堕ちた歌姫   作:舞花恋

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今回は、主人公の話を少し。


第4話

 人は一人しか愛せない。

 万人を愛することなど、どんなに素晴らしい人間であろうと不可能なことだ。

 

「はじめまして、奏くん」

 

 それは中学生の頃。

 一般的には反抗期と呼ばれる時期。俺は特別親に反抗してたわけではないが、それでもかなり多感な時期ではあった。

 

「突然ごめんね」

 

 そんな時に、父が一人の女を連れてきた。

 女は申し訳なさそうに、気の毒そうに言葉を紡ぐ。俺の心の内を窺いながら、事前に用意してきたのであろうセリフを吐く。

 

「急にこんなことを言っても、すぐには受け入れられないだろうけど……今日から、私が──」

 

 そのセリフを聞き流しながら、女の隣に立つ父を見る。その顔は、恐ろしいまでにいつもの父だった。

 

「──新しい母さん、ね」

「え?」

 

 そんな父を見てると、この女が酷く惨めに思えた。この女も、きっと──。

 だから、俺がその先を言う。つまりはそういうことだろう。

 

「ああ、うん。わかった。よろしく、()()()

 

 人は一人しか愛せない。けれど、同じ人を愛し続けることは出来ない。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 ──好きだ、愛している。

 

 そんな言葉を使うときはいつだって、女を騙すとき。女は馬鹿だから、こうやって重そうな言葉を言ってやれば、簡単に騙せる。

 

 

「さすが、プロは違うな」

 

 

 放課後。

 いつもみたいに帰路に着きながら、友人と他愛もない話をする。

 

「なんだよ、プロって」

 

 本当に他愛もない、なんの意図もないような会話。普段と変わらない日常の会話。

 

「そりゃあ、お前が愛人作りのプロってことだよ」

「愛人以前に、俺には恋人すらいないんだが?」

「なら恋人すらいないやつが、女を語ってんのかよ。なあ?」

 

 友人は嫌味ったらしく言ってみせる。

 

「語るも何も、お前が聞いてきたんだろ。どうすれば彼女に愛想尽かされないようになるんだって」

「確かにそうだけどよー。流石にその考えはヤバいぞ」

 

 人に質問しておいて、その言いようとは、失礼な男だ。

 まあ確かに、普通の考えではないかもしれない。こんなことをあたかも当然のことのように語る奴なんて、正真正銘のクズだろう。

 

 

 だけど、これが事実だ。

 女だけじゃない。男もだ。人間は、愛してるの一言で簡単に騙される。愛だの恋だの、そういうのに囚われた人間は、みんな揃って馬鹿になるのだ。

 

「結局、そういうのは飽きられる奴が悪いんだろうな。相手を満足させることが出来なかったんだから」

 

 いや、少し違うな。

 本当は、満足させられなかったから飽きられるのではなく、満足させたから飽きられるのかもしれない。

 一度満足したことに、いつまでも構ってられない。満足したその瞬間に、愛情なんかも尽きてしまうんだろう。

 

「……お前、背後に気をつけて歩けよ」

「なんだよ、急に」

「いつか刺されるぞ、その性格は」

 

 案外それも、悪くはないな。

 自分が捨てた女に刺されて死ぬなんて、随分と劇的な終わりじゃないか。

 

「──それは困るな、うん」

「だろ? もう少し抑えておけよ?」

「ああ」

 

 けれど今は、きっと大丈夫。罪悪感を、痛みを感じている今は、まだ大丈夫だ。俺は、普通の人間だから。

 

 

 

 ◆◇◆◇

 

 その夜。

 今日も家には、誰もいない。父と俺の()()()()()()()()()()家には、いつも俺一人。誰もいない。

 

 

「ねえ、奏」

 

 

 けれど今日の夜は、一人ではなかった。

 俺はパソコンを弄る手を止めて、ベッドに座る彼女に目をやる。

 

「なんだ、リサ」

 

 無意識に、彼女の肌色が目につく。本人も、視線に気づきながらもそれを隠そうとはしない。

 

「アタシのこと、好き?」

 

 どうして突然そんなことを聞いてくるのか。リサの意図は、一々聞かなくともわかっている。

 

「ああ、好きだよ」

「アタシの目を見て言ってみて」

()()()()()()()

 

 俺の言葉に安心したのか、リサは満足気に微笑んだ。そしてその表情を見て、俺も()()出来た。

 

 

 人は一人しか愛せない。なのに一人の人間を、複数の人間が愛そうとする。

 

 俺は薄まっていく痛みと吐き気に気づかない。

 




☆10 有限少女様 熱血ヒーラー様
☆9 カール・クラフト様 さんらいん様 にゃんサー様 ぱりぴろっぷ様
☆8 MinorNovice様 兎晴様 KATSU51様
高評価、感謝します。
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