gold・Brigade ー黄金の旅ー 作:放浪者キカイマン
~1~
俺はつべこべ五月蝿いクローヌを担いだまま、自分の家に到着した
家とは言っても親父が出していた子店の1つってだけだが。
俺は、降りるよう言うが。
「おい、降りろ」
「今担がれてるんですけど」
「降りろって」
「担がれてるんだってば!」
(…。)
クローヌを地面に置いた。
「あ、ありがと…けほっ」
律儀に礼を言うクローヌを尻目に俺は足早く店を開けた。
今の店主は俺だが、大して機能していない。
「俺の家だ、入れよ」
「ん…ここは…」
俺の店を見るや
クローヌはおもむろに懐から地図らしきものを取り出した。
「鍛冶屋…?」
どうやら一体の地図を持っているらしい。
(んな
まぁいいか。
「そうだなぁ、ここは…"俺"の店だ。落ち着いて話がしたいんだろうが?」
「うん、そうして貰えるなら嬉しいけど…」
「何処でもいい、座っとけや」
作業場が下にあり普段は1階で過ごしている、その面構えからか「やる気のない鉄場」とも呼ばれているらしい。
どうだっていい話だが。
1階ど真ん中に置いてあるやたらデカい椅子とテーブル。
俺はそこに気ごと落とすように腰掛ける。
「ふぅーぁ…今日は厄日だ」
そう俺は呟いた。
クローヌは俺が座り込むのを待っていたらしい、俺の反対側に座った。
「…」
改めて見ると、クローヌは旅人とは思えない容姿だった。
茶色いコートの中にはしろと青の布服が見える。
肩に膨らみは無い、ショルダーの1つも付けていないらしい。
「…」
「…」
くどいので俺から話を切り出した。
俺の雇い人としてのやり口は俺が事情を聞き出す所から始まる。
これで依頼人の性分などを見抜き、気に入らない奴は断る。
「俺から聞くがよ、お前…目が見えねぇんだよな…?」
「…そうだけど、それが?」
「今まで…」
俺はデリカシーとやらが無い、嫌と思われても仕方ない事を平然と聞く。
自覚は無い。
「お前、その"眼"でどう過ごせたんだよ?今までよ…」
「……」
彼女は頭を伏せる。
「私が全く見えていないって思ってるの…?」
「あ?」
どういう事だ。
「言ったでしょ、"魔祖"は見えるって…」
「言ったか?そんな事。」
「なぁッ…言ったわよ!雇用所で!」
「あの状況で、そんな説明するんじゃねぇよ」
思ったことを投げてみた結果
「うっ…そ、そうかも」
そう唸って、また説明をしてきた。
~2~
「…という事…です。」
数分の間の解説だったが。
「………ふぅー」
難しい話は頭が唸る。
纏めると。
彼女は目が見えないが三大魔法?とかいう内の"魔祖"だけが朧気ながら見えるらしい。
俺の容姿もハッキリと認識できてはいないらしく、シルエットのみ見えると。
今までは人を頼りにここまで動いていたようだ。
見えないと言うのは色々不便らしいが。
色々工夫はしているらしい。
「ご苦労なこったな」
「…お陰様で」
彼女が話している間に用意した水を一口飲み、クローヌは一息ついた。
「…あのお金、気になる?」
「あん?金のことか?落としてねぇだろうな?」
急な事態で落としていたりしてたらたまたま拾ったヤツが富豪になっちまう。
「大丈夫、持ってる。」
先程俺に見せた白銀のコイン1枚を見せた。
やはり見たことの無いトウカである。
「それを本物と決めて話進めるけどよ、どうやってんな大金を…」
いやぁ、だって100億枚だろが?
国が動くレベルの量じゃねぇか。
「この袋…」
彼女は唐突にそう呟いた。
「あぁ?」
次いで。
「…これなんだけど」
そう言って懐から何かを取り出した。
取り出されたそれは妙な刺繍が施してある小袋だった。
中身はそこまで入っていないらしい、所々凹んでいる。
「なんだそのボロっちい袋」
「失礼な」
彼女は袋をひっくり返し中のものを出した。
カランカランと木の机を跳ね、落ち着いたそれは4枚のコインだった。
それは先程俺に見せたコインと同じ物で、白銀
クローヌの手持ちを含めると5枚になる。
「これは…私の家にあった物なんだけど…」
別の国に立ち寄った際調べてもらった所それは本物のトウカで、更には100億枚の価値があることが分かったらしい。
彼女の住んでいた地は、そのような大層なものが置かれている程裕福ではなかったらしく、どうしてそれが置かれているのかも不明のまま、自分の懐に置いている、との事だった。
「…自分でも何故かわかんねぇ…かぁ」
俺だったら素早く投げ捨てる所だが。
気味が悪いことこの上ない。
「お前は使った事があんのかよ、それ」
「元々6枚あって、1枚崩したんだけど、預けてる」
預ける。
この世の金「トウカ」は何処でも均一の扱い、各所での署名さえあれば簡単に出し引きが出来る。
そのせいで盗賊などの悪職などに着く馬鹿共も多いようだが。
「証明書はあんのか?それ見せてくれや。それさえありゃ商売人の俺としては信用が出来る」
頭が緩い俺が「著名」だの「お金の扱い」だのこんな堅苦しい考えを扱えるのは親父がいたからであるが、ようやく日の目を見たと言った所か。
「…これ?」
クローヌは俺にとって見覚えのある証明の本を腰のポーチから出した。
「おぉ、それだ」
俺は椅子から離れ証明本の内容を確認した。
しっかり「公共の印」が押してある。本物だ。
保存金額は…
「…こりゃ、大量だな」
数える気が失せるくらいの桁数だった。
「…信じてくれる?」
クローヌが俺の顔を覗き込んで見つめてくる。
彼女の目は薄い白色だった。
俺は
「ん、まぁな。ほんとに持ってるとは思わなかったが」
「疑い深い…」
「ふん、俺は触れるもんに関しちゃ見たもんしか信じねぇタチだからな、覚えとけ」
俺は鼻を鳴らし本をクローヌに返した。
「さて、まぁ俺から聞くことはねぇが…。お前はなんかあんのか?」
先程から彼女の視線が俺の四肢に映っている。
俺の容姿でも気になるのだろうか。
「あなたは、1人?」
「あぁ。1人だ。親は空に飛んでったよ」
もっとも親父は身元不明だが。
その質問を聞いて、聞き返した。
(深く追求されてもつまらないしな)
「あぁ、聞き返そうか。お前も1人…なんだろうが…」
目を治すと言っていたが、その為に住む場所を離れるのが奇妙に感じた。
「親は遠い北の村に住んでる」
「なんだ、田舎者か。お前」
「う…魔祖の事も知らなかった貴方に言われたくない気がする…。」
うるせぇ奴だ…。
「言っとくが、雇用人やってる奴は皆1人よがりだ」
「そ、そうなんだ」
俺は量でなんとかしているが、がむしゃらに依頼をこなしているだけであって、普通の奴は1日数個で終えてしまう。
稼ぎは良くはない。
俺も暇つぶし程度にやっているだけだ。
「ふぅん…ありがとう。じゃぁ次は」
「おん」
「私があなたの人生を雇うって言ったけど、意味は…分かってるの?」
…。
聞く順番逆だろそりゃ。
俺も気になる所だっつぅのによ。
そんな無粋な割り込みはしないが。
「はぁ…まぁ死ぬまで一緒に居るって事か?」
「…なんでこの依頼を受けたの?」
クローヌは、やたら鋭い目付きで見つめてきた。
何故…。
何故だろうか。
彼女の目には光があるのに、心が読めない。
目が見えないからか?
「…。」
目は見えないと言っていたくせに、何故そうにも相手を見据えられるのか。
その言葉を最初に掛けてきた時の目も同じだった。
心の底を覗き込むような眼。
「俺は…暇なんだよ」
そう…暇だった。
そう返した。
「暇…」
「そうだ。暇だ、俺が暇人で良かったなぁ?俺じゃなきゃ受けてもらえなかったんじゃねぇか?」
「私も突拍子のないことを言ったのはわかってる」
分かってるのかよ。
「おい、いちいち悪いが。逆に答えろよ。なんで俺の"人生"を雇うなんて言ったんだよ。まさか…適当とかは言わねぇよな?」
言い終わって、思い出した。
あぁ、こいつ雇用人の"俺"じゃなく1人の人間としての"俺"の事に話があるんだったか
「浮かない顔」と、そう言っていた。
初対面に対して「浮かない顔」と言うのが引っかかるが。
いちいち話すとキリがない。彼女の返答を待った。
「あ…あの」
彼女はくぐもって、顔を赤らめた。
「あぁ?」
「う…うぅ」
林檎のように顔が赤くなっている。
返答は得られそうになかった。
「言えねぇなら良いんだがよ…」
まぁ、幸い相手が「お客」なので、本人が望まない詮索は御法度なんだよなぁ。
まぁ、良いかぁ。
「ん、他にはねえのか?」
「ふー、ふぅ…え?あ、あぁ、無い、けど」
「じゃ終いだ、宜しくさん。依頼内容は"一生お前の傍にいる"でいいんだな…?はぁ~…傍から見りゃえらい内容だな…」
そう言いつつテーブルを離れ、地下に向かった。
「あ、ちょ…」