも立ち上がれないだろうが! (意味深)

 

「ふぅ〜! 超キモチよかったー!」

 

 ひとしきり歌って踊って、満足したとばかりに席に着くガハマさん。つか席なんていくらでもあるのに、なぜにわざわざ隣に座るのか……

 ガハマさん曰く「勉強するんだから隣に座る方がこーりつてきじゃん」との事だが、ただでさえ狭い密室なのに隣に居座られるとか、心臓がいくつあっても足りませんよ! あ〜……柔らかいよぉいい匂いだよぉ……

 あと人が立ち上がろうにも立ち上がれないと悶々してる時に、熱い吐息と共に快感を口にするのはいかがなものかと思います。

 

「気持ち良く歌ってんじゃねぇよ……。なんでカラオケエンジョイしちゃってんの?」

 

「だって、勉強ばっかじゃ煮詰まっちゃうじゃん。勉強の合間合間に息抜き出来るからカラオケ屋さんでの勉強するのがオススメだって言ったでしょ?」

 

「じゃあせめてもう少し息が溜まるまで我慢しない? 勉強はじめてからまだ三十分も経ってねぇぞ。息抜きってのは抜く息が存在して初めて成り立つんだろうが」

 

 どんだけ集中力ないんですかねこの子。あと煮詰まるは誤用だと何度言ったら……

 

「ヒッキー細かすぎ! せっかくカラオケ屋さんに来たんだし、歌いたくなったら歌えばいいんだよ」

 

 それもう当初の計画がスタートから破綻してるだろ……。せっかくカラオケ屋に来たのは、歌う為じゃなくて落ち着いて勉強する為なんじゃないんですかー? と、まるで下らない戯れ言を発した俺を見下す一色の冷たい瞳のような、とてもしらーっとした視線を由比ヶ浜に送ってみる。

 するとこいつはなんとも居心地悪そうに身を捩り、けふこふと咳払いをひとつ。

 

「……だって、ヒッキーと二人っきりでカラオケ屋さん来たの初めてだったから、つい舞い上がっちゃったんだもん」

 

 言って、彼女はほんのりと頬を染めた。

 

「……そ、そうか」

 

 いやいやいや、その返しはズルくないですかね由比ヶ浜さん! 勉強しにきたはずなのに勉強しないお隣さんを嗜めたら、なぜか二人でここに来たことを嬉しそうに語られてしまったでござる。

 なんなの? 俺と二人でカラオケ屋に来たのがあまりにも嬉しくて、つい我慢出来ずに歌っちゃったって事なのかな?

 ……あっぶね! これ俺以外の高校生男子だったら確実に勘違いしてストーカーになっちゃうとこだったわ。中学んとき学校の帰りにたまたま見掛けた折本の後ろをこっそり歩いてたら、気が付いたら家まで付いてっちゃってた危ない記憶ががが。

 いやホント、可愛い女の子はモテない男子に対してそういう発言する時は、細心の注意を払った方がいいからね?

 

「それに、あたし普段ちょー勉強してるもん。三年になってからは、うち帰ってからずっと机にかじりついてるくらい頑張ってるんだよ? だから、せっかくヒッキーと遊びに来た時くらい思いっきり楽しみたいし」

 

「……遊びに来たって言っちゃったよ」

 

「あ」

 

 あ、じゃないから。それ、完全に最初っから遊び目的じゃないですか。

 

「……うー、だってぇ、……ヒッキーと息抜きしたかったんだもん……」

 

「……お、おう」

 

 つまり、実のところ勉強会自体がただの口実であり、本当はただ単に普段の勉強疲れの息抜きをしたかった、という事なのだろう。

 

 確かに由比ヶ浜の学力は、三年になってからメキメキ上がったように思う。ソースは由比ヶ浜専属教師の雪ノ下。部室で教鞭中の室温が日に日に上がってきているのがその証拠。最初の頃なんて冷凍庫に入っちゃったのかと思うくらい寒かったからね。今では野菜室くらい温度が上がったよ!

 

 そして、あの由比ヶ浜が毎日毎日そんなにも頑張ってるであろう勉強の息抜きの為、相手に選んだのが俺だというのが、またなんとももにょもにょしてしまう。親友の雪ノ下でもなく三浦でもなく、俺を選んでくれたのだ。

 いやまぁ、毎日しこたましごいてくる鬼軍曹と休日に遊びに行っても胃がきりきりしちゃうよね! 毒にも薬にもならない俺という人材を選んだガハマさんの選択は、あながち間違っていないのかもしれない。

 てかぶっちゃけ、そうでも思ってないとこのまま密室に二人きりの状態が続くのが耐えられないよ!

 

 

 お団子をくしくし弄りながら、悪戯がバレてしまった幼子のようにたははと照れ笑いする由比ヶ浜を見て思う。

 おい、この空気どうしてくれんだよ、と(白目)

 

 

× × ×

 

 

「失礼しまーす」

 

 と、ここで救いの神ならぬ救いのパンがご到着。

 

 空気読みマスターのガハマさんが変な空気を作ってくれたものだから、お互いに照れが入って気まずい時間が流れる事およそ五分。そんなスイートな地獄の時間に救いの手を差し伸べてくれたのは、これまたなんともスイートなハニトーだった。

 

「やった! ハニトーきた!」

 

 俺と同様おかしな空気から救われたからなのか、はたまた単純におかしの時間にはしゃいだだけなのか、注文の品が到着した嬉しさを全身で表すお隣さん。隣でそんなに元気いっぱいに跳ねられると、元気なメロンちゃん達のはしゃぎっぷりに目のやり場に困ります。おい店員、にやけ面で胸ガン見しすぎだぞ、仕事しろ。

 下心丸出しの店員に些か苛立ちを隠せなかったものの、まぁ窮地を救ってくれたのは間違いない。ありがとう店員。次回注文の際はチェンジで。

 

 そして、エロい目でガハマメロンを堪能したあと、なぜか俺に憎悪と羨望の眼差しを向けて退室していった店員の背中を見送り、俺達はついにハニトーと向き合う事となる。

 

「おー、超おいしそー!」

 

「……」

 

 ……果たしてそうだろうか。

 この見覚えのあるフォルム。生クリームやらソースやらでデコられてはいるものの、結局のところはただの食パン。そう、食パンまるまる一斤。まさに食パン。THE食パン。

 正直、俺はこの食パンにはあまり良い記憶がない。パンはもさもさだわ中まで蜂蜜が染みてないわ生クリームが足りてないわで、最後の方は日を置いたただの固い食パンをお茶で無理くり流し込んだ記憶しかない。甘味としては落第点。我らが甘味界のホームラン王マッ缶さんの足下にも及ばなかった。うまぁうまぁ言いながらペロリ食い切った由比ヶ浜の正気を疑ったほどだ。

 

 約束とはいえ、またこれを完食しなくてはならないのか……、水分足りるかな? などと思っていると──

 

「ほら、ヒッキー! 早く食べよーよ! いただきまーす」

 

 おやつを鼻先に置かれた小犬のごとく、はしゃいだわんこがしっぽをぶんぶん振って勝手に食べ始めてしまった。まぁね、空腹の犬の目の前に食べ物置いといたらこうなっちゃうよね。大丈夫? ヨダレたれてない?

 

「うま! 生クリームうまっ!」

 

 そして、あの時と変わらないボキャブラ皆無の食リポをかますガハマさん。だから生クリームが美味いだけならハニトーである意味がないだろ。「ふぇぇ……、ぼくの魅力は生クリームじゃなくてハニーなトーストの部分なんだよぉ……!」というハニたん(萌え)の嘆きボイスが聞こえてきそうである。

 

「ほら、ヒッキーも早く食べよ! 無くなっちゃうよ」

 

 いやまぁ、そんなに美味いんなら全部食べちゃったって構わないんだよ? 俺はそんなに食べたいわけでもないし。

 とはいえ、やはりさすがにこれ一個を由比ヶ浜に処理させるわけにもいかない。これ全部食ったらガハマさんのメロンがさらに進化しちゃいそうなくらいカロリー高そうだしね!

 

 ったく、仕方ねぇなぁとおざなりな文句を溢し、ひょいとフォークを伸ばした萌え萌えのハニたん。やーん、くすぐったぁい☆ と恥ずかしげに悶えるハニたん(妄想)の防壁を容易く崩し、いざ実食! ぽいっと口内へ放り込んでやった。うへへ、よいではないかよいではないか。

 

「……? おぉ、うめぇ」

 

「でしょー?」

 

 そう。なぜか偉そうに胸を張る由比ヶ浜に対して素直に認めてしまうのは悔しいが、生クリームは多いしパンはふわふわだし蜂蜜は染み込んでしっとりしてるしと、なんとハニトーはなかなかの美味だった。あれ? こんなに美味かったっけ?

 

「やー、やっぱさ、文化祭で売ってたやつとは別物だよね。これぞ本物! って感じ!」

 

「……お、おう……っ」

 

 由比ヶ浜の言う通り、素人学生が見よう見まねで作った物とは明らかにモノが違った。成る程これが名物たる所以か。

 なんであんな物が名物になんだよ、パセラの客の味覚大丈夫かよ、なんて思っていた時期が私にもありました。すいませんパセラさん。ちゃんと美味しかったです! みんなもハニトー食べたくなったら、バッタもんで手を打たないで、ちゃんとパセラに食べに行こうね! (宣伝)

 瓶詰めティラミスは表参道が発祥じゃないんやで?

 

 あと由比ヶ浜さん、『本物』なんて口にしながらとってもいい笑顔を俺に向けてこないでね! そのワード、俺達の間ではかなりのパワーワードですから!

 

 

 

続く

 

 






というわけでお久し振りでございます!今回も最後までありがとうございました(*> U <*)


ようやく書けたカラオケ屋での勉強会回。(勉強はしていない)次回もパセラ編がもうちっとだけ続くんじゃ(・ω・)
期末試験前の六月中旬の勉強会。さて、次回のカラオケ屋室内では一体どんなイベントが!?(白々しい)


ではでは、次回いつになるかは分かりませんが、それではまたお会いいたしましょうノシ



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