堕ちた歌姫 作:舞花恋
人は一人しか愛せない。
万人を愛することなど、どんなに素晴らしい人間であろうと不可能なことだ。
「はじめまして、奏くん」
それは中学生の頃。
一般的には反抗期と呼ばれる時期。俺は特別親に反抗してたわけではないが、それでもかなり多感な時期ではあった。
「突然ごめんね」
そんな時に、父が一人の女を連れてきた。
女は申し訳なさそうに、気の毒そうに言葉を紡ぐ。俺の心の内を窺いながら、事前に用意してきたのであろうセリフを吐く。
「急にこんなことを言っても、すぐには受け入れられないだろうけど……今日から、私が──」
そのセリフを聞き流しながら、女の隣に立つ父を見る。その顔は、恐ろしいまでにいつもの父だった。
「──新しい母さん、ね」
「え?」
そんな父を見てると、この女が酷く惨めに思えた。この女も、きっと──。
だから、俺がその先を言う。つまりはそういうことだろう。
「ああ、うん。わかった。よろしく、
人は一人しか愛せない。けれど、同じ人を愛し続けることは出来ない。
◆◇◆◇
──好きだ、愛している。
そんな言葉を使うときはいつだって、女を騙すとき。女は馬鹿だから、こうやって重そうな言葉を言ってやれば、簡単に騙せる。
「さすが、プロは違うな」
放課後。
いつもみたいに帰路に着きながら、友人と他愛もない話をする。
「なんだよ、プロって」
本当に他愛もない、なんの意図もないような会話。普段と変わらない日常の会話。
「そりゃあ、お前が愛人作りのプロってことだよ」
「愛人以前に、俺には恋人すらいないんだが?」
「なら恋人すらいないやつが、女を語ってんのかよ。なあ?」
友人は嫌味ったらしく言ってみせる。
「語るも何も、お前が聞いてきたんだろ。どうすれば彼女に愛想尽かされないようになるんだって」
「確かにそうだけどよー。流石にその考えはヤバいぞ」
人に質問しておいて、その言いようとは、失礼な男だ。
まあ確かに、普通の考えではないかもしれない。こんなことをあたかも当然のことのように語る奴なんて、正真正銘のクズだろう。
だけど、これが事実だ。
女だけじゃない。男もだ。人間は、愛してるの一言で簡単に騙される。愛だの恋だの、そういうのに囚われた人間は、みんな揃って馬鹿になるのだ。
「結局、そういうのは飽きられる奴が悪いんだろうな。相手を満足させることが出来なかったんだから」
いや、少し違うな。
本当は、満足させられなかったから飽きられるのではなく、満足させたから飽きられるのかもしれない。
一度満足したことに、いつまでも構ってられない。満足したその瞬間に、愛情なんかも尽きてしまうんだろう。
「……お前、背後に気をつけて歩けよ」
「なんだよ、急に」
「いつか刺されるぞ、その性格は」
案外それも、悪くはないな。
自分が捨てた女に刺されて死ぬなんて、随分と劇的な終わりじゃないか。
「──それは困るな、うん」
「だろ? もう少し抑えておけよ?」
「ああ」
けれど今は、きっと大丈夫。罪悪感を、痛みを感じている今は、まだ大丈夫だ。俺は、普通の人間だから。
◆◇◆◇
その夜。
今日も家には、誰もいない。父と俺の
「ねえ、奏」
けれど今日の夜は、一人ではなかった。
俺はパソコンを弄る手を止めて、ベッドに座る彼女に目をやる。
「なんだ、リサ」
無意識に、彼女の肌色が目につく。本人も、視線に気づきながらもそれを隠そうとはしない。
「アタシのこと、好き?」
どうして突然そんなことを聞いてくるのか。リサの意図は、一々聞かなくともわかっている。
「ああ、好きだよ」
「アタシの目を見て言ってみて」
「
俺の言葉に安心したのか、リサは満足気に微笑んだ。そしてその表情を見て、俺も
人は一人しか愛せない。なのに一人の人間を、複数の人間が愛そうとする。
俺は薄まっていく痛みと吐き気に気づかない。
☆10 有限少女様 熱血ヒーラー様
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高評価、感謝します。