となりのガハマさん   作:ぶーちゃん☆

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なんと2ヶ月ぶりの更新となります(・ω・)
もう作品の存在さえ忘れ去られちゃってたらゴメンね☆



そしてコレは完全に6月18日向け作品となりました(^皿^;)
もしアレでしたら、すぐに読まずに6月18日に読んで下さいねっ(暴論)





首輪とケーキとガハマさん

 

 

 

「んー、超うまい! よっしノッてきた。も一曲うたっちゃおっかなー」

 

「ノッてきたんならそのパトスを勉強に向けろよ……。お前が歌ってる間に全部食っちまうからな」

 

「あたしまだ二、三口くらいしか食べてないよ!」

 

「一口がでけぇんだよ。食い物がからむとどんだけ口が開くんだよ」

 

「そ、そんなに卑しくないし! 女子にそんなこと言うとかちょーセクハラだかんね!? ヒッキーキモい!」

 

 

 ……と、ハニトーがお手元に届いてからというもの、勉強会に来たはずのカラオケ屋の個室は、ハニトーを摘んでは歌い、歌ってはハニトーを摘むという、勉強なんて始めから無かったんや! というくらい飲めや歌えな和やかパリピ空間へと様変わりしてしまっていた。おかしいな、俺パーティー会場に来たんだっけ?

 しかし、勉強に来たはずなのにいつの間にかパーティーに変わっていたというこの不可思議な状況も、今の俺には決して悪い事ではないのかもしれない。

 

 

 ──今日、俺にはやらなければならない事がある。それは、ここに来る前に恥を忍んで購入したアレをこいつに渡すという高難易度なミッション。

 それをいつ行うか。いつ行うべきか。実は勉強会が始まってからというもの、そのタイミングをずっと探り、そしてずっと機を見いだせずにいた。

 勉強会という真面目なイベントで急にそれを行っても変な空気になっちゃいそうだしなぁ……、ドン引きされちゃわないかしらん……? などと、ずっと踏み込むタイミングを見つけられずにいたのだ。

 つまりこの状況は棚ボタ鴨ネギ渡りに船。歌があり笑いがありスイーツがあるこの状況は、まさにあれにぴったりな状況なのだ。

 ……よし、今なら渡せるッ!

 

 そして俺は声を掛ける。楽しげに何曲めかのノリノリソングを歌い切り、はにかみ笑顔で隣に腰を下ろしてハニトーへ手を伸ばした由比ヶ浜に、あくまでもクールに、あくまでもスマートに。

 

「……な、なぁ、由比ヶみゃ」

 

「みゃ?」

 

 壮絶に噛んだ(白目)クールどこいった? スマート帰ってきて!

 

「ん? どしたの?」

 

 緊張で胸が張り裂けそうになっている俺に向かって、ハニトーもきゅもきゅカロリー増し増しで胸が張り裂けそうになっている由比ヶ浜がきょとんと首をかしげた。栄養が全部そこに行っちゃってるんですね分かります。

 

「……あー、だな」

 

「うん」

 

「……あれだな。もうすぐ期末だな」

 

「へ? なに言ってんの? もうすぐ期末だからこうして勉強会やってんじゃん」

 

 もう勉強会はしてないだろ。

 

「……いやまぁ……そうなんだが、一学期の期末っつったらあれだよな。七月頭からだったよな」

 

「うん。毎年そうだよね。去年も確か、七月の〜……三日? からくらいだったっけ?」

 

「だな。……で、それに備えて勉強会してる現在は六月の中旬……なわけだ。まぁ勉強会はしてねぇけど」

 

「そうだね。六月の真ん中くらいだよね。あと勉強会超してんじゃん」

 

 してねぇから。

 

「で、六月中旬だからなに?」

 

「……いや、ほれ、……六月中旬っつったら、あれがあんだろ、あれが」

 

「……梅雨?」

 

「なんでだよ。梅雨は上旬からすでに絶賛稼働中だろ」

 

 まぁ普通の人には六月っていったら梅雨のイメージくらいしかないジメジメした月だけど、お前の場合は違うだろ。お前の周りは違うだろ。由比ヶ浜結衣だけは、六月中旬を首を長くして楽しみに待っていなきゃいけないのだ。

 だから今ので察して欲しかった。察してくれた方が軽い感じで渡しやすいんだよぅ……。そんなこと言ったら、また「言ってくれなきゃわからない」って怒られちゃいそうだから言わんけど。

 

 しかしいくら一人で嘆いてみても、自分の都合よく事態が好転するわけも無し。当の主役が気付いてくれないのなら、悲しいかな主賓の方から切り出さざるを得ないのである。

 そして俺は、体の奥底から沸き上がってくるなんだかよく分からない熱を顔全体にひしひし感じながらも、それを誤魔化すようにやれやれといった装いで溜め息をひとつ。このパーティー会場に来る前に気の迷いで購入してしまった例のアレを、ごそごそと鞄から取り出すのだった。手汗が半端無いって。

 

「ん? ホントどしたの?」

 

 よく分からない会話をしていたかと思ったら、突如溜め息を吐きながら鞄の中を探り始める部活仲間。由比ヶ浜の目には、今の俺はさぞや変な奴に見えている事だろう。エブリタイム変人に見られてますがなにか。

 しかしそんな冷ややかな視線など、これから成すことに比べたら小さな小さな些末ごと。俺がコレを差し出して、その中身を知られてしまったら、一体俺にはどのような奇異の視線が待っているのだろう。それを思うと夜も恐くて眠れなさすぎて、昼寝して夜まで寝ちゃうまである。結局夜も寝ちゃうのかよ。

 

「……ほれ。まぁ、おめでとさん」

 

 微かに揺れる手の震えを抑え、ようやく鞄の中から引っ張りだしたひとつの包み。それをカンタ君もかくやという程、ぶっきらぼうに「ん」と差し出した。

 

「へ? えと、それ何……?」

 

 突然差し出されたラッピングが施された小さな箱を心底不思議そうに見つめ、きょとんと首をかしげて俺の様子を窺う。察し悪すぎだろ……

 

「……何もなにも、……その……あれだ…………、誕生日のプレゼント、だけども」

 

「…………え」

 

 

 その時、由比ヶ浜はただでさえ大きなくりっくりの瞳を、さらに大きく見開いた。

 

 

× × ×

 

 

 本日は六月十三日。そう、十三日。由比ヶ浜の誕生日にはまだ少し早い日曜日。俺はそんな日を祝いの日と決め、こいつを祝う為のプレゼントを事前に用意した。

 本来であれば渡すにはまだ早すぎる日ではあるのだが、今日という日を逃してしまうと、とてもではないがこんな物を渡せないのではなかろうか? と昨夜から思い悩み続け、ついには今朝渡す事を決意したのである。

 

 一度決めたら行動は迅速に。

 もとより何を買うかは決めていたから、あと俺に必要だったのは購入する決意と渡す決意だけ。その二つの決意を持てた瞬間、俺は即座に行動に移した。予定していた出発時間を待たずに家を飛び出し、目的のアイテムを物色し選別するためショップへ向かったのだ。

 

 しかしモノがモノである。もちろん購入に至るまでの経過は難航した。

 まずは店選び。そんなモノを買った事もない俺は、まずそういうモノをどこで買えばいいのかとか知る由もなく、商業施設内をあちこち奔走したものだ。

 そしてグーグル先生の活躍によりようやく店選びが済むと、次はその店に入るという苦行が待っていた。いやホントマジで、女子が好みそうなお洒落で可愛らしい雑貨屋に俺みたいなのが一人で入店する恐怖ったら。店員と客の目がとっても恐ろしかったです、まる。

 さらにはそんな店内でアイテムを物色し選別しなければならないという苦行。修業僧もびっくりの荒行コンボである。

 

 最後にお洒落な店で選んだ女の子用のアイテムをお洒落な女性店員さんに手渡し、プレゼント用と伝えてラッピングしてもらうという公開処刑。

 大丈夫? これホントに知り合いへのプレゼント? 一方的に知ってるだけの人へのプレゼントじゃないの? という生暖かい視線を掻い潜りながら、俺は無事生還を果たしたのだった。

 

 

 かくして目的を無事達成した俺は、さらなる難題に挑んでいる真っ最中です。

 突然プレゼントを差し出され、鳩が豆マシンガンで乱射事件を起こされたような顔でぽかんとする由比ヶ浜を前に、同じく無言のままプレゼントを差し出しっぱなしの俺。これ、どうしたらいいのん?

 

「……えーと」

 

 あ、やばい、これやらかしちゃった? と強烈な不安感に襲われて、とりあえずまずはこちらから動きをみせなければ! と一声掛けてみた。すると固まったままだった由比ヶ浜が、その情けない声にようやく覚醒する。

 

「……たはは〜、ご、ごめん、びっくりして固まっちゃった……。え、えと……、なんで……?」

 

「な、なんでとは?」

 

 やだ! なんでお前からプレゼントなんざ貰わなくちゃなんねーんだよって事かな? (涙目)

 

 

 ……どうしよう。これはちょっと想定外だ。由比ヶ浜の事だから、深く考えずに「マジ? やった!」と、わんこが尻尾ふるように喜ぶもんかと思ってたわ。

 しかしよくよく考えたら、いくらアホの子とはいえさすがに不審がるに決まっている。だって、あと一週間もしない内に奉仕部でささやかなパーティーを開く予定があるのだから。小町が音頭を取り、雪ノ下と一色で気合いの入ったケーキを作り、みんなでプレゼントを持ち寄って俺達らしく内々で静かに騒ぐ、いつものなかなか悪くないパーティーを。

 それなのに、まだ本番まであと数日ある今日この日、俺だけが先にプレゼントを渡す必要性は無い。

 

「……だって、まだ誕生日前じゃん……。来週部室でやってくれる誕生日会んトキに渡してくれればよくない……?」

 

 そう窺うように……ともすれば不安そうに……、潤んだ上目遣いで訊ねる由比ヶ浜。

 

 プレゼントを用意されて、相手の出方を不安そうに窺う。普通に考えたら、それはあまりポジティブな反応ではない。

 貰いたくもない相手にプレゼントを用意されれば、当然人は相手を警戒するし、そのプレゼントの意味を深読みしてしまうだろう。下心? と。

 

 しかし手前味噌ではあるけれど、少なくとも俺は由比ヶ浜に『プレゼントを貰いたくない相手』と目されてはいないと思う。どうしようもない捻くれ者の俺だけど、これだけは自分を誤魔化すつもりはない。

 

 

 ──由比ヶ浜結衣は、クラスの日陰者であるぼっちをせせら笑うそこら辺の女子と違って、俺に祝われるのを嫌がらない。それどころか、手放しで喜んでくれる女の子。

 

 

 そう。いくら俺でも、そこだけはまちがわない。

 

 

 だから由比ヶ浜が困惑した理由は、俺にプレゼントを貰うのが嫌だからという理由でもなければ、プレゼント贈呈が誕生日よりも早かったからという理由でもなく、なぜわざわざ二人きりのタイミングで渡してきたのか、という事なのだ。

 こいつは、俺のこの行為に意味を探してしまっている、という事か。

 

 後々渡す機会が用意されているというのに、わざわざ二人きりで遊んでいる時に先にプレゼントを渡されようとしたら、そりゃ警戒もすることだろう。だって、それはみんなの前では渡しづらいという意味とイコールで繋がるのだから。

 つまり由比ヶ浜は、このプレゼントがなにか特別な物なのかもしれないと警戒しているのだ。雪ノ下達には知られたくないようなナニカがあると。

 そしてそのナニカを示す可能性は二つほど考えられる。ひとつはプレゼントの中身がとてもとても恥ずかしい物であるという可能性。そしてもうひとつは、プレゼント贈呈と共に何らかの意思表示──つまり告白が待っているという可能性。

 

 

 …………告白、か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──っべー! マジっべーわー!

 あんな物を渡さなくちゃならんのかとそっちの羞恥ばかりに集中していて、この特殊な状況に対して由比ヶ浜がそう考えてしまう可能性を完全に失念してたよ! そうだよね、まだ誕生日でもないのに、二人きりの時にプレゼント渡されるこの状況じゃ、そう思っちゃってもおかしくないよね(白目)

 

 ただ渡す物がなかなかに恥ずかしい物だから、一色や小町に知られてからかわれる前に先に渡しちゃえばいんじゃね? などと浅はかな考えだっただけなのに、二人きりの勉強会にかこつけて告白しちゃうぜ! とか張り切っていたのかしら。あらあら、お可愛いこと……とか思われてたとしたら、……ふぇぇ、超恥ずかしいよぅ……!

 

 ……ぐぬぬ、これはかなりキラやば〜☆な状況でプルンス。まさかガハマさんにこんな窮地に追い込まれるとは……! (自爆)

 次に俺がなにを口にするのかを潤んだ瞳で見つめてくる由比ヶ浜の不安そうな顔が、心なしか期待を孕んでいるかのように見えてしまっているくらいの動揺っぷりである。……クッ、女子の何の気なしな態度に「こいつ俺のこと好きなんじゃね?」なんて期待してしまうような甘酸っぱい時期など疾うに過ぎたはずの俺としたことが! おおはちまんよ、ふぬけてしまうとはなさけない。

 

 というわけで、早くこの誤解を解かなければならない俺は、由比ヶ浜にこう弁明するのだった。

 

「……ちょっと恥ずかしいプレゼントだから、あんま一色とか小町に知られたく無かっただけだ」

 

 と。

 あれ? これって弁明として正解なのん? なんか聞きようによっては婚約指輪でも用意してそうなイメージ。なにそれさらに酷い自爆。

 

「……ふぇ? そ、それって……?」

 

 あ、これやっぱり誤解したまんまだわ。さらに真っ赤に染まってしまったガハマさんの可愛らしいお顔が、俺の失敗を否応なしに物語っていました!

 

「あ、いや、ほら、な、なんつーの……? あまりにもしょーもないもん過ぎて、一色とか小町みたいなのには呆れられっかもだろ。あいつらって偏差値低そうなイマドキ雑誌で流行り物情報の収集に勤しむのが趣味みたいなもんだし」

 

「あ、あー、そ、そーゆー? ……たはは、び、びっくりしちゃった!」

 

 だから俺は、可愛い自分を守る為に、可愛い後輩と可愛い妹の低い偏差値脳を悪魔に売り渡す事にしますた。すまん二人とも。お前らのお花畑脳、とっても役に立ったよ!

 

「て、てかどんだけしょーもない物くれようとしてんだし!」

 

 可愛くも小憎たらしい小悪魔達の尊い犠牲でようやく誤解を解いた由比ヶ浜は、変な誤解をしてしまった照れ隠しなのか、苦笑しながらもぷくっと頬を膨らませ、俺の脳天へずびしっとチョップ一閃。大して痛くもないのに一応痛いフリをしている俺の手からプレゼントをふんだくっていった。

 その紅色に膨らんだ頬っぺたと苦笑いがちょっと残念そうに見えたのは、未だ中学時代からの勘違い野郎を卒業出来ずにいる俺の思い上がりなのだろう。

 

「……え、えと、ありがと。……その、開けてもいい?」

 

「……お前の手に渡った時点でそれの所有権はお前に移ったわけだし、まぁ好きにすりゃいいんじゃねぇの?」

 

 正直な気持ちを言ってしまえば、本当は心の底から開けて欲しくない。ぶっちゃけマジでやめて。家に帰ってから開けて。せめて俺がドロンしてから開けて。

 そう叫びながらカラオケ屋から逃げだしたい気持ちで一杯ではあるのだが、あげた物に対してこっちからごちゃごちゃ言うのは人としてダメだろうとも思うわけで。

 だから俺は血の涙を流してでも、なんだかんだ言ってプレゼントの中身にわくわくを隠せないでいるわんこの好奇心を遮る事など出来ないのである。

 

「……じゃあ、その、開けるね」

 

「……お、おう」

 

 白く細い指を微かに震わせてプレゼントの包みをゆっくり開いていくガハマさんと、汗でぬとっとしたばっちぃ指を微かに震わせてそれを見守る俺。なにこの凄い緊張感! いっそ殺して!

 

 そんな願いも虚しく、ゆっくりと、でも確実にラッピングは解かれてゆく。そして遂に包装紙の下に潜んでいた小さな箱の蓋という封印までもが解かれ、恐る恐る開かれるプレゼント。

 その時、由比ヶ浜の全身がビクリと跳ねた。

 

「……え? え? これ……、ネックレス……?」

 

「……」

 

 そう。ラッピングされた小箱からひょっこり顔を覗かせたのは、ピンクゴールドに輝くとてもシンプルなチェーンに、小さなハートのチャームとミニチュアダックスのシルエットモチーフのチャームが付いた可愛らしいネックレス。いつも頭悪そうなネックレスを着けている由比ヶ浜に似合うよう、ファッションセンスの無い俺が必死で見繕った代物だ。

 もちろんゴールド製でもなんでもない、女子高生が好んで行くような雑貨屋に売っているほんの安物ではあるのだが。

 

「……び、びびったぁ……、アクセサリー貰えるなんて全然思ってなかったからマジびびった。でも、超可愛い……! てか全然しょーもなくなんか無い……。むしろ、めっちゃしょーもある」

 

「……なんだ、しょーもあるって」

 

「えへへ、だって、しょーもないの反対なんだからしょーもあるじゃん。……でも、なんで……? まさかネックレス貰えるなんて、ホント夢にも思ってなかった……」

 

「……あー、いや、それな」

 

 

 ──さすがの俺でも、ネックレスを女性に送る意味くらいは知っている。不安だったから、事前にグーグル先生と予習しといたからね!

 贈った相手を束縛したいとか独占したいとか、そういった「お前は俺のモノ!」的ジャイアニズム思想を孕む首飾り系アイテムを女性に贈るのが危険なことは重々承知しているのだ。

 

 普段だったら絶対にこんなデンジャラスなモノをチョイスしようとも思わないし、贈るなどもってのほかだ。だって、あなたに好意がありますって言ってるようなものだし。

 にもかかわらず、なぜ俺がこんなモノをチョイスしたのかといえば──

 

「……ほれ、去年の誕生日にサブレの首輪やったらお前が自分の首に巻いちゃったろ」

 

「な!? そ、それはもう言うなし! てかマジ忘れて!」

 

 顔を真っ赤にして涙目で懇願するガハマさん。

 どうやら犬の首輪を巻いてしまったのはこいつの黒歴史に属するらしい。

 

「……でもまぁなんだ、勘違いとはいえ、お前あん時それなりに喜んでたし、ぬか喜びさせたんなら申し訳ないとずっと思っててな。だからまぁ、この機会に去年の借りを精算したかったっつーかなんつーか。だからホント特別な意味は一切無い」

 

 

 ──そう。ネックレスなど、普段だったら絶対にチョイスしようとも思わなければ、贈る事など絶対に有り得ない危険なアイテムなのだが、今年のプレゼントにだけはその危険が当て嵌まらないのだ。去年のアレがあったから、普段だったら絶対に贈る事など許されないネックレスというプレゼントを渡す“理由”があったから。

 普段だったら絶対に渡せないけれど、せっかくこうして理由が目の前に転がってくれているのだ。だったら渡してしまえと自分の中で理由を付けて、長考の末ネックレスを贈る事を決断した。

 去年の借りを返すというならチョーカーの方が正解なのだろうけれど、それだとそれこそサブレの首輪と勘違いされてしまいそうだからね。

 

「……そんなわけで、なんで? っつ〜問いに対して答えられるのはそんなとこだ。しつこいようだが別にこれといって特別な意味なんてねぇから、気軽に受け取って貰えると助かる」

 

 そう言って、あくまでもこのネックレスには特別な意味は無いと強調するヘタレな俺である。

 だって、嬉しそうな、それでいて不安そうな潤んだ瞳を俺とプレゼントに交互に向ける由比ヶ浜を見ていたら、こっちが色んな意味で不安になっちゃったんですもの。告白もしてないのに振られるのは、どこぞの小悪魔で間に合っていますんで!

 

「……もぉ、せっかく喜んでんだから、そこまで意味ない意味ないって強調する事もなくない? ほんとヒッキーってヒッキーだよね」

 

 すいませんねヒッキーで。お前が深く考えずに素直に喜んでくれていたなら、こうまで必死に取り繕う必要も無かったんですけどね。

 そんな事を考えながら、なんだか残念な人でも見るかのようにぷくっと頬を膨らませた由比ヶ浜を恨みがましく見返していると、不意に彼女はその膨れっ面をふにゃっと破顔させた。

 

「……でも、えへへ、マジでありがと。理由はどうあれ、あたしのプレゼントのことちゃんと考えてくれてたんだなぁ、って思ったら、すっごく嬉しい……!」

 

 女性というのは、プレゼントを貰うのが大好きな生き物らしい。当然の事ながら、その喜びはプレゼントの価値に比例するのだとか。

 価値=高価な品。そう考える人もいるだろうし、当然貰う相手によってはそういう側面もあるのだろう。

 しかし打算的な相手から貰うプレゼントと違い、友人や恋人、家族ら大切な人から貰うプレゼントの価値は価格とはイコールで結ばれないらしい。

 大切な人から貰うプレゼントの価値は高価かどうかではなく、その人が自分の事をどう考え、自分の事をどう思って選んでくれたのかという過程こそが価値なのだという。

 

 そういった意味では、由比ヶ浜の口から「あたしのプレゼントのことちゃんと考えてくれてたんだなぁ、って思ったら」という言葉を引き出せたこのプレゼントは、なんとか正解だったという事なのだろう。

 

「……おう。ま、喜んでもらえたんならこっちも万々歳だわ」

 

 

「うん! ……ホント、超嬉しい……っ」

 

「……っ」

 

 

 ……本当にこのお隣さんは卑怯な女の子だ。

 こっちは勘違いしてしまわないよう必死で理性と共闘しているというのに、なんの曇りもないこの眩しい笑顔は、本来であればどんな鋼よりも強固なはずの理性の化け物さん(別名ヘタレ)のATフィールドを容易く打ち破ってしまう。

 駄目だ駄目だと解っていても、どうしても頭の片隅をチラついてしまうのだ。こいつ俺のこと好きなんじゃね? と。

 

 だから俺は、そんな気持ちの悪い自分とこの照れ臭い空気をどこか遠くへ追いやる為に、いつも通りこんな風におちゃらけてみせるのだった。

 

「……ま、今度のは犬用じゃないから安心して使ってくれ」

 

「だからそれはもう言うなし!」

 

 本日の勝敗。

 照れ隠しが子供じみ過ぎていることにより、八幡の敗け!

 

 

 そして──

 

 

「着けてみても、いい……かな」

 

「だからお前の物に俺が口出す権利ないから」

 

「へへー、じゃあ着けちゃおっと! ……ど? 似合ってる?」

 

「……まぁ、悪くないんじゃねーの? いい感じで頭悪そうで」

 

「……むぅ、マジムカつく!」

 

 

 あの恥ずかしい空気をようやく打ち破ると、次に待っていたのはもう一つの恥ずか死イベント──試着タイムであった。

 

 まるで新しいおもちゃでも与えられたわんこのような喜びようで、由比ヶ浜は俺に見せびらかすようにおNewのネックレスを首に巻く。ホントそういう時、似合うかどうかを男子に聞いてくるのは止めた方がいいと八幡思うの。とてもよく似合ってるよ、とかスマートに褒めるのは葉山みたいなイケメンのお仕事ですから!

 

 そして今や、今まで着けていた普段のネックレスは彼女のバッグの奥深くへと仕舞われてしまったようだ。もう試着じゃなくなってるよね。

 俺が選んだネックレスが隣に座る女子の胸元でキラキラ揺れ続けてるとか、本当にどこに視線を向けてればいいのか分からなくてマジもう無理です。

 

 

 

 

 

 

 

「んー、やっぱうまっ♪」

 

 宴もたけなわではありますが、そろそろこのカラオケ屋での勉強会? の閉会も見えて来たそんな頃。

 あれやこれやの一連の恥ずか死やりとりを終えた今、目を細めて新しい首輪……もといネックレスを嬉しそうににまにま眺めたり、存在感を確認するよう指で優しく撫でたりしているガハマさんをむず痒い思いでチラ見していると、彼女はとてもとてもご機嫌な様子で今一度ハニトーと向き合い始めた。

 お届けされてからというもの、(由比ヶ浜が)喋ったり(由比ヶ浜が)歌ったり(由比ヶ浜が)笑ったりしながらまったり味わっていた為、件の食パンさんはまだまだ健在である。どんだけ長持ちすんだよこのボリューミィな食パン。シェフがなんらかの異能の持ち主なのかな? 料理に異能は持ち込まなくてもいいんじゃないかな!

 

 するとハニトーをむぐむぐ咀嚼していた由比ヶ浜。あっ、と何かを思いついたようで、唇の回りに付いた生クリームをぺろりと舐めあげながらにこっとはにかんだ。

 

「ねぇ、せっかくなんだしヒッキーも一緒に食べよーよ」

 

 そう笑いかける由比ヶ浜の頬は、ピンクゴールド色に染められた金属の照り返しなのか、ほんのりと桃色に染まっている。

 

「あん? なんだよせっかくって。さっき食ったろ。お前が次歌ってる時また食うから、今はお前がゆっくり味わってりゃいいんじゃねぇの?」

 

「違くて! 今、一緒に!」

 

「……いや、別に無理に同時に食う必要性もないだろ」

 

「だめ、今一緒に食べることに意味があるんだもん」

 

「……?」

 

 ……意味? こんな狭いテーブルの上で、わざわざ二人で同時にこのハニトーを食う事に、一体なんの意味があるというのだろうか。“せっかくなんだし”という言葉の意味も解らないし。

 

 

 

 

「……だって、さ」

 

 

 

 

 頭上にいくつかの疑問符を浮かべ、訝しげにお隣さんの様子を窺っていた俺の耳に届く、甘く優しくくすぐったい声。

 その心をくすぐるやわらかな声音を発した女の子の眼差しもまた、甘く優しくくすぐったい。

 

 

 ──そして、由比ヶ浜の甘く優しくくすぐったい声と眼差しから紡ぎだされるこの甘く優しくくすぐったい台詞によって、俺のちっぽけな疑問は、いとも容易く氷解するのだった。

 

「……だって、誕生日はまだだけど、ヒッキーがお祝いしてくれた今日はあたしの大切な記念日なんだもん。だからほら、このハニトーは、えへへ〜、誕生日ケーキの代わりじゃんっ! ……だから今、ヒッキーと一緒に食べたいな」

 

「…………お、おう、そうか」

 

 なんとも情けない、蚊の鳴くような震え声でそう返答する事しか出来なかった俺は、となりのガハマさんが嬉しそうに勧めてくるバースデーケーキ代わりのハニトーを、ただ黙々と食べ始める。

 

「本当にありがとねっ、あたし……これ一生大切にするから」

 

「……」

 

 情けなく弛んだ顔をお隣さんに極力見られてしまわぬよう、ただハニトーだけを真っ直ぐ見つめ、ただただ黙々と黙々と。

 

 

 

 ──やはり、となりのガハマさんとの勉強会はまちがっている。

 勉強、してないけどね☆

 






カラオケ店店員A「……クッ、殺せ……!」


というわけで、室内をこっそり覗いていたカラオケ店員と読者さんにクッ殺な思いをさせたこの勉強会編(勉強したとは言ってない)も、これでようやくラストとなりました♪
すみませんね、こんなに間が開いてしまいまして(白目)


さて、約2ヶ月ぶりのとなりのガハマさんでしたが、これにて一応のお終い…という事になるんでしょうかね。
とはいえこの作品は「ココまで書いたら無事完結!」というようなきっちりした作品ではございませんので、また気が向いたりネタを思いついたりしたら不意に更新する事もあるかと思います。その際はまた宜しくです(*^_ ’)

ガハマさんファンの方々は些か残念に思ってくださるかも知れませんが、今は他作者さんの素晴らしいガハマSSが絶賛連載中だったりしますので、是非そちらをお楽しみいただけたらと思います♪


それではいずれどこかでまたお会いいたしましょうノシ

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