不遇な少女達の魔王道   作:那由多 ユラ

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第4話

~魔国ヘルムート前~

 

希依と琴音、リリアの三人は獣人の国から琴音のナビゲート、希依の二人を抱き抱えての大ジャンプにより魔国ヘルムートの門の前に着地した。

 

「お、今度はちゃんと着地出来たね」

 

「…前に失敗したの?」

 

「リリアちゃんのいた村に行く時にちょっとね」

本当にちょっとである。うん

 

 

本来数日はかかるであろうルートを数分で済ませたとはいえ流石に日が暮れてきている。宿をどうするか考えていたところ冒険者なら無料で泊まれる安宿が大抵の国にはあるという情報をリリアから聞き、まずは冒険者ギルドで冒険者になることにした。

 

門をくぐるとそこにはサキュバスに悪魔、ミイラのような人型に妖狐その他諸々の所謂魔族と呼ばれる者達が人間と同じように、より賑やかで活気に溢れる生活を送っていた。

 

「うわー驚いた。てっきり殺伐としたところだと思ってた」

 

「…それは偏見。人間さん達は皆魔族の人達を誤解してる」

 

「おねーちゃん、リリアちゃん、冒険者ギルドはあっちだよ!」

 

「「あ、ちょっ」」

 

入国して立ち止まる私とリリアの手を琴音が握り、進み始める。

 

 

勧誘や集客にあいつつも何とかギルドらしき所に到着し、入って奥の受付けに向かう。

 

ギルドの内装は入って真っ直ぐ奥に受付け、右に小規模の酒場、左には様々な依頼書が張り出されている。

 

 

「すいませーん、冒険者登録したいんですけどー」

 

「はーい」

誰も居ない受付けで私は人を呼ぶと奥から背中と頭からコウモリの翼のようなものを生やしたサキュバスのお姉さんが出てくる。

 

「いや~すいません、実はさっきちょっとした騒動がありまして」

 

騒動、なんだろ?勇者が攻めてきたとか?

 

「なにかあったんですか?」

 

「いや、大したことはないですよ?魔王様が『我、もうじき隠居するから』とかいきなり言いやがりまして」

 

結構なことじゃないのそれ!?

 

「…この国、大丈夫?」

 

リリアちゃんよく聞いてくれた!

 

「アッハハ、魔王様がいきなり何か言い出すなんてのはこの国ではよくあるんです。それでも何とかするのが私達国民なのですよ!

あっと~、冒険者登録でしたね。一通り説明は必要ですか?」

 

「お願いしまーす」

 

「では、

冒険者とは基本的にステータスの称号という欄に〈冒険者〉と書かれている方を指します。冒険者にはランクというものがございまして、それがA~Eまであります。これは依頼を受ける時に目安になったりしまして、レベルや技能に比例して上昇します。なので兵隊や騎士などをしていて強い方は初めからランクがC等になることもあります。

…ほかに何か聞きたいことはございますか?」

 

「私は大丈夫。琴音とリリアは?」

 

「…大丈夫」

 

「大丈夫だよー」

 

「…特に無いようですね。何かあったら遠慮せずに聞きに来てくださいね。

ではこちらにの表に名前と指印をお願いします」

 

喜多希依…と。…あ、このインク指に残らない。スゲー

 

 

 

3人が記入を終え、冒険者に登録された所で向こうから持ってきていたスマートフォンの時刻は5時半過ぎ。ついでに圏外。そりゃそうか。

 

ちなみにそれぞれの冒険者の初期ランクは私がB、琴音はE、リリアはDだった。

 

「私、一番下かぁ~」

 

「まぁLv1だしね。ちなみにリリアちゃんはレベルいくつ?」

 

「…6。たまに村の近くまで来た魔物を倒してた」

 

「リリアちゃんに負けた!?」

 

「まぁとりあえず適当に依頼受けて夜ご飯の分くらいは稼ごうよ」

 

「そだねー」

 

「…頑張る」

 

 

 

そして受けた依頼は…

 

~スノーウルフの討伐、及び牙の回収~

 

 

「これ、初心者が受けるものじゃなくない?」

 

「いやだってこれが一番近かったし」

 

「でもめっちゃ寒いよ!?おねーちゃんとリリアちゃんは平気なの!?」

 

「「平気」」

 

「う、うん。…まぁおねーちゃんは炬燵がなくても平気な人なのは知ってたけどさぁ」

 

「ほら、文句言ってないでいくよ!琴音のレベル上げも目的なんだから」

 

「ぅあーい」

 

 

 

ヘルムート近くの森を歩くこと数分、足元は軽く雪が積もっているが大して問題は無い。

問題なのは……

 

 

「「「いや、でかくね?」」」

 

 

スノーウルフの牙が大きいのだ。というかスノーウルフもでかかった。具体的には12mくらい。琴音はスノーウルフの足に触れたあとそこらじゅうに生えている木の一本に触れ、その木のあらゆる情報を問答無用に流し込んで脳を物理的に破裂させた。まぁ、グロかったよ。

牙も持てないことは無いが涎などで汚れていてあまり触りたくない。

 

「おねーちゃん、ギルドの所まで投げてよ」

 

「えぇ~、いいよ」

 

せーの!

着地を極めた私に死角はない。でかい牙を正しい場所まで投げ飛ばすくらい夕飯前よ!

 

 

「はいおねーちゃん、ハンカチ」

 

「ありがと」フキフキ

 

「きー、ことね、早く帰ろ。お腹空いた」

 

「そだねー。おねーちゃん、報酬ってどのくらいなの?」

 

「さぁ。近くでA級の依頼を選んできたから結構あると思うよ?」

 

「いやなにサラッととんでもなくとんでもないことしちゃってんの?こういう時はC級くらいからじゃないの?」

 

 

 

なんやかんやと会話しつつギルドに戻り、恐らく結構な額であろう報酬、金貨20枚、銀貨5枚を受け取り、宿を探すために街を散策すると直ぐに宿が見つかった。

 

…ピンク色の看板で派手な装飾がされた宿が。

 

受付けの人はまたサキュバスだった。サキュバスは皆接客業をしてるのかな?

 

「三人、ベッドは2つで大丈夫です」

 

「あらあら、銅貨4枚でいいですよー」

 

銅貨の価値って以外とあるのかな?

 

「銀貨一枚からで」

 

「はーい。お釣りの銅貨6枚ですよー」

 

「どーもー」

 

「御夕飯のサービスもあるのですが必要ですか?」

 

「あ、お願いします」

 

「はーい。部屋は二階奥です。鍵は中にありますからお楽しみの時は掛けておくことをおすすめしまーす」

 

「お気遣いどーもー」

 

 

 

 

 

 

その夜、当然のように百合の花が咲き乱れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

部屋から出ると受付けにいたサキュバスさんがいた。

 

「夜はお楽しみでしたね♪」

 

「「…あ、あぅ」」

 

定番の台詞を得意げに言い放つサキュバスさんの言葉を聞いて琴音とリリアは顔を赤く染める。

 

「今夜はあなたも混ざりますか?」

 

「おおっと、反撃してくるお客様は初めてですね。朝食はここで食べて行きますか?サービスしちゃいますよ?」

 

「いえ、ありがたいですけど私達行くところがあるのでこれで」

 

「あや、そうですか。

またのご利用お待ちしております♪」

 

 

結構いい人だった。また来よう

 

 

 

 

ヘルムートに来て2日目、私達は遂に魔王の居る城な行くことにした。

 

けどまぁ普通に徒歩で行くのは面白くないので今まで通り跳んでいくことにする。

 

 

 

突撃!隣の魔王城!

 

 

 

「「「おはよーございまーす!」」」

 

ドガシャーン!

魔王が居るであろうてっぺんの窓から飛び込む。

 

 

「どわー!?なんだよなんだよなんだってんだよ!?こんな朝っぱらから!」

 

飛び込んだ先にいたのは玉座に座る黒髪色黒美形で細マッチョの男性だった。

 

「初めまして魔王様、遊びにきたよ」

 

私は魔王に軽く挨拶すると魔王は私の顔を数秒凝視した後どこかを納得したような顔をする。

 

「あぁなるほど。…初めましてだな、我の後継者よ。我が名はクラーク、これからはただの一国民となるのかな?」

 

「「「はい?」」」

 

「いや、お主なのであろう?〈最強〉を受け継いだ新たな魔王は」

 

「え?いや、確かに私の職業は最強だけど…」

 

えぇ、いやまぁ確かに魔王は最強の具現とか言ってたけど

…めんどくさっ

 

 

「お主らこの国に来たのは初めてだな?」

 

「そうだよー」

 

「…うん」

 

「うっし、せっかくだから我がこの国を案内してやる!」

 

こいつ、ほんとに魔王か?実は魔王の息子とかってオチじゃないよな?

 

 

 

 

 

それから、魔王直々の国案内が始まった。

 

 

城から出て最初にこの国の簡単な構造を語る。

 

「この国、ヘルムートは大きくわけて三つに別れておる。一つはお主らも通ったであろう魔族地区、簡単に言ってしまえば人型の魔物が人間と同じような暮らしを送っておる。少数ではあるが人間も住んでおるな。

そして二つ目は魔物地区。スライムみたいな小型からスノーウルフのような大型まで様々な魔物が檻の中に巣を作って暮らしておる。お主ら二人の元いた世界の動物園、を我なりに再現してみたのだ」

 

「「!?」」

 

なんで私達が別世界から来たのを知ってるんだろ?

 

「それは我もお主らのいた世界と同じところから来たからだ。…と言っても、もう何百年も前の話だがな。

動物園は以前我のところに来た勇者から聞いた」

 

心を読んだ?

 

「うむ。我は元いた世界では妖怪 覚 と呼ばれていた。心を読む妖怪とな。

っと、話がそれたな。その動物園を再現した魔物地区なんだが、そこは我の娘が管理しておる。次の魔王となるお主は挨拶くらいした方がよいと思うが、どうだ?」

 

「せっかくだからお願い」

 

魔王の娘、ウ=ス異本では定番のジャンル。どんなロリっ子が楽しみだ…

 

 

 

 

 

 

 

しかし!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロリじゃない、だと?

 

「初めまして、私はマーフィー。マフィと呼んでください」

そう私達に挨拶するのは私よりもちょっとだけ背が高い色白で銀髪の女性。胸は……私の同類(ツルペタ)だな。

てかこの二人ほんとに親子か?どっちも美形だけど肌も髪も色が全然違うし…

 

「見ての通り血は繋がっておらん。マフィは鬼神(オーガ)と人間のハーフなのだが、人間の国の国民たちに虐待されている所を我が保護して娘にしたのだ」

 

こんな所まで同類かよまったく。いじめは全異世界共有の文化なのかな?

 

「ま、まぁ否定はせぬがこの国にはそんなものない。我が全力をもって禁止にしたからな」

 

この魔王、全力を出す方向がマジカッケー

 

「クハハっ、そう褒めるでないわ。父親は娘のためならなんでも出来るというものよ」

 

「その娘さん、今あんなだけど」

琴音が指差す方を見るとそこにはリリアを抱きしめ撫で回すマーフィーと、満更でもない顔をしたリリアの姿がそこにはあった。

 

「なぁ、あの猫の子なのだが…」

 

「そう。リリアに琴音、私もあなたの娘の同類(いじめられっ子)だよ。」

 

「そうか。お主らにちょっとした相談なのだが…よいか?」

 

「「なに?」」

 

「よかったらなのだが、マフィの友人になっては貰えぬか?」

 

「魔王様、それはあなたじゃなくてマフィさんが言うべきことだよ?父親として心配なのは分かるけどさ」

 

「琴音の言う通り。まぁ心配しなくていいよ。マフィさんが望むのなら、私達は受け入れる」

 

「だが、マフィは口下手で人見知りで…」

 

「好きだと言わなきゃ好きでないということにはならないし、望みを言わなきゃ望んでないなんてことにはならない。それは『覚』である貴方が一番分かってるんじゃないの?」

 

「なるほど確かに。

…我にそこまで言えるのだ。お主になら我のあとを任せられる」

 

やべっ、墓穴掘ったか。…まぁ、この人のあとを継ぐなら、それも悪くない

 

…かもしれない。


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