不遇な少女達の魔王道   作:那由多 ユラ

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もう四回目の前回のあらすじ!

「なんか急に…あれ、急にでもないかな?まいっか、急に反旗を翻したジュリエットちゃんと子供達」

「森では私の腕が切れたりとか大惨事!」

「いや、そんな嬉しそうに言うことじゃないから」

「そう?
なんやかんやで因果律にすら手を出したおねーちゃんが私の腕を治したり、私の作った魔境を砂漠にしちゃったり」

「そしたらラストさんとリンちゃんが出てきたりとかしてなやなやに」

「なやなや?
まぁ、今回は事情聴取みたいな感じかな?」




第21話

魔王城 食堂

今夜の件の当事者、希依に琴音、ジュリエットとたまたま居合わせたラストとリンがテーブルを囲んで事情聴取を始めた。…そんなに固いものでは無いが。

子供達は大した怪我もないので孤児院に寝かせてきた。彼らにはまた後日話を聞くことになっている。

 

「で、なんで今更こんなことしだしたのさ。しばらくは大人しかったのに」

 

「…フンっ」

 

「琴音、ジュリエットちゃんのスリーサイズ」

 

「上から8「ちゃんと言うから黙りなさい!」…だってさ、おねーちゃん」

 

「そう?じゃあほら、なんでやったの?」

 

希依の問いかけにジュリエットは気まずそうに口を開く。

「二週間くらい前からね、頭にずっと響くのよ」

 

――魔王は邪悪なもの

――魔を滅するは人の義務

――魔王を殺さねば世界は終わる

――魔とはいついかなる時も悪である

 

「最初は私だけだったんだけど、何時からか子供たちにも聞こえてきたみたいで、しかも声がだんだん重なっていって、私を含めてみんな頭痛に悩まされて、その…」

 

「気づいたら実行してたと」

 

煮え切らない最後を琴音が締める。

 

「ま、そういうことよ。ほら、さっさとテキトーに処しなさいよ」

 

「じゃ、三ヶ月給料一割引ね。引いた分は孤児院の生活費に回すからそのつもりでね。

じゃ、次はラストさんだけど

「ちょっと待ちなさいよ!まさかそれだけで済ますわけじゃないわよねぇ!あんたを殺そうとしたのよ!?そこの妹も!腕を切り落としたのよ!?」

 

「それが?」

 

答えたのは琴音だった。

 

「腕を切られたのは私の責任。油断してた私のせいだよ。確かに痛かったし喉をやられて魔法が使えなかったけど、どっちみち喉さえ治れば治せる程度の怪我だし。

襲ったのもほかからの原因があったみたいだし。

怒ってないよ。…私はね」

 

「私は怒ってたけど、琴音はそうでもなかったみたいだし、恨みはある程度晴らしたしね」

 

民衆の前でパンツを脱がされ、おしりペンペン百回を受けたのは億の歴史があるヘルムートでも彼女くらいだろう。

 

「…そうだったわね。でもやっぱりあなたの性癖を疑うわ」

 

「疑うも何も単純。可愛い子が好き、鬱陶しい奴が嫌い。これだけ」

 

「あの、魔王様?まさかマジでやったのですか?おしりペンペン」

 

「そういえば、ラスト様はすぐに戻ってましたね。やってましたよ?琴様にすぐに目を塞がれましたが」

 

「リンちゃんにはまだ早いからね」

 

「子供になんてもの見せてんですか。そういうのは誰もいないとこでやってくださいよ。助けを呼んでも誰も来ないような場所で」

 

「やられてたまるかっての!むしろヤラれるわ!」

 

「ジュリエットさん、よくその調子でシスターなんてやってられましたね」

 

「あんたにだけは言われたくないわよ、フリーダムオートマトン」

 

「だからオートマトンじゃなくてオートマタですって」

 

 

 

「ねぇ琴音、ずっと気になってたんだけどオートマタとオートマトンって違うの?」

 

私は地味に結構気になってたことを聞いてみた。

 

「言葉の意味的にはほぼ同じだと思っていいよ。違い、わかり易いとこならスペック、性能の違いだね。他にも形状とか。

ジュリちゃんのとこオートマトンは言わば意思の持たない召使いのようなもの。主人に言われたことをただひたすら実行するだけの存在。言わば人間の劣化版と言えないことも無い。

 

大してこの世界のオートマタは最初こそ人間に劣るスペックだったけど、四号機で人間と同等、それ以降は人間を上回る性能を誇っている。

 

まぁ、やっぱり世界の違いが一番大きいのかな?

 

魔族を人間だけで、魔法だけで滅ぼそうとしたジュリエットちゃんの世界と、

 

魔族を使えるもの全て、魔法に呪いに科学に他種族、その他色々を使って滅ぼそうとしてたこの世界とじゃ発達の仕方が違う。

 

そんなことより早くラストさん達が保護してきた子をお披露目したら?」

 

「「ちょっとまって、人間そんなことしてたの?」」

 

私とジュリエットちゃんの言葉が丸々被った。

 

「あれ、言ってなかったっけ?てかジュリちゃんも知らなかったの?」

 

「そりゃ教会から外に出たことなんてほとんどなかったし」

 

「ジュリエットちゃんってめっちゃ箱入り娘なのね」

 

「まぁまぁそんなことより、ご紹介してもよろしいですか?」

 

「あ、やっとですか?もしかして今日はもうお休みになられてるのかと…」

 

「いえ、ずっっ、と扉の前でお待ち頂いてますよ?」

 

「「「「なにやってんの!?」」」」

 

「さぁ、もう入っていいですよー」

 

ラストは両開きの扉を精一杯開くと、それでもギリギリの肩幅の異形が姿を現す。

 

人間で言うところの右手、左手の肘が繋がり外側の肩から首にかけて大型の歯車が姿を除く二人の少年少女。

 

「こちら、自動人形の二号機、三号機です。男の子の方が二号機です。彼らの保護していた子供達からは『二ぃちゃん』『三ちゃん』と呼ばれていました」

 

「いや、どっから拾ってきたの?」

 

「モーゼスのスラム街です。魔境化したあとはお二人の作った地下シェルターで子供達と暮らしていました所を私とリンちゃんが偶然発見、援助していたのですが、

…現場を見られてしまったというわけです」

 

「死んだって聞いたような気がするけど…まいっか。よろしくね、二ぃくん、三ちゃん」

 

「くん付けで呼ぶんじゃねぇ!歳上だぞ!」

 

「二、うるさい」

 

「ほっとけ!」

 

「だからうるさいってば」

 

「このように、お兄様の感情を対消滅させるように造られたのがお姉様なのですが……この通りです」

 

「水と火じゃなくて火と油に造っちゃったってわけね」

 

「そういうわけです」

 

「おい!もう帰っていいか!」

 

「お腹空いた。ラスト、ご飯ちょうだい」

 

「おい三!お前なぁ!」

 

「ねぇオートマタ」

 

「なんでしょう?」

「なんだ!」

「何?」

 

「あー、三人ともそうだった。オートマタってもしかして全員マイペースなのかしら?」

 

「そんなにですか?」

「んなことねぇよ!」

「そんなこと、ない」

 

 

 

「ねぇ琴音、二ぃくんと三ちゃんの数え方って一人?二人?」

 

「えぇ…、今聞くこと?」

 

「今聞かないと夜、眠れなくなるじゃん」

 

「はぁ。二人だと思うよ、最初から繋がってたわけじゃないんだし」

 

「ふーん」

 

「ふーんて、眠れなくなるんじゃなかったの?」

 

「琴音、今夜は寝かさないから」

 

「えっ、明日じゃダメ?腕を切られたりとかして疲れたんだけど」

 

「色々心配させたんだから、もっとちゃんと琴音を感じさせて?」

 

「うぅ…もぅ…おねーちゃんったら」

 

「というか魔王様、琴音様?もう朝ですよ?」

 

ラストさんがカーテンを開けると強烈な朝日が私達を照らした。

 

「あっ…」

 

「はぁ…、四時間ほど睡眠を取っていいですからすぐにお風呂に入ってお休みになられてください。ジュリエットも、今は帰りなさい。

お昼までに子供達の事情聴取を終わらせますよ。

お兄様とお姉様は私が孤児院までお送りします」

 

「ん。じゃ琴音、行こっか」

 

「うん!」

 

「くれぐれも、速やかに終えてお体を休めて下さいね」

 

 

 

 

 

 

大浴場

さすがに睡眠時間を削ってまでことを成そうということにはならず、私達は素直に体をやすめることとした。

 

「ねぇ琴音、ジュリエットちゃん達に響いてたって言う声、出処は分かった?」

 

「うん。…安心していいよ、ヘルムートに裏切り者がいるとか、人間の作戦って訳じゃないから。

多分だけど、ジュリエットちゃんの世界の勇者は100%後天的になるものなんだと思う。全人類が勇者になる可能性があるから全員産まれた時に脳に細工を施す。

何ヶ月か間が空いたのは平行世界を転移したからなのか、それとも元々そういう仕様、欠点なのかもね。

ジュリエットちゃん以外にも影響があったのは多分、『勇者パーティ』全員にどうにかして影響が出るようにしてたんじゃないかな?

パーティは無意識だろうけどね」

 

「つまり、仕返しする相手はジュリエットちゃんの世界そのものってわけね」

 

「どうする?」

 

「琴音はどうしたい?一番被害にあったのは琴音なんだから」

 

「ぶっちゃけそんなにだよ?腕切られるのはめっちゃ痛かったけど両親からやられた時と大差あるようには感じなかったし、その分はおねーちゃんがやってくれたし。

だからおねーちゃんがやりたくないって言うならやらなくていいし、やりたいなら殺ればいいよ」

 

「ならいいかな。面倒だし。

あと思ったんだけどさ、別にジュリエットちゃんたちに『琴音が死んだら世界を殴り壊す』って言ったのが知られたわけじゃなかったね」

 

「あ、気にしてたんだねそれ」

 

「琴音に有罪判定されたの、結構傷ついたんだからね?」

 

「いやまぁそれはゴメンだけどさ、重いよ?おねーちゃんの愛」

 

「そりゃ思いと想いを込めに込めまくってるからね」

 

「詰め込みすぎだよ」

 

「だから適度に発散しないとね」

 

「今日はしないからね?」

 

「分かってるってば」

 

「でも、一緒に寝てほしい、かな」

 

「もっちろん。妹の頼みは断れないからね。

あ、襲ったらゴメンね?」

 

「…がんばって睡姦の技術を身につけてね」

 

「琴音の妥協点そこでいいの?」

 

「別に、おねーちゃんなら嫌じゃないし」

 

 

 

 

 

その後、お風呂から上がってすぐに眠りにつき、二人とラストさんは孤児院に向かった。

 

ジュリエットに協力した子供達に事情聴取をしたが、状況が変わるような情報は一切得られなかった。

 

 

 




希依「とりあえず一件落着かな?」

琴音「そうだね。死人が出なくてよかったよ」

希依「ほんとほんと。
あ、そういえば琴音の右腕、問題ない?ちゃんと治ってるはずだけど」

琴音「うん。だいじょう…あ」

希依「え?どうかした?なんかあった?」

琴音「右腕にあった傷が全部無くなってる」

希依「あらら。一応言っとくけど、戻そうとして傷をつけるとかやめてよ?」

琴音「しないってばそんなこと。別に勿体ないとか、片腕だけで中途半端とかは思ってないよ」

希依「前者はともかく後者はほんと?」

琴音「ほんとほんと」




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