gold・Brigade ー黄金の旅ー 作:放浪者キカイマン
〜1〜
「…おい」
「…何」
彼に呼ばれるのは何度目か、ようやく返事を返せた。
「意識はあるわりに反応しねぇ、よく分かんねぇ奴だなぁおい」
彼のその言葉をよそに
倒れている、ついさっきまで私を脅していた彼らに目を向ける
「…この人達は…」
(生きてる…)
どうやら気絶させられただけのようだ。
活力の色が見える。
音は無かった。
本当に、ただ振り向いたら皆が倒れていた、それだけである。
まるで、時間を丸ごと切り落とした様な────
これ以上は考察の意味が無いと判断して。
「彼等に…何をしたの…?」
恐る恐る聞いてみるが。
彼はおどけた笑いを見せた。
「殴った」
「一瞬で?」
「あぁ」
「えぇ〜…」
納得…
「出来るわけないじゃない!何したのよ!」
「話すのだりぃ」
「…」
即答である。
細かい事はつき跳ねるタチらしい。
「俺はワイズ.ザッカス」
彼は名乗った。
私も名前を伝える。
「…グラツイット.クローヌよ」
名前を聞いたワイズは呻いた。
「ややこしい名前だなぁ、クローヌでいいか?」
「はぁ…お好きにどーぞ…」
ここまで高飛車なのは自分の実力故のものなのか。
彼が話さないと言った以上、確かめる術は無い。
「んじゃクローヌさんよぉ、聞くが、俺を雇って何がしたいんだぁ?」
邪魔をされて聞けなかった事だ。
「信じる?」
「信じねーよ」
「むぅ、じゃぁ受けてくれないんでしょ?」
「聞いてから決める」
気分屋にも程があるだろう、と突っ込みたいところだが、自分もたかが知れているので口には出さなかった。
依頼人としても、目的を言わないのは良くないとは思ったので、話す事にした。
「分かった…言う」
「おぉん」
この事を人に話すのは初めてだが。
(……。)
「眼を、治すこと」
──この人は、信じてくれるのだろうか。
────────────
〜2〜
「眼ぇ?」
「うん、眼」
「治すってこたぁ、眼ぇが見えねぇって事か?」
「まぁ、端的に言えば、そうなる」
と言うのも完全に見えない訳ではない。
いつぞやに立ち寄った村医者がこの眼の事については完全に分かってはいないが、「魔祖」という魔法の作用によって眼が見えないそうだ。
人は必ず魔祖の魔法をその身体に宿している。
それが私には見えるのだ。
その旨を彼に告げたが。
「魔祖ってなんだよ」
「あぁ〜…そこから?」
彼は魔法がある事しか分からないらしい。
(この人本当に雇用人として戦ってるのかな…)
生きていく上では割と重要な知識の筈だが。
「魔法」というのははどこかにあるらしい「源」を元にこの”世界”に存在するもので。
魔法には特性がありそれぞれ「魔祖」の他にも性能の区別があったりする。
それぞれ…
「むぐっ」
「あぁ、分かった、分かったからぁさ」
口に手を当てられた。
「頭が痛ぇからやめろ」
「え、う、うん」
〜3〜
「まぁ、アンタの眼が見えないのは分かった」
「うん…」
「で、俺を雇うのに何の関係があるんだよ」
「う、うん」
ごもっともである。
私は自分の行動の浅はかさにこうべを垂れながら彼に謝罪した。
「ごめん!やっぱり言えない!雇った理由!」
「はぁ〜ぁ?」→「いやいやアンタ…」→「…まぁ良いけどよ…」
この素早い彼の1人流れを見て思った。
(こりゃ信じてないな…)
「そ、そのうち話すから…」
「分かった分かった、黙って付いてくからさぁ、頭を必要以上に下げるな」
彼の性格の事もあってか、疑心暗鬼ながらも依頼を受けてくれた。
彼でなければ、断られていたのかもしれない。
ワイズは私に確認を取ってきた。
「お前、少なくともここには来たばっかなんだよな?」
「ん、そうだけど…」
と、ワイズは唐突に入口の方に顔を向けた。
「…?どうしたの?」
「アンタみたいなヤツがなんでここに来れたかは、聞かねぇが」
(騒ぎの場所を探せお前ら!)(うるせぇ奴はぶち殺してやるぜぇぇ!)
店の外から数多の、それも荒々しい声が流れてくる。
「…」
私は息を飲んだ。
「ここはチンピラ共の溜まり場、罪人共が集まる国だぜ…?」
ワイズは一息置いてこう言った。
「別に国の代表って訳じゃないが、言ってやるよ────ようこそって感じかぁ…犯罪者の国、セメタルト石国によォ」