不遇な少女達の魔王道   作:那由多 ユラ

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第22話

「これより、十四代目魔王、キイの二つ名決定会議を始める」

 

「いや要らないから。しかもこんなに朝っぱらから何?」

 

場所は魔王城の地下、魔力地区。

超高濃度の魔力結晶で作られた円卓に三人が着いていた。

一人目は現魔王、希依。

二人目は妙に似合うアロハ服の先代魔王、クラーク。

三人目は無数の腕で構成された翼のようなものを生やした黒いワンピース、黒髪、黒目の女性、初代魔王で今は亡霊のエヴォラ。

 

この三人が集まった。

 

「他の奴らはどうしたんだ?ババァ(愛子)ジジィ(六代目)揚げたてコロッケ(熱々おでん)はすぐ来れる距離だろうに」

 

「…断られた。そんな暇は無いって」

 

身体が半透明の初代は目に見えて落ち込んでいた。

 

「クラーク、女の子泣かせちゃダメでしょ。マフィさんに言いつけるよ?」

 

「うっせぇ!そもそもこいつ俺らの何千万倍も歳上だ!」

 

「正確には1億と23倍、クラークより上」

 

「そんなことよりもさ、なんなの?二つ名決定会議って」

 

今朝、希依は目が覚めたら体の自由が効かず、強制的にこの魔力地区に連れてこられたのだ。

 

希依の疑問にはクラークが答えた。

 

「これはあれだ、ババァ(愛子)の『卵王』とか俺の『読心王(独身王)』とか初代の『最強の魔王』みたいなやつだ。

初代の気が向いたときに開催される」

 

「ふーん。気が向かないから帰っていい?」

 

「キイ、泣かすよ?」

 

「諦めろ希依。こいつに喧嘩売って勝った魔王はババァだけだぞ」

 

「むしろなんで愛子さんは勝てたの?」

 

「あの子、この空間ごとオムレツにしようとした。わたしを美味しく食べようとした。怖かった」

 

「話変わるけどさ、ジュリエットちゃん達の暴走のときの声ってエヴォラさん?」

 

「…違う。多分、それはニノンのしわざ」

 

「ニノンっつーと、二代目だったか」

 

「どんな人なの?」

 

「引きこもりの、お人好し。あなたとよく似ていた」

 

「…ねぇクラーク、私ってそんなに引きこもりのイメージある?」

 

「魔王になった翌日に俺に仕事丸投げして二週間図書館にこもったお前に引きこもりのイメージがないとでも思ったか?」

 

「…ごめん」

 

「もう気にしてねぇよ。んな事よりほら、さっさと決めちまおうぜ。希依の二つ名」

 

「いやそれはいらないっての」

 

『因果包容、なんていいと思うよ』

 

突如空間に機械音声のような声が響き渡る。

 

「…ボイスゴーレム。ロペス?直接来てくれてもいいのに」

 

『いやだね。行ったらあんたは俺を使うだろ?』

 

「そんなこと、しない」

 

 

 

「クラーク、ロペスってだれ?」

 

「四代目の魔王だ。ゴーレム作りの天才で、初代と話してるのはロペス本人の声を素材に作ったゴーレムだ」

 

「魔王って引きこもり多いの?」

 

「いやほら、基本魔王って城で勇者を待ち受けるものだろ?」

 

「むしろ攻め込むべきでしょうに」

 

「なんでお前はそんなに好戦的なんだよ。仮にも一国の王だという自覚を持て」

 

「親バカに言われたくない」

 

「んだとシスコン」

 

「ロリコン」

 

「お前もだろうが」

 

「おっと」

 

 

 

 

『十四代目、俺のところにお前の客が来ている。3秒後に送るぞ。覚悟しろ』

 

「は?客?」

 

響き渡る声が突然そんなことを言い出す。初代に目を向けるもハテナを浮かべながら首を振る。

 

『3』

辺りが黒く、赤く、黄色く、白く、透明で光る霧に包まれる。

 

『2』

部屋を満たした霧が円卓の上に集まり、人型を成す。

 

『1』

人型から光が消え様々な色が黒に染まる。

 

『0』

霧がより高濃度になり、完全な人間の姿になる。

 

「やぁ」

ローブ姿の老人が円卓の上に君臨した。

 

「君が」

一歩、私の方へと進むと、老人の姿と声はドレス姿の少女となる。

 

「私の」

次はスーツ姿の二十歳位の男性。

 

「愛娘で」

軍服姿のキリッとした女性。

 

「間違いないのかな?希依ちゃん」

私の前で立ち止まったのはご当地ヒーローのようなマスクに赤いライダースーツの男性。

 

 

 

 

「いや、誰?顔も見えないし」

 

「え、まじ?…やっべ間違えた。もっかいやり直していい?」

 

「ダメでしょ。そんなイタい登場しといてやり直すとか絶対すべるって」

 

「あ、やっぱ?」

 

「…わりぃ、俺帰るわ。こいつは、駄目だ」

 

シリアスな空気が壊れたところでクラークが退場する。

 

そして数分後、クラークと入れ替わるように琴音がやってきた。

 

「クラークに言われて来たけどおねーちゃん、この赤い不審者誰?あとそこの幽霊っぽいのは初代さん?」

 

琴音の疑問に答えるのは赤い不審者だった。

 

「やぁ琴音ちゃん、君にも会いたかったよ。その通り、彼女はヘルムートの初代魔王、エヴォラだ。

そして私は『Nyarlathotep』、ニャルラトテップでもナイアーラトテップでもテキトーに呼んでくれたまえ」

 

「…何、おねーちゃん達はこんなのを召喚でもしてたの?暇なの?」

 

「まぁ、初代が暇だったから開かれた会議ではあるけどこの邪神っぽいのは呼んでない」

 

「酷いなぁ邪神っぽいとは。正真正銘邪神だよ。証明はしないけどね」

 

「んな事よりさ、私のことを娘とか言ってたけどそれは何?」

 

「えっ、おねーちゃんそんな中二設定持ってたの?」

 

「ごめん琴音、ちょっと黙ってくれる?さっき中二設定を付け足される所だったから」

 

「え、マジ?ごめんおねーちゃん」

 

「ん。

はら、そこの自称私の親も早くゲロってよ。」

 

「全く冷たいなぁ。まぁしょうがないか。

さて、何から聞きたい?って聞いてイラつかせるのが普段なんだけどそんなことしたら希依ちゃんに埋められそうだからね、サクッといくよ。

僕の種族はNyarlathotepで希依ちゃん、君の父親だ。希依ちゃんが生まれた時の僕の名前は喜多 煌鬼(こうき)

あぁ、安心していいよ。希依ちゃん、君の身体には一切Nyarlathotepに関するものは含まれていない。100%人間だ。

聞きたいことは他にもいろいろあるのだろうけれど、何よりも先にこれを聞いてくれ。

 

済まなかった。他の神共から君に注目が行かないようにしていたとはいえ、君に父親らしいことが全く出来なかった。本当に、申し訳ないと思っている」

 

邪神は手を付き膝を付き、頭を下げ、土下座の姿勢で謝罪する。

格好は変わらず赤いヒーローなのでとてつもなくシュールだ。

 

しかし私にそんなことを気にする余裕は無い。

 

「…父親?…あんたが?私に何があっても、助けてくれなかったのに?なんで今更?」

 

「忙しかったから。じゃあ君は許してはくれないだろうね。許してもらおうだなんて、図々しいにも程がある。

がしかし、忙しかったからというのが一番正しい言い方でもある。

希依ちゃん、君だって妙に思っただろう?あまりにも他の人と比べて不幸すぎる、幸運すぎる。幸も不幸も、全てがマイナスとして襲いかかる。

客観視したらこう思っただろう?

不遇すぎる、と。

その原因は勿論希依ちゃんには無いし私にも無い。理由は私にあるが。

これはなんというか、神共のエゴというか、八つ当たりというか、嫌がらせかな?

世界中の神々は怒ったんだよ。

たかが数名の人間が生み出した邪神ごときが人間の感性を手に入れ、愛情を知り、本来の性質から外れた僕が一人の人間を愛し、愛されたということに」

 

「えっと、つまり私のいじめられっ子体質は神々のリア充爆ぜろ的な感覚で出来たってこと?」

 

「Yes.

これでも神々のなかでは結構強い方でね。僕に直接やるより周囲に仕掛けた方がいいと判断したんだろうよ。

僕はそれを、二度目を許さないために暗躍した。本来の性質的にも暗躍は得意分野だしね」

 

「二度目ってことは、一回目があるんだよね?それって…」

 

聞き入っていた琴音が聞く。

 

「琴音ちゃんが予想したとおり、希依ちゃんの母親だよ。そして僕の妻でもある。

あぁ、勿論人間だとも。弱くて儚く、強く美しい人間だとも。

希依ちゃんの誕生に浮かれているすきに、体力を使い果たした彼女はその夜誘拐された。

後々判明したことだけれど、彼女はカルト集団の雄共に散々犯された後に儀式の生贄として殺された。犯すのも儀式の一部だったのかもね。

しかも皮肉なことに、彼等は僕の信奉者だった。Nyarlathotepを信仰する邪教徒だった。

あぁ、忘れていた。彼女、希依ちゃんの母親の名は『嘉村(かむら) 桜春(さくら)』、桜に春でさくらだ」

 

「それで、あなたはなんで、今ここに来たの?」

 

ずっと喋らずにいた初代が口を開いた。

 

「さっき言った気がするけれど、あれ、言ったかな?まぁいいや。

やることがやっと終わったからだよ。希依ちゃんが二歳位からだから、17年間、短いはずのとてつもなく長い17年かけてでもやるべき事がやっと終わったからさ」

 

「やるべき事って?」

 

「僕がしていたのは、希依ちゃんを神々の目から逸らすという、普通の人間からしてみれば迷惑極まりない行為だ。一柱、例外が居たがね」

 

「…星神、ステラ」

 

「その通り。もしかして希依ちゃん会ったことある?」

 

「少し前に、この城に遊びに来たことがある。あと、私が死んだらそのステラちゃんになるらしいよ」

 

「えっ、マジ?あぁ~そういうことか。あの子、立場的に上司の上司なんだよね。文字通り無知な上司(アザトース)の上には年下の上司(ステラ)でそれが自分の娘とか…

話が逸れたね。えっと、なんの話しをしてたっけ?」

 

「17年間何をしてたかって話」

 

「あぁそうそう。そうだったそうだった。

僕は希依ちゃんがパソコンを使えるようにしてから居なくなった。そう、あのメモだね。あれは脳に直接書き込むという魔導書的な能力を持ったものだよ。

またまた話が逸れちゃったね。僕も希依ちゃん達に会えて柄にもなく舞い上がっちゃってるみたいだ。

えっと、そう。僕は陰ながら神共の希依ちゃんへの接触を全て断ち切っていた。断ち切った分は僕の『人間には身に余る物を与える』という特性を活かして莫大な金銭という形で送っていた。それでも運は送れなかったからね、その金銭すらもマイナスで働いた。それにはもちろん気づいていたさ。それでも、金銭を送らなかった場合は希依ちゃんは割と直ぐに死んでいた。だからといって僕が正しいとは言えないけど。

17年間経った今、何故終わったのかだけれどそれは君が3年前ここに来たことが事の解決に繋がった。

八百万の神が居なくなったこの時代には神が一柱、唯一神の『オージ』とかいう奴だけだ。あんな雑魚くらいなら僕でも余裕で殺せる。

今頃は他所の神共が奪い合ってるだろうね」

 

「ちょっと待って、『神が居なくなったこの時代』って言ったよね。何?ここは未来なの?私達がしたのは異世界トリップじゃなくてタイムスリップだったの?」

 

「…あれ、もしかして知らなかった?琴音ちゃん伝えなかったの?」

 

「…うん。だっておねーちゃん、異世界だーって喜んでたし」

 

「えっ、琴音……あー、いいや。ありがとね」

 

「え?、うん」

 

「ふぅ、喧嘩にならなくて良かったよ。

じゃあせっかくだからこれも話しておくよ。

ここは希依ちゃん達が元々居た世界、時代と言うべきだけどもはや別世界みたいなものだしまぁいっか。

ここは人類が五回滅んで六回目の人類が住まう地球だよ。ちなみにさっきのクラーク君とか十一代目魔王の愛子ちゃん、そして希依ちゃん達は二回目の時代の子達だよ。ラストちゃんを最後とする自動人形は五回目の生き残りだ。

まぁそんなことはいいとして、あとは何を話したらいいのかな?時代背景を語るべきは琴音ちゃんであって僕じゃないし、

何か聞きたいことはあるかい?」

 

「別にないけど…琴音、これって全部マジ?」

 

「マジもマジ。大マジだよ。ニャルラトテップがおねーちゃんの父親なのも、神々なリア充爆ぜろっておねーちゃんに意地悪するのも、おねーちゃんの母親が死んでるのも、おねーちゃんのことを本気で愛しているってのも、全部ぜーんぶ本当だよ」

 

「そっか、そっかぁ」

希依は顔を隠すように机に突っ伏す。

 

「キイ?」

 

「あっはっはー。いや、私でも親から愛されてたりするんだなーって思ったらさ、めっちゃ泣きそう」

 

「良かったね、おねーちゃん」

琴音は希依の頭を優しく撫でる。

 

「うーん。いや、良かったのかな、親が邪神って」

 

「希依ちゃん、邪神を悪いみたいに言うけどさ~」

 

「じゃあ悪くないの?」

 

「いや、めっちゃ悪い奴。人間の感性を持って分かったけど僕ほど厄介なやつも居たもんじゃない」

 

「自分の振りみて我が振りなおせってやつだね」

 

「言われないでも直せるとこは直してるさ。とはいえ根本的なところは這いよる混沌だからね」

 

「くれぐれもクラークみたいな親バカにはならないでね」

 

「なぜ?娘を可愛がるのは当然の事じゃないのか?」

 

「あ、この邪神人間を理解仕切れてない」

 

「えぇ!?琴音ちゃん、マジかい?」

 

「えーっと、お父さん、でいいの?」

 

「うん、ありがとう。僕みたいなのを父と読んでくれて」

 

「ん。もうそういうのはいいから。お腹いっぱい。

お父さんは孤児院で子供の相手をして思春期とか反抗期とかを身をもって経験してくること。

初代さん、私に二つ名とか要らないから。

 

はい、解散!私は寝る!」

 

「えっ、キイ?」

 

「解散!解散ったら解散!」

 

顔を俯かせて初代は虚空に消えていく。

 

 

 

 

 

 

 




「やったよ琴音、人生いいこともあるもんだね」

「おねーちゃん、それでいいの?邪神だよ?」

「何言ってるの?初代魔王様が可愛かったって話だよ?」

「ごめん、それは予想できなかった」

「うそうそ。お父さんがちゃんと…ちゃんと?まぁ、ちゃんといたのも嬉しかったよ。うん。」

「あ、やっぱりちょっと気にしてるんだね」

「だって父親が邪神だよ?その娘ってことは何?私は神の子ってこと?中二かよ」

「キリスト教徒にぶん殴られそうな事言ってるよ」

「ここにはいないから平気。キリスト教徒も、キリストも」

「まぁ、今でも密かに痕跡はあるみたいだけどね」

「えっ…」




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